No morals

わこ

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第二部

82.記憶Ⅰ

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 そろそろ寝よう。そんな頃、裕也のスマホが音を立てた。
 裸のまま布団の中から気だるげに腕だけ出して、探り出した小さな精密機械を面倒くさそうに確認した裕也。隣からそれを見ていたが、画面の表示を見たのだろうそのあと、こいつはすぐに着信を切った。

「出ねえの?」
「……ああ」

 電話だったと思うが応じもせずに、素っ気なく電源まで落として布団の中に潜り込んだ。分かりにくい程度に寄ってくるから、こちらから引き寄せて抱きしめてやる。
 すでに裕也は眠りに就く態勢。それ以上は聞かずに俺も黙った。


 いつまでたってもいくつになっても、女々しいままで成長しない。強くもなければ大人ですらない。ただもう、とにかく、情けないばかりだ。
 どんな流れでそんな話になったのだったか、裕也が以前そんなことを言っていた。ぼそっと独り言のように。弱気な表情と口調や言葉が、あいつにしては珍しかった。

 時々寂しそうな顔をする。それには前から気づいていた。滅多に表には出さないけれど、見てしまった時は気づかないフリをする。
 俺に見られるのは嫌だろう。誰にも見られたくない顔を安心して晒せる場所と時間くらい、黙って作ってやるくらいは俺にでも。
 そんなふうに思っていたが、それではダメだったのかもしれない。

 自分自身がこうだから、踏み込みきれない。超えていい線が分からない。
 俺は未だにあいつのことを、何一つとして知らないままだ。






***






「なんでつけねえの?」
「だからもう穴塞がってんだよ。そのうち気が向いたらな」
「うわ何それ、絶対つける気ねえだろ」
「分かってんなら面倒なもん寄越してくんじゃねえよグズ」

 裕也に先日ピアスを贈った。それはほんの気まぐれだった。裕也のスパルタ料理教室のおかげでなかなかの節約になったのと、加えて給料を受け取ったばかりで懐がやや温かかったから。
 裕也は元々右側の耳にだけピアスをつけていた。壊れて一度は失くしたピアスだ。あの時の裕也が地面にへばりついて、必死に探していたのは覚えている。

 あれ以来耳に何かつけているのを見たことがない。どうやら持っていたのは壊れてしまったその一つだけだったようだ。新しいものを揃える気配もなく、あの時の懸命な様子からも大事にしていたようだったから、そもそもあのピアスのためだけに空けていた穴なのかもしれない。
 最近つけていないのは知っていても、つける習慣がない訳じゃないはず。ならば贈ってもいいだろう。ピアスを贈りたかった理由には、そのほかにももう一つ。

「お前は指輪なんか死んでもハメねえだろ。ピアスならまだおとなしくつけるかと思ったんだよ」
「はあ?」

 本当なら指輪でも買いたかった。しかし裕也なら確実に嫌がる。もっと言うなら多分殴られる。
 そこで俺の目がとまったのは、同じ店のガラス越しに飾られていた、コロッとした小さなピアス。

「俺もな、これ。同じの」

 カウンターに肘をついて裕也から見えるように体ごと向けた。裕也からは反対側の位置。耳たぶを指さして見せてやる。
 裕也に渡したのと同じピアスだ。それを片側にだけつけてある。最初の数秒は唖然としていた裕也の顔面はみるみる赤く。目を大きく見開きながら口をパクパクさせている。かわいい。

「愛の形ってやつ」
「あ……アホかッ! バカじゃねえの!? 俺は絶対つけねえかんなッ、お前も外せ!!」

 やっぱりな。そう言うと思った。指輪なんて渡したら殺されていた。
 全力拒否は免れないだろうからやむを得ずリングを諦め、その代わりに選んだピアス。俺達が出会ったあの時に、壊れた物に少し似ているかもしれない。
 色はたぶん違ったと思う。これは緑。たしかあれは赤だった。しかしそれ以外はどことなく重なる。小さな石が嵌め込まれた、シンプルなデザインのそれ。

「いいじゃんかこれくらい、照れんなよ。俺らは愛し合ってますっていうアピール?」
「やめろっ」
「お前らイチャつくんなら店出てやれ」

 忘れていた訳じゃないけどここはミオのカウンター。昭仁さんにイジられるや否や裕也は過敏に反応して吠えた。

「んな事するかっ、このアホがいつにも増して頭イカれてるだけだ!」
「ひでー。少しは素直になれよ」
「お前が少しはまともになれッ」

 毒づいているのに赤くなった顔面は隠せていない。かわいい。そしてそんな裕也に追い打ちをかけるのは、俺でも昭仁さんでもなく、純粋すぎる天然な男。

「なんかあれですね。揃いのピアスってプロポーズっぽい?」

 樹の感想に裕也は絶句。天然って最強なんじゃねえかと思う。
 一切の悪気なく和やかに言ってのけた樹に、裕也は項垂れて何も言えない。相手が樹だと怒鳴ることもできず、まるで俺が仕向けたとでも言いたげにギッと目を向けてきた。

