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二度目の最後

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「今日はいい天気ね。雲一つない快晴だわ」

最近は雨が続いていたので久しぶりの快晴に喜び庭を散歩する。

マーガレットは花が好きなので両親に許可を貰って庭に花を沢山植えた。

「最近雨だったから少し傷んでいるわ。まぁ、それでも綺麗だけど」

一つ一つ花の状態を確認する。

「マーガレット」

名を呼ばれ振り向くとカトレアがいた。

「お母様。今戻られたのですか」

「ええ。美味しいケーキを買ってきたの。一緒に食べましょう」

「はい」

庭全体がみえる憩いの場に移動し、カトレアは使用人達にお茶を淹れるよう指示する。

「これ、とても美味しいです」

一口ケーキを食べるとふわり、と花のような愛らしい笑みを浮かべる。

「本当?それなら、またここのケーキを買ってくるわ」

「ありがとうございます。嬉しいです」

二人はケーキを食べながら些細な話をしてこの時間を楽しんだ。



空が暗くなり部屋の中に戻って本を読んでいると外が騒がしいことに気づく。

何かあったのかと窓に近づくと公爵家の騎士達が戦っていた。

何者かに攻められていた。

でも、ここが攻め込まれるのはおかしい。

ブローディア家の屋敷は王都の次に最も他国から攻めにくい場所。

ここまでくるのに誰も気づかないなんて有り得ない。

王都がわざと連絡しなかったってことになる。

何のために。

暫く窓の外を眺めているとある旗の紋章が目に入った。

あれは、シルバーライズ家の紋章。

「まさか、国王が命じたの。いや、国王は今病気でふせている。……王妃の仕業ね」

今回もアネモネと王族が手を組んだことに気づく。

どうして、と頭を抱える。

前回起きたことは全て防いだのに、どうしてこんなことになるの?

私達が一体何をしたっていうの?

まるで私達を排除するのが目的みたいではないか……

そこでマーガレットは漸く気づいた。

「狙いは私達を殺すことだったのね。理由は何でも良かったのよ。……お父様とお母様は今どこに」

急いで部屋から飛び出す。

屋敷内を走るが敵に合わなかった。

まだ、屋敷の中には入ってきていないみたいだった。

カトレアの部屋にもう少しで着くと言う時に「きゃああああ」と叫び声が屋敷に響き渡る。

「この声はお母様?」

嘘、嘘、嘘、嘘、絶対違う。

そんなはずない。

また、あのときみたいになるはずがない。

きっと聞き間違いよ。

だって、さっきまで一緒にケーキを食べて笑いあっていたのよ。

もう一度、殺されるなんて何かの間違いよ。

マーガレットは全力疾走で声が聞こえたところまで走る。

角を曲がるとマーガレットの目に映った光景はカトレアの胸に剣が刺さっており血塗れで床に倒れていた。

その光景から目を逸らし窓の外をみると、サルビアが後ろから斬りつけられ膝をつくと一斉に体に剣を刺されて血を吐いてそのまま地面に倒れた光景が目に入った。

「嘘よ……、こんなの絶対嘘よ、どうして一体私達が何をしたって言うの」

マーガレットの目から大量の涙がボロボロと溢れ落ちていく。

外を見ていて気づかなかったが、一人の男がマーガレットに気づき近づく。

コツッ、コツッ、コツッ。

「お前がマーガレットか」

その声でゆっくりと後ろを振り返る。

男と目が合う。

その瞳の奥にはドス黒い殺意が潜んでおり、人を殺すためだけに生きているといった目をしていた。

「貴方は何者」

「カラント・フェイスフル。お前に名乗ってもわからないだろうがな」

カラントの言う通り名を聞いてもマーガレットには男が何者なのかわからなかった。

「どうしてこんなことをするの!私達が一体何をしたって言うのよ!何の恨みがあってこんなことをするのよ!」

一度ならず二度も目の前で両親を殺された。

何も悪いことはしていない、そう堂々と宣言できる自信がある。

それなのに理不尽に殺されていく者達を見てどうしようもない怒りが込み上げてくる。

「ハッ。今更自分達がしたことを無かったことにできるとでも思っているのか」

冷たい口調と声にマーガレットは体がビクッと震える。

それでも、なんの心当たりもないマーガレットは「なんのことですか」と尋ねる。

それがカラントの逆鱗に触れてしまい剣を喉に突きつけられる。

「お前達のせいでどれだけの人が死んだと思う。まだまだこれからだというのにどれだけの人が未来を奪われたと思う。それを、知らないと、忘れたとでも言うつもりか!何の恨みかだと。そんなのお前達自身が一番わかっているだろう」

グッと剣を喉に食い込まされ血が流れる。

「貴様の罪、その命をもって償ってもらうぞ。お前のような人間に生きる価値などない」

そう言うと剣を横に振りマーガレットの喉が斬られ大量の血が吹き出る。

マーガレットは血を止めようと手で押さえるが、すぐにバタン、と大きな音を立てて倒れる。

「……あ…………あ……あ……」

上手く息が吸えない。

「団長。まだ生きてるみたいですが、殺さなくていいんですか?」

「かまわん。死ぬまで少し時間がかかる。上手く息ができず苦しいだろう。本当ならもっと苦しませてあの女を殺したいが、生きていると思うと気が狂いそうになる。だから、なるべく苦しむ死に方をさせたいんだ」

カラントがそう言うとその場にいた部下達はあまりの闇の深さに言葉を失う。

「火の準備はできているな」

「は、はい、もちろんです」

「なら、やれ。こんな建物ない方が世のためだ」

部下達が部屋に油を撒いている。

ーーやめて!

そう叫びたいのに声が出せない。

ボン。

カラントが火をおこし油の上に落とす。

落ちた瞬間あっという間に火が油の上を走り部屋が燃えていく。

「行くぞ」

カラント達がこの部屋から出て行くのをただぼうっと眺めていた。

'許せない!私達が一体何をしたって言うの!どうして殺されないといけないの!'

悔しくてたまらない。

何も悪いことなどしていない。

人のために生きていた。

困っている人がいたら手を差し伸べた。

助けを求められたら助けた。

何がいけなかったのだろうか。

死んだ母親の死体を眺めながらもう一度やり直したいと願う。

「もし、もう一度やり直すことができるのなら今度は私が彼奴らにこれ以上の苦しみを与えてやるのに。お父様、お母様。どうか、どうか、愚かな娘を許してください。私がもっとうまくやれていれば皆死ぬことなどなかった。申し訳ありません」



ーーそして、私達が受けた苦しみを百倍にして返してやる。
 


最後に自分が至らないばかりにもう一度死ぬことになった両親とブローディア家の為に最後まで忠義を尽くした者達に謝罪をする。


炎に包まれ崩れ落ちていく屋敷を最後にマーガレットは深い眠りについた。


次にマーガレットが目を覚ましたそこは、前回よりも一年前の世界だった。
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