カメリアの王〜悪女と呼ばれた私がゲームの悪女に憑依してしまった!?〜

アリス

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魔塔主

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今この女何と言った?

花が嫌いな人間もいる?

そう言ったのか?

ここで?

皇后が大事にしている、この庭園で?

目の前の女が皇室に喧嘩を売るために言った言葉ではないということはわかる。

ただ思ったことを言っただけ。

だがその言葉をここで言えるものは、国中を探してもレイシー・カメリア以外いないだろう。

普段はあれだけ人を馬鹿にし、見下している女が、貴族随一の問題児で悪女と名高い女に馬鹿にされるなど誰も想像できないだろう。


ーー花を嫌いな女性はいない。


皇后はそう言って、いろんな貴族男性に好きな女性には花を贈るのがいいと言っているし、女性達にもそうあるべきだと言っている。

そのことを貴族である彼女が知らないはずなどないのに、正直に答えるのがおかしくてたまらない。

何もより大嫌いな皇后の考えをきっぱりと否定した姿が最高すぎて、ルドベキアは生まれて初めてお腹が痛くなるほどに笑った。

少し前までは性格の悪いクソ女だとレイシーのことをそう思っていたが、今は少しだけ面白い女に変わり興味が湧いた。

「おい。カメリア嬢。一カ月後に開催されるパーティーに俺のパートナーとして参加しろ」

この日にレイシーが使える人物かどうか確認をしよかと思いそう言うも「え、無理です」と間髪入れずに断られる。

暫く二人の間に重い沈黙が流れる。

「……聞き間違いか?今、皇太子である俺の誘いをことわったのか?」

「はい。大変光栄なことですが、お断りさせていただきます」

さっきとは違い今度は丁寧な言葉遣いで断る。

「何故だ。理由を言え」

納得ができずにそう言う。

ルドベキアは余程の理由でなければ嫌でもパートナーとして参加させようと決める。

「先ほど言いましたが、さっき私はある人と言い争いをしました。このことは公爵様の耳にも届くでしょう。私はまた謹慎させられ社交界へは暫く参加できません。皇室のパーティーなら尚更無理でしょう。例え皇太子殿下からの誘いでも、謹慎中ではお相手を務めることはできません。申し訳ありませんが、他の方をお探しください」

私の予想は当たっていて、さっきの件のことはもう公爵の耳に入っていた。

また問題を起こしたことと自分の言いつけを守らなかったレイシーに対し怒りが湧き、暫くの間社交界へは参加させないようにすると決めていた。

「……そういうことなら今回は諦めよう」

ルドベキアは渋々と言った様子でそう言う。

その言葉に私はホッとし、ため息を吐く。

だがその安堵もつかの間、続けて言ったルドベキアの言葉に「このクソ暴君!」と心の中で悪態を吐く。

「だが次はないと思え」

「……はい。寛大なお心に感謝します」

私がそう言うとルドベキアの胸で黒く光っていたハートが白に変わり、更に黄色に変わった。

'……何で急に?まさかこれ好感度を表しているの?'

ハートの色が変わってから、ルドベキアの目が最初からと違い少しだけ変わった……気がする。

汚い物を見るような目から普通に人と話すような目に。

私はハートが攻略キャラの好感度を表すものだとすぐに気づいたが、同時に言葉を失う。

好感度は数字で表示されると思っていたので、色で示されるとは思ってもみなかった。

私は色でどう判断すればいいかわからず困り果てる。

暫くハートを眺めていると、不審に思った皇太子がニヤけた顔を近づけこう言った。

「……何だ。まだここにいるつもりか?それとも俺といたいのか?」

言葉自体は普通なのに顔と口調が荒々しい。

今すぐにでも噛み殺せるぞ、といった雰囲気を出す。

「いえ、大丈夫です。失礼します」

私は笑うのも忘れ真顔で返事をしてからその場から離れる。

ルドベキアは急いでこの場から離れていく私の後ろ姿を見ながら笑みを浮かべていた。




「……最悪。よりによって、なんであの男と一番最初に会うなんて」

ルドベキアの視線から外れた瞬間、足が痛いのも忘れて全力疾走で走り身を隠した。

今いる場所には誰もいない。ここなら大丈夫だろうと思い、私は地面に座り込んで頭を抱える。

ここにきた時から、いや夢の中でレイシーに会った時からのことを思い出す。

これから自分がどうするか、どうしたいのかを考える。
 


どれだけ時間が経っただろうか。

気がつくと空に浮かぶ星の数が数えきれないほど多くなっていた。

いくら考えても答えは出なかった。

私はスッと立ち上がり狂っように大声で笑った。

こんなに不安で怖くて楽しいことをするは生まれて初めてだった。

いろんな感情に襲われ自分が何をしたいのかわからなくなる。

きっと、この世界にきた際に頭がおかしくなったのだ。


 


もしこの光景を見ているものがいたら、きっとこう言っただろう。

美しい女性が月の光でさらに美しく輝き、甘い笑みを浮かべ楽しそうにしている姿は全ての男性たちを魅了する。

まるでお伽話に出てくる悪魔のような女だと。






「一旦家に帰って頭を整理しよう。これ以上ここにいても意味ないし。それに攻略キャラや他の人達にも会うのは面倒だし。こういうのは計画を立ててからじゃないとだし……」

私は気が済むまで笑ったお陰で冷静さを取り戻した。

だが家の場所も、そもそもここがどこなのかさえわからず困り果ててしまう。

レイシーの家族を探しても別々にいつもパーティーには行っていたはずなので意味はない。

'とりあえず玄関、いやこの場合門を探すべきなのか?'

