5 / 11
鬼
しおりを挟む楓は手を叩き、金の花びら達を消す。
ふぅ、と息を吐いてから二人の方を向いて話しかける。
「終わりました。確認してください。呪いはもう消えているので」
楓は二人にそう言う。
「あ、ああ……」
二人は未だに金の世界から抜け出せずにいる。
息子が助かったというのに。
仕方ないことだとわかるが、楓はそんな二人に少し薄情だと思わずにはいられなかった。
「ほ、本当に消えている」
桐生は息子の体にあった呪いの痕が消えているのを見て驚く。
縋るような思いで、この日を待ち望んでいたが本当に助かるなんて思ってもみなかったのため信じられなかった。
「すお、楓殿。本当に感謝する。ありがとう」
蘇芳と言いかけてやめる。
きっと苗字で呼ばれるのは嫌だろうと思い。
夏梅は息子の体を強く抱きしめ礼を言う。
「いえ。私は約束を果たしたまたです。用は済みましたので、私はこれで失礼します」
邪魔者は消えるべきだ。
そう思い、部屋から出る。
さっき薄情だと思ったのは撤回するべきだな、と二人の姿を見て思う。
泣くほど喜んでいた。
本当に大切な存在なのだ。
'私とは違いあの二人は愛されているんだな……'
少しだけ親の愛情をもらえる二人が羨ましかったが、両親からの愛情などもう望んでいないので悲しくはなかった。
これ以上しんみりするのは性に合わないので、美味しいものでも食べて気分をあげようとお高いお肉を食べることにした。
「ふぅ。食った、食った。満足だわ」
会計を済ませ、店から出ると私はお腹をさする。
久しぶりにお高い店に来たからか、先程のことなど忘れてお肉の美味しさに浸っていた。
お肉を食べているとき、昔助けた男がいるアイドルの曲が流れてきて、元気でやってるんだなと安心した。
さっさとホテルに戻って風呂に入り、今日は寝ようと思ったそのとき、スマホが鳴った。
嫌な予感がするな、と思いながら電話に出る。
「はい。もしもし……」
『楓様。鬼が出ました』
鬼。
陰陽師達の中で鬼と言えば二つの意味がある。
一つは妖怪。
そのままの意味を示すもの。
もう一つは死んだ人間が鬼となることを示すもの。
普通、死んだら魂はあの世に逝くが、現世に未練や憎しみがあるものは稀に鬼となって留まってしまうことがある。
ただ未練があり、留まるだけなら問題はないが、ここに自分がいるのに認識されない悲しみから負の感情が湧き上がり生きている人を殺すということがよくある。
死んだ時に憎しみや恨みを抱いていたもの達は言うまでもなく、生者を殺す。
鬼は四つの等級にわけられている。
悪、怜、凶、魔。
悪が一番弱くて、魔が一番強い。
'私に連絡がきたということは、今回の鬼は魔か'
面倒くさいが行くしかない。
楓はこの依頼が妖怪の鬼ではなく死んだ人間が鬼になった方だと確信していた。
理由を聞かれたら勘としか答えようが、楓は今回の鬼は妖怪ではなく勘を外したことが一度もないので間違いなく死んだ人間が鬼になった方だ。
「わかった。すぐ行く。場所送って」
そう言うと電話を切る。
すぐにメールで場所が送られてくる。
楓は場所を確認すると、人がいないところまで移動する。
周囲に人の気配がないことを感じると扉を開ける。
鬼がいる山には行ったことがないが、その近くには行ったことがあるので、そこと今いる場所を繋げる。
「思った以上にやばいわね」
扉を渡り、指定の場所まできたが瘴気が濃い。
一般人なら即死。陰陽師でも上位のものでなければ死は免れない濃さだ。
「これは私に連絡くるはずだわ」
楓は瘴気に当てられない唯一の人間。
普通陰陽師は、結界、式神、攻撃、幻覚、治療、浄化の6つに区分され、どれか一つを使える。
中には2つ、3つ使えるものもいるが、楓はこれら全てを完璧に使える。
故に最強陰陽師と言われている。
つまり、楓が倒せない相手は誰にも倒せないということになる。
楓は絶対に負けることを許されない立場。
昔はそのプレッシャーに押しつぶされそうになったこともあったが、今ではなんともない。
負けることなどあり得ない。
そう言い切れるほど血の滲む努力をしてきた。
今回も必ず勝つ。
そう意気込み、楓は鬼のいる場所へと向かう。
※※※
「あなたがこの正気を発している鬼ね。悪いけどやめてくれるかしら?」
楓はなるべく穏便に済ませようと優しく話しかける。
「嫌だと言ったら」
鬼はニタリ、と気持ち悪い笑みを浮かべる。
「殺す」
鬼の笑みを見て話の通じる相手ではないとわかり、作戦を変更する。
楓は人差し指で親指を切り、地面に血を落とす。
血が地面に落ちると、そこから陣が浮かび上がる。
陣は楓と鬼を中心に半径10メートルほどの広さで現れる。
もう一滴地面に血を落とすと今度は剣が浮かび上がってくる。
楓はそれを手に取り、攻撃を仕掛ける。
鬼も楓を殺そうと攻撃してくる。
刀同士がぶつかる音が響く。
キンッ!
「終わったわね」
鬼との死闘になんとか勝ち、殺された者達の魂を浄化する。
黄金の花びらが宙を舞う。
美しい世界に似つかわしくない声が響く。
「ふざけるな!どれだけ長い年月をかけて強くなったと思ってる!あのお方に認められるまでどれだけ時間を費やしたと……!お前如きのせいで、我々の計画が潰されるなどあってはならない!」
「五月蝿いわね。敗者は敗者らしくさっさと死になさい」
楓は凍てつくほどの冷たい視線を鬼に向ける。
「人間め!このままでは済まさん!呪ってやる!」
「どうぞご自由に」
死にかけの鬼の戯言にいちいち付き合ってられない。
「フンッ!いつまでそんな態度が取れるか見ものだな!我々の悲願を邪魔したお前には……」
「いい加減消えて」
これ以上鬼の戯言を聞く気にはなれず、刀を振りを下ろす。
「ようやく静かになったわね」
鬼が消えたのを確認してから、山を浄化し、ホテルへと戻る。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる