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呪術師

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「私は成功したのか」

目の前にキキョウがいるのが見えそう呟く。

何故自分は成功してヘリオトロープは失敗したのか。

神聖力はヘリオトロープの方が多いのに。

条件は人ではなく場所にあるのではないか、そう思うもそんな条件をつけることが出来るものなのか分からず確信をもてない。

だが、ジェンシャンのこの考えは正しかった。

実際、呪術師達はアングレカムの町にだけ神聖力を弾くよう呪術を施していた。

町の中に入れば尚更使えないようされていた。

先に呪術をの陣を破壊しないと神聖力を使うことができない。

「ジェンシャン。詳しい話を聞きたいが、まずこの者達をどうすべきだと思うか」

意識を失った呪術師達をみて言う。

本当は殺そうとしていたが、ジェンシャンから通信が入り話を聞き終わった後は殺さず話を聞いた方がいいのではと判断した。

ジェンシャンがこちらに来るというので待っていた。

「とりあえず、何をしようとしているのか聞くべきだろう。国王にも相談するべきだが、今は時間がない。それに、今動ける神官は私らを含めた三人だけだ。王宮にこの者達を連れて行く訳にはいかないしな」

「そうだな。では、起こすぞ」

神聖力で拘束している者達を縛りあげ強制的に叩き起こす。

「(相変わらず力任せだな)」

キキョウのやり方に苦笑いする。

神官とは思えない行動をよくするキキョウとは付き合いが長いのでこんな光景は見慣れていたが、今回は相手が呪術師ということもありいつもより力任せだった。

「ぐっ、あああああああーー」

相当痛いのか呪術師達は悲鳴を上げる。

「おっ、全員起きたな」

神聖力を弱め話しができるよう調整する。

呪術師達は息を切らし汗を流しながらキキョウを血走った目で睨みつける。

そんな呪術師達にキキョウは冷たい瞳で睨み返す。

その瞳の奥は真っ暗で自分達の王と同等、もしくはそれ以上の冷徹さを感じ呪術師達は恐怖で勝手に体が震えてしまう。

「今から君達には私達の質問に答えてもらう」

ジェンシャンが神聖力を自分達の周りを覆い呪術師達の恐怖を和らげる。

呪術師達はその神聖力に無意識にホッとしてしまう。

ジェンシャンはやるなら質問した後にしろ、と睨みつける。

キキョウはジェンシャンの視線に気づいていながら、無視して尋ねる。

「君達は何の目的で彼を襲った」

「……」

誰も答えないが気にせず質問を続ける。

「神殿を襲ったのはお前達の仕業か」

「アングレカムに呪術をかけたのもお前達の仕業か」

「何の目的でこんなことをする」

結構質問したが何も答えない呪術師達。

だが、キキョウがある質問をすると呪術師達の雰囲気が変わった。

「お前達の主人は誰だ」

その言葉を聞いた瞬間呪術師達はカッと目を見開きバッと立ち上がる。

「我らは偉大なる女王の僕(しもべ)。我らは女王を復活させるために再びこの世に平穏な世界を訪れさせるため命を捧げる。我らは我らを殺した者達全てを大地へと還す。それが女王と我らの願い」

