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第二部
47.懺悔Ⅰ
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どうしようもなく、イライラする。
「待っ……頼む、許しッ……っガ……」
足元に転がった男。その腹を蹴り飛ばすと、ここまで散々逃げ回っていたそいつもとうとう動かなくなった。
くだらない。嫌気がさすのも忘れそうなほど。その時後ろからジリッと聞こえ、尻もちをついたまま後退さっていく男の姿を振り返って捉えた。その隣には怯えた目をする別の男がもう一人。目が合った瞬間には背を向け、逃げ出そうとするその首根っこをガクッと引っ掴んで捕らえた。
「ヒッ……」
掴みかかったそのままの加減で細い路地のブロック塀にガンッと打ち付けてやる。デカい音が思わせる通りの衝撃を全身に受けたことだろう。怯んだそいつと顔を突き合わせ、無様に歪めたその表情を見据えた。
「たっ、頼む……助けてくれ……ッ」
必死に懇願してくるこいつ。その様子だけでも反吐が出る。
「お前が竜崎だなんて知らなかったんだ! だからっ、ぐッ……」
最後まで言わせず、弱ったそいつの鳩尾に一発入れた。崩れるのも許さず、掴んだ胸倉。立たせると同時に手加減無用で頭を壁にぶち当てた。
「ぅっ……」
僅かに呻いた男から手を放す。すでに意識はない。人形のようにぐしゃりと地面に倒れ落ちた。
残る虫ケラはあと一人。そいつを振り返ればいまだにへたり込んだまま、震えながらこっちを見上げてくる。
「竜崎っ……悪かった、許してくれ……何でもする! 何でもするからっ……」
「黙れ」
涙目になった男の髪を引っつかみ、無理やり立たせたその直後には顔面を殴り飛ばした。鈍い音と共に地面に倒れたその体。こと切れる寸前だった男を蹴りつけても呻き声すら漏らさない。仰向けに転がした男の顔面を力のまま蹴り飛ばすも、しかしやはり反応という反応は見られなかった。
オチた。つまらない。なんてくだらない。何もかもが馬鹿げている。
弱いくせにタカってくるこいつらみたいな連中も、竜崎なんて言うこの名前も。全てに、イライラさせられる。
あの家を出れば自由が手に入る。そう思っていたが、間違いだった。どこに行っても名前がついてくる。いっそもう何も聞きたくない。何も見たくない。全てが気に食わない。
後ろでは最初に倒れた男が無意識だろうが、少し呻いた。ふらっと近づき、そいつの前に立つ。害虫を見るのと同じ気分だ。ほとんど感情のないまま、見下ろす。
「やめとけば」
ところが、あとは押し出す力のみで脇腹を蹴り飛ばせるその寸前。道の向こうから発せられた男の声が俺の動きを制した。
顔を上げる。その方向を睨み付けた。薄暗い中からそいつは歩いてくる。
「もう伸びてんだろ。それ以上やるとマジで死ぬぞ」
「……誰だお前」
すぐ目の前まで来たその男。ラフと言うよりくだけた装いで、足元は適当なサンダル。煙草をふかしながらパンパンに膨らんだビニール袋を右手に吊り下げている。
「この先俺の店なんだわ。こんな所で殺人事件なんか起こされると迷惑なんだよ。営業妨害だからとりあえずやめろ」
「……店……?」
「そう。この通りの先にある寂れたバーだよ。これ以上客が減るとそれなりの死活問題になる」
呑気にスパスパやりながら言う。そうしながら男は地面に転がる三人を見下ろした。
ピクリともしなくなった残骸を見ても平然としている。さして興味もないような様子で煙をふうっと深く吐いた。
「だらしのねえ。こんなんじゃ張り合い甲斐もねえだろ。相手にするだけ時間の無駄だぞ」
「あんた……」
そこでふと、鈍い音が暗闇に響いた。男の上着の内側。ポケットの中で振動しているスマホの低いバイブ音だ。
男はくわえていた煙草を手に持ちかえた。それは大事そうにして放さず、ビニール袋を俺に押し付けてくる。
