本物の悪女とはどういうものか教えて差し上げます

アリス

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罪 2

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この国で白に近い銀髪の貴族は三人しかいない。

その内一人の男は王弟の息子のデルフィニウム。

残りの二人は母シレネと娘のアネモネ。

もし、シーラの話が本当なら現国王の弟の愛人とその子供達が今回の件に関わっている。

それに気づいた全員がゾッとした。

シレネ・シルバーライス。

現国王の弟を誑かし愛人の座につき、正妻の役割を担っている者。

記憶が正しければ最初の人生で悪女と言われ、国中から最も嫌われていた女。

その娘のアネモネも悪女として嫌われていた。

実際、アネモネはシレネよりも悪女で人として最低な女だとマーガレットは思っている。

アネモネは二度マーガレットを殺した。

今確信した。

間違いない。

二人に会ったのはアネモネだ。

母親のシレネは美しい容姿だが、貴族としての礼儀が一切なっていない。

そのため、貴族の女性達から嫌われている。

現国王の弟の愛人として社交界に入り浸っているため誰も手を出すことができない。

男を何人も誘惑し夫、婚約者、恋人を持つ女性達はシレネによって泣かされ恨んでいる。

恨みを晴らそうとシレネを殺そうとしたが、アネモネによって全て防がれ逆に殺されそうになる。

シレネは男を誑かすのは得意だが、人を陥れるほど頭が回らない。

だから、フードを被った人物の正体はアネモネ以外ありえない。

「自分が今何を言ったのかわかっているのか。見間違いでは済まされんぞ」

本当にそうなら王族と争うことになる。

ブローディア家は爵位を取り上げられるかもしれない。

国王はそんなことはしないだろうが、王妃はするかもしれない。

'まさかアネモネが直々に頼みにきていたとはね。あの町には何かあるのね'

アネモネという女がどんな人間かその身をもって経験したのでわかっている。

正体がバレる危険があるにもかかわらず自分で命令しにきたのには、それ相応の理由があるのだと。

調べる必要があるわ。

カラントの件が終わったら調べるよう頼もう。

「お父様。もし、この者達が言っていることが本当なら慎重に調べる必要があるかと。下手なことをすれば王族と争うことになります」

「ああ、わかっている。わかっていると思うが、全員今聞いたことを忘れるように。これは私が調べる」

いいな、と念を押す。

全員コクっと固い顔で首を縦に振る。

「では、今すぐシノネアに向かう。出発の準備をしろ。整い次第出発だ」

空が明るくなっている。

もうすぐ太陽が登る。

怒涛のような一日だったがシノネアについたらもっと忙しくなるだろう、とまるで他人事のように空を眺めながらマーガレットは思う。




「あなた、マーガレット。どうか無事に帰ってきてね」

カトレアはサルビアの判断で屋敷に残るよう指示された。

本当は一緒に行こうとしたが、誰かは屋敷に残り守らなければならない。

王族が本当に関わっているなら屋敷に誰もいないのはまずい。

カトレアもそれをわかっているから屋敷に残ることを了承した。

「ああ、心配するな」

「はい、お母様」

サルビアは馬にマーガレットは馬車に乗り出発する。

「二人共、どうか気をつけてね」

カトレアは一行が見えなくなっても暫く二人が向かった方を眺め続けた。





「まさか、私が回帰する前からアネモネは色々とやってくれていたのね。一回目も二回目でもアネモネが何をしていたのか、私は何も知らないのね」

深いため息を吐く。

自分の脳天気さに吐き気がする。

こんな女を一度許した。そう思うと自分を斬り殺したくなる。

「アネモネ。絶対にその命で償って貰うわ」

国中から嫌われ死を懇願され、愛する人に愛され、そして拒絶され、生まれたことを否定させてやる。

地獄に叩き落とすことを改めて誓う。

マーガレットはシノネアに着くまで暫く寝ることにした。

ずっと動き続けて体の限界がきた。

それにシノネアについたら休む暇などなく働かないといけない。

今の内に休んでおかなければ。



「お嬢様。到着しました」

扉を開け使用人が声をかける。

マーガレットは使用人の手を借りて馬車から降りる。

「お嬢様。お待ちしておりました」

昨日ここに置いていった使用人達がマーガレットが降りてくるのを待っていた。

顔には疲れが服はボロボロになっており一日中動いていたのがわかる。

「報告して」

マーガレットがそう言うと一人ずつこの町の状況を説明していく。

「……そう。わかったわ。皆は少し休んで。ずっと動いていたのでしょう」

近くにいた使用人に後は任せアスターの所に向かう。

アスターの所にはすでにサルビアがいて深く頭を下げていた。

今回の件のことを謝罪しているのだろう。

マーガレットは二人の話しが終わるまで離れたところで待つ。

「マーガレット」

暫くすると名を呼ばれたので二人の傍に行く。

「これから私は呪術がかけられていないか確認してくる」

呪術がかけられていたらどれだけ町を活気づけようとしても全て無駄になる。

まず最初に呪術を消さなければならない。

きっと何かしらの罠は施されている。

アネモネならそうするだろう。

サルビアもそれをわかっているから、魔法石を身につけ剣も腰にさしている。

「お父様。どうかお気をつけてください」

「ああ、わかっている。マーガレット、ここは任せる。頼んだぞ」

「はい。お任せください」

サルビアは数人の騎士を連れ呪術がかけられた場所を探しに行く。

「今から二手にわかれて作業をする。一つは医療担当。こっちはセドリックの指示に従って。もう一つは料理担当。こっちはアンナの指示に従って」

マーガレットが指示を出すと皆一斉に二手にわかれ動き出す。

「マクス。あの二人は」

マクス。

そう呼ばれた男の本名はマンクスフド。

サルビアの右腕として長年使えた騎士を護衛として傍に置かれた。

サルビア自身は呪術を探しに行くので、マーガレットの傍には最も信頼できるマンクスフドに護衛させた。

「あそこにいます」

一つの馬車を指差す。

「あの二人に自分達がこの町に何をしたのか見せなさい。暫くしたら私のところに来なさい」

「かしこまりました」

マンクスフドは一礼をし二人を連れて町の中を歩く。

二人に自分達が手紙を盗んだせいでこの町はこうなったのだと教える。

「アスターさん。報告することがあります。場所を移動しましょう」

マーガレットとアスターも、本来なら使用人達と一緒に町の人達の為に奔走すべきだが、先に話さなくてはならないことがあった。

「わかりました。私の屋敷に行きましょう」

アスターは屋敷へと案内する。
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