世界最強ハンターは日本の女子高生!?

アリス

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ファーストクエストクリア

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「残りあと10分か」

奏雨が時間を確認する。

「……10分」

桃莉は奏雨の言葉で目を開け立ち上がる。

急に目を開けたせいで眩しくて顔を歪めながら屋上を見る。

「まだ、結構残ってるわね」

「だな。それに、地面がモンスターの死体でクッションになったからか、何体か死んでないのもいる」

奏雨はゆっくりと起き上がり、また屋上に向かうモンスターを冷めた瞳で眺める。

「まぁ、それは仕方ないわね。さすがにアレだけで全て倒せるとは思ってないし。少し残るのは想定内だよ」

'この人たちはいったい何者なんだ……?'

晴人は2人の会話を聞いて本当に生徒なのかと疑いたくなる。

いきなりモンスターが現れ、目の前で人が死んでいくのに、なぜ落ち着いていられるのか信じられなかった。

「あと、5分か。これなら、もう誰も死ぬことはないだろうな。大人しくしてればいいだけなんだし」

「ええ。そうね」

奏雨の言葉にそう返事したそのとき、音楽よりも大きな声で誰かが悲鳴をあげた。

嘘でしょう?

桃莉がそう思ったのと同時に下にいたモンスターたちが一斉に向きを変え悲鳴の方へと向かう。

「おい、おい、おい。まじかよ。いったいどこの馬鹿が悲鳴なんて出しやがった!黙ってさえいれば助かるっつーのに!」

奏雨は髪をグシャと掴む。

「本当にその通りね。馬鹿な女ね」

桃莉は声から女だろうと予想する。

「それより、あんたたちバットを持ちなさい」

グラウンドの真ん中に来る前になぜか落ちていたバットを拝借しておいた。

「……?」

晴人は言っている意味が分からず首を傾げる。

「最悪だわ。よりにもよってこっちに近づいてきてるわ。あと少しで助かるっていうのに、どこの馬鹿よ」

桃莉が言った通り、声がだんだんと近づいてくる。

「牡丹先輩。どうするつもりですか?まさか、戦うつもりですか?逃げた方が……?」

「逃げたところで意味ないわ。さっきの悲鳴で状況が変わったわ。今、外にいるモンスターは悲鳴のするところに向かってる。つまり、私たちが作ったアレは意味が無くなったわ」

屋上から落ちてくるモンスターで助かった者たちは上に上がらず、悲鳴のする方へと向かっている。

悲鳴のせいで上に向かう理由がなくなったからだ。

「心配しなくていいよ。さっき言ったじゃん。ここが1番安全な場所だって。まぁ、万が一の場合は戦うしかないけどさ」

「戦うって……」

あの数のモンスターとなんて死ぬも同然だ、と最後まで言えず黙り込む。

「1年。腹を括りな。これは最初のゲーム。あと、3つもある。それも今より難易度が高いゲームが。あの程度にも勝てなきゃ、私たちは生き残れないよ」

とは言っても戦うのは最終手段。

できれば、早く終わって欲しいと時間を確認すると残り2分をきっていた。

これなら大丈夫かと安心したそのとき、女子生徒が叫びながらこっちに向かって走ってくるのが見えた。

'まじかよ。最悪すぎる'

桃莉は女子生徒の後ろを追ってくるモンスターの数と反対側から叫び声に反応して近づいてくるモンスターを見てげんなりする。

「2人とも移動するよ。さすがにあの数を3人で倒すのは無理」

「え、ちょ、せんぱ、いや、はや」

戦うんじゃないのかと聞こうと隣を見たが、もうそこに2人はいなくて慌てて後ろを追いかける。

「先輩。助けないんですか?」

晴人は近くまでくると尋ねる。

「無理。あの数相手にしたら私たちも死ぬわ」

「でも……」

晴人はチラッと後ろを見ると女子生徒は大声で助けを求めている。

「お願い助けて!死にたくないの!」

女子生徒の叫びに「それはこっちもだ」と  は心の中で言い返す。

桃莉からしたら他の人に頼めよと思う。

命懸けでモンスターを倒すために行動したのに、お礼を言われるどころか泣いてまだ助けろと要求されるのは、はっきり言っていい迷惑だ。

桃莉はそのまま無視して逃げようとしたそのとき、昔の記憶を思い出した。

彼女が7歳の頃、両親と遊園地に遊びに行ったときの母親に言われた言葉を。

「桃莉。私の愛しい子。愛してるわ」


桃莉は走りながら、嫌な記憶を思い出しチッと舌打ちする。

自分にとってはどうでもいい存在でも誰かにとっては大切な存在。

「おい。あんた。そいつらは音に反応するんだ。声出すな。ゆっくり動け」

見捨てるつもりだったが、母親の最後の言葉を思い出し助けることにした。

桃莉が大声で指示したせいで、何体かが方向転換して追ってくる。

「は?ちょ、何言って……」

「いいから黙って言う通りにしろ!」

まだ、大声を出そうとする女子生徒を一喝して黙らせる。

女子生徒は桃莉のあまりの怖さに言われた通りにする。

「おい、どうするつもりだ?今ので、モンスターが俺たちにターゲット変更したけど?」

奏雨はモンスターが近づいてくるのをみて顔を曇らせる。

「問題ない。手はあるから」

モンスターから逃げながらスマホを操作する。

「いつの間にスマホを?」

「さっき、CDプレイヤーを取りに行ったときについでにね」

「それでスマホで何するつもり?」

奏雨は桃莉が何を考えているのかわからず尋ねる。

制限時間は1分をきっているが、このままではモンスターに囲まれて死ぬのは間違いない。

ここからどうやってこの状況を打破するか奏雨には思いつかない。

「こうするのさ」

桃莉は思いっきりスマホを投げる。

スマホは今いる場所から10メートル斜め右後ろのところに落ちる。

2人は桃莉の行動が理解できず何がしたかったんだと思ったのと同時にスマホから大音量の音楽が流れ出した。

モンスターたちはその音を聞くなり、進行方向を変える。

一斉にスマホに向かって走り出す。

「……よかったのか?」

奏雨が尋ねる。

「よくはないけど、仕方ないじゃん。これしか助かる道はなかったんだから」

新しくスマホ買わないとな、と思うもこの状況で買えるかなと心配になる。

そもそも買ってもらえるかわからなくなり、暫くスマホがない生活しないといけないのか、と桃莉は非常事態の真っ最中に呑気に考えごとをする。

「……?」

晴人は2人の言っている意味が理解できずに首を傾げる。

だが、すぐに理解した。

制限時間残り13秒になったとき、音楽の音が消えた。

どうしてだ?とモンスターたちの方を見るとスマホにかぶりついていて「よかったか?」と聞いたのはこのことなのかとすぐにわかった。


10、9、8……3、2、1、0


制限時間が0になると学校全体に聞こえるくらい大きな音がした。

ゲーム終了の合図を知らせる音だ。

その音が鳴るとモンスターたちは動かなくなる。

全員が終わったことに安堵のため息を吐く。


ドーン!

[ファーストクエスト終了]

おめでとうございます。今生き残っている皆さまは最初のゲームにクリアしました。


ウィンドウが表示されると皆、嬉しいような、苛つくような、なんともいえない感情に覆われた。
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