26 / 81
サルビア
しおりを挟む「我が国の偉大なる太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。この度は急な謁見をお許しいただき感謝致します」
美しい礼をし国王に挨拶する。
国王は手でそれ以上はいいと静止する。
「公爵。先程部下から公爵が呪術師が現れたとおっしゃったと報告を受けました。何があったのか説明してください」
ジギタリス家当主のヴォルフが最初に質問する。
本来それは王が言うべき言葉であって、侯爵が公爵に大して言うべきではない。
まあ、そんなこと今はどうでもいいし気にしない。
それに元々そのつもりだったので、手間が省けてちょうどいいと説明する。
「ええ、もちろんです。私はこの目でしかと呪術の陣を確認したので、国王にご報告に上がったのです」
呪術の陣。
サルビアがその言葉を発した瞬間、これまで「公爵の見間違いでは」「きっと何かの勘違いだろう」とヒソヒソ話していた者達が黙り込み国王の声だけが響き渡る。
「全て話してくれ」
入ったときから顔色が悪かったがさらに悪くなった国王がサルビアにそう命じた。
「はい。全ては一週間前娘のマーガレットから報告を受けたことがきっかけです」
夜中にいきなり泥まみれで帰ってきたマーガレットの姿を思い出した。
娘に嫌なことをさせてしまい、何がなんでもあの日自分が行けばよかったと後悔した。
マーガレットが帰ってくる数分前。
サルビアは自室に籠もっていつものように仕事をしていた。
最近妙に盗賊の被害報告があがってきているのでそれの対処におわれていた。
ひと段落して休憩しようとしたら、何やら外が騒がしいことに気づき何事かと席をたとうとしたらタイミングよく誰かが扉を叩いた。
「入ってかまん」
中に入ってきた人物を見て目を見開く。
この場にいるはずのないマーガレットがいた。
「お父様。今すぐ報告したいことがあります」
顔を見てすぐに察した。
とんでもないことが起きる、いや起こっているのだと。
下手をすれば死ぬことになるかもしれない、と。
これまで命の危険を感じたことは多々あるが、この件は解決するまでずっと命を狙われることになるとこれまでの経験からわかった。
「何があった」
緊張しているのか自分でも驚くほど声が硬くなる。
部屋の空気が一気に重くなる。
マーガレットからの報告を聞き終わる頃には部屋の空気はさらに重くなっていた。
これからのことを頭の中で整理し指示を出そうと口を開いたが、それより早くにマーガレットが指示を出したのでそれに従うことにした。
我が娘の成長を見れて嬉しく思うも、今は非常事態なので心から喜べないのが残念だった。
「わかった。任せよう」
マーガレット達がでていきすぐにサルビアも部屋からでていく。
とりあえずまだ起きている騎士達に今すぐ商人達の家に言って食料の調達をするように伝える。
残りの騎士達に公爵家にある食料をすぐに運べるよう準備するよう指示を出す。
全ての準備が整い今すぐに出発できるとなった頃には空は明るくなり太陽が出始めていた。
マーガレット達は上手くいったかと考えたと同時に使用人の一人が自分を呼びに来た。
「この二人が私の手紙を盗んだのか」
床に座り込み震えている二人を見て問いかける。
「はい」
「何故盗んだ。誰に頼まれた。何のためにこんなことをした。何が目的なのだ」
問いかけに二人は答えることはなくただ許して欲しいと懇願するだけだった。
今は時間がないというのに、こんな茶番に付き合う暇はない。
そう思い公爵家当主として罪を犯した者に罰を与えることにした。
「何も話すつもりはないみたいだな。なら、その舌は要らないだろ。人の手紙を盗んでしまうなら、その手は要らないだろ」
その声と口調は酷く冷たくその場にいた全員が金縛りにあったみたいに動けなくなる。
「あの二人の舌と手を斬り落とせ」
「はっ」
サルビアに命令された瞬間、騎士達は二人を取り押さえ舌と腕を斬り落とそうとする。
言われた通りに動く騎士達は、まるでサルビアの操り人形にでもなった気分になる。
だが、それでいいのだ。
自分達は公爵家を守る騎士。
公爵家を脅やかす者は排除するのが役目。
サルビアが捕まえろと言えば捕まえ、殺せと言えば殺す。
それが自分達の仕事。
「お辞めください。どうかお許しください」
騎士の一人に腕を斬られそうになり漸く話すことを決意する。
「なら、話すか。これ以上謝罪はいらん。話す気がないなら黙って罰を受け入れろ」
「旦那様。全てお話しします。だから、どうか命だけはお助けください」
二人のやり取りを見ていたジョンははシーラが手を斬られそうなところを見て話さないと自分もそうなると思い頭を下げて懇願する。
二人の話を聞き終えると思ったよりも事態は深刻で複雑だった。
その中でも一番はシルバーライス家がこの件に関わっているかもしれないということだった。
最悪現国王の弟が今回の件を裏で操っているということになる。
これを聞いたとき自分の首が跳ねられるのが見えた。
未来で起きることかもしれないと。
あまりに鮮明すぎる光景に吐き気がしたが、皆の前でそんな姿を晒すことなどできず必死に耐えた。
すぐにこの場にいる全員に許可するまで誰にも話すことを禁じた。
下手をすれば全員死ぬことがわかっているのか全員了承した。
その後すぐに屋敷をでて町へと向かった。
町につくなり領主であるアスターに簡単な報告を聞き詳しい話は娘とするよう指示して、自分は呪術の陣を探しに向かう。
サルビアは町の惨状をみて「ここは地獄か」と思うほど酷かった。
土は枯れ、川の水は消え、美しい緑に囲まれた町の面影はどこにもなかった。
町の至るところに死体があり死臭がした。
人々の顔から笑顔が消え去り、絶望しただ死を待つだけの表情をしていた。
原因を早く見つけ助けなければ。
馬を走らせくまなく呪術の陣を探した。
夜になると流石に危険なので一旦詮索は中止しマーガレット達がいるアスターの屋敷へと向かう。
見た限り呪術の陣は本物のだった。
マーガレットが何故呪術に気づけたのかは疑問はあるが、それを考える時間すら今はないので後回しにする。
とりあえず、この町を救うには神官の力が必要不可欠。
今すぐにでも神殿に向かいたいが、それには国王とその臣下達を納得したさせる必要がある。
こうしている間にも人が死んでいると思うとどうしようもなく、呪術師達にたいする怒りがこみ上げてくる。
「どんな手を使っても必ず全員地獄に堕としてやる」
その声は近くにいる者の耳にも届かなかったが、遠く離れた町にいたアネモネの耳には確かにその声が届き後ろをバッと振り返る。
フードを深く被りその場から逃げ出すように走り去っていく。
1
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?
かのん
恋愛
ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!
婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。
婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。
婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!
4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる