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何故勇者は国を滅ぼしたのか? 後編

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今から十年前。

一人の青年がいた。

その青年は史上最年少で王族騎士団団長の一人になった。

最初の頃は色々言われていたが、魔族を倒し国を護り続ける日々を三年続けた頃には青年に向けられる言葉は変わっていた。

青年は国中の人達から慕われ期待されていた。

だが、そんな日々は長くは続かなかった。

二年後、ある一人の女性の嘘により青年は処刑されることになった。

その女性がついた嘘というのが、無理矢理キスをされ襲われそうになった、というもの。

すぐに青年は捉えられ牢に閉じ込められた。

青年は事実無根だと潔白を訴えたが、嘘をついた女性は青年よりも身分が遥かに高いものだったため誰も青年の言葉に耳を貸すものはいなかった。

事実確認などされず、青年は処刑された。

青年はこの国の為にその身を捧げたのに、自分より身分の高い者がついた幼稚な嘘により命を落とした。



「……それって、ルドベキア団長のこと?」

メイは勇者が話している途中でそうではないかと疑った。

でも、もし勇者の話が本当ならルドベキアは無実。

嘘をついていたのは王女ということになる。

「いや、そんなことあり得ない」

「どうしてあり得ないの?」

メイの呟きにそう問い返す。

「だって、そんな嘘をつく必要がないじゃないですか。王女様に何の得もないじゃないですか」

「それがあるのよ。一つだけ」

「そんなのありません!絶対に!どうしてそんな嘘をつくのですか?」

「嘘?私は嘘なんてついてないわ。本当にあるのよ。女として馬鹿にされたのだから。特に生まれて一度も拒否されなかった高貴なお方にはね」

勇者の言葉に王女はビクッと体を震わす。

メイは勇者の方を見ていたのでその瞬間は見えていなかった。

「(どういうこと?拒否された?高貴だから許せなかったってこと?…………それって、もしかしてルドベキア団長に求婚したけど拒否されったてこと?いや、そんなこと有り得ない)」

頭の中に思い浮かんだことを急いで黒く塗り潰す。

「勇者様、その言い方ではまるで王女様がルドベキア団長に求婚して振られたと言っているように聞こえます」

「ええ、そうよ」

「いい加減にしてください!勇者様こそ嘘つきではありませんか!王女様には婚約者がいるのですよ!ルドベキア団長と出会う前から、それなのに求婚するなんてあり得ません!それに誰だって知っています。ルドベキア団長が死ぬ前に言った言葉を!あれは愛の告白です。王女様に向けた。もし、勇者様の言葉が本当ならあの最期の言葉はいったい何なんですか?」

