現代最強性格悪い陰陽師が異世界で妖達の婚約者候補になる!?

アリス

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紅葉殿。

それは10月の月を表すことだと知ったのは登殿が終わり、与えられた殿についたあとに女房達から聞かされたときだった。

それと同時に私が周囲の者達に笑われた理由も教えてもらった。

他の11ヶ月は違うが、10月はこの世界でも神無月と呼ばれていて、神が唯一いない月として最も后候補に相応しくないものとして扱われるという。

名目上立場は后候補達が妖たちの后になるかもしれないため上だが、紅葉殿を与えられたものだけは女房より下に見られる。

つまり要は他の后候補達にこうなりたくなければ励めよ、という見せしめに使われたのだ。

女房達は自分たちの仕える姫が紅葉殿になって悔しく泣いていたが、それを聞いてた楓は嬉しさのあまり殿の中を走り回りたいくらい喜んだ。

実際は我慢してその場にうずくまるだけに済ましたが。

全て計画通りに進んだ。

これで元の世界に戻ったとしても突然消えた姫のせいで如月家に被害が及ぶことは避けられた。

それに会ったこともない人、いやそもそも妖と結婚なんて死んでも嫌だ。

'私はどんな手を使っても絶対に元の世界に帰る'

それが今の目標だ。

結婚なんてして子供でも産んでしまったら、育てなくてはならない。

そうなれば元の世界に帰ることなどできなくなる。

だから、これでいいのだ。

そういいのだが……

一つだけ気になることがある。

それは、この紅葉殿には異様な数の霊がいるということ。

女房達には見えてないのか、いつも通り過ごしている。

最初はこの紅葉殿がボロいから霊が集まっているのだと思いたかったが、霊達の言葉を聞く限りどう考えても違う。

彼女達は自分たちの前にこの殿で過ごしていた后候補達とその女房達だった。

「最悪だ。嫌な予感があたった」

楓は纏わりつく霊達にうんざりする。

このまま放っておいたら、この霊達は間違いなく悪霊となり、自分たちを殺そうとする。

楓は問題ないが、女房達はそうもいかない。

成仏するのが一番手っ取り早いが、設定上菫は霊が見えない、霊力が使えない、となっている。

バレたらさっき儀式のときにいた妖たちに何かされることは明白なのでできれば知られたくない。

そうなると彼女達を救う方法は一つしかない。

楓は女房達に一人になりたいと言って人払いわし、霊達に向き直る。

「ねぇ、あなたたち。私と取引しない?」

楓がそう声をかけると、霊達はぽかんと口を開けた。

理解できなかったからだ。

自分達を見ることができる人間がいることに。

この世界でも幽霊や妖を見れるものは極一部だ。

妖力が強い妖だけが人間に姿を見せることができる。

さっきまでいた妖たちも妖力が強いため、本来の姿から人間の姿に変身して楓たちに姿を見せたのだ。

もしあの場で妖たちが本来の姿でいたら楓以外に妖の力に頼らずに見えたのは二人だけだ。

筆頭女房と一月の椿殿を授かった姫。

「お前。我々が見えるのか?」

一人の霊が話しかける。

正直、全員同じような姿で見分けがつかないが多分、この霊がこの紅葉殿にいる霊たちの長だ。

「ええ。見えるわ」

「あり得ない。お前のような人間に見えるはずなど……」

霊たちは儀式の際にいた霊たちに、今回の登殿してきた姫たちの中で霊を見れるほどの力を持った人物はいるかと聞いて一人しかいないと教えてもらった。

その人物は椿殿にいった姫なので、目の前にいる姫なはずはない。

わざと教えなかったのか?

そう思ったが、すぐにそれはあり得ないとわかる。

「不思議?私から霊力を感じないのに、あなたたちが見えるから」

「貴様は何者だ!」

別の霊が怯えた顔で尋ねる。

「紅葉殿を授かった花冠でございます」

「名を聞いているのではない!」

「では、なにを聞いているのですか?」

楓の問いかけに霊たちは警戒するように顔を強張らせる。

暫く霊たちはだんまりを決め込んでいるかのように、口を固く閉ざしていたが長が意を決して尋ねた。

「花冠殿。あなたは陰陽師なのか?それとも巫女か?それとも……」

それとも、の続きが気になったが長はそれ以上言おうとはしなかった。

「どちらでもありません。私はただの名家に産まれただけの姫です」

この世界の陰陽師は元の世界と同じ意味だが、巫女は少し違う。

この世界の巫女は二つの意味がある。

一つは神降ろし。

魔のものを払うため、その身に神を宿し払う方法。

ただ、これは非常に危険な行為なためできるものは極一部。

できたとしてもほとんどのものが命を落とす。

中には何の代償を払わずやってのけたものもいるそうだが、今のところそれができた人物は一人だけと言われている。

もう一つは、魂をあの世へと導くもののことをさす。

陰陽師も悪霊を払い、魂をあの世へと導くが巫女とは規模が違う。

巫女は1日中舞をして、彷徨う魂を守りながらあの世へと導く。

ただし、巫女が導けるのは善霊だけ。

悪霊は導けない。

'意外と鋭いわね。だけど、私が霊力を使えるってことは内緒にしないとね'

わざわざ見えることを教えたのは、バレても大丈夫な理由をちゃんと用意したからだ。

「なら、なぜ我らの姿が見える」

霊たちの中で一番キツそうな女性が尋ねる。

「それは私が一度死にかけたからです。これは誰にも言ってませんが、私は数秒だけあの世にいました。だからか、生き返ったその日から霊や妖が見えるようになったのです」

全部嘘だ。

これは作り話だ。

死にかけたのは私はではなく、この体の持ち主。

あの世なんて行ったことはない。

どんなところかなんて知らない。

でも、そんなのどうでもいい。

重要なのはこの話を霊たちが信じるかだ。

信じると確信したから言ったが、それでも少し不安だった。

案の定、一部の霊たちは今の話が嘘ではないかと疑っていた。

「……確かに、一度死んで生き返ったものは今までみえなかったものが視えるようになるという話は聞いたことがあります。あなたもそうだと?」

日本人形みたいな女性が扇で口元を隠しながら疑うような目を向ける。

「はい。ですが、信じるか信じないかは皆さまにお任せしましす」

楓は試すような笑みを浮かべ霊たちを見る。

「……取引とはどういう意味だ」

楓の言葉を信じたわけではないが、話しかけた理由を聞いてからこれからどうするか霊たちは判断することにした。

楓はその言葉を待ってました、と言わんばかりに口元を緩めこう提案した。

「私があなたたちをここから解放してあげるます。その代わり私にこの登殿の本当の目的が何か教えてくれませんか?」
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