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第三部
99.出会いと遭遇の裏側Ⅱ
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「平気か」
「そう見えるか」
「なんか今日いつもより疲れてた?」
「分かってんなら加減しろよ……」
「裕也が色っぽい目で誘ってくるからつい」
「…………」
殺意が芽生えた。
パチ屋で奇妙な客の相手をしたこの日。バイトを終えるとミオに行った。ミオで騒いで過ごした後は、竜崎の部屋に二人で戻った。
今日は嫌だ。そうやって完全拒否を決め込む俺にこの男は応じなかった。愛の営み。こいつはそう言う。愛だのなんだのは知らないが、おかげで今の俺は朽ち果てそうだ。
うつ伏せのままシーツに沈み、顔だけはこいつの反対側に向ける。しかし隣から伸びてくる腕はしつこい。振り払うだけの気力もないから、横から覆い被さるように腕を回されても許すしかなかった。
重い。少しでも労わる気があるならとりあえず退いてほしい。こいつといると体力的な負荷が必要以上にデカくなる。
「裕也ってさぁ」
「……んだよ」
「ツンデレってやつだよな」
「…………死ね」
そんな単語は久々に聞いた。使ってる奴もう誰もいないだろ。
クスクス笑いながら唇をうなじに寄せられた。こいつには恥もクソもない。甘ったるい触り方にはいつまでも慣れないから小さく身じろぐ。
いつまでも唇で肌に触れてくる。若干イラッとしてきて顔を向けると、やめろというつもりで睨みつけたのになぜかキスされ、目を閉じた。
調子が狂う。どうしようもない。やわらかいキスを黙って受け取る。される事を全て許してしまうのは、こいつを笑わせるだけなのに。
「かわいい」
「マジ死ねよお前」
悪態をついてみるにはみるもののその手にはもう逆らえない。促されるままこの男に体ごと向き直った。抱きしめられ、俺もその腰に腕を回して、もう一度ゆっくり唇を合わせた。
そこに真新しさなんてないはず。飽きるほど何度もしてきた。そろそろウンザリしたい頃だが、こいつのバカは人に感染するようだ。俺はもはや末期だろう。
「ん……まだ……」
離れていきそうになり、口をついて出る。その首に腕を回してやんわりと引き寄せた。
すぐに包み込まれる。優しく触れてくる。大きな手のひらと、長い指。触れる感覚も絡まる舌も、気持ちいいのはいつも変わらない。
熱っぽく与えられるキスは、時々遊ぶようにして焦らされる。わざとだと知ってはいてもすぐに埋めたい。ぐいっと引き寄せ、濡れた唇をしつこく食んだ。
「ふ……」
俺がしてほしいことをこいつはするから、やったらその分やり返される。ほとんど動物のじゃれ合いに近い。これが自分の日常になるとは、人生ってやつは分からない。
「やっぱツンデレ」
「それもう死語だろ」
「一番しっくり来ると思う」
「こねえよ」
ストレスであって、ストレスにはならない。大嫌いなはずなのにそれだけじゃない。
穏やかに流れるこの時間は手放せないものになっている。体の奥底からうずいてくるようなこの感情を表すならきっと、だいたいの人間はこう口を開く。
「今のこれは幸せってやつだな」
窮屈なベッドの中で窮屈に俺を抱きしめ、竜崎がやわらかい口調で言った。どこか甘えてくるかのような声。俺を抱く腕は、ひどく優しい。
「……言ってろバカ」
こっちがどれだけ毒づいたところで満足そうに笑われたら終わり。たとえ何も言わなくても、この男には全部見透かされている。
「なあ、裕也」
腰を撫でられ、額にキスされ、抱きつく。抱いて返される。足をスッと絡めてきながら、こいつは無邪気を装って笑った。
「もう一回シていい?」
「…………」
絞め殺してえなとは、時々思う。
「そう見えるか」
「なんか今日いつもより疲れてた?」
「分かってんなら加減しろよ……」
「裕也が色っぽい目で誘ってくるからつい」
「…………」
殺意が芽生えた。
パチ屋で奇妙な客の相手をしたこの日。バイトを終えるとミオに行った。ミオで騒いで過ごした後は、竜崎の部屋に二人で戻った。
今日は嫌だ。そうやって完全拒否を決め込む俺にこの男は応じなかった。愛の営み。こいつはそう言う。愛だのなんだのは知らないが、おかげで今の俺は朽ち果てそうだ。
うつ伏せのままシーツに沈み、顔だけはこいつの反対側に向ける。しかし隣から伸びてくる腕はしつこい。振り払うだけの気力もないから、横から覆い被さるように腕を回されても許すしかなかった。
重い。少しでも労わる気があるならとりあえず退いてほしい。こいつといると体力的な負荷が必要以上にデカくなる。
「裕也ってさぁ」
「……んだよ」
「ツンデレってやつだよな」
「…………死ね」
そんな単語は久々に聞いた。使ってる奴もう誰もいないだろ。
クスクス笑いながら唇をうなじに寄せられた。こいつには恥もクソもない。甘ったるい触り方にはいつまでも慣れないから小さく身じろぐ。
いつまでも唇で肌に触れてくる。若干イラッとしてきて顔を向けると、やめろというつもりで睨みつけたのになぜかキスされ、目を閉じた。
調子が狂う。どうしようもない。やわらかいキスを黙って受け取る。される事を全て許してしまうのは、こいつを笑わせるだけなのに。
「かわいい」
「マジ死ねよお前」
悪態をついてみるにはみるもののその手にはもう逆らえない。促されるままこの男に体ごと向き直った。抱きしめられ、俺もその腰に腕を回して、もう一度ゆっくり唇を合わせた。
そこに真新しさなんてないはず。飽きるほど何度もしてきた。そろそろウンザリしたい頃だが、こいつのバカは人に感染するようだ。俺はもはや末期だろう。
「ん……まだ……」
離れていきそうになり、口をついて出る。その首に腕を回してやんわりと引き寄せた。
すぐに包み込まれる。優しく触れてくる。大きな手のひらと、長い指。触れる感覚も絡まる舌も、気持ちいいのはいつも変わらない。
熱っぽく与えられるキスは、時々遊ぶようにして焦らされる。わざとだと知ってはいてもすぐに埋めたい。ぐいっと引き寄せ、濡れた唇をしつこく食んだ。
「ふ……」
俺がしてほしいことをこいつはするから、やったらその分やり返される。ほとんど動物のじゃれ合いに近い。これが自分の日常になるとは、人生ってやつは分からない。
「やっぱツンデレ」
「それもう死語だろ」
「一番しっくり来ると思う」
「こねえよ」
ストレスであって、ストレスにはならない。大嫌いなはずなのにそれだけじゃない。
穏やかに流れるこの時間は手放せないものになっている。体の奥底からうずいてくるようなこの感情を表すならきっと、だいたいの人間はこう口を開く。
「今のこれは幸せってやつだな」
窮屈なベッドの中で窮屈に俺を抱きしめ、竜崎がやわらかい口調で言った。どこか甘えてくるかのような声。俺を抱く腕は、ひどく優しい。
「……言ってろバカ」
こっちがどれだけ毒づいたところで満足そうに笑われたら終わり。たとえ何も言わなくても、この男には全部見透かされている。
「なあ、裕也」
腰を撫でられ、額にキスされ、抱きつく。抱いて返される。足をスッと絡めてきながら、こいつは無邪気を装って笑った。
「もう一回シていい?」
「…………」
絞め殺してえなとは、時々思う。
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