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臣下
しおりを挟む『そんなの決まってるだろ。あいつに死なれたら困るからだ。あのクズに裏切られてから新たな候補者が現れるのに3年もかかった。わかってるだろ。俺達にはもう時間が残ってないことを。これが最後かもしれないだ。あいつの何がお前をそこまでさせたのか気になっただけだ。ただそれだけだ。大した理由はない』
キキョウの返しを聞いてナズナは今のは答えになってないと思ったが、そういえばこんな性格だったと思い出し今回は自分が折れることで話しを終わらせた。
'相変わらず素直ではないな。素直に心配したと言えばいいのに。自分では気づいてないんだろうな。実のことを認めていることに'
本当にしょうがない奴だと思いながら、同情する眼差しを向ける。
『なんだ。その目は』
「いや、別に、気にするな」
ナズナは首を横に振る。
「話は終わった。俺は帰る」
ナズナはそう言うとキキョウの返事を待たず姿を消す。
「帰る、か。まだ出会って半日も経ってないのに……お前の帰る場所はそこなのか。ククッ。これは思ってた以上にあの人間はすごいのかもな」
実に対しての認識を改める。
ただ優しいのではなく、惹きつける力もあると。
※※※
「ふぁあ~、よく寝た。ん?俺いつの間に家に帰ってきたんだ?それにどうやってベットまできたんだ?ナーガを倒したあとの記憶がない……」
実は記憶がないので混乱する。
絶対に声の主がベットの上に転移魔法を発動させるわけないとわかっている。
あいつにそんな優しさはない。
だからこそ、どうやってここまできたのか謎だった。
自力できたのかもしれないが、それはそれで怖すぎる。
実はこれ以上考えても答えは出ないとわかっているので考えるのをやめる。
グゥ~。
お腹が鳴る。
「……朝ご飯なに食べようかな。面倒だし簡単なのにするか」
ベットから降り台所へと向かう。
実は扉を開けてリビングへと入ろうとしたが、すぐに扉を閉める。
「……寝ぼけているのかな?知らない男がいるんだけど?」
実はきっと疲れて幻覚を見てるのだと思い、目をマッサージしてからもう一度扉を開けて開ける。
「……やっぱいる。夢じゃない……」
実は頭が痛くなる。
何かを物色している様子もないし、敵意も感じないから悪い人ではないと思う。
というか、どこかで会った気がする。
後ろ姿しか見えないから、顔を見ないことにはなんとも言えないが。
そう思っていると男が振り返り目が合う。
男が近づいてきて実は身構える。
'なんだ。やるのか'
男は実の目の前までくると跪く。
「え……?」
実は男の予想外の行動に驚いて間抜けな声を出す。
「あの……一体何をしてるんですか?」
「王。俺は貴方に忠誠を誓います。いついかなるときもお守りします。これからよろしくお願いします」
実は男の急な誓いに戸惑い何を言ってるんだと困惑するが、クエストクリア報酬が「臣下を手に入れられる」だったのを思い出し、この人がその臣下だと気づいた。
「あ、こちらこそよろしくお願いします。俺は花王実と言います。えっと、その……お兄さんは?」
「俺はナズナと申します」
「薺さん。いい名前ですね」
カッコいい名前に漢字だと思い褒める。
「ありがとうございます。王」
王。
その言葉を聞いた瞬間、恥ずかしくなる。
そう言えばさっきも呼ばれたことを思い出す。
「薺さん。その呼び方はやめてください」
実は顔を真っ赤にする。
「……わかりました。では……マスターとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい。それなら……」
王よりはマシだと思い承諾する。
「それと、敬語やめてください。俺の方が年下ですし」
自分よりも年上で明らかに強い人に敬語を使われると妙な気分になる。
「ですが……」
ナズナは悩む。
初めて王と認めた相手に無礼な言葉遣いを使うのは嫌だった。
今までの候補者達にはタメ口を使っていたが、実相手にはそれができなかった。
「あ、その、難しければ大丈夫です」
ナズナの顔がだんだん険しくなっていき、実は慌てて大丈夫だと伝える。
「……よければ、今から一緒に朝ご飯を食べませんか?」
重くなった空気に耐えられず実はそう言うが、すぐに言ったことを後悔する。
'俺の馬鹿馬鹿。また断られたらどうするんだ'
更に空気が思うなるかもしれないと思うと頭が痛くなる。
だが、実の心配は杞憂だった。
「では、お手伝いいたします」
そこから実はナズナと一緒に朝ご飯を作った。
ナズナがいるから適当なものを出すわけにはいかないと気合いを入れて料理をしたが、彼の作る料理が凄すぎて実が作ったものは霞んでしまいそうだった。
味も完璧でとても美味しかったのに、ナズナは何故か自分の作ったものを食べようとはせず実の作ったものだけを食べた。
その様子を見ていたキキョウは画面に映るナズナに向かって文句を叫んでいた。
『あ!あのヤロー!俺がどんなに頼んでも作ってくれなかったのにふざけやがって!あの人間の為には作るのか!今度あったらぶん殴ってやる!』
ナズナの作る料理は美味しいと臣下達の間では有名だ。
だが、これまでナズナが他の候補者達に料理を振る舞ったことは一度もない。
そのことを知っているキキョウは最初こそ驚いたが、ナズナの料理を食べている実が羨ましくてそれどころではなかった。
「あの、とても美味しかったです」
食事終え、片付けも済ますと実はナズナに感想を言う。
食べているときにも何度も言ったが、本当に美味しくてもう一度「美味しかった」と言いたかった。
「ありがとうございます。気に入ってもらえてよかったです」
ナズナは優しく微笑む。
「はい。とても気に入りました」
実も笑い返す。
「話が変わるんですけど、薺さんに聞きたいことがあります」
実はずっと気になっていたことを聞くことにした。
勘違いかもしれないが、なんとなく当たっている気がしている。
「なんでしょう」
「薺さんが昨日、ダンジョンで俺を助けてくれたんですか?」
ナーガは突然何かに恐れだした。
もし、その何かがなければ実は今ここにはいない。
間違いなく死んでいた。
「はい。そうです」
ナズナは一瞬否定しようとしたが、実には嘘をつきたくないと思い、本当のことを言う。
「やっぱり!そうだったんですね!ありがとうございます!」
「いえ、お礼を言うのは俺の方です」
ナズナのその発言に実は首を傾げる。
お礼を言われるようなことをした記憶がない。
「先に俺を助けてくれたのはマスターです」
ナズナはそう言うと魔物?の姿になる。
「え……?えぇぇーっ!」
驚きすぎてこれでもかというくらい目を見開く。
どうりで会ったことがある気がするわけだと、この姿を見て納得する。
姿は全然違うけど、晒しだす雰囲気は似ていた。
「マスター。あのとき俺を見捨てず助けてくれてありがとうございます。本当に感謝しています」
あれは試験でわざと捕まっているふりをしていただけだった。
助けようと助けまいとクエストクリアには関係ない。
ただ人間を信じられるか試すだけのもの。
どうせ、人間は力さえ与えられればそれ以外はどうでもいいのだと思っていた。
強くなればなるほど人は変わる。
その力に溺れ、弱者を虐げる。
今までの候補者達は皆そうだったから、実のこともそうだと決めつけていた。
だが実は違った。
力を与えられ今までと比べられないほど強くなったのに慢心せずにいる。
そんな実だからこそナズナはこの身の全てを捧げて盾となり剣となることを誓ったのだ。
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