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人助け

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教室から音楽室に向かうが、思った以上に進めない。

音を立ててはいけないのもあるが、最短ルートにはモンスターが異様に多くて遠回りするしかなかったからだ。

あと、モンスターから逃げているものを助け、
音を出さなかったら襲われないということを伝えていたらつくのに約40分もかかった。


制限時間残り:02:34:17


気づけば3時間をきっていた。


「ようやく着いたわね」

「ああ……みんなは大丈夫だろうか」

もう、悲鳴も聞こえなくなった。

今、誰が生きていて、誰が殺されたのか全くわからない。

ただ、1人でも多くの人が生きているのを祈るしかない。

「さぁね。こればっかりは自分でなんとかするしかないわ」

「……」

「ああ、もう。辛気臭い顔しないで、さっさと準備するわよ。上手くいけば、襲われている人たちも助けられるかもしれないだから」

「……わかってる」

「なら、いいけど」

それ以上、会話はせず、ただ黙々と作業をする。



「どう?近くにモンスターはいる?」

準備はできた。

後は曲を流すだけ。

だが、近くにモンスターがいれば逃げることが困難になる。

そのため、確認する必要がある。

「いや、いない」

退路確保はできた。

奏雨はいつでも逃げられるようベランダで待機する。

「よし、流すよ」

桃莉は奏雨に指で、3、2、1、とカウントし0になった瞬間、ボタンを押し音楽を流した。

ボタンを押したのと同時に音楽が流れる。

音量MAXにしたので物凄くうるさい。

桃莉は急いでベランダに出て、そのままベランダを走りながら急いで音楽室から離れる。

音楽を流す前、音楽室から一番離れた場所の窓以外全部鍵を閉めていてのでモンスターには全く会わない。

ゆっくりと窓から中へと入ると廊下側の窓から大量のモンスターたちが見える。

どうやら作戦は成功のようだ。

音を出すわけにはいかないので、エアハイタッチをする。

モンスターたちが音楽に向かったら音を立てずに脱出し、真反対の校舎へと移動する。



※※※



「いや、死にたくない……誰か助けて」

モンスターに噛まれそうになり、諦めかけたそのとき、どこからか音が聞こえた。

すぐにこれがクラシックだと気づいたが、なぜいま流れているのかと不思議に思う。

でも、関係ない。

どうせ死ぬんだから、そう思って目を閉じたがなかなか痛みがこない。

気になって目を開けるとモンスターが消えていた。

「え?なんで……?」

理解できず、放心する。

「まさか音?」

なぜ自分が助かったのか考えるが、思い当たるのは今も流れているクラシックのせいとしか思えない。

誰が流したのかは知らないが感謝する。



※※※



「それで桃莉。これからどうするんだ?まだ2時間半も残ってるけど……」

音楽室の音はすぐ破壊されるはずだ、とは言えず黙り込む。

「大丈夫よ。ちゃーんと次も考えてるから。今のはただの時間稼ぎ。本番はこっからよ」

桃莉は走りながらウィンクする。

「時間稼ぎ?どうい……」

シッ。

奏雨は桃莉にまた口元を覆われ話せなくなる。

『あそこにモンスターがいる』

桃莉は目で語りかける。

奏雨は桃莉の視線を辿り、モンスターを認識する。

「いったわね。急ぐよ」

「ああ。って、どこに向かってんだ?」

「教室よ」

「教室?」

なんでそこに?

桃莉の考えていることが理解できず、奏雨は首を傾げる。

「そう。教室」

あともう少しでつくというところでモンスターと遭遇する。

モンスターは口を大きく開け生徒を襲おうとしていた。

生徒は悲鳴をあげていたため、音楽より近くの悲鳴を優先した。

「チッ。目の前で……」

見えないところなら無視できたが、目の前で行われているのは無視できない。

桃莉は近くにあった消化器を掴み、モンスターに向かって走っていく。

「桃莉!?」

この状況でいきなり消化器を持って、モンスターに近づく桃莉にとうとう頭がイカれたかと心配になる。

奏雨には襲われている生徒が見えていなかった。

ドゴンッ!

