5 / 81
リュミエール救済院
しおりを挟む「お父様。お母様。今日から四日間リュミエール救済院へ行こうと思います」
リュミエール救済院。
ブローディア家の前当主の妻が貧民を救済する為に建てた院。
そのため、ブローディア家の人間はリュミエール救済院を訪ね問題ないか確認しに行がなければならない。
都会ではなく田舎に救済院があるので空気が良い。
回帰してからまだ一週間しかたっていないが、王宮のパーティーに行けばアネモネ達との戦いが始まる。
その前に出来るだけやるべきことを済ませて万全の体制で復讐に臨みたい。
今のうちにリュミエール救済院に行って問題は何もないと確認しておきたかった。
「そうか。気をつけて行くんだぞ。本当は一緒に行きたいんだが……」
サルビアは急な仕事が入りそちらを片付けなければならない。
「大丈夫です、お父様。わかっております。リュミエール救済院は私にお任せください」
サルビアは当主の仕事に専念して大丈夫だと伝える。
「そうか。では、任せるぞ」
「はい」
「マーガレット。気をつけて行ってくるのよ」
「はい。お母様。では、行って参ります」
マーガレットは馬車に乗り数人の使用人と護衛を連れて救済院に向かう。
二度の人生でマーガレットはこの時期に救済院を訪ねたことはない。
それ以降もなかった。
行きたくてもアネモネ達の策略のせいでそれどころではなかったからだ。
だから、今の内に行って問題がないか確認しておきたかった。
領主からの報告では今年も何事も問題なく皆平和に暮らしていると書かれていた。
問題はないと確認がとれたら復讐を本格的に実行に移す。
もしかしたら、復讐を終えるまで来れないかもしれないから。
せめて一度は訪れておかないと。
「(これは一体どういうこと)」
報告とは違う町の有様に何も言葉がでてこない。
マーガレットが前回きたのは一年前。
その時は緑に囲まれた町で人々に癒しを与える町として有名だった。
春になるとネモフィラが咲き乱れ、一目見ようと大勢の人が訪れる。
都会とは違った良さがここにはあり、季節問わず旅行に訪れる人がいた。
それが今はどうだ。
緑に囲まれた町はその面影すらなく、土は乾き木は枯れ果てている。
色鮮やかだった町が茶色一色に変わっている。
活気に溢れていた人達は痩せこけ生気のない顔をしている。
「たった一年で何があったらこうなるの」
二度の人生ではこんなことなかった。
まさかアネモネも回帰しているの。
何故かこれにアネモネが関わっている気がした。
「領主のところに行くわ」
どういうことなのか説明してもらわなければならない。
町の状態は月一の報告では「何も問題はない」と書かれていた。
これのどこが「問題はない」のだろうか。
領主に直接問わなければ気が済まない。
本当なら今頃リュミエール救済院にいたはずなのに。
「二人は私と一緒に来なさい。残りの者は情報収集と町の人達の手当てをしなさい」
マーガレットの命令に指名された二人以外の何人かが一瞬嫌そうな顔をするもすぐに「かしこまりました。お嬢様」と言って動きだす。
使用人達の気持ちがわからないわけではない。
どうしてこんなことになっているのか理由がわからないのに、無闇やたらに町の人達の手当てをしたら病気をもらうかもしれない。
もしかしたら、死ぬかもしれない。
感染するのかしないのか、わからない状況のなか動くのは怖い。
だか、誰かがやらなければならない。
彼らを見捨てるわけにはいかない。
「行きましょう」
「領主、これは一体どういうこと説明してください」
領主の元に一緒に来た護衛二人はマーガレットの後ろに待機させる。
怒りをなんとか抑えながら尋ねるも、領主もまた町の人達同様痩せこけボロボロの服を着ている。
「今更来たと思えばそんなことをおっしゃるのですね」
領主は嫌味ったらしく言う。
「それはどういう意味ですか。遠回しに言うのではなくはっきりと言ってください」
「わかりました。ではそうさせていただきます。何故今更こちらにいらしたのですか。こちらがどれだけ助けて欲しいと頼んだときには返事の一つもよこさなかったくせに」
