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星花宮
しおりを挟む「如月家、二の姫君、菫様には紅葉の宮で過ごしていただきます」
私の今の名が呼ばれ、これから1年間過ごす宮が発表されるやいな、周囲の者達から憐れむような目と蔑むような目が向けられた。
どうしてこんな目を向けられているのかというと、少し時は遡る。
「お待ちしておりました。如月家の姫君、菫様。ようこそいらっしゃいました」
女房達の先頭にいた女性が頭を下げ出迎える。
「星花宮の皆さま、これから1年間どうぞよろしくお願いします」
楓はなるべくいい印象をもってもらえるように、ふわりと花が咲くような柔らかい笑みを浮かべる。
「こちらこそよろしくお願いいたします。どうぞこちらへ。会場へご案内いたします」
楓は言われた通り、先頭にいた女房の後ろについていく。
会場に着くまでの間、楓はあまりの広さと絶景に言葉を失った。
后候補は12人いる。
この国を支える貴族達の代表の娘が1年間住む場所だ。
ある程度、広いだろうと予想していたが想像を遥かに超える広さで驚いた。
だがそれ以上に驚いたのは、今いるところが夢かと疑うほど幻想的な世界にいて言葉を失う。
今は4月。
桜が咲く季節だ。
だから、桜の木が咲いていてもおかしくはない。
如月家でも屋敷内に桜は植えてある。
元の世界でも何度も見た。
桜の名所にもいったことはある。
素晴らしくて感動したのを今でも覚えている。
だが、ここはその感動を遥かに超えるほど美しい光景だった。
一体、何本の桜の木が植えてあるのか。
風が少し吹いただけで、何万、何十万……いや何百万の花びらが一斉に舞う。
青い空に桜の花びらがひらり、ひらりと蝶のように舞い散った。
太陽の光で花びらが黄金のように光る。
美しい。
この言葉は今この瞬間のためにある言葉だと本気でそう思った。
できるなら、ずっとここでこの景色を見ていたかった。
「菫さま。こちらに。まだご到着されていない姫さま方もいらっしゃいますので、もう暫くお待ちください」
会場に着き、如月家の席に案内すると女房はそう言った。
「わかりました。案内ご苦労様でした」
貴族の姫のお礼に面食らったのか、女房は目を開き、まじまじと菫を眺めてから「いえ、当然のことをしたまでです」と言ってどこかへいった。
'……私おかしなことでも言った?'
女房の表情が一瞬変わったのに気づき、おかしなこと言ったかと首を傾げる。
来てそうそうこれでは1年間耐えられるか今から心配で頭が痛くなってくる。
これからの1年の計画を頭の中で何度も復唱していると、いつの間にか残りの后候補たちもきていて、今から登殿の儀式が始まるのだとわかった。
絶対に目立たず透明人間としてこれから過ごすためにも、今からの儀式はとても重要になる。
楓は全神経を集中させて、姫たちの中で最も可能性が低い姫であることを証明することにした。
「全ての后候補である姫さまがお揃いになりましたので、これより登殿の儀式を始めさせていただきます」
先程私を案内してくれた女房が前で話し始める。
'今話すってことは女房達の中で一番偉い人なのね'
楓は女房の言葉を聞きながら早く終わるのを待つ。
「これより皆さまは妖狐、鴉天狗、鬼、龍、蛇族の中の后候補として、こちら星花宮で1年間過ごしていただきます。注意事項は事前に知らせているので省略させていただきます」
'注意事項?なにそれ?私知らないけど……あっ!あのクソ女!'
楓は女房の言葉を聞いて、すぐに水仙がわざと知らせの手紙を捨てたと気づいた。
自分が消えたら、妹が行くしかないとわかったうえでやったのだろう。
後で連れてきた女房達に知っているか尋ねて、それでも知らなければ事情を説明して星花宮の女房に教えてもらうしかない。
最悪だ。
そう思ってこれからのことを考えていると、いつの間にか話が終わっていた。
'やばっ!聞いてなかった……'
このことも後で聞かなければと思っていると、急に姫たちの名を呼び始めた。
'えっ?なに?なにが始まるの?'
姫たちの行動を見て自分の番の時にもそうしなければと凝視する。
そうして9人の姫の名が呼ばれたあと、ここで過ごすための今の私の名が呼ばれた。
「如月家、二の姫、花冠(かかん)さま」
ここでは真名ではなく仮名で過ごすため、父親がこの1年のためだけに新たな名を名付けた。
「はい」
楓は返事をして立ち上がり、姫たちがした動きと同じように動き、女房の前までいく。
「花冠さまには紅葉殿を頼みます」
「はい」
女房に渡された紅葉と書かれた札を受け取りと、周囲からクスクスと笑う声が聞こえた。
さっきまでそんな反応誰もしなかったのに、どうして私のときだけ?と目の前の女房を見ると、申し訳なさそうに下を向いていた。
その表情を見てピンときた。
楓を笑ったというより紅葉殿があまりよくない殿のため、そこに選ばれた者を元々笑うつもりだったのだと知る。
理由はわからないが、早いうちに突き止めた方がいいと感じた。
これはあくまで勘だが、紅葉殿を託された瞬間、妖たちの目つきが変わった。
特に妖狐と蛇の一族の目が!
嫌な予感しかしない。
楓はため息を吐きたくなるのをなんとか我慢し、登殿の儀式が1秒でも早く終わることだけをとにかく祈った。
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