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#4 ある姉妹 前編
しおりを挟むお前の話術は吉と転ずるときもあるがな、
俺は気にくわねぇからな。
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白石と住川は「探偵ごっこ」の
依頼主に会いに行こうと歩いていた。
白石は住川に聞く。
「珍しいお名前ですよね。住川さん。
だって、
『すみかわ』及び『すがわ』でさえ、
そこまでポピュラーではないですよね。
ここで。
すみかわ、と読んだとしましょう。
すみかわさんというお名前で一番多いのが
広島県ですが、およそ410人だそうですよ。
比率としてはかなり低いものでした。
あの、これは本当に根拠もない憶測ですが、
偽名ですか?」
住川は頭を掻いて、さも面倒そうに言った。
「相変わらずおしゃべりだな、お前はよ。
相手が嘘を考えたり、言い分を作る隙を与えない。
それでいて、相手のターンになったときに焦らせる事で、違和感を炙り出す。
お前の話術は吉と転ずるときもあるがな、
俺は気にくわねぇからな。
着いたぞ。」
白石は反省の念に駆られた。
何となく、自分でも諄い事くらいは分かっている。
「すいません…。つい興味本位で。」
「はいよ、知ってる。」
____________________
厳密には初回ではないのだが、
白石にとっては、"初めて"の依頼だ。
依頼主は、女性2人。
双子だそうだ。
白石、住川は女性2人に案内され、
応接室へ向かった。
住川が切り出す。
「では早速依頼について話を」
「話を遮って申し訳ないのですが、
どうしてこんな大学生の探偵擬きに
依頼したのでしょうか。」
白石が口を挟んだ。
住川はため息をついて
白石の膝を軽く蹴った。
「いてっ。」
「妹が、どうしても謎を解明したい…って。
私自体はそんなになの。ごめんなさいね。」
姉であろう女性が口を開いた。
どこか退屈そうで、
早く帰って欲しそうにも見える程だった。
続けて姉が話す。
「あなた方が一番格安だったんですよね…
別に、謎なんて解けなくたって良いし。」
「姉さん…!」
「知らない方が幸せな事だって…
世の中にはそんな事の方が多いわ。
そう思わない?探偵さん。」
意見の相違。
姉と妹は別の方向を向いているかのようだ。
「私はどうしても謎を解きたいんです」
そう口を開いたのは妹らしき人物。
小柄な女性だ。
「違和感とか抱きながら、生活していたくなくて、霧を晴らしたいって言うか…その…
とにかく、依頼したので、
絶対謎を解明して欲しいんです…!」
どこか、必死だった。
探究心とも無垢ともとれる、
まっすぐな眼差しだった。
白石は話す。
「あの…お姉さんは、」
「茉里です。」
「失礼しました。茉里さんは、
僕達に依頼して、
本当に良いんですね?」
茉里は少しの沈黙の後、頷いた。
「これも仕方ないんですもの。」
茉里は、
消え入るような小さな声でそう言った。
住川が続ける。
「妹さんは?」
「あ、私は友莉って言います…!
