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第一部
33.7-Ⅲ
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朝になって目覚めた直後の感想は一言。不快だった。
ひどい頭痛に無理やり起こされた。頭を片手で押さえながら上半身をベッドの上で起こす。しばらくの間目を閉じたままじっと痛みに耐えていたのだが、肌に感じた空気の冷たさに違和感を覚え、その場で目を開けた。
部屋の中は薄暗い。カーテンから漏れてくる光もない。それによって今がまだ朝の早い時間だと分かる。そしてそんな冬の早朝に、どういう訳か俺は服を着ていない。
「…………」
寒いからではなく、二日酔いのせいでもなく、一瞬にして体が凍りつく。顔からはサッと血の気が引いた。状況を理解するために頭をバリバリ稼働させ、同時進行で昨夜の出来事が一気に蘇ってくる。
朝起きたら服を着ていない。酔っ払った翌朝には服を脱ぎ散らかす事もあるかもしれない。いつの間にかベッドに横たわっていた。これもひどく酔った次の日には体験することなのかもしれない。しかし、現状はそれに留まらなかった。
ギシギシと音を立てそうなほど固まった頭をぎこちなく動かして左隣を見降ろした。この目で確認したその事実。またもやピシリと固まった。
冬に裸で寝ているのは、恐らく俺が脱いだためではない。記憶もないのにベッドにいたのも、自力の動作ではなかったはずだ。
何よりここは俺の部屋ではない。見覚えはあるが馴染みのない殺風景なこの部屋は、俺ではなく、竜崎の部屋。隣で寝ている男の自宅だ。あろうことか同じように服を身につけていないその肩を、布団から覗かせている竜崎のベッドの上だ。
「…………」
文字通り、頭を抱えた。これはまずい。まさか。いや、まさか。
途中までは覚えている。だが肝心なところの記憶は見事にすっぽり抜けきっている。
キスをした。言わなくていいようなことを散々支離滅裂に叫び、一番やってはいけないことをしてしまった。そこまでは覚えている。
この時点で大問題ではあるものの、しかし、俺が覚えているのはそこまで。キスのあと何があった。全く思いだすことができない。
「…………」
どう見ても事後。いやでも、さすがに。まさか。そんな。
「…………」
分からない。どうしよう。まるで分らない。
酔って暴れてキスまでしてそこでパタリと記憶が途切れ、翌朝目覚めてみれば昨夜絡みに絡んだ男と裸でベッドに隣同士寝ている。肌に触れる感触からだいたい想像はつくものの、最後の悪あがきで布団の中を恐る恐る覗き見た。
「…………」
やはり真ッパ。まさか。嘘だろ。部屋は寒いのに汗が止まらない。
何から先に考えれば良いのか全くもって見当もつかない。とりあえずは一刻も早くこの場から逃げ去るべきだ。
竜崎を起こさないようこっそりと布団の中を抜け出し、床に散らばった衣服の中から自分の物を拾い上げる。できる限り迅速に、かつ慎重に着込んでいる最中も、背後への警戒心で背筋がやたらとビリビリした。
「んな慌てんなよ」
「ッッッ!?」
がっと後ろから腕を掴まれた。驚愕のあまり叫び声も出ない。竜崎を起こさないように服を身に着け、即刻この部屋から立ち去るつもり満々でいた俺の計画は一瞬で台無し。いつから起きていやがった。その気配に気づきもしなかった。
顔だけ後ろに振り向かせれば、肘をついて上体を半端に起こした竜崎がにこやかに見上げてくる。
「てっめ……このタヌキがッ」
「ウソ寝じゃねえよ。温もりが消えた寂しさで覚醒したんだって」
「わいてんのか!?」
どうせ最初から起きていた。明らかに笑いを堪えている。
「びっくりした?」
「ぁあ゛ッ?」
「やべえ俺こいつと寝たっ!? みたいな」
「…………」
核心をついて心中を代弁してくる。全くもってその通りだ。言い返すに言い返せない。
目覚めてから逃げ出そうとするまでをおそらくは全て見られていたのだから言い訳もできなかった。体ごと振り返って見下ろした先には、やはり上半身裸の竜崎。腹以下は布団の中。履いているかいないかは分からない。
「……どうなんだよ」
「ん?」
「っ……だから!」
白々しい。首までかしげて見せてくる。
イラ立ちは隠しきれないが俺が欲しい説明はただ一つ。これ以上ないほど屈辱的だが、このまま悶々と一日を過ごすことになるのは遠慮したい。ひどく楽しそうな笑みを浮かべているこの男をぶん殴りたいのを堪え、唸るくらいの低さで言葉を紡いだ。
「…………シたのか」
「何を?」
「テメエ……ッ」
