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ケンカするほど
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「なんだよ、お前らまた喧嘩したの?」
上から下まで俺はボロボロ。それは隣の恵太も同じ。クラスメイトの幸助から呆れたような顔で言われ、元々きつく寄せていた眉間をさらにグッと険しくさせた。
恵大とは意地でも目を合わせない。一瞬だけチラッと合いそうになり、お互い即座にふいっと逸らした。
「恵太が悪い」
「道哉が悪い」
恵太と声が被った。ムカツク。
すげえキライ。超キライ。ほんとキライ。大っ嫌い。いっそ今すぐ死ねばいいのに。
ひっかき傷はピリピリと痛いし、殴られた頬は重たくて熱いし、弾みで切った口の端からは鉄の味がして不愉快だ。
どれもこれも恵太が全部悪い。恵太も酷い状態だけれど、それでもやっぱりこいつが悪い。
屋上のフェンス越し。恵太と並んで腰を下ろしたまま、またしても不意に目が合いそうになって同時にぱっと視線を外した。
うざい。キライ。全身の神経がビリビリする。なんでこいつこの世に存在してんの。
「まったく……どうしてお前らはそう仲がわりぃんだかな。お互い気に食わねえんなら一緒にいなけりゃいいだろうよ」
「だって恵太が…」
「だって道哉が…」
また被った。
「「…………」」
いちいちムカツク。
***
なんとなく合わない。昔からだ。
仲の悪い原因を考えてもすぐにはパッと思い浮かばない。強いて言うなら対面した瞬間に本能的なものが訴えかけてきた。
こいつキライ。絶対に仲良くなれない。目を合わせるな近寄るな、って。
どうやらそれは恵太も同じだったらしく、初めて会った時からとにかく俺達は仲が悪かった。お互い相手が気に食わないから、顔を合わせればほとんど必ず殴る蹴るの争いが始まる。
俺が恵太を貶せば恵太は俺をぶちのめし、恵太が俺を罵れば俺は恵太に跳び蹴りを食らわす。嬉しくないリピート機能だ。心から馬鹿げていると思う。
こんなくだらない事を日々繰り返さなければならない原因は恵太の存在そのものにあるから、最終的にいつも俺が辿り着くのは一つの難問。
コイツいつ死ぬんだろう。
「けーた」
「気安く呼んでんじゃねえ。なんだよ」
「昨日噛まれたとこ痛ぇんだけど」
「知るか。つーか俺もイテエし。てめえ毎回わざと爪立ててんだろ」
高一の時の初対面は、十年以上も前のこと。顔も見たくない。声を聞くのも嫌。ウゼエからもうさっさと死ね。
お互いそう言い続けている俺達は今、なんでか知らないが同じマンションの同じ部屋に住んでいる。
毎日それぞれ仕事を終えて帰ってきたあとは、見たくもない相手の顔を正面から見ながら食事。地獄だ。
2LDKのまあまあな部屋は男二人で住んでいても狭苦しさは感じない。しかしこいつと同じ空気を吸っていると思うと虫唾が走る。
メシを終えても自室には戻らず、リビングにだけ置いてあるテレビの前では恒例のチャンネル争いが勃発。ソファー前の床に腰を下ろし、軽い取っ組み合いの果てにリモコンは恵太の野郎に取られた。
ガラ悪い見た目してるくせに、ワンニャン特集とかほんわかした番組見てんじゃねえよキモいなこの野郎。
高一の時にはほぼ変わらなかった身長も、卒業時には十八センチ弱もの差を付けられていた。恵太は細身でゴリマッチョではないがこの忌まわしき身長差のせいで、日々の取っ組み合いは俺の方が基本的に若干不利になる。
リモコン争奪戦の勝敗はだいたい三、七くらいの割合で俺が破れていた。敗戦記録ばかりが積み重なっていく。見た目にそぐわないこの馬鹿力と張り合うと俺にだけ疲労が溜まる。
「……疲れた」
「そうかよ」
こいつのせいだ。こいつが悪い。だから恵太に凭れかかって、ささやかな仕返しをしてやるのもここ数年で恒例になった。
