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アリス

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朝霧雅也

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「申し訳ありません。この件は私の手には負えません。朝霧会長の判断をお聞かせください」

実から聞いた話しを全て話す。

ダンジョンの呪いを解いた可能性のある人物のため会長も実のことは把握している。

「困ったな。いま彼に死なれるのは困る」

話を聞くだけのはずが面倒なことになったと頭が痛くなる。

実から渡された紙をみて最近調査をしようと思っていたハンター達だったので、実の話が本当なら罰を与えるのは問題ない。

だが、時間制限があるのは困る。

判断を間違えるとハンターギルドを敵に回すことになるし、実が死ぬことになる。

最悪、世界ハンター連盟との関係も悪化する。

'さて、どうしたものか……'

朝霧は会長になる前はS級ハンターとして最前線で活躍していた。

年には勝てず、今は引退しているが。

ハンターになってからこれほど頭を悩ます事案は一度もなかった。

いつも即決だった。

そうしなければ死ぬ。

今回のこの件はいつもなら悩まず判断できたが、なぜか実が何かを隠しているような気がして決められない。

「若桜課長。悪いが花王ハンターをここに連れてきてくれ。彼と話してから決めよう」

朝霧は人を見る目がある。

今回も自分の勘に従って決めることにする。

「わかりました。すぐ連れてきます」

若桜は朝霧に一礼し部屋を出ていく。

「花王ハンター。君は一体何を隠している」

部下に集めさせた実の資料に目を通しながら呟く。

実の実力であのダンジョンから抜け出すのは無理だ。

あのダンジョンはD級ではなく本当はA級だった。

偶にこういうことがある。

ダンジョンが入ってきた者達を殺すため本来の力を隠すのだ。

報告を受け2つのギルドに協力を要請し精鋭部隊に所属するA級ハンター数十名とS級ハンター三名でダンジョンに入った。


そのダンジョンには確認できるだけで三百人のハンターの死骸があった。

精鋭部隊でも最後まで攻略することはできなかったし、実達の班が閉じ込められたという部屋を見つけることはできなかった。

今回のダンジョン攻略はほとんどの班が壊滅した。

長年のハンターとしての勘で早々にでた者達以外でダンジョンからでた者達は全員重症だった。

そのためE級の実がメンバーに裏切られ、死体を背負って一人で脱出するのは不可能に近い。

それなのに実は脱出した。

何かあったのか、それとも協会に報告していないスキルを持っていたのか。

朝霧にはその判断がつかなかった。

本人にあって自分の目で確認し、信用にたる人間か判断するしかなかった。





「初めまして。花王ハンター。ハンター協会会長を務めている朝霧雅也(あさぎりまさや)と申します」

実は朝霧の圧倒的なオーラに驚き言葉を失う。

十年前まで現役で活躍していた日本最強ハンターと呼ばれた男の強さに恐怖よりも感動が勝り、実は無意識に少年のように瞳を輝かせ笑う。

'ほぅ。笑うのか'

実の笑みをみて朝霧は感心した。

今まで朝霧に初めて会って笑ったのは実を含めて四人。

そのうち三人は朝霧よりも強いS級ハンター。

同じS級ハンターでも朝霧を前にしたら緊張して顔は強張る。

普通、自分より圧倒的に強い相手と対面したら恐怖で体がすくむ。

笑うことなどできない。

それをやってのけた実に朝霧は他の人とは違う何かがあるのだと気づく。

それはその人の本質的なもので身につけようと思って身につくものではない。

このとき朝霧は、実を絶対的に回してはいけないと本能で気づいた。

「お目にかかれて光栄です。E級ハンターの花王実です」

差し出された手を握り返す。

「座ってください」

朝霧は優しく微笑む。

「はい」

実は促されるまま座る。

日本人のハンターなら誰でも知っている朝霧を目の前に過去一の緊張で頭が真っ白になり、演技などできなくなる。

「時間がないということなので、早速本題に入りましょう」

言葉遣いも口調も丁寧で優しいが、強者特有の有無を言わない話し方に実は全身に電気が走るような感覚に襲われる。

「結論から言います。我々は花王ハンターの頼みを聞き入れましょう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

実は勢いよく頭を下げてお礼を言う。

これで倉増の無念が晴れる。

良かったな、と倉増の方を見て笑いかける。

目の前に朝霧と若桜がいるのを忘れて。

「それで、我々の方からも花王ハンターに一つお願いがあるのですが聞いてもらっても」

お願い、と言ったのはそう言えば実が断らないとわかっていたからだ。

もちろんそんな言葉を使わなくても実なら聞いただろうが。

「もちろんです。俺にできることはなんでもします」

「ありがとうございます。それで倉増ハンターを殺したハンター達の処遇ですが、全員フリーのハンターでしたのでハンター資格を取り上げ二度とハンターとして活動できないようにします。それで宜しいでしょうか?」

協会ができるのはここまで。

それ以上を望むなら実自身でやれと遠回しに伝える。

これで実がどんな反応を示すか二人は目を光らせる。

「はい!ありがとうございます!」

想像以上の罰に喜ぶ。

これで間違いなく4人への復讐は達成される。

ハンターにとって資格を取られるのは死を意味する。

地位や名誉、権力、お金、いままで得ていたものが全て無くなるのだから。

もし、それでもハンターとして活動するとなれば無資格者として協会から執行対象と判断され最悪命を奪われることになる。

間違いなくこれ以上の罰はないと喜ぶ。

そのときだった。


ピロンッ!


