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三つの理由

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「ヘリオ、私らはこれから王宮に向かう。そちらは後どれくらいで着きそうだ」

「神聖力で強化したので後五日ほどで着くかと」

五日。

普段なら早い方だと思うが呪術師が現れた今五日で着くのは遅い。

その五日の間でもしブローディア家の人間が襲われたりしたら取り返しのつかないことになる。

公爵は王宮にいるし今から自分達が向かうので大丈夫だろうが、残りの公爵夫人と公爵令嬢の二人が心配だ。

もし、二人ともアングレカムにいるとしたら呪術師達がほっとかないだろう。

「ヘリオ。必ず守るのだ。いいな」

「はい。お任せください」

その言葉を最後に通信を切る。

「守るのだ、か……わかっている。神官である以上守らなければならないって」



「キキョウ。私達は王宮に向かうとしよう」

「陣で行くか?」

大体のことは把握したので王宮に戻る他ない。

「ああ。王宮に呪術がかけられてなければな」

キキョウが陣を描きジェンシャンは使徒達に念のため陣が使えないかもしれないと伝えその時は馬で帰ることになると説明した。

「ジェンシャン、準備ができた。発動させるぞ」

「ああ。頼む」

キキョウが陣に神聖力を注いでいく。

陣はいつもと同じように反応しているが の話では、急に反応が消え発動しなかったと言っていた。

今回はどうなのだらうと事の成り行きを見守る。

「大丈夫だ。発動した」

その言葉に王宮に呪術はかけられてないとホッとする。

「道を作った。全員通れ」

使徒達はキキョウが作った王宮とここを繋ぐ空間を通って王宮の庭園に出た。

ジェンシャンが通ると最後に自分も通ってから空間を閉じる。

「何で庭園?」

ジェンシャンの呟きに苦笑いするキキョウ。

「すまん。開ける場所間違えた」

本当は王宮の門の前に出るつもりだった。

キキョウは陣があまり得意ではないので、ほぼ毎回少しずれたところに移動してしまう。

「まあ、仕方ないか」

キキョウが陣が苦手だということを忘れていた。

過ぎてしまったことは仕方ない、と頭を切り替え国王に会いにいく。

流石に全員で行く訳にはいかないので二人で向かう。

それと使徒の一人にサルビアに会いに行くよう命じアングレカムで何が起こっているのか聞いてくるよう頼む。

ついでに伝言も頼んだ。



「「我が国の偉大なる太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます」」

ジェンシャンとキキョウは頭を下げ挨拶する。

「二人共まずは無事で何よりだ。早速で悪いが何があったのか報告してくれ」

二人が国王の前に現れたのはサルビアが来た次の日。

たった一日で状況が更に悪化した。

もう国王の手には負えない状況まで落ちた。

呪術師に関しては国王である自分よりも神官である二人の方が詳しいだろうし、神殿が狙われた理由ももしかしたら心当たりがあるかもしれないと考えそう言った。

「はい、陛下。ですが、我々も全てを把握しているけではありません。起きたことは正確にご報告できますが、他は全て推測でお話しすることになりますがよろしいでしょうか」

ジェンシャンの推測はほぼ当たっているだろうとキキョウは思う。

「それで構わん。それにそう思うだけの根拠があるのだろう」

「はい」

「なら、いい」

国王の許可がおりるとジェンシャンはヘリオトロープから連絡がきて王宮に来るまでのことを話し始めた。

「……以上が起きたことです。これから先は私の推測になります」

国王はここまでで何度目かわからないため息を吐く。

キキョウまで呪術師に襲われた。

その事実が間違いなくこの国に災いが起こっていると改めて教えられた。

「今回の件はブローディア家を恨んでいる貴族が関わっていると思います。間違いなくブローディア家の失墜を企んでのことだと思います」

国王は「そうだろうな」と言おうとして止める。

それは犯人が誰か大体見当がついていると自白するようなもの。

国王が何も言えずにいたが、ジェンシャンは話を続ける。

「それともう一つ理由があると思います。こちらが本命ではないかと思っています」

「何だ」

「アングレカムを手に入れること」

シーン。

物音一つしない静寂が三人の間に流れる。

「何故そう思う」

震える声で尋ねる。

ジェンシャンがそう言った瞬間、何故か国王はそうかもしれないと思ってしまった。

理由などない。

妙な胸騒ぎがした。

頭の中で警告音が鳴り始める。

声がした。

ーーアングレカムを守れ。

「私は一度だけアングレカムに訪れたときがあります。他の町と大して変わらないのに、何故か神聖力が乱れたんです。使おうと思っていないのに体から勝手にでたり、逆に使おうと思ったときは出なかったり、とまるで神官と相対する何かがあったのではないかと今は思っています」

当時は若かったし神官になったばかりだから上手くコントロールできていないだけだと思っていたが、本当はそうではなかったのではないかと思いはじめた。

「一度アングレカムを調べる必要があるかと。そうすれば、呪術師の目的がわかるかと思います」

「それはジェンシャンお前の推測か、それとも神官としての仕事か」

ジェンシャンの話は全て憶測に過ぎない。

証拠は何一つない。

可能性の話。

「両方です。私の杞憂ならそれでいいです。私の考えが正しく、もしこのまま何もせずにいたらこの国は滅びます」

国王が息をのむ。

もし、ここに王妃や貴族がいたら不敬罪とか適当な理由をつけてジェンシャンを処刑しようとするだろう。

だが、現国王は馬鹿ではなく頭の良い人なので他人の話に耳を貸す。

そして、それが正しいかどうかきちんと判断できる頭をもっている。

王とは何かどうするべきかを正しく理解している。

「ジェンシャン。呪術師の目的は何だと思う。お前には何が見えている」

国王もわかっている。

国が滅ぶとなると考えられる答えはただ一つ。

だが、それを認めたくない自分がいてジェンシャンに代わりに言ってもらおうとする。

「それは……」

ジェンシャンの放った言葉に国王は絶望し顔を覆う。

キキョウはただ黙って受け入れた。
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