人生ゲーム

プロローグ

広瀬輝

「広瀬輝(ひろせあきら)様、おめでとうございます。これにてゲームは終了です。ファーストステージクリアにて報酬を受け取ることができます。広瀬様のご要望は幸せな結婚生活。変更がなければ今すぐご用意しますが宜しいでしょうか」

スーツの男が輝に向かって頭を下げる。

「はい！お願いします！」

スーツ男の宣言でこれまで張っていた緊張の糸が途切れその場に倒れ込む。

「では、こちらから結婚したい相手をお選びください」

タッチパネルを部下から受け取り輝に渡す。

「本当にこの中から好きな人を選んでいいんですか！？」

そこに映っていた人達は想像以上の美女達で信じられなかった。

「はい。お一人だけお選びください。その者が広瀬様のお相手になります」

「でも、もし裏切られた場合はどうなるんですか」

輝は背も高くなく顔も不細工ではないが整ってはいない。

ゲームの報酬として美女を得られたとしても自分だけを一生愛してくれるとは思えない。

「その可能性は限りなく低いですが、もし仮に万が一にもそうなった場合はこちら側の責任として新たなお相手をお連れします。広瀬様はゲームにクリアしたので必ずその報酬をご提供させていただきます。ですので、ご安心して好きなお相手をお選びください」

「そうでしたか、失礼なことを聞いてすみません」

スーツ男の威圧にビビり謝罪し、急いで相手を誰にするか選ぶ。

早く美女と暮らしたいというのもあるが、一刻も早くスーツ男から離れたかった。

輝の言葉に腹を立てたのだろう。

さっきから物凄い殺気を感じて怖くて仕方なかった。

「え、選びました。この人にします」

一番タイプの女性を指差す。

「かしこまりました。すぐご用意させていただきますので、広瀬様は別室でお待ちください」

部下に広瀬を託し、スーツ男は選ばれた女性にこれからのことを説明するため女性のいる場所に向かう。


「No.0549。あなたの未来が決定しました。ついてきなさい。これからのことを説明します」

「……はい。夕霧(ゆうぎり)様」

番号で名前を呼ばれた女性は作業していた手を止め夕霧に頭を下げてからついていく。



「No.0549。今日から貴方の名前は清水香(しみずかおり)となります。死ぬまでその名前です。元の名前に戻ることはありません。わかりましたか」

「はい。夕霧様」

「では、これから貴方の人生を説明します。貴方はファーストステージをクリアした広瀬輝様のご要望により結婚相手として生涯広瀬様だけを愛していただきます」

ここまで言うと香にここまではわかるかと確認をする。

香が頷くと夕霧はまた説明を再開させる。

「貴方の役目は簡単です。ただ広瀬様だけを愛し幸せな結婚生活を送ればいいだけです。それで貴方の借金は消えます。守れますね」

「はい」

「宜しい」

香の返事に何にをおもったのか、夕霧はニッコリと悪魔のような笑みを浮かべこう続ける。

「もし、仮にこの簡単な決まりすら守れなかった場合貴方は先程いた場所より更に地獄へと堕ちることになります。死んだ方がマシだと思うほどのところに。ですので、くれぐれも他の男を愛したりすることのないようにお願いいたします」

「はい」

夕霧の脅しが恐ろしく体が震える。

「では、行きましょうか。広瀬様がお待ちしております」

「はい」

香は自分を今の地獄から引き上げてくれた輝に感謝する。

このときの香はまだ会ってもいない輝を生涯愛し抜こうと誓う。

地獄になど戻りたくはない。

昔の生活に戻りたい。

そんな思いに囚われていた。



「お待たせしました、広瀬様。お連れいたしました」

「はい」

夕霧が来るのを今か今かと待っていた輝は扉が開いた瞬間椅子から立ち上がり香に会うのを楽しみにしていた。

輝の態度から夕霧は顔には出さなかったが、内心では発情した犬かよと呆れていた。

外面用の笑みを貼り付け香に自己紹介するよう促してから横にずれる。

「初めまして、広瀬様。清水香と申します。私を選んでいただきありがとうございます。今日からよろしくお願いします」

正直に言うと輝の顔はタイプではない。

もしこんな状況でなかったら絶対に付き合わないタイプだ。

それでも、香には輝以外と結婚する以外の道はない。

さっきまでは愛せると思っていたが実際に会うと無理だと思うが、外で生活するには輝といるしかない。

地獄よりはマシだと言い聞かせ、輝を利用して幸せな生活をてに入れると誓う。

「はい。こ、こちらこそよろしくお願いします。か、香さん」

香の美貌に魅了され顔が真っ赤に染まる。

「広瀬様、彼女で大丈夫ですか」

今ならまだ他の人に変えることもできると伝えどうするか確認する。

「はい。香さんがいいので」

「わかりました。では後の手続きはこちらで済ませておきますので、広瀬様ご安心ください。ただいまを持ちまして二人は夫婦となりました。以上でゲームクリアの報酬の受け渡しを完了させていただきます」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

夕霧に礼を言ってから香と用意された車で家まで送ってもらう。