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気持ちの変化
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「もう大丈夫です。ありがとうございます、お父様」
まだ涙は流れているが落ち着きを取り戻しそう言う。
「マーガレット」
何と声をかければいいかわからず、サルビアはただ名を呼ぶことしかできない自分に腹が立つ。
「お父様。これからどうするおつもりですか」
国も神殿の力も借りられない今、全ての判断は当主であるサルビアにある。
アングレカムもヘリオトロープのお陰で呪いは消え、後は食料不足と建物修理くらいだ。
サルビアが来る前に死体はヘリオトロープの神聖力で浄化し埋葬することができた。
親がいないこはリュミエール救済院に行くことが決まった。
今回の件で救済院を今より大きな建物を建てないといけなくなったが、もう既に手配もしたので屋敷に戻っても大丈夫なくらい片付けていた。
「まずは屋敷に戻る。ヘリオトロープ様も一緒に来ていただけませんか。ジェンシャン様とキキョウ様からは判断は本人に任せると言っておられたので迷惑でなければ来て欲しいのです」
アドルフの死体を浄化してもらわないと弔うことができない。
そんな想いから一緒に来て欲しいと頼む。
「もちろんそのつもりです。呪術師の狙いの一つは間違いなくマーガレット様です。傍を離れる訳にはいきません。是非ご一緒させてください」
頭を深く下げ、こちらこそよろしくお願いしますと言う。
「ありがとうございます」
サルビアはヘリオトロープがマーガレットを守ってくれるなら安心だと。
神殿が安全だと判断され、呪術師が捕まるまでの間ヘリオトロープはブローディア家にいることが決まった。
「マーガレットもそれでいいか」
「はい。問題ありません。一つだけお願いがあるのですがいいでしょうか」
「……構わん。好きにしなさい」
マーガレットの願いを聞き入れる。
明日の朝この町を出て屋敷に戻るからそれまでに済ませるよう言う。
話は終わり、サルビアはアスターと町を見て回ると言って部屋から出て行く。
残されたマーガレットはヘリオトロープに話しかける。
「クラーク様。お礼を言うのが遅くなりました。今回の件に力を貸していただき本当にありがとうございました」
椅子から立ち上がり深く頭を下げる。
「顔を上げてください。私は神官として当然の責務をしただけです」
主人として認めたマーガレットが自分のせいで頭を下げているという事実が許せなくて顔を歪めてしまう。
「どうかそんな顔をしないでください」
ヘリオトロープが言うそんな顔がどんな顔かわからない。
今にも泣き出しそうな顔をしているとはマーガレット自身気づいていない。
「マーガレット様。必ず貴方をお守りします。貴方を傷つけようとする者は全て残らず排除します。貴方の大切な人達も全て守ると誓います。ですから、どうか私を傍に置いてくださいませんか」
何故急にヘリオトロープの態度が変わったのかわからず戸惑い隠せない。
自分の事を嫌っていると思っていたのに、今は傍に置いてくれと頼み込んでくる。
一体何がどうなっているのか。
「どうしてそこまでしてくれるのですか」
最初はヘリオトロープを利用しようとしていた。
神官の中で最も強いヘリオトロープを味方につければあの女達を地獄に落とせる確率が上がるからと。
でも、今は本当にそうしていいのか迷っている。
アドルフが死んだことが大きい。
復讐を誓ったからには人が死ぬのも仕方ない、犠牲はつきものだと割り切れていると思っていた。
だが、実際そうなると全然割り切れていなかったのだと思い知らされた。
アネモネ達に復讐したい気持ちは変わっていない。
寧ろ最初の頃より強くなっている。
でも、大切な人達が死ぬのは耐えられない。
過去の出来事を変えてしまった以上これから何が起こるのかマーガレットにはわからなかった。