呪術師達が一切に大声で叫び出す。

あまりの気味の悪さに二人は顔をしかめて神聖力を体中に纏い戦闘態勢に入る。

「我らの命を捧げる。女王に王冠を」

その言葉を最後に呪術師達は自らの体に呪術をかけ跡形もなく消えた。

死を選んだのだ。

命を捧げてもいいと思えるほどの主人なのか。

それとも、目的の為なら自分の命など大したものではないと思っているのか。

「すまない。油断した」

「それは私もだ。せっかく手がかりを掴めそうだったのにな」

「ああ。これからどうする?とりあえず神殿に戻るか?」

「いや、神殿には暫く戻れない。呪術師が何かしたらしい。何をしたかわからないのに戻るのは得策とは言えない。それに国王が王宮に帰るよう命じた」

「なら、王宮に戻るか。国王に報告する前に私にも詳しい事を話して欲しいのだが」

ジェンシャンから通信がきたときは呪術師と戦い終えたばかり。

呪術師と対戦した事を伝えるとすぐにそっちに行くと言われ通信を切られたので今何が起こっているのか何も知らない。

「ああ。今から説明する。ヘリオと通信しながらな」

そう言うとこめかみに手を添える。

キキョウもこめかみに手を添える。



「ヘリオ様、準備が整いました。いつでも出発できます」

「わかった。では、今すぐ出発しよう」

馬車に乗り体力を温存しておく。

もしかしたらアングレカムには呪術師が待ち構えているかもしれない。

無駄に体力を消耗させる訳にはいかず休息して回復につとめる。

馬車に揺られ目を閉じているといきなり頭の中から名を呼ばれた。

「ヘリオ」

「ジェンさん。どうでしたか」

「陣は使えた。もしかしたら陣が発動しなかったのは場所に原因があるのではないだろうか」

「場所ですか」

「ああ、そうだ。だが、これはあくまで私の推測だがな」

推測と言いながらジェンシャンは確信している。

「詳しく伺っても」

「ああ、もちろんだ」

そう返事するとジェンシャンは自分の考えを話しだす。

「まず私が何故そう思ったのか理由を三つ先に言おう。まず一つ目、神官の中で膨大な神聖力を身に宿すヘリオが陣を発動させることができないとなると問題は場所にあると考えるべきだ」

ヘリオがミスをしていなければな、とそんなことあり得ないとわかっていて言う。

そう言えば、ヘリオトロープが場所を疑うとわかっていたため。

確かに、とジェンシャンの読みどおり納得してしまう。

「二つ目は、その場所にいる人達の身分のほとんどが平民の中でも下の方で、親に捨てられたか死んだかのどれかで孤児になったものしかいない。例え死んでも誰も困らない」

神官である自分達が命の価値に大小つけるのはいけないことだが、神官であるからこそわかることがある。

命の価値は人によって違うということが。

そんな場面を嫌というほど見てきた。

「三つ目。それはそこがブローディア家の領土だからではないかと私は思う」

「何故そう思うのですか?」

ブローディア家の領土だから何があるのか。

ジェンシャンの言っていることがわからない。

「呪術師にとって一番嫌な敵になるのは誰だと思う?聖女?国王?神官?貴族?国民?どれも嫌な敵だが、どれも違うと私は思っている。これは私の勝手な考えだが、一番嫌な敵はブローディア家だと思う。想像してみてくれ。ブローディア家を敵に回したらどうなるかを」

ジェンシャンにそう言われて二人はブローディア家が手に回った未来を想像する。

ブローディア家は国王、平民、他国から支持され下手をすれば、各国の王達より権力があると言われている。

もしブローディア家が本気で王冠をとりにいけば周辺諸国の王冠も手に入れることができるだろうと密かに言われている。

そんな公爵家を敵に回せばどうなるかなんて火を見るより明らかだ。

「確かにブローディア家を敵に回すのは得策とは思えない。だからこそ、ブローディア家の領土で呪術が出たとなれば真っ先に疑われるのはブローディア家だ。だか、多分ブローディア家は疑われない」

「ああ、私もそう思う。ブローディア家に会ったことがあるなら誰でもわかる。それに、多分呪術師達の計画が狂ったように感じる。確証はないがな」

ヘリオトロープは二人の会話を黙って聞いていた。

ヘリオトロープはブローディア家に会ったことがないので二人の言っていることが理解できなかった。

ヘリオトロープにとって貴族は愚かで傲慢な嫌な存在。

自分達のことしか考えることができない豚だと思っている。

「それに公爵家の令嬢マーガレットは代理人候補にも上がっているし、もしそうなれば間違いなく呪術師達にとっていい未来にはならないだろう」

ジェンシャンのその言葉にそう言えばそうだったなと他人事のように聞いている。

一番的に回したくない貴族でも厄介なのに、更に代理人まで誕生したらブローディア家は王達より圧倒的な力を手に入れる。
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