「これ持ってろ」
「は?」
言うなり手を放され、思わず受け取る。チラッと見えたその中身は煙草カートン。大量の。
「もしもし……ああ。どうした」
俺に構わず男は電話の相手と話を始めた。三十秒と経たずそれを切ると煙草をその場に放り捨て、スマホをポケットに突っ込みながらサンダルの薄い靴底でジュッと音を立てて踏み消した。そしてそれを拾い上げた。
ポイ捨てをすると見せかけてしなかった男の目は俺に向く。上から下まで品定めでもするかのようにじっくりと遠慮なく眺め、袋は人に持たせたまま自分だけさっさと歩き始めた。
「おい……」
「付いてこい」
「は……?」
「ちょっと手伝え」
そう言って男はスタスタと歩いていく。そのあんまりな態度に怒りを覚えるどころか、それを通り越して呆気に取られる。男はそんな俺を振り返りもせず、暗い道をまっすぐに歩いて行った。
「…………」
呆然とはさせられるもののジワジワと不愉快な気分が込み上げる。舌打ちしてみたところでそれは変わらず、仕方なく男の後を追った。
数メートル歩いた先にあったのは、一軒の建物。デカいが見るからに古そうだ。これが男の言う店だとするならふざけているとしか思えない。
まさかと思いつつ男について行く。予想通り。と言ったほうがいいのか、店にするには相応しくないであろう目立たない立地のその建物の前で当然のように足を止めた。
鍵が開けられる。その扉は質素だ。重く押し開いて中に入っていく。
「来い」
促され、しぶしぶ足を踏み入れた。明かりのつけられたその店内は至ってシンプルな内装だ。
飾り気のない広めのカウンターと、他にはいくつかのテーブル席があるのみ。各テーブルを囲むようにして配置されたこれまた質素なソファーは、革の傷み具合が所々目立っていた。
「これ表に掛けとけ」
持たされていた袋と交換に渡されたのは木札。“closed”と書かれた、吊り紐の付いた木目調の薄い板だ。
袋をガサっとカウンターに置いた男は、そこからカートンを雑に開けて中の一箱を取り出した。すぐさま手にした一本に火を点け、無言のままそれを咥えると奥の階段を上っていった。
「おい……」
「それ掛けたら上来い。もうすぐ人が来る」
「あ……?」
雰囲気からして夜間営業の店ではないのか。なぜ今から閉めるのか。そして誰が来ると言うのか。
俺をここに残したまま、男は足音と共に二階へと消えていく。仕方なく外に出て扉の取っ手に札を吊るした。そうして店に戻ろうとした時、背後の暗がりからズルッと、何かを引きずるような音が聞こえた。
「…………」
明かりが少ない。暗い中でその方向に目を凝らす。二人分の影が分かった。
少しずつ近づいてくるその姿が明るみに出るにつれ、片方の人間の様子が明らかにおかしいことに気づいた。
引きずるような音の原因はこれだ。血まみれになったその人物。もう一人に肩を貸されながら、ほとんど意識のない状態でどうにかやっとで歩いてくる。
血だらけなのは二人とも同じだがもう一人は問題なく動けるようだ。意識のほとんどないその男を、肩に担いでようやく歩いていた。
「はっ……昭仁、さんは……」
ここまで辿り着いたその二人。負傷者を担いでいる男がゼイゼイと息を切らせて俺に尋ねた。
昭仁さん。あの男のことだろう。事態は把握しきれないがあの男を頼ってきたのは間違いない。意識のない男の腹は、血でべっとり濡れている。
「おう、来たか。早かったな。入れ」
様相からしてその筋の人間。そんな二人を前に突っ立っていると、二階から下りてきた男が後ろから顔を出した。
店の中にぞろぞろ入り込む。その波に俺も成り行きで飲まれた。負傷者を担いでいた男は気が抜けたようにその場に崩れ、意識のないこの男を昭仁と呼ばれた男に預けた。
「頼む。弾は抜けてるけど出血が止まんねえんだ。二発食らってる」
「ああ大丈夫だ、任せろ。お前も少し休んでけ。怪我は?」
