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臣下との戦い
しおりを挟む時間にすればほんの数分、激しい攻防に決着がついた。
里の者たちはアンの圧倒的な強さに驚きを隠せなかった。
終わってみれば、アンは傷一つ息切れすらせず臣下を倒していた。
他の魔族たちは臣下を倒す前にシラーとルドベキアによって倒されていた。
里の人たちはアジュガの治療によって全員助けられた。
魔族たちの恐怖から解放された里の人たちは泣いてお礼を言った。
特にアンに。
だが、暫くして里の者たちが落ち着きよくアンの顔を見るとあまりに不細工な顔に別の意味で驚いた。
勇者とは強くて顔が整っていると昔から言われてきたため仕方ないが、初めて見た勇者が不細工なことに里の者たち、特に女性陣は落胆が大きかった。
しまいには、戦士のルドベキアが勇者ではないかという始末だ。
アン以外の3人はいつものことなので慣れているが、言われた当人は毎度ご丁寧に不細工な顔をさらに不細工にして怒る。
怒ったところでかっこよくなるわけでもないのに。
アンたちはなんやかんやで里の復興のため少し滞在することになった。
それからアンたちが里を後にしたのは、その一カ月後だった。
魔族に長い年月支配されていたため里は酷かった。
彼らは里の復興のために尽力した。
来る日も来る日も、土を掘り、水を浄化し、木を切り落とした。
アンは1週間経ったときにふと我に返り、自分は一体何をしてるんだと思った。
里のために働いているのに、女性に褒められるのは自分以外の仲間だけ。
アンだって美人な女性たちに囲まれたいのに、周りにいるのはヒョロヒョロの体をした男性たち。
アンに憧れ、役に立とうと目を輝かせてずっとついてくる。
'クソッタレ!!'
アンはこれ以上、仲間たちが女性に囲まわれ羨ましいと思うのも、自分は男性たちにしか囲まわれず嫉妬するのに耐えられず、早くこんなところから出て行こうと怒りで里の復興のために力を尽くした。
本来なら半年かかるところを嫉妬で怒り狂ったアンの活躍で一カ月で元通りになった。
里を出ようとしたとき、女性たちはアン以外の3人に行かないでくれと泣きついた。
なかにはどさくさに紛れて抱きつくものさえいた。
3人は困った顔して離れようとするが、怪我をさせるわけにもいかず、なるべく穏便に済まそうとするも女性たちの力が強くてなかなか引き離せなかった。
そのせいで、アンの怒りを買い後ろからもの凄い殺気を放たれ勘弁してくれと思う。
後ろから殺気をおくっていたアンは3人と同じように囲まれていたが、女性でなく男性に泣きつかれ羨ましいくて静かに泣いていた。
結局、里を出れたのはそれから3時間後だった。
里を出て少し歩いたところで荷馬車と出会い、行く方向が同じなので乗せていってもらうことにした。
ここ1ヶ月ずっと働いていたので、体を休めるのに丁度いいと各自好きに休もうとなるが、3人はアンがあまりにも大人しすぎて嫌な予感がした。
その予感は的中し、アンはドンといきなり両手で板を叩き本当に悔しそうな顔してこう言った。
「どうしてだ!?どうして俺はいつも男ばかりにモテるんだ!?俺だって女にモテたい!」
'うん。いつものお約束だな'
アンの必死の叫びに3人は毎度女性たちに相手にされず、男性にばかり相手をされるとこうなるのを知っていたので無視したが、荷馬車を運転している男性は突然の叫びに驚いて慌てて馬を止めてしまう。
アンは気づかず同じことをまた叫ぶ。
「すみません。彼、女性にモテないのでたまにああなるんです。どうか、温かい目で見てあげてください」
アジュガが申し訳なそうに笑いながら男性言う。
「はい。そう……ですね。そうします……」
この世界のほとんどの男性はモテない。
モテるのはほんの一部の人間だけ。
モテる条件は色々あるが1番は顔を基準にするものが多い。
その次に金だ。
酷い話だが、顔だけ良くても金がなければ貴族に遊ばれてしまう。
逆に金があっても顔が悪ければ相手にされない。
仮に相手にされたとしても、大抵は金目当てだ。
純粋に好かれる相手はなかなかいないと彼らに会うまで男性は思っていたが、泣いている男以外の3人を見たとき、この美貌なら国を滅ぼせると思ってしまう。
