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翼になれる者
しおりを挟むジェンシャンとヘリオトロープと別れた後のキキョウ。
「確かここら辺にあったはず……」
王宮図書館の中の更に奥の限られた人しか入られない秘密の部屋の中である本をずっと探している。
秘密の部屋は図書館の広さと比べて三十分の一程度の広さしかないが、五百冊以上の本が置かれてあるのでお目当ての本を探すのには時間がかかる。
「あった。これだ、間違いない。この本だ!」
お目当ての本を探し始めて二時間。
ようやく見つけることができた。
キキョウはその場に腰を下ろして本の内容を確認しだす。
一ページ、一ページ、飛ばすことなく確認していたが半分を過ぎたところで手を止める。
「……やっぱり、そうだったのか。……マーガレット・ブローディアが聖女だったんだ」
そのページに書かれている内容を見て自分の中の仮説があっていた事に気づくいた瞬間、黄金の光がキキョウの全身を覆う。
「……何だ……これは、何なんだ」
何が自分の身に起きているのかわからず戸惑いを隠せない。
この光が悪いものではないと直感でわかるからいいが、中々消えそうにない光にどうしたらいいのかと焦る。
どうにかして消そうと試みるが光は一向に消えそうにない。
途方に暮れていると、突然誰かに頭の中に直接話しかけられる。
「(私の声が聞こえるか、翼になれる者よ)」
翼、その言葉がキキョウの頭の中で繰り返される。
急に声が聞こえ誰かいるのかと辺りを見回すも誰もいない。
キキョウが中々返事をしないでいると「(聞こえているのなら返事くらいしたらどうだ)」と厳しい口調で言われる。
「……それは、私のことですか」
自分は翼なのか、この光は何なのか、この声は誰なのか、頭の中では上手く言えるのに実際に口から出たのはそんな大したものではなかった。
「(そうだ。其方は聖女の翼になれる者だ。一番最初に呪術を自らの力で解き、聖女の正体に気づいた者)」
「……最初に気づいたのはヘリオではないのですか?」
声の主の言葉に引っかかる。
ヘリオトロープはマーガレットが聖女かもしれないから確認して欲しいと言わっていた。
どう考えても一番最初に気づいたのはヘリオトロープのはずだ。
「(彼奴のはただの願望だ。だから、其方のように確信してはいないし、呪いも解けていない)」
「では、翼ではあるのですか」
キキョウの問いに暫く声の主は黙り込んだが「(それは本人と聖女次第だ。翼とはなりたいと思ってなれるものではない。神官である其方ならわかるはずだ。それに、翼になれる可能性があったとしても聖女に認められないと翼にはなることはできない)」と。
つまりヘリオトロープは翼になれる者ではあるが、なれるかはわからないと言っている。
キキョウは声の主の言葉に納得するが、それではヘリオトロープが可哀想ではないかと。
ヘリオトロープはマーガレットの翼になりたいと願っているのに、マーガレットが許可しないとなれないなんて。
キキョウは手の平から血が出るくらい強く拳を握りしめてしまう。
ーー記憶はないのに、本能でわかっているのだな。
何故ヘリオトロープが翼に選ばれないと決めつけているのか、キキョウは自分がそう思っていることに気づいていない。
声の主はキキョウのことを面白い男だと思った。
「マーガレット様が聖女だと……」
言えばいいのでは、と言おうとしたがこえの主に「(それは駄目だ)」と言われてしまう。
「それは何故ですか」
「(因果律に反するからだ。これは翼達自身で気づかなければならないことだからだ。勿論、聖女自身も)」
「もし、破ればどうなるのですか」
体中が小刻みに震える。
声の主が何と答えるのか何となく想像がつくからだろう。
「(其方は翼の力を失い、聖女がまた殺されるだけだ。魔神の策略によってな)」
「……私に何をお望みで」
声の主がわざわざ話しかけてきたのは聖女の正体を言うなと警告するのと、自分に何かして欲しいことがあるのだとわかり、なら用件をさっさと言えと遠回しに伝える。
「(翼の力を使うな)」
「何故ですか」
声の主の意図がわからず顔が険しくなる。
マーガレットを守るなら翼の力を使うのが一番のはずだ。
さっきからずっと纏っている黄金の光がどれだけ偉大な力なのか今ならわかる。
この光はヘリオトロープの神聖力以上の力がある。
この力があれば呪術師が何百人襲ってこようと一人で倒せる自身がある。
「(今ばれるわけにはいかないからだ。向こうは聖女が誰か知っている。それなのに、翼になれる者が現れたなどと知られれば殺される可能性が高くなる。せめて、あの小娘が聖女になるまではその力は使ってはならない)」
「わかりました。絶対に使いません」
ヘリオトロープの報告でマーガレットがヘルマンに襲われたことは知っている。
あのときマーガレットが襲われたのは聖女だと知られていたから。
マーガレットを守るには翼の力に目覚めたのを内緒にしておかないといけない。
絶対に誰にもバレてはいけない。
「(ならよい)」
「あの、貴方に聞きたいことがいくつかあります。答えてもらえますか」
「(なんだ?)」
キキョウはその返答を了承と捉え最初の質問をする。
「私を含めた翼は呪術をかけられているのですか」
最初に声の主が言った「一番最初に呪術を自らの力で解き」という言葉がずっと気になっていた。
「(そうだ)」
「では、どうすればそれを解くことができますか。それも私は何もできないのでしょうか」
「(ああ、できない。それが決まりだ。さっきも言ったが呪術を解くのは己自身でしなければならない。其方にできることは何もない)」
はっきりとできることはないと言われて黙り込む。
結局翼になれる者になっても自分には何もできないのかと落ち込む。
「(今の其方にできることはないが、その力はいずれ聖女を助けることができる。今はまだその時ではないということだけだ。もう聞きたいことがないのであれば終わらせるぞ。時間もあまりないしな。それに結構力を使うから疲れるし)」
最後の言葉は小さくキキョウには何と言っているのか聞こえなかった。
「待ってください。最後にもう一つだけ答えてください」
「(なんだ?)」
「マーガレット様は何度死んで誰に殺されましたか」
ーーほぉ、気づいたか。流石一番最初に呪術を解くだけはあるな。まぁ、質問は一つではなく二つだったが褒美にこたえてやるか。
声の主はキキョウの問いかけに感心するのと同時に二つ質問していると心の中でつっこむ。
「(二度殺された。今この世界は三度目だ。褒美として其方だけに教えておこう。もし、また聖女が死ぬことになったとしてもやり直すことはできない。これが最後のチャンスだと肝に銘じておけ。それと聖女を殺したのは二度共違うが、翼になるはずべきだった者達だ。この意味がわかるな……)」
「ちょ、待ってください。それはどういう意味ですか!教えてください!……返事をしてください!答えてください!!」
キキョウは何度も声の主に向かって叫ぶが、声の主がキキョウの声に反応することはなかった。
「……私はこれからどうすればいいのだ」
聖女を守ることも翼になることもできない、自分がこれからどうすればいいかわからない。
キキョウは泣きそうになる。
生まれて初めて恐怖に押しつぶされそうになる。
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