胡坐をかく恵太の前に押し入って座り込み、ぼすっと後ろに寄りかかって遠慮なく体重を預けた。これで大好きなワンワンニャンニャンも観にくいだろう。ザマア見ろ。
「邪魔だな、テメエはいちいちよ」
そう言って両膝を立てたこいつ。俺を足の間に収めて、後ろから腕を回してくる。体の前に巻き付けた腕でぐいっと雑に引き寄せられ、右肩には恵太の顎が乗った。
顔が近い。髪が当たる。うざい。
「重い。邪魔」
「観づれえ。邪魔だ」
邪魔だと言う割に俺を後ろから拘束しているのは恵太。その腕に逆らいもせず、腕の中に収まっているのは俺。
仲の悪さは相変わらずだけど、高校時代とは行動の取り方に多少の変化も生じた俺達。食後のこの体勢だって、今では日常の風景の一つだ。
昔の俺達を知る奴らには、こんなのは絶対に見せたくない。
顔を合わせると欠かさず始まっていた罵り合いが、互いの唇の塞ぎ合いに変化したのはいつからだったか。
何かある度に殴る蹴るの暴行劇を繰り広げていたはずが、気づいた時にはベッドの中でもつれ合う間柄になっていた。
なぜ。どうして。何が起こって。それを考えてもどうせ無駄。
キッカケがなんだったかなんて、今更そんなもの覚えていない。なんとなくウマの合わない俺達が、なんとなくこうなっていただけだ。
「道哉」
「あー」
「コーヒー」
「テメエで淹れて来い」
バカみたいだ。早く死んじゃえ。恵太なんか大嫌い。
コーヒーは気まぐれに飲みたいかもしれない程度のものでしかなかったようで、俺が立つ事を拒否してもこいつはそれ以上要求してこない。ただ小声でボソッと、使えねえとかなんとか。そう言っているのは耳元で聞こえた。だから俺も小声でウゼエと呟く。
険悪な雰囲気の中、目の前のテレビの中では平和な光景が広がっている。デカいゴールデンレトリーバーとすばしっこそうな黒猫が、お互いの身を寄せ合いながら仲睦まじく戯れていた。
犬と猫との異種間でさえああも仲良くなれるというのに、人間同士の俺とこいつはどう頑張っても相容れない。別に仲良くなりたいとも思わないけど。
「……そういやさあ」
「おう」
「今日なんの日か知ってる?」
壁にかかった時計を見れば、今日が終わるまであと四時間少々。
テレビの中の犬猫コンビがやたらとイチャイチャしているのがムカつく。
今日はなんの日か。恵太からはうんともすんとも返ってこない。
こいつは馬鹿だから仕方がないが。年に一度のこの日がなんの日か、そんなのいちいち覚えていられない。
知ってるし。それくらい。ていうか覚えててほしいとか思ってないし。
去年も、一昨年も、その前の年も、毎年こいつがこの日のことを覚えていたのはたまたまだった。
無言の恵太に俺も無言で対抗していると、人をぎゅうぎゅうと抱きしめていた腕がすっと緩んで離れていった。
人の質問に答えもしないでコーヒーでも淹れに行ったか。チラッと顔を上げてみると、恵太はキッチンの方ではなくて自分の部屋に足を向けた。
「けいたー?」
「…………」
「……うっざ」
なんだそれ。シカトかよ。俺のこの置き去りにされた感、意味不明なんですけど。
そのままソファーの前で体育座りになって鬱々とさせられる俺。一人パッとしない思いで半ギレしそうになっていたが、しかし恵太はすぐに戻ってきた。
俺の背後とソファーとの間には恵太がいた分の隙間がまだできている。そこにデカい図体を押し入れ、どさっと粗雑に腰を下ろして再び後ろから腕を回された。
なんだよと、言い返してやるのも煩わしい。むくれたまま無言でいると、何を考えたんだかスッと、左手を取られた。
「なん……」
「…………」
「……は……?」
左の薬指に、硬くて馴染みのない質感。目下には銀色に光るそれ。
恵太の手によって当たり前のように嵌められたそのリングを見て、ちょっと意識が飛びかける。
「やるよ」