見たところこちらの男も服は真っ赤。しかしそいつは首を横に振った。
「いや、これはこいつの血だ。それより一人逃がした。追わなきゃなんねえ」
「分かった。こっちは心配すんな」
「ああ。わりぃ」
「高ぇぞ」
「だろうな」
そいつは口元だけで小さく笑うと、足を立たせて店を飛び出した。
状況のみで理解すれば、こいつらはどこかの組の構成員。意識のない男の傷口も、どういう経緯か詳細は分からなくてもだいたいの察しは付いた。
「おい、手ぇ貸せ。こいつ上に運ぶ」
「…………」
放って出ていくことはできる。どうしてだか、そうしなかった。
言われるまま怪我人の肩を担ぎ、どうにか狭い階段を上った。二階に行きつくと左側に三部屋。右側には一つだけドアがある。右側の部屋へと促され、そのドアをガチャリと開いた。
「…………」
思わずいくらか、目を見開いた。広がっていた光景に言葉を失う。
いっぱしの手術室そのものだ。手術台やら医療器具やら、オペに必要な物は一式揃っているように思えた。
普通のバー。ではない。そうであるならその二階にこんな部屋がある訳ない。この店もこの男も、ただの飲み屋とその店主だと思える要素は一つもなかった。
なによりこの冷静さ。慣れていた。素人目にも分かる的確さで取るべき対応をとっている。二人がかりで怪我人を手術台に上げると、ハサミで男のシャツを切り裂き、すぐさま自分は術衣を羽織って部屋の隅にある手洗い場へと動いた。
「あともう一人来る。お前下行ってそいつ待ってろ」
「まだケガ人増えんのかよ」
「違う。さっき呼んどいた男だ。血液持ってくる」
「……は?」
怪我人にいくつかの器具を取り付け、迅速に処置を始める男。平然と放った言葉はさらにまだ続けられた。
「個人営業の血液バンクだ。いいから行け」
どんなだよ。
顔をしかめた俺には構わず男は手を動かし始めた。どうあっても俺を使いっパシリにするつもりらしい。
無言になった男に何を反論する事もできずにやむを得ず下におり、いかがわしい慈善事業者の到着を退屈に待った。
「待っ……頼む、許しッ……っガ……」
足元に転がった男。その腹を蹴り飛ばすと、ここまで散々逃げ回っていたそいつもとうとう動かなくなった。
くだらない。嫌気がさすのも忘れそうなほど。その時後ろからジリッと聞こえ、尻もちをついたまま後退さっていく男の姿を振り返って捉えた。その隣には怯えた目をする別の男がもう一人。目が合った瞬間には背を向け、逃げ出そうとするその首根っこをガクッと引っ掴んで捕らえた。
「ヒッ……」
掴みかかったそのままの加減で細い路地のブロック塀にガンッと打ち付けてやる。デカい音が思わせる通りの衝撃を全身に受けたことだろう。怯んだそいつと顔を突き合わせ、無様に歪めたその表情を見据えた。
「たっ、頼む……助けてくれ……ッ」
必死に懇願してくるこいつ。その様子だけでも反吐が出る。
「お前が竜崎だなんて知らなかったんだ! だからっ、ぐッ……」
最後まで言わせず、弱ったそいつの鳩尾に一発入れた。崩れるのも許さず、掴んだ胸倉。立たせると同時に手加減無用で頭を壁にぶち当てた。
「ぅっ……」
僅かに呻いた男から手を放す。すでに意識はない。人形のようにぐしゃりと地面に倒れ落ちた。
残る虫ケラはあと一人。そいつを振り返ればいまだにへたり込んだまま、震えながらこっちを見上げてくる。
「竜崎っ……悪かった、許してくれ……何でもする! 何でもするからっ……」
「黙れ」
涙目になった男の髪を引っつかみ、無理やり立たせたその直後には顔面を殴り飛ばした。鈍い音と共に地面に倒れたその体。こと切れる寸前だった男を蹴りつけても呻き声すら漏らさない。仰向けに転がした男の顔面を力のまま蹴り飛ばすも、しかしやはり反応という反応は見られなかった。
オチた。つまらない。なんてくだらない。何もかもが馬鹿げている。
