上 下
69 / 81

勝者の特権

しおりを挟む

「ちょっと、聞こえてないの。早く手を貸しなさい」

無視されたことでシレネのプライドに傷がつき声を荒げる。

だが、騎士達はその声が聞こえていない振りをしてシレネの方を向こうとしない。

シレネはもう一度怒鳴りつけようと口を開こうとしたが、貴族達の声が聞こえ慌てて閉じる。

シレネは肝心な事を忘れていたのだ。

彼らは国王に仕えている騎士。

国王の命しかきかない存在。

そんな彼らに命令すると言う事は自分は国王と同等だと言っているような者。

「一体何様のつもりなのかしら。国王陛下に仕える騎士に許可も取らずに命令するなんて」

「嘆かわしいな。あんな女が社交界に出ていたなんて。我々の品位が落ちてしまうではないか」

「何て厚顔無恥な態度なのかしら。敗者のくせに信じられないわ。敗者なら敗者らしく振る舞うべきでは」

「仕方ないさ。所詮愛人で元は底辺貴族何だ。自分の価値すらきちんと測れないような女だ。身の程を弁えるということを知らないのさ」


貴族はこぞってシレネのことを悪く言い始めた。

今まではジギタリスの愛人だからといって怒りを買わないよう接していたが、決闘に負けた瞬間手のひらを返して攻撃され始める。

自業自得。

愛人だからといってシレネは調子に乗りすぎた。

例え公爵の愛人だとしてもここから社交界に戻ることは難しいだろうと思った貴族達はシレネを見捨てることにした。

このままではまずいと思ったアネモネが国王に謝罪しようと跪こうとするが、その前にマーガレットが口を開いた。

「国王陛下。私に発言する許可を頂けませんでしょうか」

マーガレットがそう言うと皆口を閉じた。

会場が一瞬で静寂になる。

「許す。何だ」

優しい口調で言う。

「デルフィニウム・シルバーライス侯爵令息を医務室で休ませてあげて欲しいのです」

マーガレットのその発言に両親もシルバーライス家もその場にいた全員が驚きすぎて何も言えずに固まってしまう。

皆がそうなっている間に話を続ける。

「侯爵令息は我が父の一撃を思いっきり受けました。一人で立つのは難しいはずです。それに、令息を連れて帰ろうにも夫人と令嬢では抱えるのは難しいと思うのです。どうか、動けるようになるまでの間休ませてあげることはできないでしょうか」

マーガレットがこんな発言をしたのには理由がある。

一つは今までの自分なら間違いなくそう頼んでいたはず。

少しでも違うことをすれば誰かにバレてしまう恐れがある。

完璧に演じるにはそう言うしかなかった。

もう一つは、ターゲットであるゴンフレナとルドベキアがいる為なるべく普通の貴族ではないという印象を与えておきたかった。

二人は共通していることがあり、貴族の女性が苦手ということ。

特に体に触ってくる女性や色目を使ったりしてくる女性が苦手だった。

マーガレットは元々社交界にはここ数年出ていないので苦手な女性には入らない。

寧ろマーガレットのことをもっと知りたいと思っていた。

今の発言で更に知りたくなっていた。

「マーガレット。其方はそれでいいのか」

国王は言われたときは驚いたがマーガレットならそう言うだろうとすぐに納得した。

だが、本当にそれでいいのかと気になる。

プライドとブローディア家の名に泥を塗った相手を許せるのかと。

「はい。私は既に全てを取り戻しました」

たった一言だが国王は納得した。

サルビアが勝利した瞬間マーガレットは全てを取り戻せたのだと。

「そうか、わかった」

国王はそう呟くと騎士達にデルフィニウムを医務室に運ぶよう命じる。

但しこれはマーガレットの顔をたてるため許可しただけで、先程のシレネの事を許したわけではない。

後日、この事をシレネに対し責任を問うつもりだった。

「ありがとうございます、国王陛下」

自分の願いを聞き届けてくれた国王に礼を言う。

「良い。顔を上げなさい」

国王の言葉でマーガレットは顔を上げる。

「今回の決闘はブローディア家の勝利だ。今ここにシルバーライス家はいないが宣言する。今回の決闘では決まり事が一つあったな。公爵令嬢は勝利した暁に侯爵夫人の謝罪を要求していた。国王の名の下必ず謝罪をさせると誓おう。その機会は後日必ず設けよう。それで良いか」

「はい。国王陛下の寛大なお心遣いに感謝します」

マーガレットは家の名誉と誇り、そしてヘリオトロープへの謝罪を賭けこの決闘に挑んだ。

その内一つは達成されたが、もう一つはまだ達成されていない。

本来ならこの場で謝罪を要求できるところだが、生憎シレネは今いない。

マーガレットはこの謝罪を見世物にする気はなかったので、わざと先程シレネをここから追い出すことでそれを回避した。

国王もそれをわかっていたから、マーガレットの頼みを聞いてくれたのだ。

マーガレットはこの人がこの国の王で良かったと本当に心の底から思った。

「今回のブローディア家とシルバーライス家の決闘はブローディア家の勝利で幕を下ろさせていただきます。これにて終了の宣言をさせていただきます」

臣下の一人がそう宣言すると貴族達から歓喜の声が漏れブローディア家を褒め称える。

当の本人達はあからさまな手の平返しにため息をつきたくなる。

今すぐこの場から離れたかったが、王族より先に出るわけにはいかず退出するのを待つ。

勿論他の貴族達も誰一人退出することなく王族の退出を見送る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと
恋愛
 娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。 (あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)  そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。  そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。 「復讐って、どうやって?」 「やり方は任せるわ」 「丸投げ!?」 「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」   と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。  しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。  流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。 「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」  これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

処理中です...