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報告
しおりを挟むヘルマンが町に現れてから一週間が経ち、ようやくサルビアが王都から戻ってきた。
「お父様。国王はなんと」
どんな指示を出したかによってこの町の未来は変わってくる。
「この件は全て私に一任された」
つまりサルビアの判断で処罰していいと言うことだ。
本来なら呪術師が関わっている案件を一貴族の判断に任せるなあり得ない。
皆、一体どんな手を使ったのかと目の前にいるサルビアを見る。
ん?と微笑むが有無をいわさない迫力があり、皆サッと視線を逸らす。
「そうですか、わかりました。早速ですが今すぐご報告したいことがあります」
「私の方もある。場所をうつそうか」
マーガレットとサルビア、そしてアスターとヘリオトロープも一緒についてきて話をする。
サルビアがその場を離れる前にマンクスフドに目で指示をする。
マンクスフドは頭を下げその指示を受ける。
サルビアはこの町に戻ってきて、マーガレットの近くに隠れる気配をすぐに察知した。
マンクスフドが放っておいたので、問題はないのだろうが今から話す内容を聞かせるわけにはいかないので、終わるまで相手するよう頼んだのだ。
「カラント。こんなところで何をしている」
マーガレット達の後を追うとするカラントの後ろに立ち声をかける。
バッと距離を取り戦闘態勢に入る。
顔を見てマンクスフドとわかると武器を下ろす。
「あ、えっ、その……」
マーガレットを守る為に後をつけていたが、傍から見れば怪しいものにしか見えない。
カラントもそれをわかっているから何を言えばいいかわからない。
マンクスフドはカラントがただ純粋にマーガレットを守ろうとしているのがわかっていたので敢えてそのままにしていた。
マーガレットに危害を加えるつもりなら、即殺していたが。
マンクスフドだけでなくヘリオトロープもカラントが後をつけているのは知っていた。
放っておいたのは危害を加えないとわかっていたから。
もし万が一加えようとしたら神聖力で殺せばいいと考えていた。
まあ、それは限りなく低い可能性。
あれだけ、マーガレットに対して執着していれば今のところは大丈夫だろうと。
カラントがマーガレットを見る目は異常だった。
ヘリオトロープは神官としてこれまで沢山の人に会い瞳に宿す感情を視てきた。
愛に溺れた者、全てに感謝する者、欲に溺れ身を滅ぼす者、人を殺めた者、この世のありとあらゆる犯罪を犯した者。
ほとんどの者は愛と欲に瞳が染まる。
人間はそれほど他人の愛を欲しがり自らの欲を満たそうとする生き物。
だが、カラントの瞳に宿るものは今まで視てきたものどれとも違った。
似た感じのは視たことがあるが、一緒ではない。
あれは崇拝、いや信仰しているような目だ。
王や英雄、聖女の代理人になった人物に似たような目で視る人はいたが、カラントのは次元が違う。
マーガレットを神として崇めている。
そんな感じに見えた。
だから好きなようにさせていた。
今回は目の前でサルビアが命じていたので、仕方ないことだとカラントには悪いが見て見ぬ振りをした。
後は、マンクスフドに任せようとチラッと二人の方を見てその場を離れる。
「とりあえず、今から大事な話をされるようだから私達はここで待機しておこう」
追いかけようとするカラントにそう言う。
「大丈夫。心配ない。それに、今からする話は私達には内緒にしないといけないものだ。だから、ここにいよう。な」
地面に座り隣を叩く。
一緒に座って待とう、と。
カラントは少し迷って隣に座る。
怒られると思っているのか、小さな体を震わせ俯いている。
「マーガレット様の傍にいたいのか?」
なるべく怖がらせないよう優しく話しかける。
カラントは顔を膝に押し付け「はい」とさらに体を小さくして答える。
「そうか」
「はい」
マーガレット達がでてくるまで二人の間に会話はなかったが、カラントのすすり泣く音と生暖かい風が吹いていた。
「最初に私の方から話そう」
席につくなりサルビアが口を開く。
マーガレットもサルビアが国王とどんな話をしたのか気になっていたので、先に話して貰えて助かる。
「結論から言おう。今回の件国は一切関与しないことに決まった」
サルビアの発言にただ一人、マーガレットだけは「やっぱり」と心の中で呟く。
「え!それはどいうこたですか!?国が関与しないってことは見捨てられたってことですか」
アスターは項垂れこの町に未来はないのだと絶望する。
「サルビア様、詳しく話してください。国が駄目でも神殿は力を貸すと言いましたよね」
ヘリオトロープは元々王族や貴族に期待していないので、こんなことになっても大して動揺はしなかった。
ーーやっぱり、偉い人ってのはそういう生き物だよな。
マーガレットと数日過ごして違う人もいるんだと期待した途端裏切られ、どんどん自分の感情が冷めていくのを感じる。
貴族達が駄目でも神殿は弱い者を救う為に作られた組織なので力を貸すだろうと考えそう言ったが、「いや、今回は神殿も関与しないことになった」と首を横に振って否定する。
サルビアの返事に「は?」と無意識に声が漏れた。
何を言っているのが理解できなかった。
「神殿は関与しない。」
頭の中でその言葉が繰り返される。
あり得ない。
そんなこと許されるはずがない。
一神官として神殿の決定に納得できない。
神官は人々の平和を守るためのもの。
今まさに平和を脅やかすものが現れたのにそれを無視する、と神殿はほざいているのだ。
ヘリオトロープは今すぐこれに賛同した者全てを八つ裂きにしたい気分だった。
「すみません。詳しく教えていただけないでしょうか」
膝の上に置いていた手は強く握られヘリオトロープの怒りがどれほどのものなのか見てわかる。
なんとか冷静でいようとしているが、感情を押し殺すことはできておらず顔にしっかりと出ていた。
「ああ。最初から説明した方がいいだろう。あの日この町をでて王都について私はすぐに国王に謁見を求めた。最初は家臣達に駄目だた許可が下りなかったが、呪術師が現れたと言うとすぐに国王のもとに連れて行かれた」
その日のことを思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔をして、その続きを話す。
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