今にもマーガレットに食ってかかりそうな勢いで叫ぶ。
騎士達はそんな領主を鬼のような目で睨みつけるも、同じような目で領主も睨み返してくる。
「何か勘違いしてませんか。こちらは毎回返事を書きました。それに月一の報告では何か困ったことはないかの問いに、何も問題はないと書かれていたではありませんか」
「そんなことは一言も書いておりません。この町に異変が起きたとき、毎日手紙を書き助けて欲しいと懇願しました」
二人はお互いの主張が明らかに異なっていることに不審を持ち、そこで初めて何かがおかしいと気づく。
「アスターさん。私はブローディア家の名に誓って嘘は言っていません。アスターさんから送られたきた手紙は全て保管してあります。今手元にはないので見せることはできませんが、それを見れば私が嘘をついていないとわかるはずです。もし、本当に助けを求められていたら必ず私達は助けにきます」
「嘘ではありません。本当に毎日助けを求める手紙を書きました。ここ一か月は見捨てられたと思い書いていませんでしたが、本当です」
マーガレットはアスターが嘘を言っているようには見えない。
では、何故こんなことが起きたのか。
考えられるのは一つだけ。
「誰かが私達に嘘の手紙を渡し、貴方達には私達の手紙を渡さなかったのでしょう」
「一体誰がそんなことを……」
「そんなことができるのは手紙を配達するものでしょう」
「……そんな……うそだ……あいつがそんなことを」
バタン。
領主は顔を真っ青にして椅子から崩れ落ちる。
当然だろう。
希望を託してその者に手紙を預けたのに裏切られていたなんて信じたくはないだろう。
「アスターさん。今すぐその者をここに連れて来てください。その者が本当にそんなことをしたのか話を聞かなくてはなりません。その者ではない可能性もあります。」
「は、はい」
領主は急いで部屋から出ていき自分の部下に配達人を連れてくるよう命じた。
だが、マーガレットはその者がここへ来ないとわかっていた。
マーガレット達がこの町にきたときに遅かれ早かれ手紙の内容か書き換えられていることに気づき、自分に疑いの目が向けられことには勘付いた筈だ。
犯人なら気づかれる前にここから逃げだす。
相当口に自信がなければそうするだろう。
「マーガレット様。本当に申し訳ありません。私の不手際でこのようなことになり、挙句の果てにはシャガを捕まえることができませんでした。全ては私が至らないのに、ブローディア家の恩を仇で返したばかりか見捨てられたと勝手に勘違いをし憎んでおりました。この罪は必ず受け入れます。ですが、どうか、どうかこの町を救うのに力を貸してはいただけないでしょか」
アスターは部屋に戻ってくると土下座して町を助けてくれと頼む。
「アスターさん。頭を上げてください」
マーガレットの言葉でアスターはゆっくりと顔をあげる。
「確かに今回の件は少なからず貴方にも責任はあります。そして、それは私達ブローディア家にも言えることです。何故このようなことになったのか必ず突き止めなければなりません。そして、こんなことをした愚かな者達に厳しい処罰をしなければなりません。ですが、その前にこの町を共に救いましょう」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
アスターはマーガレットに泣きながら何度も頭を下げ感謝を述べる。
とりあえず、今からやるべきことを二手にわけてやるが一旦マーガレットは屋敷に戻ってサルビアにことの詳細を報告しに行くことにした。
これはマーガレットが直接報告しなければならない。
アスターも同じ考えだった。
手紙の内容を変えるには配達人だけでは無理だ。
間違いなく公爵家の中にわざと手紙を送らなかった者がいる。
今頃、公爵家では誰かが辞めたか姿を消した者がいるだろう。
必ず見つけなくてはならない。
これは時間との勝負になる。
マーガレットは護衛を一人とアスターの部下を一人引き連れ屋敷へと急いで戻る。
1
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる