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アドルフ
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アドルフは商人達にカトレアから預かったお礼の品を全て渡し終えるアングレカムまで馬を全力で走らせた。
アドルフが向かっていると呪術師達に気づかれてはならないので本来の道のりより遠回りして向かっている。
昨日は新月だったので二日月が森を照らしてくれている。
満月に比べたら暗いが光がないよりは良かった。
今のところ呪術師と会う気配はないが油断はできない。
指先の感覚がない。
恐怖に支配されそうなのを何とか誤魔化し、馬を走り続けさせた。
空が明るくなり太陽が登ると恐怖が緩和され指先の感覚を少し取り戻した。
あと少しでアングレカムにつく。
このまま何事も無いのを祈りながら走る速さを上げる。
町に着くと人にぶつからないよう気をつけながらマーガレットを捜す。
町を半分見終わった頃、結構離れた場所にいるマーガレットを見つけた。
「お嬢様」
見つけた瞬間大声で叫び馬を走らせる。
「お嬢様。こちらを」
懐からカトレアから預かった手紙を渡す。
「これは、お父様からね」
アドルフは無事に手紙を渡せた安堵からどっと疲れが押し寄せマーガレットが何と言ったか聞こえていなかった。
「誰かアドルフに水をあげて」
そう言うと手紙をあけ中を確認する。
アドルフは使用人の一人から水を受け取ると一気に飲み干しおかわりをねだる。
「後三日もかかるのね」
アドルフがアングレカムついたのはヘリオトロープが出発してから二日後。
ヘリオトロープが到着するまでの間に呪術師が襲ってくるかもしれない。
短いようで長い三日間が始まる。
マーガレットはマンクスフドにアスターを呼びにいくよう指示をだす。
アドルフには後でカトレアとサルビア宛に手紙を書くから暫く待ってもらい、その間は体を休めるよう言う。
「アドルフ。これをお母様に届けて」
「わかりました」
マーガレットから手紙を受け取る。
アドルフはこの手紙を一刻も早くカトレアに届けるため急いで帰る。
マーガレットは危険なことをさせているとわかっているが、それでもやってもらうしかなかった。
申し訳なさを顔に出さないよう務めたが、アドルフが走りだすと泣き出しそうな顔になる。
「どうか無事に帰って」
暫くアドルフが走り去った方向を眺め続けた。
生きと同じで呪術師に見つからないよう遠回りして帰る。
アドルフは同じ道なのに何故か違ったように感じた。
何が違うと言われれば答えられないが嫌な予感がする。
後もう少しで屋敷に着くというのに。
何故か不安で近くの町により念のために手を打つことにした。
「すみません。この花とこの花と後この花ください」
「はい、ありがとうございます」
店員はアドルフに指定された花を包む。
「……こんな感じでどうでしょうか」
包んだ花を見して尋ねる。
「はい。完璧です。ありがとうございます」
お礼を言いお代を渡す。
お釣りは要らない、と言って店をでる。
馬に乗って今度こそ屋敷に向かう。
町を出たら後は森を抜けるだけ。
後半分程で森を抜けられると思ったとき急に前に人が現れる。
手綱を引き馬の足を止める。
目の前の人はフードを深く被りマントで体を隠している。
不気味で気持ち悪かった。
馬にもそれが伝わったのか震えている。
ーー逃げないと。
馬を走らせそうとしたが、いつの間に囲まれていた。
ーーしまった。
馬の足を止めたせいで囲まれた。
あの時無理矢理にでも行くべきだったと。
「俺に何か用か」
声と口調が固くなる。
「ある。手紙をよこせ」
声から男だとわかる。
「手紙など持っていないが。もう通っていいか」
馬を走らせフード達の間を通り抜ける。
簡単に抜け出せ拍子抜けする。
諦めてくれたのかと後ろを振り向くと何かぶつぶつと呟く声が聞こえた。
何かやばいと感じて馬の足を速める。
ドンッ。