大きな音が廊下に響く。

桃莉が消化器でモンスターの頭を殴った。

モンスターは頭を殴られて衝撃で横に吹っ飛ぶ。

「え……?」

襲われていた生徒は急にモンスターが目の前から消え、理解できずに驚く。

「アァ……アァ……」

モンスターはゆっくりと立ちあがろうとするが、二度目の攻撃で頭を潰されそのまま動かなくなる。

「あんた、大丈夫?」

スリッパの色から1年だわかり、タメ口で話しかける。

「……」

「おーい」

放心しているせいか、顔の前で手を振っても微動だにしない。

「こりゃあ、駄目だな」

「そりゃぁ、目の前で頭が潰れるところみたらそうなるだろ」

モンスターが吹っ飛ばされ男子生徒の姿が見え、頭がイカれたのではなく人助けのために消化器で攻撃したのだと知った。

「あんたはなってないじゃん」

「たしかに……なんでだ?」

奏雨はわからず尋ねる。

「いや、知らんし。あんたがわからないのに私がわかるわけないじゃん」

「それもそうか」

「……」

「……」

長い沈黙が流れる。

「とりあえず、この子を安全なところに隠そう」

奏雨が最初に沈黙を破る。

「そうしよう。でも、どこに?」

二人はは周囲を見渡すも、どこも安全でない。

「仕方ない。叩き起こそう」

隠すところがないなら、自分の足で逃げてもらうしかない。

そう思い、桃莉は1年の頬を軽く叩く。

桃莉は軽く叩いたつもりだが、普通の人からすればかなり痛いビンタをお見舞いした。

「……ッ!」

1年はあまりにも強烈なビンタに一発で意識が戻るが、気づかれずもう一発ビンタを反対の頬に打たれた。

「痛い!え?え?なに?え?なんで頬が?」

左頬が痛すぎて涙目になる。

「あ、元に戻った」

「いくらなんでもビンタはやり過ぎだろ」

奏雨は額に手を添えながら首を横に振る。

「えー、このままじゃ全員死ぬところだったんだよ。それに比べたらマシでしょう」

「たしかに……それもそうだな」

「うん。そうだよ」

「じゃあ、逃げるか」

「まだ、駄目。教室からCDプレイヤー取らないと。あんた達も他の教室から取ってきて」

ほら、と顎で動くよう指示を出す。

2人は言われた通り他の教室に向かう。

後輩は説明もなしにいきなり指示され戸惑うが、本能からこの二人に逆らっては駄目だと感じ素直に従う。

桃莉も自分の教室に入りCDプレイヤーを取ってから出る。

ついでにスマホを鞄から出し、スカートのポッケにいれる。

「それで、これをどうするつもりだ?」

奏雨が尋ねると、同時に音楽室で鳴っていた音が消える。

モンスターたちがスピーカーを壊したのだ。

「時間があまりないわね。急いで縛る紐を見つけないと」

思ったより時間は稼げたけど、これからやろうとしていることは時間との勝負。

ちょっとでも遅れたら、死ぬ可能性は高くなる。

それでも、やらなければならい。

これは勘だが、モンスターたちを一体でも多く倒しておかなければ大変なことになる。

そんな気がする。

「紐?何に使うんだ?」

奏雨は理解できない。

「あの、紐でしたら、俺たちの教室にありますけど」

来月の体育祭で各組の絵を屋上から飾るため用のものだ。

「あ~、体育祭のやつか。うん、丁度いいね。頑丈だし」

これは毎年1年生がやる決まりなので、どんな紐か知っている。

紐というより縄だ。

「じゃあ、1年の教室に行くか」

桃莉が何をしようとしているのかは知らないが、今の二人は彼女を信じるしかない。

モンスターはいないと思うが念のため気をつけながら、上へと登る。

「てかさ、君名前は?」

桃莉はふと気になって尋ねる。

「柳晴人(やなぎはると)と言います。1年5組の野球部です」

'でしょうね'

'だろうな'

晴人の髪が坊主なのでなんとなく言われなくてもわかっていた。

「他の部員は?」

「わかりません。パニックになって走り回っていたので……」

「そう」

「はい」
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