「いや俺なんもしてねえし」
「テメエは存在そのものが悪だ」

 辛辣。
 樹に何も言えないからと言ってそうやって俺に八つ当たりしながら、屈辱にじっと耐えていた裕也はふっと少しだけ顔を上げた。音がする。発信源は裕也。の、ポケット。チノパンの後ろにダルそうに手を伸ばし、手にしたスマホ。それを俺の隣で眺めた。

「…………」

 眉間の縦筋がスッと消えた。その顔のまま、即座に着信を切った。そして何事もなかったかのようにスマホは再びポケットの中へ。

「いいのか?」
「…………別に」

 素っ気ない。それはいつもの事なのだが、神妙なその顔つきは気になる。

「……なんかあったか?」
「…………」

 最近こういうことが多い。つい二日前もそう。ミオからの帰りがけに俺の部屋に連れ込んだ時と、その翌朝もまた同じように。
 何かから逃げるかのような。チラリとだけ画面を見ると、目を逸らして一方的に着信を切る。それをここのところ繰り返していた。

 仮にかけてきている相手がいつも同じ人物だとして、裕也の性格を考えるならば着信拒否くらいの対応が妥当のようにも思えるが。それをせず、スマホを切った後のこの妙に重い雰囲気。何かあるのは確かだろう。
 俺が聞いても素直に答えないのは分かっているから黙っていると、その代わりにカウンターから昭仁さんが声をかけてきた。

「どうせ昔の女だろ。お前もなんだかんだで方々から恨み買ってそうだよな」
「……違ぇし」

 こんなからかわれ方をしても裕也の反応はやはり薄い。ただ小さく溜め息をついただけ。その溜め息は、何を意味しているのだか。
 こいつは自分のことをあまり話さない。そもそも口数の多い方ではないが、自分の話になると一層だ。しつこくかけてくる相手が誰なのか俺が聞いたところで言わないだろう。お前には関係ねえ引っ込め死ね。返答はきっとこんな感じになる。

 限りなく正解に近いはずの妄想を頭の中で繰り広げていると、古いドアがギィッと音を立てた。開閉音による条件反射で樹がピョコッと顔を上げている。
 そういえばいつだったか裕也が、「加賀って時々ミーアキャットっぽい」とかなんとか不思議なことを言っていた。
 もしかするとこれか。これのことか。こういう動作を俺もしてみればちょっとは優しくしてもらえるかもしれない。

「いらっしゃいませ」
「よう。久々じゃねえか」

 店に入ってきた客にカウンターから二人が声をかけた。長距離のドライバーをしている男だ。
 体格のいいそいつは昭仁さんとも古い付き合いだと聞いている。カウンターまで歩いてくると、そのままそこで話し始めた。

「しばらく見ねえからアル中で死んだかと思ってたよ」
「よせよ縁起でもねえ。それ言ったらアンタは肺やられてもうとっくにくたばってるだろ」
「本望だな。仕事か?」
「ああ。三日前に戻ったばっかだ」

 ここに来る客は皆お互い顔見知りばかりだ。いつも騒いでいる俺達の関係もこの店内ではすっかりお馴染みになっている。
 真っ当で真面目に生きているとはとても言えない連中だからか、余興代わりに見世物にされることはあっても非難されることはまずない。この場所に来ればさすがの裕也もいくらか肩の力が抜けるのだろう。外では手を繋ぐことさえ許してはもらえないが、ここでは俺の言動にも逐一付き合って怒鳴り返してくる。

「ああなあ、そうだ裕也。お前なんかやらかしたか?」
「あ?」

 その裕也に向けてふと、昭仁さんとの世間話中だったそいつが思い出したようにそう言った。裕也は裕也で隣に歩いてきたそいつの顔を、首をかしげて見上げている。

「お前のこと探してる女がいるぞ。スマホ片手にあちこちで写真見せて聞き回ってる」
「え……?」

 そこでガラッと、裕也の顔色が変わった。わずかに目を大きくさせて、そしてすぐ後に眉間を寄せた。

「お前昔からその不機嫌そうなツラ変わんねえのな。あんなガキは俺でも嫌だぞ。制服着てたし、たぶん高校くらいの写真か?」
「…………なあ」

 普段ならば食って掛かるような言われようにも、今の裕也はそれどころではないらしい。どこか緊張したような面持ちで表情を険しくさせていた。

「それ、いつの話だ」
「あ? あー、三日前だな。戻って来た日だから。知り合いか? 髪長くて、三十前くらいの。気は強そうだけどなかなかの美人だった」

 説明はだいぶ大雑把。しかし裕也には思い当たる節があったようだ。なんらかの確信を得たのか表情がさらに硬くなっていく。

「俺のこと喋った……?」
「まさか。お前に恨まれて病院送りなんてごめんだからな。だけどありゃしつこそうだったぞ。俺が飲んでた店でも片っ端から聞いて回ってた。探し出されんのも時間の問題じゃねえのか」
「…………」