ウィンドウが表示されるときの音が鳴った。

'ん?今か?なんでだ?'

実は目の前に表示されたウィンドウの内容を確認する。



[復讐達成条件:彼らの最も大切なものを奪え!]

達成人数:4/5人


[制限時間]

残り:10:48:20



「あと一人か……」

実は無意識にそう呟いた。

その声はとても小さく普通なら聞き逃すが、朝霧と若桜はハンターの中でも上位に入る強さを持っている。

そのため五感が人よりも優れている。

'あと一人?花王ハンターはどこを見ているのだ?'

二人は実の視線の先に目を向ける。

だが、特に変わったものは見えない。

二人は一体実には何が見えているのかと不思議に思う。

「花王ハンター。それで倉増ハンターの霊はどうなりましたか?納得していただけましたか?」

朝霧が今の呟きの意味を知ろうと不審に思われない聞き方で尋ねる。

「えっと……」

倉増の方を向くと笑顔を浮かべ満足げに頷く。

「あ、はい。満足しているそうです」

だが、あともう一人残っている。

倉増も同じことを思っていたのか「あとはあの女だけだね」と呟く。

「……そうですか。それは良かったです」

実はさっきまで上を向いていたのに、尋ねると左横を向いた。

その行動で二人は倉増の霊以外もこの部屋にいるのかと思う。

「それで、朝霧会長の頼みなんですが、明日からでもいいですか」

まだミッションはクリアしていない。

このままでは倉増がどうなるかわからない。

残り時間は約11時間。

倉増の一番大切なのは何かはわかってはいるがその相手がどこにいるかはわからない。

見つけたところで実にその人の幸せを奪うことができるのかわからない。

どちらか一方を取ればもう一方は不幸になる。

実は倉増を見る。

'これ以上傷ついてほしくない。生きてさえいればやり直すことはできる'

今の自分がそうだ。

スキルも職業も無かったが今はある。

死んだ人間より生きた人間を大切にしろ、と言う人もいるが実は倉増を優先することにした。

それに約束もした。

復讐を手伝うと。一度交わした約束を破ることはできない。

白石には悪いが、倉増のために幸せな未来をぶち壊すことに決める。

「構いません。では、明日部下に迎えに行かせます。若桜課長、送って差し上げなさい」

「いえ、大丈夫です。歩いて帰ります。明日も自分で来ますので大丈夫です」

今から白石の婚約者を探しに行くため送ってもらう必要はないし、そもそも自分のために送迎してもらうのは申し訳なくて断る。

「そうですか。わかりました」

朝霧は少しの会話で実の性格を把握したので、断れるのは予想していた。

「朝霧会長。最後に一つだけ聞いてもいいでしょうか」

「ええ、構いません。なんでしょう」

「どうして、ここまで俺に良くしてくれるんでか?」

実はE級で五十嵐達はA級とB級。

いくら呪いの解明のため協力が必要だとしても、実に大して協力的すぎる。

モンスターとの戦闘を考えたら実より五十嵐達の方が戦力になる。

それに、協会には実よりも強いハンターはたくさんいる。

無理矢理協力させる方法もある。

わざわざ実の機嫌を伺う必要はない。

朝霧自ら会う必要もない。

朝霧がなぜここまでするのか実には理解できない。

「それは、なぜ彼らではなく自分を選んだのかという意味ですか?」

実はその言葉に全てを見透かされているように感じた。

朝霧の目が怖くて堪らなかった。

「はい、そうです」

否定する必要はないので素直に認める。

「理由は簡単です。元々、彼らは調査対象でした。彼らと共にゲートやダンジョンに潜ったハンター達は死亡か行方不明のどちらかになるんです。協会が募集したときはそんなことになりませんが、彼らが募集をかけたときは全てそうなるんです。その報告を受けて調査しようとしていたときに、花王ハンターからの彼らの話しを聞かせれました。本来なら我々協会が調査した上でどうするか決めますが、今回は時間もないので、花王ハンターと話すことでどうするか決めました」

実は朝霧の言葉に驚き、これでもかというくらい目を見開く。

「……つまり、あの短い会話で俺の話を信じることにしたってことですか?」

「はい。そうです」

「どうしてですか?」

気づけばそう尋ねていた。

朝霧は小さく微笑みこう言った。
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