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謝り方をシミュレーション
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俺からも、道哉からも、喧嘩の末に謝罪の言葉を口に出した事は一度もない。大体いつも悪いのはあいつだから、この先も俺があのアホ面の前で頭を下げる事は有り得ない。
何かやらかすか突如キレるかして、勝手に喧嘩の原因を作りだすのが道哉と言うアホ野郎だ。昔から素直じゃないから、おそらくあいつも俺に謝罪を述べてくる事はほぼないだろう。
だけどもしも。仮に、の話だ。
あいつがしおらしく慎ましやかに、ごめんなさいなんて言ってきたとしたら、最終的には大目に見てやれる自信もまあまああるにはある。最終的には、だけど。途中でめちゃくちゃに泣かすけど。
道哉は基本的にウザくてムカツクが、時々、本当にごくごく稀に、クソくだらない意地を取っ払った瞬間は死ぬ程かわいくて抱き潰したくなる。その辺の男が無駄にデレた所でいイラッとくる以外に何もないが、あいつがやるとどうにもこうにもムラッときてしまうから不思議だ。
あのアホの顔を見ていると、とりあえず頭に来るのは高校時代の習慣によるもの。出会った瞬間に喧嘩になったせいで未だに仲の悪さは払拭できない。
ところが俺の下とか上とかで泣きながら縋ってくる時の道哉は、これ以上ないくらいに可愛くて、そして何より恐ろしくエロい。
あやふやなまま流れた喧嘩の後のセックス。あれはいい。あれほど下半身にクる体験は他では決して味わえない。
例えば。こんなふうに。
「ひッ……ぁ、あ……っ」
「悪いのお前だよな。なあ? そうだろ?」
「や、あっ……もう……けい、た……ッあ」
どれだけ殴りつけたところで泣いた試しのない男が、この時ばかりは顔を歪める。
やめてくれと懇願されてもやめられる訳がない。ドロドロになりながら繋がる下半身をぴったりと重ね合わせ、もっとひどく泣かせたくて、より深くに腰を押し進めた。
「アアッ……はっ……ぅ、……」
苦しげに寄せられた眉間はむしろ艶っぽくてそそられる。組み敷いたこいつの顔がつらく歪めば歪むほど、乱れて咽び泣くその姿を見ていたい欲求が増した。
「っも、……ムリ、だめッ……けい……、ダメだ……ぁっ……」
すでにこいつの中で何度達しただろう。俺が動く度に繋がった箇所からは淫猥な音がくちゅッと響く。苦しげにシーツを握っている道哉の手には、ほとんど力も入っていない。
縋ればいい、俺に。もっと縋ってもっと泣いて、やめてほしいと乞えばいい。
意地でもやめてなんかやらない。それを理解して絶望感に打ちひしがれるこいつの顔が、たまらない。
道哉の首元に顔を埋め、恐怖感を煽り立てるようにねっとりと舌を這わせた。喉元を通って上へ上へとゆっくり唇でなぞっていく。
顎の裏の皮膚にやわく噛みついた。顔をいくらか仰け反らせた道哉が、怯えたようにピクリと震えた。
楽しい。俺にサドの気質はないが、ビクビクと震えるこいつの姿を眺めているのは爽快だ。
「道哉……」
「ぁあッ……ん、あ……ヤダ……やだ…っ」
あえて無理な体勢を強いて、より一層足を広げさせる。強引に腰を打ち付けて、グッと一気に奥を犯すと道哉の目尻から涙が零れた。
ふるふると微かに頭を振るこいつ。泣きじゃくる道哉を押さえつけ、涙が伝った目尻にチュッと口づける。途端にびくっと肩を跳ねさせた道哉に、下半身は顕著に反応を示した。
「ンンっ……」
たまらない。
「言えよ。誰が悪い」
「あっ……ぅ、ッく……やめ……」
「やめてほしけりゃ俺に言う事があんだろ」
「は、ぁ……あ……っ」
さぞかし屈辱的な事だろう。