「え?」
いや。いやいや。おかしいだろ。
「……なんで」
「いらねえか?」
「え、いや、いる……けど……」
ああ、いるんだ。俺いるんだ、コレ。
動揺が酷い。こいつの突飛な行動のおかげでこっちは頭が付いていかない。
それを無視して恵太はさっぱり何事も無かったかのように、俺の左手を放すとまた後ろからガッチリホールド態勢。そのままワンニャンの試聴を始めた。俺の精神的置き去り感が半端ない。
眠りながら足をピクピクさせている子猫のまったりほっこり動画も、フリスビー選手権で優勝した大型犬の雄姿も、俺の頭には入って来ない。
ぼーっとしたままリングを見下ろし、平静を装って口を開いた。
「……なんでくれたの?」
「あ? 誕生日だろ。いちいち聞かれなくたって覚えてる」
「…………」
ちくしょう。今年も忘れてなかった。こんな単細胞でも同居人の生まれた日くらい記憶しておけるようだ。
なんだかんだで毎年何かしら貰ってきたけど。でもそれにしたって、どうして今回は指輪なんて選んだんだ。どういう意味で指輪を選んで、どういうつもりで、この指に嵌めたか。
お互い四捨五入すればミソジと言われてしまう年齢なわけで、俺は純情キャラでもなければ乙女キャラでもないけれど。
左の薬指に銀色のリングって。そんなのってなんか、まるで。
「なんで指輪……」
「なんとなく」
「…………」
あーはいはい。分かってました、知ってました、聞いた俺が馬鹿でした。
この、単細胞。デリカシー欠男。俺の一瞬の動揺を返せ。
「なんだよ、悪いか。いらねえなら返せ」
うっざ。うっっっざ。
「別に悪いとか言ってないし。くれるなら貰っといてやるよ仕方ねえから」
「ああ? 少しは素直にもの言えねえのかお前」
「その言葉そっくりそのまま返す」
キライ。やっぱ嫌い。すごくキライ。大っ嫌い。
仲良く戯れる犬やら猫やらの映像を前にしながら、俺達の険悪っぷりは激化。
その後もしつこくくっ付いいたまま、小一時間ほどああだこうだと決着のつかない言い合いを続けた。
上から下まで俺はボロボロ。それは隣の恵太も同じ。クラスメイトの幸助から呆れたような顔で言われ、元々きつく寄せていた眉間をさらにグッと険しくさせた。
恵大とは意地でも目を合わせない。一瞬だけチラッと合いそうになり、お互い即座にふいっと逸らした。
「恵太が悪い」
「道哉が悪い」
恵太と声が被った。ムカツク。
すげえキライ。超キライ。ほんとキライ。大っ嫌い。いっそ今すぐ死ねばいいのに。
ひっかき傷はピリピリと痛いし、殴られた頬は重たくて熱いし、弾みで切った口の端からは鉄の味がして不愉快だ。
どれもこれも恵太が全部悪い。恵太も酷い状態だけれど、それでもやっぱりこいつが悪い。
屋上のフェンス越し。恵太と並んで腰を下ろしたまま、またしても不意に目が合いそうになって同時にぱっと視線を外した。
うざい。キライ。全身の神経がビリビリする。なんでこいつこの世に存在してんの。
「まったく……どうしてお前らはそう仲がわりぃんだかな。お互い気に食わねえんなら一緒にいなけりゃいいだろうよ」
「だって恵太が…」
「だって道哉が…」
また被った。
「「…………」」
いちいちムカツク。
***
なんとなく合わない。昔からだ。
仲の悪い原因を考えてもすぐにはパッと思い浮かばない。強いて言うなら対面した瞬間に本能的なものが訴えかけてきた。
こいつキライ。絶対に仲良くなれない。目を合わせるな近寄るな、って。
どうやらそれは恵太も同じだったらしく、初めて会った時からとにかく俺達は仲が悪かった。お互い相手が気に食わないから、顔を合わせればほとんど必ず殴る蹴るの争いが始まる。
俺が恵太を貶せば恵太は俺をぶちのめし、恵太が俺を罵れば俺は恵太に跳び蹴りを食らわす。嬉しくないリピート機能だ。心から馬鹿げていると思う。