姉さんとはちゃんと話し合ったから、
ぜひ…お願いします!」
「友莉さんですね、
よろしくお願いします。」
住川は友莉と目を合わせ、会釈した。
「お花の名前ですね」
白石は興味深そうに言った。
「お二人とも、お花の名前なんですね。」
____________________
「茉莉花はジャスミンを意味します。
花言葉は優美、茉里さんらしいですね。」
「百合の花言葉は純粋無垢。
友莉さんそのものだな。」
白石と住川は公園へと赴いていた。
「でもまた難しい依頼だな。」
あぁ、何か掴めている気がする。
白石は心の中でそう思っていた。
そうだ僕は、
こうやってブランコで
住川さんと話をしていた。
なにか依頼が舞い込んだ時は、
いつもこんな風に…
だから僕は咄嗟に病院で、
ブランコに乗りたいって言ったんだな。
「おい、聞いてるか?」
白石は我に帰った。
「あ、いや、すみません。
昔の事を思い出して、
嬉しくなったんです。」
住川は少し微笑んだ。
「そりゃ良かったよ。」
住川は続ける。
「厄介かもしれないな、こういった問題はよ。」
「そうですね。
難しい問題でしょうね。
双子の姉妹のはずなのに、
お母様の遺品整理で
男の子の服が沢山出て来た…と。」
____________________
「母が病に倒れ、
数ヶ月前に亡くなりました。
それで、
母に
ずっと言われていたことを思い出してて。
『私の寝室には絶対入らないで』
って…。
でも、遺品整理はしなきゃいけないと思って、
『絶対入らないで』なんて言われたら、
余計に…
気になるじゃないですか、
それに、何も触れないのもおかしいし…
それで入ってみたんです、私。
至って普通の部屋で、私たち姉妹の寝室と同じつくりだったから、特別なにかあった、とかじゃなくて…
だけど、クローゼットの整理をしていたら、
いっぱいガムテープが貼られた箱が
奥底に隠されているのを見つけてしまって…
開けてしまったんです。
姉はその間、席を外していました。
そしたら、見たこともない、
ベビー服から、5歳くらいの子が着るくらいの服が見つかって…
全部男の子のものだったんです…
ちゃんと後で姉にも聞いたけど、
顔を青くして、『なにこれ…』って…
私、なんだか気味悪くなっちゃって…
一体誰のものなのか、思い当たる人が
誰もいないんです…!」
友莉さんは冷静さを欠いていた。
息継ぎを忘れているかのように、
矢継ぎ早に情報が溢れてきた。
「茉里さんは何かご存知でしたか?」
白石が聞くと、茉里は目を逸らした。
あまり話したくないようだ。
「知らないです。私も。
だけど、母親と父親は
私たちが小学生のうちに別れたし、
母親に隠し子でもいたんじゃないのかしら。」
「何回言ったら分かるのよ姉さん!!
お母さんはそんな人じゃないでしょ!
それに、お父さんとは今でも私たち、
仲良いじゃない!!
なんで平気でそんな事言えるのよ!」
友莉が声を荒げた。
「じゃあ何で別れたのよ。
それに、
それ以外何があるって言うの。
そこら中の箱ひっくり返して、
ベビー服以外何も見つからなかったじゃない。」
「ベビー服…以外何も…?」
白石が首を傾げた。
「そうよ探偵さん。
ね、私の推理が正しいのよ。
私達の知らないどっかの父親と一緒に隠し子が住んでるんだわ。
じゃなきゃおかしいもの。
この話はおしまいでいいかしら。」
「姉さん!!」
「まぁまぁ、落ち着いて、ね?」
すぐさま住川が止めに入った。
「白石、いったん今日は引くぞ。」
小声で耳打ちした。
「うーん…
僕分かったかもしれないです。」
住川が目を丸くした。
「待て待てお前は状況整理ってのを
知らないのか…!」
「分かったって何よ…!
私の推理が間違ってるって言いたいの?」
突然、茉里が白石の目を見て大きな声を出した。
「姉さん…?」
友莉が驚いて姉に呼びかける。
茉里が何か続けて言おうとしたのを遮り、
住川が声を上げた。
「今日は、この辺で失礼しますね。」
白石と住川は逃げるように
姉妹の家を後にした。
____________________
「馬鹿かお前は!」
「いやぁ…すみません…」
「よく病院で生きて帰って来れたな!」
住川にこっ酷く怒られてしまった白石。
「お前も分かっただろ、
茉里の方の気性の起伏が激しいこと。
同じように例の看護師が包丁持っててみろ、
お前死んでたぞ…
…って持ってたんだよな、あーもう…」
「うーん…そうですね。
…気性は元から荒い気がします。
本性を露わにしたくないように見えました。」
「で、お前は見事なまでに露わにしたんだな、天才だよ。」
「僕やっぱり分かったと思います。」
住川は煙草を咥えた。
「そうだろうな。」
「うぅ…けむたい…けほけほ…」
____________________
次の日、
妹・友莉 は公園で白石達を待っていた。
「お待たせしてすみません白石です。」
「住川です。」
「昨日は、すみませんでした…」
申し訳なさそうに、友莉は頭を下げた。
「いえ、こちらこそすみませんでした。
でも、ちゃんと解きますので。」
友莉は曇らぬ眼差しで白石を見つめた。
白石も、まっすぐ友莉を見つめ返した。
「ご連絡した通り、
友莉さんのお父様の所へ
連れて行って頂けますでしょうか。」
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