本当にぶん殴りたい。
「っ……マジでセックスしたのかって聞いてんだよッ! これで満足かこのど変態!!」
恥を忍び、叫び上げた。朝からなんて頭の悪い会話だ。竜崎は満足そうに口角を吊り上げている。
「へぇー。覚えてねえかぁ。そっかぁ」
「っばかにしてんのか!? どっちなんだよ……っ」
「まあ、一言で言うとあれはもう……最高だった」
「ッだからどっち…………は……?」
最初の二秒は気づかなかった。だがいくらかして思考が追い付いた、
同時にピシリと固まっている。今朝だけでもう何度目か。青褪めて凍り付き、本人からの口から直接聞かされ微かな望みも消え失せた。
手に力が入らない。全身の感覚がない。男と寝た。竜崎とヤッた。この男とセックスした。
「…………ウソ」
「うん。嘘」
「うそ……うそ、え、ウソ……え、は?」
訳が分からない。
一人でパニックに陥る俺を竜崎は満足そうに眺めていた。やったのかやっていないのか。その二択でグルグルさ迷う。そんな俺の様子がよほど面白かったようで、竜崎は突如フハッと笑った。
「お前でもそんな顔するんだな。人間ってここまでオロオロできる?」
「…………」
「とうとう既成事実できちゃったと思った?」
「…………うそって……」
「うん、嘘。なんもしてねえよ。なあどこまで覚えてる? キスの最中に寝落ちとかお前、それはさすがにヒデぇだろ」
「ねおち……?」
「服脱がせたのは俺を置いて寝やがったことへのちょっとした……うーん。復讐? 起きた時どんな顔するかなって思ってたんだけど予想以上に面白いもん見られた」
「…………」
なんて悪趣味な。
ぶん殴ってやりたいところだが脱力感の方が強すぎて言葉すら出てこない。過ちは犯していなかった。その事実にひとまずは安心するも、煮え切らないこの悪感情。殴りたいのに殴れない。至極満足そうな様子がこれまたいちいち癪に障る。
弧を描いているその口元は悪魔の微笑みにしか見えない。それがいささか、ふっと種類を変えた。
まずい。本能的に身を引いた俺が避難するよりも早く、朝から機敏なこの男は俺の腕を掴んで捕らえた。遠慮なくベッドに向かってガッと思いきり引っ張られ、力で適うことは不可能だった。
ほとんど倒れ込んだような状況。片膝だけベッドに乗り上げ、自ら抱きつきに行ったような体はすっぽりと下から抱きとめられている。慌てて離れようとするも頭にパフっと手を置かれ、竜崎の肩に顔を埋めるようにしてしっかりと抱き直された。
「放せッ」
「どこまで覚えてる」
「何がだよッ、放せ大バカっ!」
「俺といるとおかしくなんの?」
はっと体が固まった。頭に置いた手だけは離され、間近からじっと見つめられる。
「なんで?」
「…………」
黙り込んだら頬を撫でられた。
「キスしてきたのは? 酔った勢い? それとも何か別の理由?」
「…………」
「ミオに行く前のことも聞かせろ。なんであの時急に拒否した」
「…………」
「だんまり好き?」
「ってめえが……ッ」
睨み落とす。その表情をモロに見た。そのせいでまた黙った。
「教えろよ。もう酒だって抜けてんだろ」
「…………」
「言え。じゃなきゃ離さない」
いくら脅迫されたとしても、俺は答えを持ち合わせていない。葛藤は現在進行形だ。中途半端よりもさらに酷い。
キスは、酔った勢いで通せるだろうか。キスする前にこいつに言ったあれこれは、ごまかし切れるものではない。
小さなプライドがガラガラと崩れる。竜崎の視線に晒されてしまうと狂った衝動に一瞬で駆られる。
ミオに行く前のあの愚行は、まさにその結果だった。かたわらにあるなけなしの理性で、何も残らないキスを止めた。
受け入れるとか、拒絶するとか。好きとか嫌いとか、そういうことじゃない。このままでは抜け出せなくなる。それが怖い。その事実を認めることも。
強い視線にとらわれたまま、またしばらく黙っていた。答えるまでは放さない。ついさっきそう言ったばかりの男は、困ったように小さく笑うと俺からすっと手を離した。
ベッドの上方には窓がある。腰高窓に片腕を伸ばし、竜崎は静かにカーテンを引いた。その隙間から見えたのは結露した表面。外の様子もまだ少し暗かった。
突如解放された体をベッドから起こしてそばに立った。しかしこの視線は不意に、竜崎の体に向いた。
掛かっていた布団はめくれている。その下に隠れていた竜崎の体を目にした。右の脇腹にくっきりと残った、深い傷跡。それが分かる。
「……裕也……?」
実際にこの目でそれを見たのは、初めてだった。じっとしていられなくなった。
ギシッと小さく軋んだ音を立て、今度は自らベッドに上がった。半端な膝立ちのままその体を見下ろす。