こんなくだらない事を日々繰り返さなければならない原因は恵太の存在そのものにあるから、最終的にいつも俺が辿り着くのは一つの難問。
コイツいつ死ぬんだろう。
「けーた」
「気安く呼んでんじゃねえ。なんだよ」
「昨日噛まれたとこ痛ぇんだけど」
「知るか。つーか俺もイテエし。てめえ毎回わざと爪立ててんだろ」
高一の時の初対面は、十年以上も前のこと。顔も見たくない。声を聞くのも嫌。ウゼエからもうさっさと死ね。
お互いそう言い続けている俺達は今、なんでか知らないが同じマンションの同じ部屋に住んでいる。
毎日それぞれ仕事を終えて帰ってきたあとは、見たくもない相手の顔を正面から見ながら食事。地獄だ。
2LDKのまあまあな部屋は男二人で住んでいても狭苦しさは感じない。しかしこいつと同じ空気を吸っていると思うと虫唾が走る。
メシを終えても自室には戻らず、リビングにだけ置いてあるテレビの前では恒例のチャンネル争いが勃発。ソファー前の床に腰を下ろし、軽い取っ組み合いの果てにリモコンは恵太の野郎に取られた。
ガラ悪い見た目してるくせに、ワンニャン特集とかほんわかした番組見てんじゃねえよキモいなこの野郎。
高一の時にはほぼ変わらなかった身長も、卒業時には十八センチ弱もの差を付けられていた。恵太は細身でゴリマッチョではないがこの忌まわしき身長差のせいで、日々の取っ組み合いは俺の方が基本的に若干不利になる。
リモコン争奪戦の勝敗はだいたい三、七くらいの割合で俺が破れていた。敗戦記録ばかりが積み重なっていく。見た目にそぐわないこの馬鹿力と張り合うと俺にだけ疲労が溜まる。
「……疲れた」
「そうかよ」
こいつのせいだ。こいつが悪い。だから恵太に凭れかかって、ささやかな仕返しをしてやるのもここ数年で恒例になった。
胡坐をかく恵太の前に押し入って座り込み、ぼすっと後ろに寄りかかって遠慮なく体重を預けた。これで大好きなワンワンニャンニャンも観にくいだろう。ザマア見ろ。
「邪魔だな、テメエはいちいちよ」
そう言って両膝を立てたこいつ。俺を足の間に収めて、後ろから腕を回してくる。体の前に巻き付けた腕でぐいっと雑に引き寄せられ、右肩には恵太の顎が乗った。
顔が近い。髪が当たる。うざい。
「重い。邪魔」
「観づれえ。邪魔だ」
邪魔だと言う割に俺を後ろから拘束しているのは恵太。その腕に逆らいもせず、腕の中に収まっているのは俺。
仲の悪さは相変わらずだけど、高校時代とは行動の取り方に多少の変化も生じた俺達。食後のこの体勢だって、今では日常の風景の一つだ。
昔の俺達を知る奴らには、こんなのは絶対に見せたくない。
顔を合わせると欠かさず始まっていた罵り合いが、互いの唇の塞ぎ合いに変化したのはいつからだったか。
何かある度に殴る蹴るの暴行劇を繰り広げていたはずが、気づいた時にはベッドの中でもつれ合う間柄になっていた。
なぜ。どうして。何が起こって。それを考えてもどうせ無駄。
キッカケがなんだったかなんて、今更そんなもの覚えていない。なんとなくウマの合わない俺達が、なんとなくこうなっていただけだ。
「道哉」
「あー」
「コーヒー」
「テメエで淹れて来い」
バカみたいだ。早く死んじゃえ。恵太なんか大嫌い。
コーヒーは気まぐれに飲みたいかもしれない程度のものでしかなかったようで、俺が立つ事を拒否してもこいつはそれ以上要求してこない。ただ小声でボソッと、使えねえとかなんとか。そう言っているのは耳元で聞こえた。だから俺も小声でウゼエと呟く。
険悪な雰囲気の中、目の前のテレビの中では平和な光景が広がっている。デカいゴールデンレトリーバーとすばしっこそうな黒猫が、お互いの身を寄せ合いながら仲睦まじく戯れていた。
犬と猫との異種間でさえああも仲良くなれるというのに、人間同士の俺とこいつはどう頑張っても相容れない。別に仲良くなりたいとも思わないけど。
「……そういやさあ」
「おう」