ここまで来てしまえば決着はついている。さっさと理性なんて捨てればいいものを、なかなか折れようとしないこいつはどんどん俺に追い詰められていく。
普段のように体を重ねるのだってもちろん悪くない。だけどこうして、無理やり組み敷いたこいつの体をグチャグチャに犯す快感はたまらない。
これは一種の、征服感だ。道哉が相手だからこそ発動する。こいつでなければこうはならないが、自分でもヒクようなゲスの嗜好だ。
「言えよ」
「ああッ……う、ン……っ……」
望み通りには口を割ってくれない方が、それだけ虐める口実も増える。こいつの腹をさすり上げた手を胸元まで持っていき、キュッと、乳首を摘まみ上げてなじった。ギリギリと指先に力を込める。
「ぃッ、た……」
小さく呻くその顔に、自ずと口角が吊り上る。
カラダの奥に絶え間なく与えられる快感と、胸の小さな突起を戒める痛覚によって歪んだ表情。最高だ。こいつの、こういう顔。もっと苦しむ様子を見ていたい気もするが、しかしそろそろ潮時だろう。
強引に唇を重ね、怯えて逃げようとする舌を捕えた。乳首に痛みを与えるだけだった指先からは力を抜いて、親指の腹で撫でるようにクニクニとこすってやる。
単純なこいつは鳴き声も分かりやすい。今は甘ったるい、嬌声だ。
もういい。後はオトすだけ。道哉がトロンとしかけたところで、奥のいい場所を突き上げた。
「ッああ……っ」
唇が離れ、その口からは悲鳴染みた喘ぎが漏れる。咄嗟に俺へと伸ばしたその腕が、しがみ付いてくることは許さない。
道哉の手首をパシッと掴んだ。乱暴にシーツに押さえ付け、隠しもせず泣き顔を晒す道哉を間近から見下ろした。
「言え」
「ッぅ……っ……く………ご、め……」
「聞こえねえな。もっとはっきり言え」
「っ……」
屈辱に悶えて真っ赤に染まっているその頬。涙に濡れる、その目元。
自分の口元が卑劣に歪んでいくのが分かる。
「ッ……ごめ、……なさ……許して……」
勝った。
吊り上る口角も抑えられない。声を出さずに俺は笑い、泣き止まない道哉を見下げた。
***
「……って感じに謝ってこねえかな、あいつ」
「ウチにあるAV全部貸してやるから今すぐ帰れ」
幸助の冷ややかな眼差しを受け、分かってねえなと溜め息をついた。
高校時代からお互いのことを良く知っている幸助は、俺とあいつとの関係を把握しているただ一人の友達でもある。
道哉とは夕べからちょっとした喧嘩が続いていた。今朝も起きてからずっと機嫌が悪かったため、いくらなんでも拗ね方がウザすぎてたまらず自分の家を出てきた。
とは言え人ごみは好きじゃない。街中に行くのは億劫だ。
そこで近くの公園にふらりと立ち寄り、散歩中らしき黒猫をつかまえて古びたベンチで時間を潰すも、気まぐれな自由猫はそう長く付き合ってくれない。俺にはすぐに飽きたようでさっさとどこかへ行ってしまったから、他に行く場所も思いつかずに幸助のマンションを訪れた。
どうせ今頃あいつは拗ねて一人で部屋にいる。今の状態で話しかけても面倒な事にしかならない。だったら少し間を置いて、晩メシ前くらいに戻ってやればちょうどいいくらいだろう。
そう思いながら理想の謝らせ方というものを幸助に聞かせていた訳だが、げんなりとした顔で俺の顔を見ている幸助はこの気持ちを分かってくれそうにない。
それどころかヘンタイでも見るような眼差しを向けてくる。しまいにはさっさと帰れと薄情な事まで言われてしまった。
「お前が欲求不満なのは勝手だけどな、ダチのそんな話聞かされるこっちの身にもなってみろ。俺の知らない所で勝手に仲直りでもなんでもしとけ」
「あいつが謝ってきた事なんかねえから相談してんだろ。泣かす事はできても謝らせる事だけはできねえんだよ。縛っても脅しても何してもダメだった」
「これ相談だったのか……? 頼むからそれ以上聞かせんな」
露骨に嫌な顔をするこいつは俺の味方に付く気がない。
