解けない。

相沢。

文字の大きさ
上 下
8 / 9

#8 神室

しおりを挟む
「それが全部、
おかしくならへんようになる、
一つの事実、教えよか。」

__________

子供センター受付前。
やはりクーラーが効き過ぎている。
もう秋だというのに。

10月に入りやっと暑さが薄らいできた。
長年愛用しているニットのカーディガンを羽織り、


白石は再びこの地へと降り立つ。
六花を探している。


あれから、六花はどうなったのだろう。
里親となった人とは上手くやれているだろうか。

幼く、小さく、達観した、鋭い観察眼を持つあの子は、そして妹である由花は、

いま、幸せなのだろうか。


絵を描く少女が白石の目に映る。
「六花さん…か?」

__________


声を掛けようとしたその時だった。

「じゃあ~六花ちゃんは偉いから~
飴ちゃん!あげよ~な~」

少女に飴を握らせる大人。
白石は動揺した。

知らない"大人"が子供センターの子供に
とても馴れ馴れしく接している。
この人は一体、どういう人なのだろうか。
ここのスタッフもしくは…誰だこの人は。

__________


…しかしやはり少女は六花のようだ。
元気そうな姿に、白石は安心のため息を溢した。

声を掛けているのは、
黒髪はパーマを少し掛けたようにセットされていて、ところどころ金髪の眼鏡を掛けた男性だった。

「え~?いいの~?」

「ええよ~?
六花ちゃんはこの前、俺にプレゼント~
言うて折り紙のなんか
すっごいのくれたやろ~?
お礼お礼。」

「あれは足と羽が倍に生えた鶴だよ」
「そっかぁ~にぃちゃん忘れやす~てな?
ありがとうな~、ちゃんと飾ってんで。」

白石は、ただそこにちんまり佇んでいた。

__________

観察。

六花への危険性は無さそうだ。
とはいえ、安全性もまだ未確定である。
男性の話など、六花からは一度も聞いたことがなかった。

そして、やはりどうしても気になるのが、
どこのどの会話を切り取っても、
二人がかなり親密らしいことだ。


「誰だ…?」

白石の独り言に、
ゆっくりと男性は振り向いた。

__________

「うっわ。あったかそ~」

白石を見て開口一番、彼はそう言って微笑んだ。

白石はぺこりと会釈した。
「あの、あなたは」

「あ、白石くんだ!」

六花は嬉しそうな笑顔を浮かべ、こちらにやって来た。

__________

刹那、刻が止まったようだった。
とても心が温かくなるのが分かった。
男性の事が一瞬、頭から消える程に。

ああ、この子はいま、
笑顔だった。
良かった。

白石は本当に思いが溢れ出そうだった。

__________

「六花ちゃん、このあったかそーな人、
知り合い?」
「うん!この人が白石くんだよ!!」

現実に引き戻されるような感覚になる。
どうやら男性は白石を知っているようだった。

「キミが白石くんかぁ~

ど~も。神室です!」

かむろ、と名乗った男性は、
白石よりも少しだけ目線が低かった。
2cmほど小さいだろうか、という程だ。

眼鏡を外し、にこりと白石に会釈する。

「いやぁ~いつもは
コンタクトやねんけど、
忘れちゃったんよな~
あ、白石くんは裸眼?」

「はい、裸眼です。
時々眼鏡を掛けますが…」

「仲間やん~

仲良うしよな。」

白石に被さる少し大きな神室の声。
白石としては、時々、神室の声のトーンが下がるのがかなり気になった。

が、ひとまず気にしないことにした。

色々気になることはたくさんあるのに、
まだ彼が、いつもはコンタクトで目が悪いという事しか分からない。

それと…
「関西の方ですか?」
白石は神室へ聞いた。

「そやで。
ちょっと仕事でこっちにね。」

「仕事…」
「出版社のアルバイト~
縁があってね~」

出版社のアルバイトだという事しか。


「白石くん、長い事な、

キミと話がしたいと思っててん。」
神室は、白石へ言う。

「え、僕とですか?」

「キミ以外白石くんおらんやろ~?
な~?六花ちゃん?」

「うふふ」と六花は、はにかんだ。

「今から話できる?」

白石はたじろぐ。
「え、あ、出来ないことはないけど、
僕六花さんに会いに来て、」

「六花ちゃん、白石くん借りていーい?」
「いいよ!」

こちらに選択権はないようだ。

