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絵本
しおりを挟む「…そうして今の世界ができた。おしまい」
ゼインが最後のページを読み終わり本を閉じると、パチパチパチと拍手がおこる。
「次、次も読んで」
ゼインの読み聞かせを気に入った子供達がもっと読んで欲しいとせがむ。
「いいよ」
子供達が嬉しそうに笑っているのが嬉しくてもう一つの絵本に手を伸ばそうとしたとき思い出した。
その本は自分のことが書かれている「夏の王ゼイン」の本だと。
「(しまった。これは私の本だった)」
自分のを読まないようにさっきそこに置いたのに自分で取ってしまうなんてと項垂れる。
どうしようかと悩んでいると「皆何してんだ」と声をかけられる。
「レオン」
一人の子がレオンの名を呼ぶと子供達が一斉にレオンに抱きつく。
「もう、話は終わったのか?」
「レオンも一緒に遊ぼう」
「ゼンお兄ちゃん、絵本読むの上手だった」
一斉にレオンに話しかける。
流石に全員のを聞き取ることはできなかったが数人のだけ聞き取れた。
「(助かった)」
レオンの登場で自分の本を読まなくてもいい雰囲気になり安堵する。
「ねぇ、レオン遊ぼうよ」
ルイがレオンの手を引っ張り向こうに行こうとする。
「ごめんな。これから団会議があるんだ。また今度遊ぼう」
ルイの頭を撫で無理だと伝える。
「えー、やだ。レオン遊ぼう」
子供達が一斉に遊ぼうと駄々をこねる。
久しぶりにレオンと会ったのに大人達と話すからと言ってどっかいくし、漸く遊べるとおもったら団会議があるから無理だと言われる。
子供達は自分達とも少しぐらい遊んで欲しいと訴える。
「いい加減におし、あんた達。レオンはこの町を国を守るために一生懸命働いているんだよ。自分達の我儘ばかり言うんじゃないよ。会いに来てくれただけでもありがたいと思いな」
ミレーユの叱咤に渋々と納得したわけではないが「はい」と返事する。
「ごめんな、レオン。子供達は私がみとくから気にしないで。さぁ、行きな」
二人に早く行くよう言う。
ミレーユ自身も本当はまだ一緒にいたいと思っているがレオンにはやることがあるとわかっているので笑顔で見送る。
「ありがとうミレーユさん」
「気にしないで。ゼン、また来てね」
「はい。また来ます」
二人はミレーユと子供達に手を振り別れる。
「ごめんな。付き合わせて」
今朝、町を案内すると言ったが仕事が今日に限って山程あり案内するどころじゃなくなった。
自分で案内するとか言ったのに申し訳なさでゼインの顔を見れない。
本当は美味しい店や服屋、珍しい物を売っている店、色んな所に連れて行きたかったのに。
もちろん子供達にもいつか合わせたいとは思っていたが今日ではなかった。
家を出てすぐに馬車がとまっているのを見つけすぐに今日の予定を思い出した。
ゼインは気にしないでいいと言ってたくれたが約束をすぐに破ることになったことがどうしても許せない。
「何がだ?」
レオンが何故謝るのかわからないゼイン。
「いや、町を案内すると言ったのに、子供達の相手をさせたりしたし、今からも団会議でまた待たせてしまうから」
「ああ、そんなことか。気にしないでいい」
ゼインの大したことじゃないという反応にえっ、と目を見開くレオン。
「子供達と一緒にいるのは楽しかったし、それにレオンの働いている所を見るのは面白そうだし。退屈はしないよ」
人のために一生懸命働いている人を尊敬すると言う。
ゼインはそういう人間が好きだった。
だから、レオンの働く姿を見てみたいと思ったのだ。
「それに謝らないといけないのは私の方だ」
「何故だ?ゼンは何も悪い事はしてないだろ。悪いのはどう考えても俺だ」
ゼインが続きの言葉を発するより早くそう言う。
「それは違うよ。皆に頼られ好かれている君を独り占めにしているし、何より忙しい君を私のせいでもっと忙しくさせている。すまない」
頭を少し下げ謝るゼイン。
神が人間に頭を下げるなど誰が予想出来ただろうか。
きっと、秋の王のシグレ以外誰も信じないだろう。
「それこそ違う。俺がしたくてそう言ったし、やっている。提案したのは俺だ。俺が勝手にしてるだけだ。上手くできてないけど」
最後の方はごにょごにょと何言っているかは普通の人なら聞こえなかっただろうが、ゼインは人の何倍も耳がいいのでしっかりと聞こえた。
「だから、謝らないでくれ」
ゼインの目をしっかりと見つめて謝らないで欲しいと頼む。
「わかった。ありがとう、レオン」
ゼインがお礼を言うとさっきまでの暗い顔が嘘だったかのような気がするくらい元気になる。
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