春夏秋冬〜神に愛された男〜

アリス

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町の案内 3

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リリーとハルは互いをみて頷きゼインに深く頭を下げお願いする。

「「ゼンさん。レオンのことどうかよろしくお願いします」」

二人はレオンの過去を知っている。

親に捨てられた孤独な少年は老夫婦に拾われ立派に育った。

その夫婦もレオンが団長になって一年後亡くなった。

レオンは夫婦の死を悲しむ暇もなくこの町に襲いかかってきた妖魔を倒していた。

悲しむ暇泣く暇も与えられず、戦い続けなければならなかったレオンを二人はずっと心配していた。

レオンはいつも一人で耐えていた。

仲間も慕う人も大勢いるが隣でレオンを支えてくれる人は誰もいなかった。

でも、今はゼインがいる。

少しずつレオンも年相応の青年に戻れるかもしれない。

そんな淡い期待を込めて会ったばかりのゼインに頭を下げる。

いつもなら、レオンに近づこうとする者にたいしては好意的ではないのに何故かゼインには好感をもてた。

この人ならレオンを大切にしてくれる。

そう確信に近い何かを感じた。

「わかりました」

気づけば自分の口から声がでた。

ゼインは言ってからハッとして自分は今何と言ったのだ、と驚きを隠せない。

「本当かい。ありがとう。これでわしらも安心じゃわい」

ゼインの手を取りお礼を言う。

「さっさっ、ここに座りな。今から作るから少し待ってな」

ゼインを先に坐らせると厨房へ戻る。

「レオン。あんたいい人捕まえたね」

レオンの腕を肘でツンツンと突きにやける。

「そうだな?」

何でリリーがそんなこと言うかわからないが、ゼインがいい人なのは間違いないので認める。

「そうかい。そうかい。レオンにもようやく春が来たんだね。私は応援するよ」

豪快に笑いながらレオンの背中をバシバシ叩く。

「春っていま六月だけど。それに今は夏じゃん」

この国は十二月、一月、二月以外の月はほぼ夏の季節。

特に六月、七月、八月は夏の王が人間界に降り立つので特に暑い。 

この国以上に夏に愛されている国はない。

ゼリョルデ国は緑の国として有名だが、別名夏の国とも言われている。

リリーの言っている意味がわからずレオンは首を傾げる。

だが、少ししてその意味に気づき急いで否定するも「大丈夫。私らは応戦する」と親指を突き出しいい笑顔を向けられる。

これ以上何を言っても無駄だと諦め、心の中でゼインに謝罪する。



「今日は飲むかい」

レオンも座るとリリーは酒のメニュー表を持ってくる。

「まだ、昼だけど」

本来この時間帯のレオンは仕事をしている。今日は午後から休みだった。

仕事の日でもたまにこの店に訪れることはあるが、昼から酒を飲むかと聞かれたことはなかった。

とうとうボケたのかと心配そうに見る。

「ボケてないわ。今日は友達を連れてきたから飲むのかと思っただけよ」

メニュー表でレオンの頭をバシバシ叩く。

レオンは「ああ、そういうことか」と納得する。

「残念だけどこの後予定があるんだ」

「どこか行くのかい?」

せっかくレオンと飲めると思っていたのに、と残念そうな顔をする。

「ああ、ひまわり畑に行くつもりだ」

「あー、じゃあ飲めないね」

酒のメニューをしまう。

レオンの顔が嬉しそうで、リリーは久しぶりにこんな顔を見た。

邪魔したら悪い。

ひまわり畑に誰かと行くなんてあの頃のレオンでは考えられない。

ゼインとの出会いが吉と出るか凶と出るか。

見守ることしかできない己の不甲斐なさに悲しくなる。

リリーはレオンにそんな心情を気づかれないよう、ニッと笑い「楽しんできなよ」と背中を思いっきり叩く。

レオンは声には出さなかったが相当痛かったのか背中をさする。

「で、飲み物は何にするかい」

「俺は桃のやつを。ゼンはどうする」

涙目になりながら答える。

「私はロータスジュースをお願いします」

「了解。少し待っててね」

リリーは厨房へと入っていき二人の飲み物を作る。

「レオン。大丈夫かい」

「ああ、問題ない。大丈夫だ」

心配させないよう笑う。

「そうか」

「ああ」

二人に気まずい空気が流れる。

正確に言えばレオン一人が気まずい思いをしている。

さっきのリリーとの会話のせいでゼインに嫌な思いをさせたのではないかと。

「ゼン。そのすまない。二人が……その……なんていうか」

レオンが言い及んでいるとゼインが遮るように話し出す。

「あの二人はとても温かい人達だな」

ゼインは厨房の中にいる二人を見ていう。

ゼインの目は酷く傷ついた目をしていた。

どうしてそんな悲しそうな目をしているのかレオンにはわからない。

ただ、ゼインの質問に答えなければと「ああ」と返事をした。

「レオンとよく似ている」

「俺と?」

自分ではよくわからない。

もし、そうだとしたら嬉しい。

「ああ。でも、レオンはもっと温かい」

ゼインの目が助けを訴えている気がした。

それは、レオンの勘違いかもしれないがその訴えを無視してはいけない気がした。

初めて会ったときにもそう感じた。

「そうか。ありがとう。でも、俺はゼンの方が温かい人だと思うよ」

嘘偽りのない本心。

自分よりゼインの方が温かい人だと思っている。

まだ、ゼインのことを何も知らないけどこれだけは断言できる。

ゼインの温もりを知ったレオンは夏が終わったら一人の生活に戻る。

ゼインのいない生活に戻れるのか、まだまだ先の話なのにもうそんな心配をしている。

一度知ってしまったら知らなかった頃には戻れない。

ーーずっといてくれないか。

そう口に出しそうになって慌てて口を押さえる。

ゼインにはゼインの人生がある。

それを奪ってはいけない。

せっかくできた友達と別れるのは辛いが、出会いも別れも縁次第。

縁があればまたこの町に来てくれるだろう。

胸にぽっかりと穴が空いた気がしたが、それを無視してゼインに話しかける。
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