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自炊
しおりを挟む「本当の目的か……お主、どこまで知っている」
長は楓の言葉を繰り返し言った後、暫く黙っていたが、少ししてキッと睨みつけ問いかける。
「なにも。ただ、尋常じゃない数の霊がこの星花宮にいるから、そう思っただけよ」
この登殿の歴史を調べようにも時間がなかったため大したことはわからなかった。
皇宮に銀の蝶を飛ばし、調べようとしたが無駄だった。
ある部屋以外全て探したが見つからなかった。
唯一探せなかった部屋は、そこだけ厳重に結界が張られてあり銀の蝶での侵入は無理だと思い諦めた。
ここで調べようと思ったが、霊たちの表情を見るなり教えてもらえなそうだ。
「悪いが。そなたを信じられない。教えたところで我々の得になにかなるのか?」
霊の一人が蔑むような目で見下ろしてくる。
'うっざ。なんで、こいつ上から目線なわけ?'
どう考えても立場が上なのは私の方なのに、と思う。
「わかりました。では、この取引はなかったことにしましょう」
推して駄目なら引いてみる作戦に切り替える、なんてつもりはなく、ただ説得が面倒になり話を無理矢理終わらす。
別に彼女たちの力がなくても問題はない。
ただ協力できたらお互い助かると思ったから提案しただけ。
元の世界でたくさんの霊を救ったからといってこの世界でもそうする義務はない。
楓は霊たちに背を向け横になり、そのまま眠りにつく。
霊たちはコソコソと「やっぱり提案をのんだはうがよかったのでは?」と後悔するものもいたが、結局暫くは様子見で落ち着いた。
翌朝。
「これが后候補の朝食……」
楓は女房が持ってきた朝食見て頭が痛くなる。
これが紅葉殿に選ばれた后候補の扱いなのか。
「申し訳ありません。姫さま」
楓が連れてきた女房たちは今にも泣きそうな顔で、床に頭がついているのではと思うほど頭を下げて謝る。
「ううん。みんなのせいじゃないわ。私のせいよ」
そう、私のせい。
いくら見せしめといっても流石にこれはやりすぎだ。
后候補の朝食が硬いご飯と味噌汁とししゃも一匹なんて……
「ごめんなさい。みんな。少しだけ我慢してくれる。すぐに何とかするから」
そう口では言ったが、案などなにもない。
だが、このまま舐められっぱなしというのは楓のプライドが許さない。
やられたらやり返す。やららる前にやる、が楓の信条だ。
どんな手を使ってでも必ず後悔させてやる、とこのくだらない遊びを考えた者たちに、今からどんな罰を下すか考えるだけで楽しくなる。
「うわっ!まずっ……!」
一口食べてあまりの不味さに吐き出してしまう。
これは味噌汁というより、塩水だった。
これは料理ではない。
そう判断して食べるのをやめる。
「みんな。これからは自分たちで作りましょうか」
「は?」
女房たちは楓の言葉を聞くと、ぽかんと口を開けた。
「うん。やっぱり、魚がたくさんいるわね」
紅葉殿は他の殿からかなり離れた山奥にある。
自分たちで食料を調達するなど、普通菫の立場ならあり得ないが、あの料理を食べる方が楓からしたらあり得ない。
「さあ。みんなやるわよ。私が魚をとるから、みんなは山菜を積んでくれる?」
楓はそう言うと川の中に入る。
高価な着物からそれに比べたら高価ではない着物に着替えたから川に入る。
とりあえず10匹取ればいいかと決め、魚を捕まえていく。
楓の身体能力を待ってすればすぐに捕まえられる。
川に入って3分もかからないうちにとり終えた。
「うーん。塩焼き、さしみ、煮付け……なにで食べるか迷うわ」
楓は女房たちが戻ってくる間、何の魚料理にするかずっと考えていた。
※※※
桜の花びらが散り緑の葉が出てきた、5月の初日。
今日は月に一度、姫たちが集う日だ。
5月1日に姫たちが集まった理由は、自分たちの楽器の腕を披露するためだ。
最初に妖たちが演奏し、そのあとに4月の姫から順に披露するという流れだ。
この演奏会で姫たちは自分の価値を示す最初の場だ。
皆、この日のために念入りに用意する。
楓もそうだ。
これは紅葉殿の嫌がらせをとめるいい機会だ。
'私に喧嘩を売ったことを後悔させてやる!'
妖や姫、女房たちの顔が歪む姿を今から想像しただけで、周囲の苛立つ視線も許すことができた。
「ではこれより5月の行事、姫君たちの演奏の披露会を開催したいと思います」
筆頭女房の梅木(うめき)が開始の宣言をする。
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