カメリアの王〜悪女と呼ばれた私がゲームの悪女に憑依してしまった!?〜

アリス

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敗戦国の将軍

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「ここは一体どこ……?」

とばされた場所は林の中で、夜のせいで不気味な雰囲気だった。

「レオネル達はどこにいるの?」

周囲を見渡すも誰もいない。

転移魔法が失敗したのかと疑ったそのとき、またウィンドウが表示された。


ピコン。


[魔法で聴覚の能力を上げてください]


「……?」

何故聴覚を?

そう思ったが、何もしないよりはマシかと思い指示された通りにする。

上げた瞬間、さっきまでは何も聞こえなかったのに馬の足音が複数聞こえた。

それとは別に車輪の音も。

「……近づいてきている。まさか、ここを通るの?」

魔法で聴覚を上げたため、すぐに今自分がいる場所に近づいてきているのが聞こえる。

「丁度いい。探す手間が省けたわ」

右手に魔力を集中させ炎を出す。



「……おい。何かいるぞ」

伯爵の手先の一人が宙に浮いている怪しい炎を見つけ、仲間に戦闘の準備を促す。

「もうバレたのか?やはり全員殺すべきだったな」

レオネルを攫うときにその場にいた数名の目撃者は始末したが、彼がいないことに気づいた誰かが連れ戻そうと依頼をしたのかもしれないと思い男はそう言った。

「そんなことをすれば、徹底的に調べられる。数名ならこの男を助けようと敗戦国の奴らが殺したと思って大して調べないだろう。少しは頭を使え」

別の男は蹴りながら馬鹿なことを言った男に文句を言う。

今の言葉で馬鹿にされた男はカチンときて殴りかかろうとするが、黙って聞いていた別の男が「いい加減にしろ!」と怒鳴る。

その声で喧嘩しそうだった二人は大人しくなる。

「今は争っている場合じゃない。怪しい者を排除する方が先だ。こいつを伯爵様のところに連れて行かなければ金は貰えないんだ。失敗すれば俺達は終わる。わかっているな」

金という言葉を聞いた瞬間、全員の雰囲気が変わる。

腰にさしている剣を抜き、いつでも闘えるよう準備する。

その様子をずっと見ていたレオネルは何があったのかと身構える。

手足は魔法具で縛られているため身動き一つできない。

彼らの言っている通り、もし本当に部下達が助けに来てくれているのなら何としてでも逃さないといけない。

彼らの中に一人厄介な魔法使いがいる。

そのせいでレオネルは簡単に彼らに奴隷商人達から連れ去られた。

拘束具のせいで動くことも声も出すこともできない。

これ以上部下が死ぬとこなど見たくない彼は、手足から血が流れるのも構わずに力を入れ拘束具を破壊しようとする。

だが、この魔法拘束具というのは人間の力で外れるようなものではない。

レオネルは無駄な血を流すだけで何もできなかった。





「それじゃあ、攻略キャラの一人をいただきますか」

私はそういうと手に乗せていた小さな炎を消し、風魔法で荷馬車とその周りにいた馬も一緒に吹き飛ばす。

馬に被害がいかないよう防御魔法も同時に発動する。

勿論、この程度で終わるとは思っていなかったが、全員無傷なのは少し意外だった。

「この程度の力で我らに攻撃するとは身の程知らずめ。たった一人で挑んできた、その勇気は認めてやろう。死ねっ!」

一人の男が剣を振りかざし殺そうと攻撃する。

私はその攻撃を防御魔法で防ぎ、さっきの倍以上の風魔法を使い、その男を木に叩きつける。

「まず一人」

10秒にも満たない時間のあっという間の出来事に残りの手下達は、さっきまでのふざけた雰囲気から本気に変わり私を確実に排除しようとする。

「イアン」

ある男がその名を呼ぶと、一番後ろにいて守られるようにして立っている男が詠唱しだす。

'イアン?なんか、そんな人物いたような気がする'

思い出せないくらいだから大したキャラではないのだろうが、どうしても何か引っ掛かる。

私が他のことに気を取られている間にイアンは詠唱が終わっていた。

何の詠唱だったのかと不思議に思っているとウィンドウが表示され答えを教えてくれた。


ピコン。


[イアンが魔法で仲間の力をパワーアップさせました。攻撃力がさっきより3倍になりました]


'3倍!?え?それってレイシーより強いの?さっきの攻撃力がどれくらいか知らないのに、そう言われてもよくわかんないんだけど……'

イアンの魔法が何かわかったのはいいが、どれくらいすごいのかはわからず余計に混乱する。

私はこれ以上考えるのも面倒だと思い、一気に倒そうと威力を更に上げ魔法を放つ。

今の私はラスボス級の魔力を持っている。

半分は余裕で倒せると思い放ったのだが……

「……想像以上にラスボスって凄いのね」

今の攻撃で伯爵の手下を全員倒した。

初めての戦闘だし、この世界にきて一週間である程度使えるようになった魔法では苦戦すると覚悟していたのに呆気なく終わり、苦笑いしかできなくなる。

私は魔法を解き、捕まっているレオネルがいるであろう荷馬車へと近寄る。


※※※


'何だ?何があったんだ?急に音が消えた。皆は無事なのか……?'