弱いくせにタカってくるこいつらみたいな連中も、竜崎なんて言うこの名前も。全てに、イライラさせられる。
あの家を出れば自由が手に入る。そう思っていたが、間違いだった。どこに行っても名前がついてくる。いっそもう何も聞きたくない。何も見たくない。全てが気に食わない。
後ろでは最初に倒れた男が無意識だろうが、少し呻いた。ふらっと近づき、そいつの前に立つ。害虫を見るのと同じ気分だ。ほとんど感情のないまま、見下ろす。
「やめとけば」
ところが、あとは押し出す力のみで脇腹を蹴り飛ばせるその寸前。道の向こうから発せられた男の声が俺の動きを制した。
顔を上げる。その方向を睨み付けた。薄暗い中からそいつは歩いてくる。
「もう伸びてんだろ。それ以上やるとマジで死ぬぞ」
「……誰だお前」
すぐ目の前まで来たその男。ラフと言うよりくだけた装いで、足元は適当なサンダル。煙草をふかしながらパンパンに膨らんだビニール袋を右手に吊り下げている。
「この先俺の店なんだわ。こんな所で殺人事件なんか起こされると迷惑なんだよ。営業妨害だからとりあえずやめろ」
「……店……?」
「そう。この通りの先にある寂れたバーだよ。これ以上客が減るとそれなりの死活問題になる」
呑気にスパスパやりながら言う。そうしながら男は地面に転がる三人を見下ろした。
ピクリともしなくなった残骸を見ても平然としている。さして興味もないような様子で煙をふうっと深く吐いた。
「だらしのねえ。こんなんじゃ張り合い甲斐もねえだろ。相手にするだけ時間の無駄だぞ」
「あんた……」
そこでふと、鈍い音が暗闇に響いた。男の上着の内側。ポケットの中で振動しているスマホの低いバイブ音だ。
男はくわえていた煙草を手に持ちかえた。それは大事そうにして放さず、ビニール袋を俺に押し付けてくる。
「これ持ってろ」
「は?」
言うなり手を放され、思わず受け取る。チラッと見えたその中身は煙草カートン。大量の。
「もしもし……ああ。どうした」
俺に構わず男は電話の相手と話を始めた。三十秒と経たずそれを切ると煙草をその場に放り捨て、スマホをポケットに突っ込みながらサンダルの薄い靴底でジュッと音を立てて踏み消した。そしてそれを拾い上げた。
ポイ捨てをすると見せかけてしなかった男の目は俺に向く。上から下まで品定めでもするかのようにじっくりと遠慮なく眺め、袋は人に持たせたまま自分だけさっさと歩き始めた。
「おい……」
「付いてこい」
「は……?」
「ちょっと手伝え」
そう言って男はスタスタと歩いていく。そのあんまりな態度に怒りを覚えるどころか、それを通り越して呆気に取られる。男はそんな俺を振り返りもせず、暗い道をまっすぐに歩いて行った。
「…………」
呆然とはさせられるもののジワジワと不愉快な気分が込み上げる。舌打ちしてみたところでそれは変わらず、仕方なく男の後を追った。
数メートル歩いた先にあったのは、一軒の建物。デカいが見るからに古そうだ。これが男の言う店だとするならふざけているとしか思えない。
まさかと思いつつ男について行く。予想通り。と言ったほうがいいのか、店にするには相応しくないであろう目立たない立地のその建物の前で当然のように足を止めた。
鍵が開けられる。その扉は質素だ。重く押し開いて中に入っていく。
「来い」
促され、しぶしぶ足を踏み入れた。明かりのつけられたその店内は至ってシンプルな内装だ。
飾り気のない広めのカウンターと、他にはいくつかのテーブル席があるのみ。各テーブルを囲むようにして配置されたこれまた質素なソファーは、革の傷み具合が所々目立っていた。
「これ表に掛けとけ」
持たされていた袋と交換に渡されたのは木札。“closed”と書かれた、吊り紐の付いた木目調の薄い板だ。
袋をガサっとカウンターに置いた男は、そこからカートンを雑に開けて中の一箱を取り出した。すぐさま手にした一本に火を点け、無言のままそれを咥えると奥の階段を上っていった。
「おい……」