大きな音がした。
一瞬何が起きたかわからなかった。
禍々しい光が視界に入ったと思ったら大きな音がした。
何が起こったのか理解した瞬間自分はもうすぐ死ぬんだとわかった。
さっきまで走っていたのに、気づいたら地面の上に倒れていた。
地面に自分の血が染み込んでいくのをただ見つめることしかできない。
指一本動かすことができない。
「さっさと渡せば楽に死ねたのに。馬鹿な男だな」
アドルフに近づき足で蹴る。
「馬鹿だから死ぬんだろう。さっさと取れ」
「俺が取るのか」
「他に誰がいる。早くしろ。皆が待ってる」
男は促されるようにアドルフの懐から手紙を抜き取る。
「最悪。血が手についた」
血がついた方の手を振り払い落とそうとする。
「おい、さっさととどめさせ。こいつまだ生きてる。ちゃんと殺せ」
「それも俺がやるのか。お前がやれよ」
「俺は二度同じことを言うのは嫌いなんだ。早くやれ」
男は舌打ちをすると呪文を唱え始める。
陣が浮かびあがると真ん中から赤黒い槍が出てくる。
それを掴みアドルフの心臓をひと突きで刺し確実に息の根を止める。
アドルフは口から血を吐き何も出来ずに死んだ。
「これで満足か」
槍を抜き刺して尋ねる。
男は質問に答えることなく皆が待っている所に向かう。
「無視か!おいっ!」
大きな舌打ちをしてダルそうに男の後をついていく。
「手に入れたか」
二人が仲間の元に戻るとリーダーの男が声をかける。
「ああ。だが、魔法石で守ってやがる。開けるには時間がかかるぞ。これは」
手紙をひらひらと揺らす。
「問題ない。奴らの邪魔をするのが目的だ。奪えさえすれば目的は達成している。作戦は中身を確認してから決める。一旦宿に戻るぞ」
リーダーがそう言うとフード達は暗闇に紛れその場から去る。
アドルフの死体はそのまま。
呪術を使って殺したが痕跡を残したまま処理するのを忘れていた。
後からアドルフを殺した男は宿に戻ってからそのことに気づいたが、今は手紙を開けることが最優先なのでまた後で処理しに行けばいいかと楽観的に考えてしまった。
アドルフが向かっていると呪術師達に気づかれてはならないので本来の道のりより遠回りして向かっている。
昨日は新月だったので二日月が森を照らしてくれている。
満月に比べたら暗いが光がないよりは良かった。
今のところ呪術師と会う気配はないが油断はできない。
指先の感覚がない。
恐怖に支配されそうなのを何とか誤魔化し、馬を走り続けさせた。
空が明るくなり太陽が登ると恐怖が緩和され指先の感覚を少し取り戻した。
あと少しでアングレカムにつく。
このまま何事も無いのを祈りながら走る速さを上げる。
町に着くと人にぶつからないよう気をつけながらマーガレットを捜す。
町を半分見終わった頃、結構離れた場所にいるマーガレットを見つけた。
「お嬢様」
見つけた瞬間大声で叫び馬を走らせる。
「お嬢様。こちらを」
懐からカトレアから預かった手紙を渡す。
「これは、お父様からね」
アドルフは無事に手紙を渡せた安堵からどっと疲れが押し寄せマーガレットが何と言ったか聞こえていなかった。
「誰かアドルフに水をあげて」
そう言うと手紙をあけ中を確認する。
アドルフは使用人の一人から水を受け取ると一気に飲み干しおかわりをねだる。
「後三日もかかるのね」
アドルフがアングレカムついたのはヘリオトロープが出発してから二日後。
ヘリオトロープが到着するまでの間に呪術師が襲ってくるかもしれない。
短いようで長い三日間が始まる。
マーガレットはマンクスフドにアスターを呼びにいくよう指示をだす。
アドルフには後でカトレアとサルビア宛に手紙を書くから暫く待ってもらい、その間は体を休めるよう言う。
「アドルフ。これをお母様に届けて」
「わかりました」
マーガレットから手紙を受け取る。
アドルフはこの手紙を一刻も早くカトレアに届けるため急いで帰る。
マーガレットは危険なことをさせているとわかっているが、それでもやってもらうしかなかった。