思えば昔からそうだった。幸助は俺達が喧嘩を始めるとその度に仲裁役を買って出てくれたが、なんだかんだ言いながら道哉サイドに立っていた。と言うより道哉に対してこいつは甘い。
あのアホは餌付けされた野良猫のように幸助に懐いている。幸助はそれを邪険にできず、保護者的な立場でそばにいたのもよく覚えている。
「他の奴には割とすぐに謝るクセに、俺には何がなんでも頭なんか下げてこねえからな。ケンカ売ってるとしか思えねえよ」
「お前も大概めんどくせえぞ」
俺には決まってこの態度だ。心外な言葉を投げつけられてイラッと睨んで返したが、そこそこ付き合いの長いこいつがこれで怖気づくはずもない。呆れたように肩をすくめただけだ。
座っていた椅子から腰を上げた幸助は、俺の目の前に置いてあるマグカップに手を伸ばした。
部屋の主に出されたコーヒーはまだ半分以上も残っている。それを断りもなく取り上げられ、歩いて行く後ろ姿を何も言わずに眺めていると、流し台から声をかけられた。
「意地張ってねえでとっとと帰れ。いちいち二人してめんどくせえんだよ。似た者同士のバカップルには安い言葉なんて必要ねえだろ」
「あ……?」
「お前さっきから時計ばっか見てる」
「…………」
カップを置いて戻ってきた幸助は意味深に笑っていた。
この男のこういう所が昔から苦手だ。イライラと舌打ちし、これ以上は居座りづらくなったから渋々重い腰を上げた。
太陽の位置は正午よりも下がっているがまだまだ明るい。あの野郎はきっと今も、部屋で一人いじけているはず。
「…………帰る」
「持ってくか。AV」
「いらねえよ」
そりゃそうだろうなと、冷やかしを受けた。何も言わずに背を向ける。
ムカツク。これも全ては道哉のせいだ。帰ったらやはりぐちゃぐちゃに泣かそう。
玄関まで一緒についてきた幸助は、あれこれ考えつつ靴を履く俺の背中から一体何を読み取ったのだか。ドアノブに手をかけたところで、ついでとばかりに言い足された。
「程々にな」
「…………」
悩み相談に来たはずなのに、むしろさっきより鬱憤が溜まった。
何かやらかすか突如キレるかして、勝手に喧嘩の原因を作りだすのが道哉と言うアホ野郎だ。昔から素直じゃないから、おそらくあいつも俺に謝罪を述べてくる事はほぼないだろう。
だけどもしも。仮に、の話だ。
あいつがしおらしく慎ましやかに、ごめんなさいなんて言ってきたとしたら、最終的には大目に見てやれる自信もまあまああるにはある。最終的には、だけど。途中でめちゃくちゃに泣かすけど。
道哉は基本的にウザくてムカツクが、時々、本当にごくごく稀に、クソくだらない意地を取っ払った瞬間は死ぬ程かわいくて抱き潰したくなる。その辺の男が無駄にデレた所でいイラッとくる以外に何もないが、あいつがやるとどうにもこうにもムラッときてしまうから不思議だ。
あのアホの顔を見ていると、とりあえず頭に来るのは高校時代の習慣によるもの。出会った瞬間に喧嘩になったせいで未だに仲の悪さは払拭できない。
ところが俺の下とか上とかで泣きながら縋ってくる時の道哉は、これ以上ないくらいに可愛くて、そして何より恐ろしくエロい。
あやふやなまま流れた喧嘩の後のセックス。あれはいい。あれほど下半身にクる体験は他では決して味わえない。
例えば。こんなふうに。
「ひッ……ぁ、あ……っ」
「悪いのお前だよな。なあ? そうだろ?」
「や、あっ……もう……けい、た……ッあ」
どれだけ殴りつけたところで泣いた試しのない男が、この時ばかりは顔を歪める。
やめてくれと懇願されてもやめられる訳がない。ドロドロになりながら繋がる下半身をぴったりと重ね合わせ、もっとひどく泣かせたくて、より深くに腰を押し進めた。
「アアッ……はっ……ぅ、……」
