ケンカップル

わこ

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仲直り後は超素直

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「けーたー」
「…………」
「……なあって」


 今回はちょっと長引いた。まともに口をきいたのも確か十日ぶりくらい。だからこれは、喧嘩の後にしばしば起こる反動的現象。
 さっきから恵太が俺の腰に抱きついたまま離れない。

「そろそろ離さねえ?」
「……離さねえ」

 おーおーおー。お兄さんよお。

「……熱烈な告白してくれやがったところに悪いんだけどさ。俺が重い」

 ソファーに座っている俺。すぐ傍で床に腰を下ろしている恵太。
 一段低い位置から腰に腕を巻きつけられて、バキボキと骨が鳴りそうな勢いできつく抱きしめられているから身動きもロクにとれない。

 やれやれと、宥めるように恵太の頭を撫でつけた。こうなってしまったらあと小一時間はこのままだろう。経験上の予測もついている。

「恵太」
「……おう」
「泣いとく?」
「……泣かねえよアホが」

 めんどくせえな。どこの困ったちゃんだこいつは。
 ぽんぽんぽんぽんと肩やら頭やらを適当に撫でて落ち着かせる。これは母親が子供を寝かしつけるときの動作に近いものがあると、途中で思ってしまったせいで微妙な気分に陥った。
 外はいい感じに日も傾きかけている。普段は見る事のできない恵太のつむじを上から見下ろしながら、一度ゆっくり瞬きをした後にいつもの調子で問いかけた。

「夕飯何食いたい?」
「道哉」
「そういうのいらねえんだよ。どっか食い行く?」
「ここでお前を食う」
「…………」

 素でこれを言えてしまう男は凄いよ。迷惑な意味で最強だろうよ。
 更に強い力でぎゅーっと抱きついてくる。さっきからもう何度目かも分からないような溜め息が出てきた。加減しろよ。痛ぇから。

「道哉……」
「んー」
「…………」

 なんも用はないんかいっ。

 ただ呼んだだけな恵太の髪をサラサラと梳き、意外と柔らかなそれの感触を指先に馴染ませていく。
 俺の腹に顔を埋めているこいつが、いっそこのまま窒息死でもしてくれたら楽しいのに。そんな事になったら指さして笑ってやる。
 なんて思っていたら、恵太の手が俺の手をやんわりと取った。甘えるみたいに、ぎゅっと握りしめてくる。

「…………」

 可愛いとか。
 まったく思ってませんけど。

「……バカ恵太」
「うっせ、アホ道哉」

 俺らのレベルは小学生。
 ちょっと和んだなんて、絶対に言わない。
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