それほど美しい顔だった。
だが、顔だけでなく3人とも体格も良く、身長も185センチ以上ある。
そんな3人といれば彼がモテないのは必然だ。
目に入らない。
彼らの容姿を上の上の上とするなら、泣いている不細工な男の容姿は中の下の下。
ただし、それは単体でみたらだ。
3人といたら、下の下の下まで落ちてしまう。
男性は彼に同情するしかできなかった。
'彼はきっと勇者だろう。この中で1番強いのに……感謝されるのは彼以外なのだろうな'
男性は簡単にアンだけ女性に感謝されない姿が想像でき目頭が熱くなる。
それから、3週間一緒に街まで移動した。
男性はせめて自分だけはアンのことを認めているからな、と思い甲斐甲斐しく世話をするが、彼が求めているのはあくまで女性であって男性ではない。
男性に何故か世話をされたアンは「何故男ばかり……」と項垂れる。
「本当にありがとうございました」
アジュガが最初に礼を言う。
神に仕えているから、他人には1番礼儀正しく振舞う。
「世話になった」
「感謝している」
残りの3人もきちんとお礼を言う。
お互い暫く街にいるから、一回くらい一緒にご飯でも食べようと約束してから別れた。
「それじゃあ、買い出しに行きましょうか……って、すみません。抱きつくのやめてもらっていいですか?」
シラーの声は聞いた感じではとても優しい。
言葉も柔らく、口調も丁寧だ。
しかし、よく聞けば声の雰囲気も感情も非常に冷淡で苛立っているのがわかる。
少し前から女性たちに抱きつかれていて、なんとか引き離そうとするも、なかなか離してくれないのでいい加減うんざりしていた。
ルドベキアとアジュガも同じように抱きつかれており困惑している。
本気で引き離そうとすれば引き離せるが、そうなれば相手に怪我させる可能性もある。
それは避けたかった。
旅立つ前に仲の良い老婆から忠告を受けていたからだ!
「女に怪我をさせるな!させたら終わりだと思え!お前たちほどの美貌なら怪我した責任を取れと言う者が出てくるからな!それが嫌なら絶対怪我させるな!!」
そう言われていた。
アンだけは「お前は大丈夫だから心配するな。なんならムカつく女がいたら顔面ぶん殴って黙らしていいぞ」と笑顔で別の意味で応援されていた。
さすがにそれを聞いたときは可哀想すぎて同情したのを今でも覚えている。
ここはアンに助けてもらうしかないと視線を向けると、何故か本気で泣いていた。
'待て!待て!待て!本気でそれだけはやめてくれ!'
シラーはこれからアンがどうするか長年の付き合いで手に取るようにわかるため本気で焦る。
「お前たちなんて大嫌いだ!俺なんて……!俺なんて……!クソッタレ!」
そう叫びながらアンは走り去っていった。
'嘘だろ……あいつ、まじで置いて行きやがった……!'
いつもはアンが凶悪な顔で女子たちを蹴散らしてくれたので大丈夫だったが、今日は何を思ったのか見捨てられた。
知らない女、いきなり抱きついてくるイカれた女と結婚したくない3人は助けてもらうまで必死に耐えた。
3人が助けられたのはたまたま見回りにきた警備兵が異変に気づいた後だった。
1人を助けるのに10人がかりでやっと救出できた。
引き離すとき女性たちには酷い言葉をたくさん浴びせられたが、イケメンに好きな人が抱きついている方が耐えられず、強制的に音を遮断し心を無にして引き離した。
3人は警備兵にお礼を言ったがもの凄い目で睨まれた。
警備兵の後ろで引き離された女性たちが彼らを睨んでいるのが3人からは見え、苦笑いするしかできなかった。
'こんなときアンがいたらな……'
3人は同時に同じことを思った。
アンがいたら簡単に助かったのに、と。
その頃のアンは居酒屋で他の客と飲み比べ、腕相撲勝負をしていた。
どちらの勝負も全勝で酒も料理もタダでいただいていた。
気持ちよく酔っ払っていたアンは3人のことなどすっかり忘れ楽しんでいた。
3時間後に解放された3人はアンを探しに居酒屋に訪れたが、そこで楽しそうなアンの姿を見て苛立ち容赦なく攻撃をした。
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