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第三部
117.新境地Ⅰ
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「同棲」
「ルームシェアだ」
「同棲だろ」
「うるせえ居候が」
「居候じゃねえよ同棲だもん」
「犬小屋作って外に放り出すぞ」
引っ越ししてから早三ヶ月。暮らし方の名前にこだわりたがるのは、やかましいくて鬱陶しいこの同居人。
二人暮らし向けの賃貸ではあるが契約名義は俺にした。何せこいつはタマ山ポチ太だ。方々で偽名を使わせるよりも、俺が代わった方がリスクは低い。
「気をつけろよ恭介。あんま裕也怒らせてるとそのうち本当に追い出されるぞ」
カウンター付近を煙で真っ白にさせながら昭仁さんが言った。
その隣に加賀の姿はない。雇い主に煙草の買い出しを頼まれ、笑顔でパシられに行ったのがついさっき。
あいつは最近ちゃんとした正式なルートで身分証を手に入れた。コンビニのレジで年齢確認証の提示を求められてももうキョドらない。
微妙に治安が良くないエリアだからかそこのコンビニの確認作業はまあまあ厳重で甘くないらしいが、身分証を持ってしまったがために加賀の仕事がまた増えた。可哀想に。
そうやって子犬を平気でパシる非道な店主は、相変わらずスパスパスパスパ。
「にしてもまあ、なんだかんだ上手くいってるよなお前ら。同棲するなんて聞いたときは三日と持たねえんじゃねえかと正直思ってた」
「同居だ」
「同居でも同棲でもなんでもいいけどよ、そろそろ恭介のツケなんとかなんねえか」
「なんで俺に言うんだよ」
「飼い主の義務だろ」
「そんな義務はねえ。たまりにたまったツケは毟り取ってでもこの野郎に払わせろ。身ぐるみ剥ぐってんなら手伝う」
「だとよー、恭介」
「裕也のエッチ」
「殺すぞ」
イライラついでに視線を上げて、煙の向こうの壁を見やった。店の奥の少し出っ張っている柱にはシックな時計がかかっている。
少し前までこの店にそんな気の利いたものはなかった。いや正確には元々あったのだが、その元々の時計が古くてボロろくてしょっちゅう狂ったり止まったりしていた。安っぽいそれがとうとう壊れたと言って昭仁さんが撤去したため結構前からここに時計はなかった。
でも今はある。ちゃんとしたヤツが。
あれを見繕ってきてそこに掛けたのはもちろん加賀だ。おかげでこの堕落した店にも時間の概念が備わった。
二十二時半を過ぎた。ここに来てまだ一時間も経っていないが、数秒迷い、結局、席を立った。
隣からはすかさずネコ山ワン太が見上げてくる。
「どした?」
「……野暮用だ。お前も程々にして帰れよ」
「また店戻るの?」
「…………」
「おっちゃんによろしく」
「黙れ」
同居人の酒代はもちろん含めず、金を置いてミオを出てきた。
「ルームシェアだ」
「同棲だろ」
「うるせえ居候が」
「居候じゃねえよ同棲だもん」
「犬小屋作って外に放り出すぞ」
引っ越ししてから早三ヶ月。暮らし方の名前にこだわりたがるのは、やかましいくて鬱陶しいこの同居人。
二人暮らし向けの賃貸ではあるが契約名義は俺にした。何せこいつはタマ山ポチ太だ。方々で偽名を使わせるよりも、俺が代わった方がリスクは低い。
「気をつけろよ恭介。あんま裕也怒らせてるとそのうち本当に追い出されるぞ」
カウンター付近を煙で真っ白にさせながら昭仁さんが言った。
その隣に加賀の姿はない。雇い主に煙草の買い出しを頼まれ、笑顔でパシられに行ったのがついさっき。
あいつは最近ちゃんとした正式なルートで身分証を手に入れた。コンビニのレジで年齢確認証の提示を求められてももうキョドらない。
微妙に治安が良くないエリアだからかそこのコンビニの確認作業はまあまあ厳重で甘くないらしいが、身分証を持ってしまったがために加賀の仕事がまた増えた。可哀想に。
そうやって子犬を平気でパシる非道な店主は、相変わらずスパスパスパスパ。
「にしてもまあ、なんだかんだ上手くいってるよなお前ら。同棲するなんて聞いたときは三日と持たねえんじゃねえかと正直思ってた」
「同居だ」
「同居でも同棲でもなんでもいいけどよ、そろそろ恭介のツケなんとかなんねえか」
「なんで俺に言うんだよ」
「飼い主の義務だろ」
「そんな義務はねえ。たまりにたまったツケは毟り取ってでもこの野郎に払わせろ。身ぐるみ剥ぐってんなら手伝う」
「だとよー、恭介」
「裕也のエッチ」
「殺すぞ」
イライラついでに視線を上げて、煙の向こうの壁を見やった。店の奥の少し出っ張っている柱にはシックな時計がかかっている。
少し前までこの店にそんな気の利いたものはなかった。いや正確には元々あったのだが、その元々の時計が古くてボロろくてしょっちゅう狂ったり止まったりしていた。安っぽいそれがとうとう壊れたと言って昭仁さんが撤去したため結構前からここに時計はなかった。
でも今はある。ちゃんとしたヤツが。
あれを見繕ってきてそこに掛けたのはもちろん加賀だ。おかげでこの堕落した店にも時間の概念が備わった。
二十二時半を過ぎた。ここに来てまだ一時間も経っていないが、数秒迷い、結局、席を立った。
隣からはすかさずネコ山ワン太が見上げてくる。
「どした?」
「……野暮用だ。お前も程々にして帰れよ」
「また店戻るの?」
「…………」
「おっちゃんによろしく」
「黙れ」
同居人の酒代はもちろん含めず、金を置いてミオを出てきた。
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