 昭仁さんに持たされた酒瓶を持ってその男が飲み仲間の所へ行っても、裕也は何も言わないまま一人でじっとどこかを睨んでいた。飲むわけでもなくグラスを握りしめ、時々、おそらくはほとんど無意識に溜め息を洩らしている。

「裕也……?」
「…………」
「大丈夫か?」
「……何が」

 それは俺が聞きたいところだが、何を聞くなという意味も分かった。
 気の強そうななかなかの美人。そいつが裕也を探している。裕也も心当たりがありそうな様子だ。そうなればもう、ひどく気になる。

 もどかしさの中、裕也の顔を覗き込んでも一向に視線は合わない。カウンター内の二人と顔を見合わせ、こぞって首を傾げながらも裕也を見守ることしかできなかった。
 誰に探されているんだ。制服を着ている時代の写真一枚で手当たり次第。それってかなりの、執念じゃないか。過去の裕也を知っている誰かだ。
 疑問と不安ばかりが募るが裕也はそれきり無言になってしまった。しかしそれも十数分。長距離ドライバーの客がやって来てからさほど経っていないうちに、再び開いかれた店のドア。

 なんとはなしに顔を向けた。この店には似つかわしくない、キッチリとした服装が目に入る。
 オフィスカジュアル。とでも言うのか。下品なんて言葉からは縁遠い、髪の長い美人な女だ。この店に女性客が来ること自体が稀ではあるが、目元をややキツくさせたその人はカツカツと歩いてくる。
 それまで黙り込んでいた裕也も、俺達が揃ってそっちに目を向けていればいくらなんでも気が付くだろう。厳しい表情のまま顔を上げ、俺達と同じ方に目を向けた。
 途端に、はっと息をのむ。裕也の緊張を横で感じ取った。

「…………奈緒」

 ナオ。確かに、そう言った。ほとんど唇は動いていなかったが、裕也の口から小さく零れた。
 その声によって俺達の視線が今度は裕也に集中するが、本人は女から目を離せずにいる。女の名前だろうそれを呟いたことからも知り合いなのは確実。呼ばれた方は呼ばれた方で、裕也をジロリと睨みつけたまま硬い表情を崩さない。
 ツカツカと歩いて行った先、やはり止まったのは裕也のすぐそば。上体だけで向き直った裕也を忌々しげに睨み付け、女はきつく眉を寄せると躊躇うことなく手を振り上げた。

「ッの、バカタレ……っ!!」

 パシンッ、と高く、しかし重い音がその瞬間に大きく響いた。女の平手が裕也の頬を打った。俺達三人を含め周囲にいた人間は一斉に目を見張る。
 裕也に平手。その上バカタレ。俺だったら殺される。しかしその女は止まらなかった。

「何やってんのアンタッ……! あたしにどれだけ手を焼かせるつもりっ!?」

 シンと、瞬時にして静まり返った店内には女の怒声だけが響き渡った。いつもは和やかな騒がしさを漂わす空間。この時ばかりは突如現れた女の言動によって張りつめている。
 どう見ても怒り心頭の女は周りにいる俺達など眼中にはないようだ。見た目を裏切る豪快さでもって裕也の胸倉にガッと掴みかかり、力任せに椅子から引きずり下ろして自分の目の前に無理やり立たせた。
 ヒールがあるためそこまで差はないが若干低い位置から裕也を睨み上げ、何も言わず、ただ気まずそうに俯く裕也に怒りを向けている。

「何度かけたって電話にも出ないでっ、ふざけんのもいい加減にしなさい!」
「……出ただろ」
「半年も前の話でしょッ……あれからどれだけ連絡取ろうとしたか分かってんの!?」
「…………」

 すごい剣幕だ。圧倒されるより他にない俺達は一様に口を閉じて見守った。
 女は怒鳴り、裕也は気まずそうに目を逸らし、訳アリなのは一目瞭然。その憤りだけで裕也を今にも殺せそうな勢いの女は、一向に目を合わせようとしないその態度にもキレたようだ。

「聞いてんのっ!?」
「……うるせえな」

 バチンッ、と。二度目の平手。思いきり頬をぶたれた方向に顔を俯かせたまま、押し黙る裕也に対して女の目がキッと吊り上がった。

「なんであんたはいつもそうなの……っ」
「…………」
「いつまで待っても、連絡寄越さないで……」

 胸ぐらに掴みかかるその手にも力が入っているのが分かる。微かに震えていた。激昂している。全身で感情を表していた。しかし語尾に向けて声量は落ち、自分で自分を宥めるかのように深く息をついている。
 服を掴んだまま手は放さない。逃がさないとでも言いたげだ。一度だけゆっくりと瞬きをして、再び裕也をはっきりと見上げた。

