解けない。

相沢。

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#3 住川

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唐突にインターフォンが鳴った。

「久しぶり。白石。」
静かな低い声。
そこに立っていたのは、
上背が185cmほど、
上下黒の服を身に纏って、
眼鏡を掛けた短髪の男性だった。

「またブランコ漕ぐか?」

白石の記憶が、
少しだけ蘇った。


…気がしただけだった。


「貴方は、」

「誰ですか、だろ。
いいか、俺は寛容だからあと一回だけ説明してやる。

お前が記憶を失くしたのはこれで2度目、
医者に言うなって言われてるから
何で記憶を失くしているかは言わない。

で、俺とお前は色々あってマブってとこだ。」


男は淡々と早口で捲し立てるように話す。


「色々って」
「黙れ喋るなまだ俺が喋ってんだよ。

俺とお前は大学生、
俺は現役だけどな、

お前は留年を一年。
で、休学を2度している。
今が2度目。

でもお前には休んでる暇なんてねぇんだ
早く俺と探偵ごっこを再開しなきゃならない。
色々ってのがそれだ。

俺とお前は、そもそも仲が良い。それで、」

「あ、良いんだ
てっきり仲悪いのかと、えへへ。

とってもペースが早いので
早いこと話を終わらせたいのかと」

白石は安心したように笑った。
男は調子が狂ったようで、少し頭を掻く動作をしながら言った。

「そりゃ全部2回目なんだから
早いこと話は終わらせてぇよ…!」

白石は安堵の表情を浮かべた後、
少しうたぐったような顔をした。

「探偵ごっこ…って?」

男は話す。

「お前と俺は、
利害の一致によって探偵ごっこをしてんだ。
金だって稼いでる。」

白石は目を丸くした。
「ごっこじゃないじゃないですか!」

「そうだな。
それでな、もう仕事も舞い込んでんだ。
お前の脳のリハビリだ。」

「えぇ…仕事って言っちゃってるし…
でも僕そんなのできるか分からないですよ」

「記憶を失くして早々に看護師が人殺しって見抜いたんだろ、」


確かに。

「あぁぁ…いやぁ…でも」

「できるか、じゃない
やるんだよ。」

男の目は鋭かった。

「俺はな、雫が可哀想だからお前の記憶を取り戻すのを手伝ってるんだ、
それを忘れんなよ。」

白石は、少し動揺した。

「雫さんと、お知り合いでしたか。」

溜め息を軽くつき、男は言い放つ。

「妹にさん付けしてやんなよ。


それに、
あんま深く考えんな。」

「探偵ごっこと僕の記憶の何が関係あるんですか?」

男は目を逸らした。
「あんま深く考えんなっつったぞ。」

白石は何かを感じ取った。
「分かりました。これ以上は聞きません。

…でもあとひとつ。」

「何だよ」


「…そろそろお名前を教えてください。」

「…忘れてたわ。
ほらよ、」

男は名刺を渡した。

白石は頑張って読む。

こういう時に間違ってはならないというポリシーが白石の中に固く存在している。

「すみかわ、すみ…がわ…すむ…」


「じゅうかわ、だ」

読めなかった。
申し訳なさが募る。

男は、「住川」と名乗った。

「すみません、
住川さん、
よろしくお願いします。」
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