苦しげに寄せられた眉間はむしろ艶っぽくてそそられる。組み敷いたこいつの顔がつらく歪めば歪むほど、乱れて咽び泣くその姿を見ていたい欲求が増した。
「っも、……ムリ、だめッ……けい……、ダメだ……ぁっ……」
すでにこいつの中で何度達しただろう。俺が動く度に繋がった箇所からは淫猥な音がくちゅッと響く。苦しげにシーツを握っている道哉の手には、ほとんど力も入っていない。
縋ればいい、俺に。もっと縋ってもっと泣いて、やめてほしいと乞えばいい。
意地でもやめてなんかやらない。それを理解して絶望感に打ちひしがれるこいつの顔が、たまらない。
道哉の首元に顔を埋め、恐怖感を煽り立てるようにねっとりと舌を這わせた。喉元を通って上へ上へとゆっくり唇でなぞっていく。
顎の裏の皮膚にやわく噛みついた。顔をいくらか仰け反らせた道哉が、怯えたようにピクリと震えた。
楽しい。俺にサドの気質はないが、ビクビクと震えるこいつの姿を眺めているのは爽快だ。
「道哉……」
「ぁあッ……ん、あ……ヤダ……やだ…っ」
あえて無理な体勢を強いて、より一層足を広げさせる。強引に腰を打ち付けて、グッと一気に奥を犯すと道哉の目尻から涙が零れた。
ふるふると微かに頭を振るこいつ。泣きじゃくる道哉を押さえつけ、涙が伝った目尻にチュッと口づける。途端にびくっと肩を跳ねさせた道哉に、下半身は顕著に反応を示した。
「ンンっ……」
たまらない。
「言えよ。誰が悪い」
「あっ……ぅ、ッく……やめ……」
「やめてほしけりゃ俺に言う事があんだろ」
「は、ぁ……あ……っ」
さぞかし屈辱的な事だろう。
ここまで来てしまえば決着はついている。さっさと理性なんて捨てればいいものを、なかなか折れようとしないこいつはどんどん俺に追い詰められていく。
普段のように体を重ねるのだってもちろん悪くない。だけどこうして、無理やり組み敷いたこいつの体をグチャグチャに犯す快感はたまらない。
これは一種の、征服感だ。道哉が相手だからこそ発動する。こいつでなければこうはならないが、自分でもヒクようなゲスの嗜好だ。
「言えよ」
「ああッ……う、ン……っ……」
望み通りには口を割ってくれない方が、それだけ虐める口実も増える。こいつの腹をさすり上げた手を胸元まで持っていき、キュッと、乳首を摘まみ上げてなじった。ギリギリと指先に力を込める。
「ぃッ、た……」
小さく呻くその顔に、自ずと口角が吊り上る。
カラダの奥に絶え間なく与えられる快感と、胸の小さな突起を戒める痛覚によって歪んだ表情。最高だ。こいつの、こういう顔。もっと苦しむ様子を見ていたい気もするが、しかしそろそろ潮時だろう。
強引に唇を重ね、怯えて逃げようとする舌を捕えた。乳首に痛みを与えるだけだった指先からは力を抜いて、親指の腹で撫でるようにクニクニとこすってやる。
単純なこいつは鳴き声も分かりやすい。今は甘ったるい、嬌声だ。
もういい。後はオトすだけ。道哉がトロンとしかけたところで、奥のいい場所を突き上げた。
「ッああ……っ」
唇が離れ、その口からは悲鳴染みた喘ぎが漏れる。咄嗟に俺へと伸ばしたその腕が、しがみ付いてくることは許さない。
道哉の手首をパシッと掴んだ。乱暴にシーツに押さえ付け、隠しもせず泣き顔を晒す道哉を間近から見下ろした。
「言え」
「ッぅ……っ……く………ご、め……」
「聞こえねえな。もっとはっきり言え」
「っ……」
屈辱に悶えて真っ赤に染まっているその頬。涙に濡れる、その目元。
自分の口元が卑劣に歪んでいくのが分かる。
「ッ……ごめ、……なさ……許して……」
勝った。
吊り上る口角も抑えられない。声を出さずに俺は笑い、泣き止まない道哉を見下げた。
***
「……って感じに謝ってこねえかな、あいつ」
「ウチにあるAV全部貸してやるから今すぐ帰れ」
幸助の冷ややかな眼差しを受け、分かってねえなと溜め息をついた。