レオネルは急に何も聞こえなくなったことで不安に襲われる。

帝国に負け、奴隷へとなった日のことが蘇る。

レオネルの部隊はほとんど死傷者はいなかったが、負けたその日に大半が処刑された。

目の前で部下が殺されるのを黙って見ることしかできなかった。

そのことを思い出し、またなのかと帝国への殺意と自分の無力さに怒りが湧き上がる。

殺してやる!

そう思い、血が流れているのも忘れ、さっきよりも強い力で拘束具を破壊しようとする。

それに夢中になっていたため彼は自分に近づいてくる足音に気が付かなかった。

声をかけられて初めて自分の目の前に人がいることに気づいた。



※※※



「ねぇ、それ以上やったらその手使い物にならなくなるんじゃない?」

私はレオネルに話しかける。

私がいることに気がついていなかったのか彼はは驚いて固まったが、すぐに我に帰り睨みつけこう言った。

「……お前は誰だ?」

フードを深く被っているのと、今が夜で辺りが暗いため顔が見えない。

攫った彼らを倒すくらいのものだから名の知れた者で、自分を殺す者の名くらい知っておきたい。

そんな思いで尋ねたのに、まさかの返答に信じられず、戦争のし過ぎて頭がイカれたのかと思う。

「私は貴方を助けにきた魔法使いよ」

「……俺を?お前はヴェールトゥ国の者なのか?」

聞いたことない声。

知り合いではない。

自分を助ける者なんて自国の者以外あり得ない。

嬉しいと思う反面、なんて愚かなことをしたのだと怒りが湧く。

もし、このことがバレればヴェールトゥ国の人間がどうなるかわからない。

ただでさえ奴隷にされているのに。

もう終わりだ。

そう思い、復讐を諦めかけそうになったそのとき「え?違うけど」と言われる。

「……まさか、お前は帝国の人間なのか!?なら、何故俺を助けようとする!そんなことをしても俺は……」

私はレオネルの口元に手を置き話しを中断させる。

これ以上は駄目だと。

「貴方の言いたいことはわかるけど、とりあえず落ち着いて。これ以上力を入れると拘束具が貴方の手を斬り落とすわ。そうなれば、二度と貴方は復讐することができなくなる。それでもいいの?」

私がそう言うとレオネルは大人しく体から力を抜いた。

「話しはあとよ。まずは、拘束具を外さないとね」

魔法で拘束されているので魔力を持っている者なら外すことはできる。

強力な拘束でもラスボスの魔力を使える私には関係ない。

「……!」

レオネルの手足は強力な魔力で拘束されていたのに、それをいとも簡単に外した私に警戒を強める。

当然の反応だ。

手足を負傷した自分とどこも怪我していない強力な魔法使い。

戦えば負けるのは目に見えている。

いつ攻撃されても大丈夫なように、レオネルは私の一挙一動に注意した。

私が手を前に出し魔法陣を出すと、彼はその場から飛び跳ね距離を取る。

「……何してんの?」

私は手足を治療しようと魔法を使おうとしたのに逃げられ困惑する。

「お前こそ今何をしようとした」

私は彼の殺気を含んだ声に一瞬怯むも、すぐに平静を装い「治療だけど」と答える。

「治療?」

帝国の人間がヴェールトゥ国の将軍である自分の治療をすることが信じられない。

何かきっと裏がある。

タダで人助けをするなんて有り得ない。

それがわかるから治療をしてもらうわけにはいかない。

そう思い距離を取るが、彼女は目の前まで近づいてくる。

「そうよ。そのまま放置していたらその手腐って二度と使えなくなるわよ。この国で私以外に貴方を治療しようとするものがいると思う?どうする?私はどっちでもいいけど」

「何が望みだ。タダではないのだろう」

「当然でしょう。私は善人ではないからね」

レイシーの代わりに復讐しようとしている自分が善人のはずはない。

「私の望みは簡単よ。貴方の力が欲しいの」

別にレオネルの力が欲しいわけではない。

傍に置くために最もそれらしい理由が力だったからそう言っただけだ。

「俺に何の得がある」

レオネルはお前達のためにこの力は絶対に使わない。

そんな態度を取る。

私はそんな彼の態度が面白く、ついぷっと笑ってしまう。
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