「今日なんの日か知ってる?」
壁にかかった時計を見れば、今日が終わるまであと四時間少々。
テレビの中の犬猫コンビがやたらとイチャイチャしているのがムカつく。
今日はなんの日か。恵太からはうんともすんとも返ってこない。
こいつは馬鹿だから仕方がないが。年に一度のこの日がなんの日か、そんなのいちいち覚えていられない。
知ってるし。それくらい。ていうか覚えててほしいとか思ってないし。
去年も、一昨年も、その前の年も、毎年こいつがこの日のことを覚えていたのはたまたまだった。
無言の恵太に俺も無言で対抗していると、人をぎゅうぎゅうと抱きしめていた腕がすっと緩んで離れていった。
人の質問に答えもしないでコーヒーでも淹れに行ったか。チラッと顔を上げてみると、恵太はキッチンの方ではなくて自分の部屋に足を向けた。
「けいたー?」
「…………」
「……うっざ」
なんだそれ。シカトかよ。俺のこの置き去りにされた感、意味不明なんですけど。
そのままソファーの前で体育座りになって鬱々とさせられる俺。一人パッとしない思いで半ギレしそうになっていたが、しかし恵太はすぐに戻ってきた。
俺の背後とソファーとの間には恵太がいた分の隙間がまだできている。そこにデカい図体を押し入れ、どさっと粗雑に腰を下ろして再び後ろから腕を回された。
なんだよと、言い返してやるのも煩わしい。むくれたまま無言でいると、何を考えたんだかスッと、左手を取られた。
「なん……」
「…………」
「……は……?」
左の薬指に、硬くて馴染みのない質感。目下には銀色に光るそれ。
恵太の手によって当たり前のように嵌められたそのリングを見て、ちょっと意識が飛びかける。
「やるよ」
「え?」
いや。いやいや。おかしいだろ。
「……なんで」
「いらねえか?」
「え、いや、いる……けど……」
ああ、いるんだ。俺いるんだ、コレ。
動揺が酷い。こいつの突飛な行動のおかげでこっちは頭が付いていかない。
それを無視して恵太はさっぱり何事も無かったかのように、俺の左手を放すとまた後ろからガッチリホールド態勢。そのままワンニャンの試聴を始めた。俺の精神的置き去り感が半端ない。
眠りながら足をピクピクさせている子猫のまったりほっこり動画も、フリスビー選手権で優勝した大型犬の雄姿も、俺の頭には入って来ない。
ぼーっとしたままリングを見下ろし、平静を装って口を開いた。
「……なんでくれたの?」
「あ? 誕生日だろ。いちいち聞かれなくたって覚えてる」
「…………」
ちくしょう。今年も忘れてなかった。こんな単細胞でも同居人の生まれた日くらい記憶しておけるようだ。
なんだかんだで毎年何かしら貰ってきたけど。でもそれにしたって、どうして今回は指輪なんて選んだんだ。どういう意味で指輪を選んで、どういうつもりで、この指に嵌めたか。
お互い四捨五入すればミソジと言われてしまう年齢なわけで、俺は純情キャラでもなければ乙女キャラでもないけれど。
左の薬指に銀色のリングって。そんなのってなんか、まるで。
「なんで指輪……」
「なんとなく」
「…………」
あーはいはい。分かってました、知ってました、聞いた俺が馬鹿でした。
この、単細胞。デリカシー欠男。俺の一瞬の動揺を返せ。
「なんだよ、悪いか。いらねえなら返せ」
うっざ。うっっっざ。
「別に悪いとか言ってないし。くれるなら貰っといてやるよ仕方ねえから」
「ああ? 少しは素直にもの言えねえのかお前」
「その言葉そっくりそのまま返す」
キライ。やっぱ嫌い。すごくキライ。大っ嫌い。
仲良く戯れる犬やら猫やらの映像を前にしながら、俺達の険悪っぷりは激化。
その後もしつこくくっ付いいたまま、小一時間ほどああだこうだと決着のつかない言い合いを続けた。
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