六花はこちらへと手を振った。
元気そうで何よりだが…。

__________

「あの…」

「白石くん、会いたかったで。」

近くのカフェにて。
白石はスティックシュガーを3本入れた
カフェラテを、神室は微糖のコーヒーを飲んでいた。

「それ甘ないん。」
「甘いですおいしいです。…あちゃ。」

白石は猫舌で頑張って飲んでいたが、
やはりそれどころではないのだ。

「神室さん。
どうして僕に会いたかったんですか?」

神室はゆっくりコーヒーを飲んだ。

「あちゃちゃ。

ん?えっとな~
俺、出版社で働いてる言うたやろ?
で、上のやり方が結構荒いのよ、
白石くんになんとかして欲しいねん。」

…?

白石はきょとんとした。

「はい…?
え、僕関係ないじゃないですか。」

神室はカップを揺らした。
「せやな~でもお願いしたいねん。」

「僕、探偵業やってますよ、一応。
そちらに話通してもらうのは…」

「べつに捜査することなんてないんやもん。

それに俺は
友達としてお願いしてんねんで?」


「友達じゃないです。…あちち。」

白石と神室は、沈黙の間、
ずっと各々のカップの熱さに格闘していた。


白石が口を開く。
「僕は六花さんに会いに来たのに、それを邪魔して、カフェに連れて来ては
金銭も発生しないのに友達だからなんやかんやって僕に関係のない仕事の難しい話を押し付けて来て、なんかもう色々おかしいじゃないですか。」

「…せやなぁ。」
神室は、妙にすんなり引き下がった。

白石は神室を見つめる。

「それが全部、
おかしくならへんようになる、
一つの事実、教えよか。」


「…はい…?」

「俺らが、
ほんまにずっと"友達やった"言うたら?」

「…え?」
__________


神室さんの言っていることは、
自らの記憶の真髄の話だ。
神室さんの言っていることが嘘ならば、神室のおのが利益の為との理屈が通る。

…でも、もし本当ならば?

白石は幾秒間かの間、思考を巡らせていた。

「ま~た忘れてくれたな、白石くん。」
「……僕があなたを忘れるのは

何度目ですか。」

「二度目、やで。」
二度目。
となると、住川の話と筋が通る。

「あなたは…」
白石が聞くと、嬉しそうに彼は応えた。

「白石くんのトモダチ、
 神室くんやで。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

ウラナイ -URANAI-

吉宗
ミステリー
ある日占いの館に行った女子高生のミキは、老占い師から奇妙な警告を受け、その日から不安な日々を過ごす。そして、占いとリンクするかのようにミキに危機が迫り、彼女は最大の危機を迎える───。 予想外の結末が待ち受ける短編ミステリーを、どうぞお楽しみください。 (※この物語は『小説家になろう』『ノベルデイズ』にも投稿しております)

孤島の洋館と死者の証言

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

呪鬼 花月風水~月の陽~

暁の空
ミステリー
捜査一課の刑事、望月 千桜《もちづき ちはる》は雨の中、誰かを追いかけていた。誰かを追いかけているのかも思い出せない⋯。路地に追い詰めたそいつの頭には・・・角があった?! 捜査一課のチャラい刑事と、巫女の姿をした探偵の摩訶不思議なこの世界の「陰《やみ》」の物語。

マジカルカシマ

いつ
ミステリー
荒井良治は黒魔術師の元で働く、研修を終えたばかりの医師。偶然が重なってマジカルカシマというぬいぐるみが巻き起こす事件に巻き込まれていく。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

ミステリH

hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った アパートのドア前のジベタ "好きです" 礼を言わねば 恋の犯人探しが始まる *重複投稿 小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS Instagram・TikTok・Youtube ・ブログ Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

処理中です...