申し訳なさを顔に出さないよう務めたが、アドルフが走りだすと泣き出しそうな顔になる。
「どうか無事に帰って」
暫くアドルフが走り去った方向を眺め続けた。
生きと同じで呪術師に見つからないよう遠回りして帰る。
アドルフは同じ道なのに何故か違ったように感じた。
何が違うと言われれば答えられないが嫌な予感がする。
後もう少しで屋敷に着くというのに。
何故か不安で近くの町により念のために手を打つことにした。
「すみません。この花とこの花と後この花ください」
「はい、ありがとうございます」
店員はアドルフに指定された花を包む。
「……こんな感じでどうでしょうか」
包んだ花を見して尋ねる。
「はい。完璧です。ありがとうございます」
お礼を言いお代を渡す。
お釣りは要らない、と言って店をでる。
馬に乗って今度こそ屋敷に向かう。
町を出たら後は森を抜けるだけ。
後半分程で森を抜けられると思ったとき急に前に人が現れる。
手綱を引き馬の足を止める。
目の前の人はフードを深く被りマントで体を隠している。
不気味で気持ち悪かった。
馬にもそれが伝わったのか震えている。
ーー逃げないと。
馬を走らせそうとしたが、いつの間に囲まれていた。
ーーしまった。
馬の足を止めたせいで囲まれた。
あの時無理矢理にでも行くべきだったと。
「俺に何か用か」
声と口調が固くなる。
「ある。手紙をよこせ」
声から男だとわかる。
「手紙など持っていないが。もう通っていいか」
馬を走らせフード達の間を通り抜ける。
簡単に抜け出せ拍子抜けする。
諦めてくれたのかと後ろを振り向くと何かぶつぶつと呟く声が聞こえた。
何かやばいと感じて馬の足を速める。
ドンッ。
大きな音がした。
一瞬何が起きたかわからなかった。
禍々しい光が視界に入ったと思ったら大きな音がした。
何が起こったのか理解した瞬間自分はもうすぐ死ぬんだとわかった。
さっきまで走っていたのに、気づいたら地面の上に倒れていた。
地面に自分の血が染み込んでいくのをただ見つめることしかできない。
指一本動かすことができない。
「さっさと渡せば楽に死ねたのに。馬鹿な男だな」
アドルフに近づき足で蹴る。
「馬鹿だから死ぬんだろう。さっさと取れ」
「俺が取るのか」
「他に誰がいる。早くしろ。皆が待ってる」
男は促されるようにアドルフの懐から手紙を抜き取る。
「最悪。血が手についた」
血がついた方の手を振り払い落とそうとする。
「おい、さっさととどめさせ。こいつまだ生きてる。ちゃんと殺せ」
「それも俺がやるのか。お前がやれよ」
「俺は二度同じことを言うのは嫌いなんだ。早くやれ」
男は舌打ちをすると呪文を唱え始める。
陣が浮かびあがると真ん中から赤黒い槍が出てくる。
それを掴みアドルフの心臓をひと突きで刺し確実に息の根を止める。
アドルフは口から血を吐き何も出来ずに死んだ。
「これで満足か」
槍を抜き刺して尋ねる。
男は質問に答えることなく皆が待っている所に向かう。
「無視か!おいっ!」
大きな舌打ちをしてダルそうに男の後をついていく。
「手に入れたか」
二人が仲間の元に戻るとリーダーの男が声をかける。
「ああ。だが、魔法石で守ってやがる。開けるには時間がかかるぞ。これは」
手紙をひらひらと揺らす。
「問題ない。奴らの邪魔をするのが目的だ。奪えさえすれば目的は達成している。作戦は中身を確認してから決める。一旦宿に戻るぞ」
リーダーがそう言うとフード達は暗闇に紛れその場から去る。
アドルフの死体はそのまま。
呪術を使って殺したが痕跡を残したまま処理するのを忘れていた。
後からアドルフを殺した男は宿に戻ってからそのことに気づいたが、今は手紙を開けることが最優先なのでまた後で処理しに行けばいいかと楽観的に考えてしまった。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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