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聖女?

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「どなた?」

ヘリオトロープが扉を叩くと中からカトレアが尋ねる。

「私です」

ヘリオトロープがそう言うと後ろにいた二人は「いや名前を言うべきだろ」と心の中でつっこむ。

「ヘリオトロープ様でしたか、どうぞ……そちらの方々は?」

扉を開けて中に入るよう促すが、後ろの二人に目がいき誰か尋ねる。

ヘリオトロープが連れてきたから問題はないだろうが、万が一という場合がある。

二人を警戒してしまう。

「初めまして、公爵夫人様。私は神官のジェンシャンと申します。こちらは同じく神官のキキョウです」

ヘリオトロープが二人のことを説明しようとする前に名を名乗る。

神官とわざわざ言う必要などなかったが、カトレアが警戒しているのがわかり少しでも大丈夫だと示す為に言った。

「神官……これは失礼しました。どうぞ中に入ってください」

カトレア不躾な態度をとった事を謝罪し、三人を部屋の中に入れる。



「それで、どういったご用件で……」

マーガレットとサルビアもカトレアの隣に座り用件を尋ねる。

「お礼と挨拶をしに参りました」

ヘリオトロープが言うとサルビアが「お礼と挨拶?」と不思議そうに呟く。

ヘリオトロープの言っている意味がわからなかった。

「はい」

「それはつまり、ここで別れるということですかか」

「はい。そうです」

サルビアの質問にそうだと頷く。

「そうですか。……ヘリオトロープ様。ここまで力を貸していただき本当にありがとうございました」

ヘリオトロープ達がお礼を言いにきたのに、先にお礼を言ってしまう。

マーガレットもカトレアも先に言っちゃった、と驚くも直ぐに頭を下げてヘリオトロープにお礼を述べる。

「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。短い間ですがお世話になりました。ありがとうございます」

たった数日だが、公爵家に住めて幸せだった。

できれば、もう少し一緒にいたかったがそういうわけにもいかない。

「クラーク様、短い間ですが本当にお世話になりました。ありがとうございました。クラーク様がいなければ私は今頃どうなっていたかわかりませんし、アングレカムもまだ復興できなかったはずです。この御恩は一生忘れません。本当にありがとうございました」

急に別れの挨拶にきた三人がこれから何をするのか何となくわかり、今を逃したらお礼を言えなくなるかもしれないと思いもう一度感謝を伝える。

その後、世間話を少し話しをしてから屋敷に戻っていくマーガレット達を見送る。

「……それで、どう思いましたか?」

マーガレット達の馬車が見えなくなるとヘリオトロープが問いかける。

「正直に言っていいのか?」

キキョウの声が固い。

ヘリオトロープが頷くと険しい顔をして話し始める。

「聖女には見えない。代理人すらなれないと思う」

キキョウはヘリオトロープの目を見ることなく反対の方を見て言う。

「私もそう思う」

ヘリオトロープに見つめられジェンシャンもキキョウと同じ考えだと伝える。

「……そうですか」

もしかしたら、と思っていたが二人に違うと言われがっかりする。

でも最初は自分もそう思っていたから、これから変わるかもしれないと考え直す。

「……そろそろ中に戻ろう」

中々その場から動こうとしないヘリオトロープに声をかける。

「はい」

キキョウに声をかけられ、もう少し外にいたかったが仕方ないと二人の後を追う。



「(なぁ、ジェンシャン。実際のところどう思った?)」

部屋に戻る途中、神聖力を使って頭の中に話しかける。

後ろにヘリオトロープはいるが、考え事中なのか神聖力を使っているのに何の反応もない。

「(……わからない。あんな光を初めてみた。黄金の光だけなら聖女かもしれないと思ったかもしれないが、ドス黒い光もある以上その可能性は限りなく低いと思う。キキョウもそう思ったからああ言ったんだろ)」

「(……ああ。なぁ、あれはなんだと思った?)」

「(呪いではないと思うが、それに近いものだと思う。キキョウはどう思った?)」

ドス黒い光を思い出し体が震える。

「(……私も同じだ)」

「(そうか?)」

さっきからキキョウが何かおかしい気がするが、本人に話す気がないと気づき尋ねるのをやめる。

「私はこれから国王に会いに行くが二人はどうする?」

ジェンシャンがそう聞くとヘリオトロープは一緒に行くといい、キキョウは用があると断る。

「……そうか、わかった」

ジェンシャンはキキョウは一緒に来ると思っていたので少し驚く。

「悪いな。内容は後で教えてくれ」

そう言うとキキョウは二人から離れていく。

「……では、行こうか。ヘリオ」

「はい。ジェンシャンさん」

キキョウの用が気になるが、国王を待たせるわけにはいかないので部屋へと向かう。



トントントン。

「誰だ」

ジェンシャンが扉を叩くと国王が声がした。

「ジェンシャンです」

「入って構わん」

ジェンシャンは扉を開けて中へと入り挨拶をする。

ヘリオトロープも同じように挨拶をする。

「キキョウはどうした」

「気になることがあるみたいで少し調べにいっています」

本当は何をしているかなんてわからないが、それらしい理由をでっちあげる。

「そうか。ならしかたないか」

国王はキキョウが何を調べにいったのか気になったが、聞いても教えてくれないだろうと思い尋ねるのをやめる。

「それで、何か新しい情報は手に入ったか?」

サルビアの記憶から手掛かりは見つかったのかと尋ねる。

「はい。そのことで、国王にお願いがあります」

「何だ?」

「神殿の呪いを解く手助けをして欲しいのです」

「解く方法を見つけたのか!?」

ジェンシャンの言葉に驚きを隠せず、つい大きな声がでる。

ジェンシャンはヘリオトロープの話を聞いて神殿にかけられた呪いが何かわかった。

「はい。ですが、私達では解けないのです。私達が神殿の周囲に張られてある結界の中で神聖力を使ってしまうと……」

「他の神官達同様に呪いにかかり眠りについてしまうのだな」

国王は呪いをかけられた神官達の姿を思い出し、早く助けたいのに何もできない自分が嫌になる。

「はい、そうです」

「それで私は何をすればよいのだ」

「人を大勢集めてください」

「……それだけでよいのか」

もっと自分にしかできない事を言われるのかと身構えていたので拍子抜けしてしまう。

「はい。結界を解くには大勢の人の力が必要になりますので」

「わかった。直ぐに集めよう。他は何かあるか」

「いえ、今は大丈夫です」

「そうか。では、何かあったらそのとき言ってくれ」

「はい。ありがとうございます」

ジェンシャンが頭を下げてお礼を言うとヘリオトロープも一緒に頭を下げお礼を言う。

その後は互いに知り得た情報を交換して、これからの事を空の色が青から紺色になるまで話し合いをした。
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