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第三部
115.男の会話
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『……よく聞いてろ』
威嚇でもするかのような、男の声が低く響いた。
ニヤッと口角を吊り上げたのはそれを聞いたこの男。深々と椅子に腰かけたまま、一方的に流れてくるだけの音声に向かって言い立てた。
「おーおーおー、ようやく気づきよった。遅いやろ今かい。アホなんかこいつ」
スピーカーから聞こえてくるのはもう一人、別の男だ。艶っぽい声ではあっても男だとはっきり分かる。
男の嬌声を堂々と盗み聞くこの男はまたもククッと笑った。そんな彼のデスクのすぐそばで、腕を組んで立っているのはニコリともしない長身の男。流れてくる音声に聞き入る男を、呆れ返った目で見下ろした。
「お前はまた悪趣味な……」
「ええやろコレ、最新型やで。まだ試用らしいけどな。発見器は回避できるいう話やねんけど物理で見つかったらまあ終わりや」
「このアホが」
それは宮瀬裕也の服に仕込まれた。ベルトの裏側。極めて小さな、いわゆる盗聴器。
盗み聞きを実行するための道具は今しがた発見され、発見した竜崎恭介による威嚇を受けたこの男。良く聞いとけ。言われたその通り赤城和明は音声を垂れ流し、それを聞かされる神谷はうんざりと溜め息交じりに呟いた。
「……まさかとは思うがそれのために殴られてやったのか」
「気になるやん、あないなベッピンが男の下でどう鳴くんか。出来の良すぎるどこぞの部下のせいで食いっぱぐれたしな」
「お前の血筋大丈夫かよ」
「うん……滅ぶかもしれへん。アカン、今気づいた。一人の男に一族の血を絶たれるってめっちゃファンタジーやない?」
「…………」
深々とつかれた溜め息。それを気にしないのが赤城という男だ。
「えーてか待ってナニコレ別人? あの兄ちゃんがこないなことになるん?」
「男の喘ぎ声聞いて何が楽しいんだ」
「この子は別格やろー。あれだけの上モノでおまけにコレやで。すごいな。えっぐ。エッッグ。え、こんな変わる? あかーん」
「…………」
部下による軽蔑の眼差しなど気にも留めない。
「あの恭介が惚れ込むわけや。こないな子はなかなかおらへん」
「生意気なだけのクソガキじゃねえか」
「分かってへんな、そこがエエんやろ」
彼には時々新しいオモチャができる。大抵はすぐに飽きるが、今回はそうでもないと当たりを付けた。
新しく見つけたばかりのそれを、スピーカー越しにうっとり眺めた。
「宮瀬裕也くんなぁ。かわええなあ」
「いい加減にしとけよお前……」
「しゃあないやん。たまらん、この声。さっそく恋しい。犯したい」
「分かったもういい。好きにしろ」
これ以上は耐えられないとでも言わんばかりに部屋から出ていく。職業のわりに潔癖な部下を面白おかしく笑い飛ばし、赤城の注意は再びスピーカーへと。
生々しい声を聞きながら、椅子の背にゆったりともたれかかり、赤城和明はふふっと笑った。
「また会おうな兄ちゃん」
にこやかに零された彼の声を、聞いた人間は誰もいない。
威嚇でもするかのような、男の声が低く響いた。
ニヤッと口角を吊り上げたのはそれを聞いたこの男。深々と椅子に腰かけたまま、一方的に流れてくるだけの音声に向かって言い立てた。
「おーおーおー、ようやく気づきよった。遅いやろ今かい。アホなんかこいつ」
スピーカーから聞こえてくるのはもう一人、別の男だ。艶っぽい声ではあっても男だとはっきり分かる。
男の嬌声を堂々と盗み聞くこの男はまたもククッと笑った。そんな彼のデスクのすぐそばで、腕を組んで立っているのはニコリともしない長身の男。流れてくる音声に聞き入る男を、呆れ返った目で見下ろした。
「お前はまた悪趣味な……」
「ええやろコレ、最新型やで。まだ試用らしいけどな。発見器は回避できるいう話やねんけど物理で見つかったらまあ終わりや」
「このアホが」
それは宮瀬裕也の服に仕込まれた。ベルトの裏側。極めて小さな、いわゆる盗聴器。
盗み聞きを実行するための道具は今しがた発見され、発見した竜崎恭介による威嚇を受けたこの男。良く聞いとけ。言われたその通り赤城和明は音声を垂れ流し、それを聞かされる神谷はうんざりと溜め息交じりに呟いた。
「……まさかとは思うがそれのために殴られてやったのか」
「気になるやん、あないなベッピンが男の下でどう鳴くんか。出来の良すぎるどこぞの部下のせいで食いっぱぐれたしな」
「お前の血筋大丈夫かよ」
「うん……滅ぶかもしれへん。アカン、今気づいた。一人の男に一族の血を絶たれるってめっちゃファンタジーやない?」
「…………」
深々とつかれた溜め息。それを気にしないのが赤城という男だ。
「えーてか待ってナニコレ別人? あの兄ちゃんがこないなことになるん?」
「男の喘ぎ声聞いて何が楽しいんだ」
「この子は別格やろー。あれだけの上モノでおまけにコレやで。すごいな。えっぐ。エッッグ。え、こんな変わる? あかーん」
「…………」
部下による軽蔑の眼差しなど気にも留めない。
「あの恭介が惚れ込むわけや。こないな子はなかなかおらへん」
「生意気なだけのクソガキじゃねえか」
「分かってへんな、そこがエエんやろ」
彼には時々新しいオモチャができる。大抵はすぐに飽きるが、今回はそうでもないと当たりを付けた。
新しく見つけたばかりのそれを、スピーカー越しにうっとり眺めた。
「宮瀬裕也くんなぁ。かわええなあ」
「いい加減にしとけよお前……」
「しゃあないやん。たまらん、この声。さっそく恋しい。犯したい」
「分かったもういい。好きにしろ」
これ以上は耐えられないとでも言わんばかりに部屋から出ていく。職業のわりに潔癖な部下を面白おかしく笑い飛ばし、赤城の注意は再びスピーカーへと。
生々しい声を聞きながら、椅子の背にゆったりともたれかかり、赤城和明はふふっと笑った。
「また会おうな兄ちゃん」
にこやかに零された彼の声を、聞いた人間は誰もいない。
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