「それ掛けたら上来い。もうすぐ人が来る」
「あ……?」
雰囲気からして夜間営業の店ではないのか。なぜ今から閉めるのか。そして誰が来ると言うのか。
俺をここに残したまま、男は足音と共に二階へと消えていく。仕方なく外に出て扉の取っ手に札を吊るした。そうして店に戻ろうとした時、背後の暗がりからズルッと、何かを引きずるような音が聞こえた。
「…………」
明かりが少ない。暗い中でその方向に目を凝らす。二人分の影が分かった。
少しずつ近づいてくるその姿が明るみに出るにつれ、片方の人間の様子が明らかにおかしいことに気づいた。
引きずるような音の原因はこれだ。血まみれになったその人物。もう一人に肩を貸されながら、ほとんど意識のない状態でどうにかやっとで歩いてくる。
血だらけなのは二人とも同じだがもう一人は問題なく動けるようだ。意識のほとんどないその男を、肩に担いでようやく歩いていた。
「はっ……昭仁、さんは……」
ここまで辿り着いたその二人。負傷者を担いでいる男がゼイゼイと息を切らせて俺に尋ねた。
昭仁さん。あの男のことだろう。事態は把握しきれないがあの男を頼ってきたのは間違いない。意識のない男の腹は、血でべっとり濡れている。
「おう、来たか。早かったな。入れ」
様相からしてその筋の人間。そんな二人を前に突っ立っていると、二階から下りてきた男が後ろから顔を出した。
店の中にぞろぞろ入り込む。その波に俺も成り行きで飲まれた。負傷者を担いでいた男は気が抜けたようにその場に崩れ、意識のないこの男を昭仁と呼ばれた男に預けた。
「頼む。弾は抜けてるけど出血が止まんねえんだ。二発食らってる」
「ああ大丈夫だ、任せろ。お前も少し休んでけ。怪我は?」
見たところこちらの男も服は真っ赤。しかしそいつは首を横に振った。
「いや、これはこいつの血だ。それより一人逃がした。追わなきゃなんねえ」
「分かった。こっちは心配すんな」
「ああ。わりぃ」
「高ぇぞ」
「だろうな」
そいつは口元だけで小さく笑うと、足を立たせて店を飛び出した。
状況のみで理解すれば、こいつらはどこかの組の構成員。意識のない男の傷口も、どういう経緯か詳細は分からなくてもだいたいの察しは付いた。
「おい、手ぇ貸せ。こいつ上に運ぶ」
「…………」
放って出ていくことはできる。どうしてだか、そうしなかった。
言われるまま怪我人の肩を担ぎ、どうにか狭い階段を上った。二階に行きつくと左側に三部屋。右側には一つだけドアがある。右側の部屋へと促され、そのドアをガチャリと開いた。
「…………」
思わずいくらか、目を見開いた。広がっていた光景に言葉を失う。
いっぱしの手術室そのものだ。手術台やら医療器具やら、オペに必要な物は一式揃っているように思えた。
普通のバー。ではない。そうであるならその二階にこんな部屋がある訳ない。この店もこの男も、ただの飲み屋とその店主だと思える要素は一つもなかった。
なによりこの冷静さ。慣れていた。素人目にも分かる的確さで取るべき対応をとっている。二人がかりで怪我人を手術台に上げると、ハサミで男のシャツを切り裂き、すぐさま自分は術衣を羽織って部屋の隅にある手洗い場へと動いた。
「あともう一人来る。お前下行ってそいつ待ってろ」
「まだケガ人増えんのかよ」
「違う。さっき呼んどいた男だ。血液持ってくる」
「……は?」
怪我人にいくつかの器具を取り付け、迅速に処置を始める男。平然と放った言葉はさらにまだ続けられた。
「個人営業の血液バンクだ。いいから行け」
どんなだよ。
顔をしかめた俺には構わず男は手を動かし始めた。どうあっても俺を使いっパシリにするつもりらしい。
無言になった男に何を反論する事もできずにやむを得ず下におり、いかがわしい慈善事業者の到着を退屈に待った。
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