家に帰るのも一苦労するとうんざりしながら、帰るために馬車がある場所を探す。


探し始めて結構な時間が経つが一向に見つかる気配はしない。

どうしたものかと途方に暮れていると、角を曲がったとき誰かとぶつかった。

前を見ずに歩いていたので、自分が悪いと思いすぐに謝罪をする。

「すみません。大丈夫ですか?」

「いえ、こちらこそすみません。あ、ドレスが……本当に申し訳ありません」

男の言葉でぶつかった拍子に男が持っていたワインがドレスにかかったのだ。

まさか、さっきレイシーがロベリアにしたことを隠すために言った作り話が自分の身に起きるとは思わず、ついおかしくて笑ってしまう。

「いえ、気にしないでください。わざとではないでしょうし、私の不注意でもありますので」

男の顔を見るなりわざとではないとわかる。

それより、この顔どこかで見た気がする。

どこだっけ?と思いながら男の顔を凝視する。

「あの、私の顔に何か?」

男は困った顔で笑う。

'あ!こいつは……!'

今の表情でこの男が誰なのかわかった。

攻略キャラの一人、魔塔主のイレーネ・ブーゲンビリア。

普段は侯爵家の人間として社交界にいる。

彼が魔塔主だと知っているのは極一部。

そもそも、私がゲームの登場人物で知っている顔がいるとしたら主要人物しかあり得ない。

すぐに気づかなかった自分を殴りたくなる。

まだこの世界にきて半日もいや、三時間も経っていないというのに、ヒロインと2人の攻略キャラに会った。

いくら何でも展開が早すぎる。

それに、ゲームの中ではレイシーがこの時期に攻略キャラと話した場面はなかった。

メインが主人公だから私が知らなかっただけか、私が憑依して話の内容を変えたから変わったのかはわからないが、頭も体も限界なので早く帰って寝たい。

そう思い、さっさと話を切り上げ家に帰ることにした。

「いえ、綺麗な顔だったので、つい見惚れてしまいました」

適当に誤魔化そう思い、とりあえず顔を褒める。

「そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます」

イレーネは今ので私のことも顔で人を判断する女なのかと思う。

心の中ではうんざりしているが、それを一切出さずに完璧な笑みを向ける。

どうせこの後、今までの女性達みたいにデートに誘われるのだろう。

だが相手は公爵家の問題児。

穏便に済ませるにはどうやって断るのが正解なのかわからず、頭が痛くなる。

だがイレーネのその予想は大きく外れる。

「では、私はこれで失礼します」

例え今の状況が攻略キャラと仲良くなるチャンスだとしても、これ以上は無理だった。

とうに限界は超えていたため、早く一人になりたかった。

「……!」

イレーネはまさかの言葉に驚き、信じられないないような目で彼女の後ろ姿を眺めた。

だが、彼女は角を曲がる前に立ち止まり戻ってくる。

'やっぱりか……'

ほんの少し期待しただけに、それを裏切られたときの失望はいつもの比ではない。

勝手に自分が期待しただけだから文句など言えないが……

また自分の目の前に戻ってきた彼女に「どうしましたか?」と優しく尋ねる。


イレーネにそう聞かれ、私は一度去ったのにまた戻ってきた変な女だと思われるのは恥ずかしかったが、足も痛いのに意地を張っても仕方ないと思い馬車がどこにあるか尋ねる。

「あの、家に帰りたいんですが馬車がどこにあるかわからないくて……道を教えていただけませんか」

私の言葉にイレーネは「何言ってんだ、こいつ」というような目を向ける。

私はその目に言いたいことはわかるが、もう少し上手く隠せないかね、と心の中で悪態を吐く。

天下のカメリア家の問題児で社交界が大好きな女が皇宮で迷子になるなんて誰も信じない。

イレーネに道を尋ねると気を引くために言っていると誤解される可能性が高いとわかっていたが、また一人で何時間も彷徨う方が嫌だった。

背に腹はかえられない。

そう思い尋ねたが、イレーネの顔を見て自力で探せば良かっと後悔する。

「では、そこまで案内いたします」

自分より爵位の上の者を無碍になどできるわけないし、何よりレディが困っているのに助けないのは紳士の風上にもおけない。

嫌だと思いつつも馬車のところまで案内しようとする。

「あ、いえ、道だけ教えてもらえれば結構です」

絶対にこれ以上誤解されるのは嫌でその提案を断る。

それにどう考えても馬車のところまで地獄のような時間になるのは目に見えている。

道だけ聞いてこの場からさっさと退散したかった。

「わかりました。まず、この道を真っ直ぐに行って……」

私が向かった方向とは逆の道を指差す。

その瞬間、私は馬車とは真逆の方に行こうとしてことを知り恥ずかしくなる。

絶対に馬鹿にされたか、面白い気の引き方をしようとしていると誤解されたと思ったからだ。

訂正したくても余計に怪しまれるだけだろうし、それにこれから立てる計画で面倒になるかもしれない。

自分の感情を押し殺し、恥ずかしさに耐える。

その後も馬車までの道を教えてもらうが思った以上にややこしくて覚えきれなかった。
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