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前世の後悔と決意

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アネモネは自分が幸せになる資格のない人間だとわかっていた。

前世での自分の行いがどれだけ残酷で人として最低の行為をしたのか自覚がある。

罪のない人間を死刑に追いやりこの国を滅亡させた。

それでもあの時の私はそうしなければ家族に見捨てられていた。

自分のやった事を正当化するつもりはないが、あれは誰かがやらねばならなかったことだと思っている。

勿論今回の人生ではそんな失敗を繰り返すつもりはない。

折角やり直せたのだから今度こそ幸せになりたかった。

人並みの幸せを望んでしまった。

でも、それすら望んではいけないと。

自分のやった罪を忘れるなと。

好きな人の目に自分が映っていないのがこんなに辛いなんて思わなかった。

大勢の命を奪った自分に泣く資格など無いことは誰よりも理解しているが、気づいたら涙が流れていた。

でも、ふとこう思ってしまった。

あの時マーガレット・ブローディアが現れなければ自分はルドベキア・エカルトと結婚することができたのではないかと。

マーガレットが現れるまでは擬似結婚をし共に領地を守ろうと約束をし契約をしようとしていた。

それがマーガレットが現れ話が中断し、決闘のせいで家の名誉が傷つき、今日前回の話の続きをしようと声をかければマーガレットと会っていた。

擬似結婚が無くなったのは全てマーガレットのせいではないかと。

そう思わずにはいられなかった。



アネモネが前世の記憶を持ったままで回帰することができたの呪術を使ったからだった。

そもそも回帰した理由はルドベキアに民を守る力を貸してくれと懇願されたからだった。

本当ならその時力を貸したかったが、どう頑張っても他国から領地を守ることは出来ず回帰してそうならないよう過去を変え守るしか方法がなかったからだ。

呪術を使って他国を殺せればよかったが、アネモネはマーガレットを陥れたことがバレ、ブローディア家が潔白だったという事実が明るみになった瞬間捕らえられ、舌、両腕、両足を切り落とされていた。

簡単に殺さないと、神官の力で生かされ地獄の日々をおくらされていた。

そのせいで力がなく他国を滅ぼせるだけの呪術を使う事ができず、回帰の呪術を使うことにしか道はなかった。

回帰に成功しアネモネは十七歳のときに戻った。

だが、前世の行動と違うことをしたからか過去が変わり未来が変わった。

アングレカムに呪術をかけた事が三年も早くバレてしまい、そのせいで焦った間抜けな呪術師達数名が神殿に百年前から少しずつ気づかれないよう呪力をおくって陣を撒いていたのを発動させ攻撃してしまった。

そのせいで、呪術師がいる事がバレた。

本来なら神官全員と代理人が見つかってからするべきだったのに。

代理人になったのが誰か聖女で知っているのでいつでも殺せるので問題はないが、神殿にいなかった神官達が問題だった。

神官達は三人以外呪いで封印されたが、残った三人が最も厄介で絶対に封印したかった者たちだったので最悪だった。

それだけでも過去が変わり未来が予測できなくなっていたのに、マーガレットが社交界に復帰したせいで更に未来が予測不可能になっていった。

マーガレットはナーシサスのせいで社交界に出なくなっていたのに、きっとアングレカムの一件で情報収集の為社交界に復帰したのだろうと思っていた。

マーガレットは嫌いな社交界も自分の大切な人、守るべき人達の為なら自分を犠牲にするようなお人好し。

そんな人間だと知っているから社交界に現れたのも納得したが、シレネに決闘を挑んだり会場の視線を独り占めしたり、ヘリオトロープと登場したり、前世のマーガレットからは考えられない行動をしているので、まさかマーガレットも回帰しているのではないかと疑ってしまった。

勿論、証拠も確証もないが前世との違いに一瞬そう思ってしまうも直ぐにそんな事はあり得ないと否定する。

回帰するには方法は三つしかない。

一つはアネモネがした呪術の力を使うこと。

これは絶対にあり得ないので直ぐにこの方法は除外した。

次は、聖女として力が使えるもの。

昔、聖女は過去に戻り最悪な未来を防いだという伝説がある。

だが前世でマーガレットは聖女にならなかったし、代理人が現れたのでこれも除外した。

最後は、ランドゥーニ国の王族の女性だけが持つ伝説の力で回帰すること。

マーガレットがランドゥーニ国の人間と仲が良いという話も聞いた事ないのであり得ないとこの方法も除外する。

アネモネはこれらの条件のどれかをマーガレットが満たすことはできないと確信していたので、回帰はありえない、と馬鹿馬鹿しい事を考えたと笑ってしまう。

「でももし、万が一本当にあの女が回帰しているのなら絶対に殺さないといけないわ」

自分の過去を知っている者は誰一人生かしてはおけない。

調べるべきか悩んだが時間の無駄だと思いやめた。

今はそんな暇はない。

シレネのせいで地に落ちた名誉を回復させ社交界に復帰させないといけないし、呪術師達の身勝手な行動をこれ以上許すわけにはいかないので統制する必要がある。

ロベリアと利害の一致で立てた計画も実行しないといけないが今回の件でさらに信用できなくなったので、同時にロベリアを貶める計画も進めないといけなかった。

それに一連の出来事のせいでマーガレットだけでなくブローディア家にも暫く手は出せなかった。

国王だけでなく神官達も目を光らせているため下手に刺激すれば倍になって返ってくる恐れがある。

まあ、マーガレットは前世と変わらず綺麗事ばかり言う偽善者で頭がお花畑だろうから簡単に殺せるだろうと判断し、当分の間はブローディア家に潜ませた駒に監視させとけばいいかと考える。

最悪駒に殺させればいいと。

自分の手を汚さなくても前回同様嘘の噂を流し、地位を落とせば後は勝手に民衆が殺そうとするはずだ。

前世では人をただの数字としか見ておらず大勢自分の欲のために殺したが、今回は計画の為とルドベキアの領地を守る為に必要な殺ししかしないつもりでいる。

ブローディア家はロベリアの命もあるし必ず殺さないといけないが、こればっかりはどうしようもないこと。

ブローディア家には悪いが自分達の為に死んでもらおう。

運が悪かったと諦めてもらうしかない。

アネモネは暫く庭でブローディア家を殺す算段を考えていたので声をかけられるまで人が近づいてくるのに気がつかなかった。

「シルバーライス侯爵令嬢。こちらにいらしたのですね。申し訳ないのですが、国王から勝手に出歩かせるなと申しつけられておりますので、部屋までお戻りください」

王宮に仕える騎士がアネモネがいなくなったことに気づき捜しにきたのだ。

「はい、わかりました。お手数をおかけして申し訳ありません」

マーガレットは騎士に連れられシレネとデルフィニウムがいる部屋に連れ戻された。

「では、くれぐれも勝手な行動はしないようお願いします」

「わかりました」

アネモネは騎士に見届けられながら二人がいる部屋の中に入っていく。

騎士はアネモネが部屋に入るとその場から離れて王宮専属騎士の更衣室にいき着替える。

「全く血は争えないな。カエルの子は結局カエルということか」

ミオソティスは本来の格好に戻りアネモネの行動を監視するため先程の部屋まで気配を消して戻る。
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