「どうして?あの言葉が王女様に向けられたと思うの?彼はあの日一度も王女様をみていないのに」

「でも、ルドベキア団長は王女様の名前を呼びました。リコリスと……」

言っている途中で思い出した。

王女と勇者の名前が一緒だと言うことに。

もし、勇者の話が全部本当なら……。

あの日ルドベキアが最期に言った言葉は勇者の方のリコリスに向けられたもの。

「もう、わかったよね。私がどうしてこの国を滅ぼしたいのか。悪く思わないでね。これは私がされたことをそのまま貴方達にしていることだから」

ゆっくり剣を抜きメイに近づく。

「待ってください、お願いします。助けてください。私は知らなかったのです。何も。お願いします。これは全て王女が悪いはずです。私には何の罪もないじゃないですか」

真実を知り必死に命乞いをする。

「でも、貴方は彼を助けなかったわ。王女の話だけを信じて彼を殺すべきだと決めつけていたわ。そうでしょう。だからね、死んで償って」

そう言い終わると誰もが美しいと思う笑みを浮かべメイの首を斬り落とす。

「ようやく邪魔者が消えたわ」

剣についた血をはらい鞘におさめると王女の方を向く。

「これで誰もいないわ。いい加減その仮面外せば?」

「~っ、黙れ!クソ女!こんなことになったのは全部あんたのせいよ!」

誰からも愛される慈悲深い王女の顔から、醜い女の顔に変わる。

「侍女が死んだというのに、第一声がそれ?」

「うるさい!」

王女が般若のような顔で勇者を睨みつける。

「何であんたが生きてるの!死んだはずでしょ!それなのに、どうして勇者なんかになってるのよ!」

ルドベキアの無実を知る唯一の人物で好きな相手。

殺そうと刺客をおくったが自殺したと報告を受けていたのにどうして生きているのか。

「貴方を殺すため。それ以外に理由何であるはずないでしょう。でも、殺す前に一つ聞きたいことがあるの」

ずっと笑みを浮かべていたのをやめ、真顔で王女を見る。

「どうして彼を殺したの?」

勇者には理解できなかった。

愛する人を殺すことを選んだ王女の気持ちが。

どうしてそんな選択ができたのか。

勇者は愛する者のためなら国を滅ぼす方を選ぶ。

真逆を選んだ王女に自分と何が違うのか純粋に興味が湧いた。

「……よくそんなこと言えるわね。さすが勇者様、選ばれた人間は言うことが違うわね」

勇者の言葉に刺激され殺意が芽生える。

「あんたみたいに選ばれた人間にはわからないわ!選ばれなかった者の気持ちが!どれだけ惨めか、あんたにはわからないわ!私はあの人を愛していたのよ!初めて会った日からずっとね。結ばれると信じていたのに、あんたのせいで私達は駄目になったのよ!」

「それが理由?」

王女のどの言葉に刺激されたのか勇者自身にもわからなかったが、殺意が膨れ上がる。

今すぐ殺してやる、と思い剣を抜き王女に近づく。

「ええ、そうよ。手に入らないのなら、奪えないのなら、誰の物にもならないようにするしかないでしょ」

王女はうっとりした顔で勇者に向けて言い放つ。

「……そう、そんなくだらないことで彼は殺されたのね……楽に死ねると思わないでね」

勇者はそう言うと王女を蹴り飛ばし倒れたところでお腹に剣を刺す。

勢いよく刺したので剣が床も貫通する。

「貴方の力では剣は抜けないわ。死ぬまで時間がかかる。経った数分だけど苦しみなさい」

王女が何か叫んでいたが、無視して玉座の間から出ていく。



「終わったのか?」

仲間の魔法使いが城内から出てきた勇者に話しかける。

「ええ、終わったわ」

「スッキリしたか?」

「どうだろう?よくわからないわ。でも、これで誰も彼の事を蔑まないわ。そう思うと幸せね」

「そうか。……それで、これからどうするんだ?」

勇者が出てくる少し前にこの国の者は全員死に復讐は達成されていた。

帰る場所を無くし、生きる意味も無くなった者がどういう選択をするのか純粋に興味があった。

「彼に会いにいくわ」

「……死ぬのか?」

魔法使いの顔が歪む。

「……誰が?」

「お前が」

勇者は目を数回パチパチさせた後、声を出して笑う。

「そんなわけないでしょ。そんなことしたら、彼は私を一生許さないわ」

死なないと勇者の口から出て安堵するも紛らわしい言い方をするなと肩を叩く。

「なら、会いにいくとはどういう意味だ」

「十年前、お墓を建てたの。何も入ってないけどね。彼の死体は塵となって風に飛ばされたから当然だけど」

「……そうか。なら、ここでお別れか」

「そうだね」

「リコリスお前と旅ができて楽しかった。またな、我らの勇者よ」

「私も楽しかったよ。我が儘を聞いてくれてありがとう、アスター」




「ルー、来るのが遅くなってごめんね。ようやく全てが終わったよ」

酒と花を供えてから、十年間のことを話し始める。

仲間と出会ったときのこと、世界中を旅し魔王を倒したこと、国を滅ぼし復讐を遂げたことを何日もかけて全て話した。

「ねぇ、ルー。そっちにいくのはもう少し先になるけど、許して欲しい。まだやり残したことがあるの。死なないと約束したの……それに私は勇者だからまだ死ねないし。だからさ、その代わり誓うよ。私は今も昔もこれからも変わらず、永遠に貴方だけを愛すると。だから、もう少しだけ待ってて」
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