「バカだバカだと思ってはいたけどここまでだとは思わなかった。これ以上意地張るのはもうやめなさい」

 激しい感情はだいぶ静めて声にもいささか冷静さがある。しかし決して手は離さずに、諭すようにして話しかけていた。
 何がどういう事態なのか俺達には全く分からない。けれど言われている本人にはしっかり分かっているのだろう。裕也の目元は少しだけ、何かを堪えるように歪んだ。

「……半年前、あたしの話ちゃんと聞いてたんでしょ」
「…………」
「どういう状況かくらい分かるんじゃないの」

 真剣な声に対して裕也は一向に沈黙を破らない。そしてそれに張り合うように、女も裕也の服をきつく握り締めた。

「戻って」
「……嫌だ」

 ようやく喋ったかと思えばひと言。それを受けた女の顔に再び怒りが浮かび上がってくる。

「駄々こねてんじゃないよ、あんただってもう子供じゃないんだからっ」
「うるせえよ」
「ッ……!」

 キッと、女の目がつり上がった。掴みかかった体勢のまま裕也の背をガンッとカウンターに押し付け、その怒りもろとも一切の抵抗も見せずに丸ごと受けた裕也だったが、今度は正面から女と向き合い厳しい目つきで見返した。

「放せ」
「……戻って」
「嫌だ」
「っ戻りなさい!」
「イヤだッ!!」

 次第にそれは子供同士の喧嘩のように。言い合う口振りはそう思わせるが、しかし当の本人同士は至って真剣。周りの俺達が口を挟める雰囲気ではとてもなかった。
 しばらくはその言い合いが続いた。だが女は痺れを切らしたようだ。突如として力技に打って出て、裕也の腕を強引にガシッと掴んだ。

「来なさい」
「……っんだってんだよ」

 さすがに体ごと引きずられそうになっては裕也も黙ってはいられなくなった。されるがままだった身を立たせ、今度ははっきり女の腕に逆らった。

「放せ……。戻んねえっつってんだろ」
「いいから来なさい! じゃないと後悔するのはあんただよ!?」
「勝手ヌかすんじゃねえっ、お前には関係ねえだろ!!」

 裕也の腕を引っ張っていた女がハッと目を見開き、勢いよく振り返った。最初と同じか、それ以上に強い加減で、またもや裕也の頬を引っぱたいた。パシッ、と。

「ッ……ってえな、なんなんだよテメエは!?」
「っ今朝!!」

 勢いよくぶたれた裕也が女の手を振り切ったのと同時に、痛切なまでの叫びが上がった。一際鋭く、けれど物悲しいその声に、裕也の動きもピタリと止まっている。

「……あ?」
「…………今朝……」

 それ以上先は言わない。だが裕也からも抵抗の動作は消えた。大人しくなった裕也を前に、女はもう一度、今度はゆっくり、裕也の腕をそっとつかんだ。

「関係ないなんて、そんなこと言わないで……。分かってよ……先生にはもう、裕也だけだったんじゃないの……?」
「…………」

 寸前まで激怒していた女はほとんどもう泣きそうだ。その言葉を聞きながら、徐々に裕也にも冷静さが戻った。
 店内は完全な静寂に包まれた。呆然と佇む裕也の様子を見た女は、初めて自分から目を逸らした。

「ごめん……もっと早く、探しに来るべきだった……」

 そこでスッと、裕也の表情から何かが抜け落ちたような気がする。今まで言い合っていたのが嘘のように二人の間に流れている空気感が一気に変わった。涙をこらえている女を見下ろし、裕也は静かに立ち尽くしている。

「お願い。帰ってきて。これでもう本当に……最後になるの」
「…………」

 震えた女の声。どこを見ているとも言えない裕也の視線。見ているだけのこっちには何も分からない。ただ裕也のその表情に、何もこもっていないのは分かった。

「……裕也?」

 無機質なその顔を見ていられない。ここまで口は挟まずにいたが、とうとう耐え切れずに呼んだ。しかし俺には応えない。裕也の足は重く静かに、その場から動き出した。

「ちょっと……出てくる……」
「裕也っ……」

 咄嗟にパシッと、裕也の腕を掴んだ。微かにその顔がこちらに向く。だがはっきりと目は合わない。裕也はどこも見ていなかった。

「……心配ない」

 空虚な、声と顔。ザワッと心の中で何かが動いた。それはたぶん、本物の焦燥感だ。
 裕也は俺の手をすり抜け、女とともに店から出ていった。
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