最初も前回の人生も今の時点で呪術師の存在は知られていない。
いや、マーガレットが生きている間その名を聞いたことはなかった。
過去が変わった以上、今までとは比べものにならないほど人が死ぬ可能性もある。
始めた以上復讐をやめることはないが、自分の身勝手な感情で関係ないヘリオトロープを巻き込んではいけない気がした。
「私がしたいからです。貴方が幸せなら私も幸せです。貴方が悲しければ私も悲しい。貴方が傷つけば私は胸が苦しくなるのです。ただ、貴方には笑顔でいて欲しいのです。そのためなら私は何でもできるでしょう」
人を殺すことも、とは言わなかったが本気でそう思った。
神官としての道を外れることになるとしても構わない。
マーガレットの望みを叶えることが今のヘリオトロープの生き甲斐になったから。
「貴方はそれでいいのですか」
「はい」
「そう、ですか。わかりました。これからよろしくお願いします」
ヘリオトロープのことは一旦どうするかは置いて置くとこにした。
「はい。お願いします」
「お、出てきた。終わったみたいだぞ」
サルビアが外に出てきて立ち上がる。
「ん?お嬢様と神官様がいないな」
サルビアとアスターしか出てこず不思議に思う。
「少しここで待っていてくれ」
カラントにその場にいるよう言い二人のところに行く。
「旦那様」
「マクス」
「お嬢様と神官様は」
「まだ中にいる。マクスはマーガレットの傍にいてくれ」
自分はこれから町を見て回るから傍にはいられない、と。
「わかりました。それと、あの少年ですが……」
「心配することはない、だろ」
「はい」
サルビアは少年の方に視線を向ける。
マーガレットの頼みだから聞くことにしたが心配はある。
「あの少年のことはマーガレットが決める。マクス、後はお前に任す」
「?わかりました」
何を任されたのかわからないが、それ以上言うつもりはないのだろう。
アスターと町を見回りに行った。
何だったんだと不思議に思いながら二人の後ろ姿を見つめていると、マーガレットとヘリオトロープが出てきて声をかけられた。
「マクス?」
まだ涙は流れているが落ち着きを取り戻しそう言う。
「マーガレット」
何と声をかければいいかわからず、サルビアはただ名を呼ぶことしかできない自分に腹が立つ。
「お父様。これからどうするおつもりですか」
国も神殿の力も借りられない今、全ての判断は当主であるサルビアにある。
アングレカムもヘリオトロープのお陰で呪いは消え、後は食料不足と建物修理くらいだ。
サルビアが来る前に死体はヘリオトロープの神聖力で浄化し埋葬することができた。
親がいないこはリュミエール救済院に行くことが決まった。
今回の件で救済院を今より大きな建物を建てないといけなくなったが、もう既に手配もしたので屋敷に戻っても大丈夫なくらい片付けていた。
「まずは屋敷に戻る。ヘリオトロープ様も一緒に来ていただけませんか。ジェンシャン様とキキョウ様からは判断は本人に任せると言っておられたので迷惑でなければ来て欲しいのです」
アドルフの死体を浄化してもらわないと弔うことができない。
そんな想いから一緒に来て欲しいと頼む。
「もちろんそのつもりです。呪術師の狙いの一つは間違いなくマーガレット様です。傍を離れる訳にはいきません。是非ご一緒させてください」
頭を深く下げ、こちらこそよろしくお願いしますと言う。
「ありがとうございます」
サルビアはヘリオトロープがマーガレットを守ってくれるなら安心だと。
神殿が安全だと判断され、呪術師が捕まるまでの間ヘリオトロープはブローディア家にいることが決まった。
「マーガレットもそれでいいか」
「はい。問題ありません。一つだけお願いがあるのですがいいでしょうか」
「……構わん。好きにしなさい」
マーガレットの願いを聞き入れる。
明日の朝この町を出て屋敷に戻るからそれまでに済ませるよう言う。
話は終わり、サルビアはアスターと町を見て回ると言って部屋から出て行く。