高校時代からお互いのことを良く知っている幸助は、俺とあいつとの関係を把握しているただ一人の友達でもある。
道哉とは夕べからちょっとした喧嘩が続いていた。今朝も起きてからずっと機嫌が悪かったため、いくらなんでも拗ね方がウザすぎてたまらず自分の家を出てきた。
とは言え人ごみは好きじゃない。街中に行くのは億劫だ。
そこで近くの公園にふらりと立ち寄り、散歩中らしき黒猫をつかまえて古びたベンチで時間を潰すも、気まぐれな自由猫はそう長く付き合ってくれない。俺にはすぐに飽きたようでさっさとどこかへ行ってしまったから、他に行く場所も思いつかずに幸助のマンションを訪れた。
どうせ今頃あいつは拗ねて一人で部屋にいる。今の状態で話しかけても面倒な事にしかならない。だったら少し間を置いて、晩メシ前くらいに戻ってやればちょうどいいくらいだろう。
そう思いながら理想の謝らせ方というものを幸助に聞かせていた訳だが、げんなりとした顔で俺の顔を見ている幸助はこの気持ちを分かってくれそうにない。
それどころかヘンタイでも見るような眼差しを向けてくる。しまいにはさっさと帰れと薄情な事まで言われてしまった。
「お前が欲求不満なのは勝手だけどな、ダチのそんな話聞かされるこっちの身にもなってみろ。俺の知らない所で勝手に仲直りでもなんでもしとけ」
「あいつが謝ってきた事なんかねえから相談してんだろ。泣かす事はできても謝らせる事だけはできねえんだよ。縛っても脅しても何してもダメだった」
「これ相談だったのか……? 頼むからそれ以上聞かせんな」
露骨に嫌な顔をするこいつは俺の味方に付く気がない。
思えば昔からそうだった。幸助は俺達が喧嘩を始めるとその度に仲裁役を買って出てくれたが、なんだかんだ言いながら道哉サイドに立っていた。と言うより道哉に対してこいつは甘い。
あのアホは餌付けされた野良猫のように幸助に懐いている。幸助はそれを邪険にできず、保護者的な立場でそばにいたのもよく覚えている。
「他の奴には割とすぐに謝るクセに、俺には何がなんでも頭なんか下げてこねえからな。ケンカ売ってるとしか思えねえよ」
「お前も大概めんどくせえぞ」
俺には決まってこの態度だ。心外な言葉を投げつけられてイラッと睨んで返したが、そこそこ付き合いの長いこいつがこれで怖気づくはずもない。呆れたように肩をすくめただけだ。
座っていた椅子から腰を上げた幸助は、俺の目の前に置いてあるマグカップに手を伸ばした。
部屋の主に出されたコーヒーはまだ半分以上も残っている。それを断りもなく取り上げられ、歩いて行く後ろ姿を何も言わずに眺めていると、流し台から声をかけられた。
「意地張ってねえでとっとと帰れ。いちいち二人してめんどくせえんだよ。似た者同士のバカップルには安い言葉なんて必要ねえだろ」
「あ……?」
「お前さっきから時計ばっか見てる」
「…………」
カップを置いて戻ってきた幸助は意味深に笑っていた。
この男のこういう所が昔から苦手だ。イライラと舌打ちし、これ以上は居座りづらくなったから渋々重い腰を上げた。
太陽の位置は正午よりも下がっているがまだまだ明るい。あの野郎はきっと今も、部屋で一人いじけているはず。
「…………帰る」
「持ってくか。AV」
「いらねえよ」
そりゃそうだろうなと、冷やかしを受けた。何も言わずに背を向ける。
ムカツク。これも全ては道哉のせいだ。帰ったらやはりぐちゃぐちゃに泣かそう。
玄関まで一緒についてきた幸助は、あれこれ考えつつ靴を履く俺の背中から一体何を読み取ったのだか。ドアノブに手をかけたところで、ついでとばかりに言い足された。
「程々にな」
「…………」
悩み相談に来たはずなのに、むしろさっきより鬱憤が溜まった。
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