残されたマーガレットはヘリオトロープに話しかける。
「クラーク様。お礼を言うのが遅くなりました。今回の件に力を貸していただき本当にありがとうございました」
椅子から立ち上がり深く頭を下げる。
「顔を上げてください。私は神官として当然の責務をしただけです」
主人として認めたマーガレットが自分のせいで頭を下げているという事実が許せなくて顔を歪めてしまう。
「どうかそんな顔をしないでください」
ヘリオトロープが言うそんな顔がどんな顔かわからない。
今にも泣き出しそうな顔をしているとはマーガレット自身気づいていない。
「マーガレット様。必ず貴方をお守りします。貴方を傷つけようとする者は全て残らず排除します。貴方の大切な人達も全て守ると誓います。ですから、どうか私を傍に置いてくださいませんか」
何故急にヘリオトロープの態度が変わったのかわからず戸惑い隠せない。
自分の事を嫌っていると思っていたのに、今は傍に置いてくれと頼み込んでくる。
一体何がどうなっているのか。
「どうしてそこまでしてくれるのですか」
最初はヘリオトロープを利用しようとしていた。
神官の中で最も強いヘリオトロープを味方につければあの女達を地獄に落とせる確率が上がるからと。
でも、今は本当にそうしていいのか迷っている。
アドルフが死んだことが大きい。
復讐を誓ったからには人が死ぬのも仕方ない、犠牲はつきものだと割り切れていると思っていた。
だが、実際そうなると全然割り切れていなかったのだと思い知らされた。
アネモネ達に復讐したい気持ちは変わっていない。
寧ろ最初の頃より強くなっている。
でも、大切な人達が死ぬのは耐えられない。
過去の出来事を変えてしまった以上これから何が起こるのかマーガレットにはわからなかった。
最初も前回の人生も今の時点で呪術師の存在は知られていない。
いや、マーガレットが生きている間その名を聞いたことはなかった。
過去が変わった以上、今までとは比べものにならないほど人が死ぬ可能性もある。
始めた以上復讐をやめることはないが、自分の身勝手な感情で関係ないヘリオトロープを巻き込んではいけない気がした。
「私がしたいからです。貴方が幸せなら私も幸せです。貴方が悲しければ私も悲しい。貴方が傷つけば私は胸が苦しくなるのです。ただ、貴方には笑顔でいて欲しいのです。そのためなら私は何でもできるでしょう」
人を殺すことも、とは言わなかったが本気でそう思った。
神官としての道を外れることになるとしても構わない。
マーガレットの望みを叶えることが今のヘリオトロープの生き甲斐になったから。
「貴方はそれでいいのですか」
「はい」
「そう、ですか。わかりました。これからよろしくお願いします」
ヘリオトロープのことは一旦どうするかは置いて置くとこにした。
「はい。お願いします」
「お、出てきた。終わったみたいだぞ」
サルビアが外に出てきて立ち上がる。
「ん?お嬢様と神官様がいないな」
サルビアとアスターしか出てこず不思議に思う。
「少しここで待っていてくれ」
カラントにその場にいるよう言い二人のところに行く。
「旦那様」
「マクス」
「お嬢様と神官様は」
「まだ中にいる。マクスはマーガレットの傍にいてくれ」
自分はこれから町を見て回るから傍にはいられない、と。
「わかりました。それと、あの少年ですが……」
「心配することはない、だろ」
「はい」
サルビアは少年の方に視線を向ける。
マーガレットの頼みだから聞くことにしたが心配はある。
「あの少年のことはマーガレットが決める。マクス、後はお前に任す」
「?わかりました」
何を任されたのかわからないが、それ以上言うつもりはないのだろう。
アスターと町を見回りに行った。
何だったんだと不思議に思いながら二人の後ろ姿を見つめていると、マーガレットとヘリオトロープが出てきて声をかけられた。
「マクス?」
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