俺の視線が脇腹に注がれているのに気づいたのだろう。竜崎はゆっくり手を伸ばしてきた。
「裕也……」
「……わざわざ言わなきゃ分かんねえのか」
口を開いて遮った。伸ばされた手を反対に掴み、シーツの上に下ろしてぎゅっと握りしめる。
まだほんの半日前だ。帰ってきた竜崎の姿を目にして、不覚にも心底安堵した。まったくの無事とはいかなかったが、それでもこいつは戻ってきた。
ちっぽけなプライドが崩壊するより、失うことの方が怖い。それだけはもうはっきりしている。
「……分かれよ」
ここまでが俺の限界だ。これ以上は俺には言えない。責めてくることこそないものの、竜崎は静かに俺を見ていた。
「はっきり言ってくれねえと都合よく解釈するぞ」
「…………」
「いいのか」
「…………」
心臓がおかしな音を立てている。三分もあれば死ぬかもしれない。
竜崎の手が俺の髪を、丁寧に梳くのを感じた。
「……裕也」
答えない。答えなくても、竜崎が俺の口を塞ぐ。
しかしキスは軽く触れるだけ。探るように目を覗き込んでくる。
「今日は途中棄権なしだからな」
「あれは……」
「あれは?」
答えを促すかのようにぎゅっと強く抱き寄せられた。気まずい。とうとう目を逸らした。
「……もういいだろ、そんなの」
「よくねえよ。どういうつもりで急にキョヒった」
「知るかよ……」
「それは答えになってない」
「…………」
黙秘権の行使はもう許されそうにない。おちょくってくれた方が今はありがたいが、残念ながらその表情は真剣。
「俺を弄ぶのが楽しいか」
「……弄んでんのはお前だろ」
「本気で行ってるのにかわされるんだよ。お前は気づかねえフリばっかりだ」
「…………」
拒絶と許容を繰り返す。そのつもりはなくてもそうなってしまう。
ばつの悪い思いによってついつい逃げ腰になった俺を、こいつはぐっと抱きしめてくる。
「おい……」
「ずっとこうしてたい」
「…………」
「触ってたい」
俺の肩に顔をくっつけた。思わずその上腕を掴み、綺麗な形の筋肉に触れる。
男の身体だ。男の腕だ。男に触るシュミなんてないが、不快な感覚は起こらない。押し返すこともついつい忘れた。心臓が煩い。一分で死ぬかも。強く抱きしめられているから、鼓動は竜崎にも伝わっているだろう。
「今だけでもいいから」
顔を上げ、目を合わせてくる。熱っぽい眼差しも男のものだ。
今ここで何かを言われたら、俺はこいつを拒めない。
「裕也……」
頬に手が添えられた。なぞるように伝い落ちる指先の感覚。全ての神経がそこに注がれた。
「今だけでいい。逃げるな」
言葉を理解するよりも早く、唇に温かさを感じた。竜崎の腕に触れたままの指先がぴくりと動く。
閉じた口をこじ開けて、入ってくる舌にはいつも遠慮がない。顎に手を掛けられ、どの道逃げられないと知っているのだから逃げる気こそこちらにはないが、深く重ねて逃げ場を封じてくる。
そこまでされなくても拒否はできなかっただろう。薄暗い部屋の中で、ただ黙って唇を合わせた。部屋に響くのはお互いの息づかいと、舌と唇が貪欲に触れ合う濡れた音。気持ちいい。その事実は変えられない。熱に浮かされたようにこの男を求めた。
仕草は強引だが、どうしたって優しい。欲しがればそれ以上に与えられた。求めれば求め返される。いけないことだと警告してくるしつこい理性を切り離し、バカみたいに酔いしれた。
キスは続く。徐々に体は傾いた。体勢の変化に薄く目を開け、そこでグッと両肩にかった力。
目の前の光景はグラッと揺れた。安っぽい枕にぼすっと、頭が沈み込んでいる。
「え……」
組み敷かれた。いきなりだ。ほとんど薙ぎ倒されていた。
それをやった張本人は俺の上に跨っている。呆気にとられて竜崎を見上げた。
「都合よく解釈するって言ったろ」
「…………」
「ついでに沈黙は同意とみなす」
なんて低俗。濡れた唇がかすかに吊り上り、薄く微笑んで顔を近づけてくる。
「りゅ……」
再び重なる。こいつは低俗だが、俺はそれ以上に愚かだ。
「ん……」
唇を啄まれるたびにちゅっと音が立つ。霞みのかかったような意識は理性と煩悩の間で揺れている。しかしここでは理性が勝った。
唇と唇の間に微かな隙間ができたその時、ふっと顔の向きを逸らした。俺の体を跨いでいるその膝が微かに触れている。布同士が擦れる音。この男は上半身だけ裸だった。
剥き出しの腕にひたりと触れる。まだどうにか理性が勝っている。僅かな程度に押し返した。
「同意したくせに」
「してねえ。どけ」
「この状況でそれ言うか」
「いいからどけよクソが」
触れている肌は温かい。これ以上の間違いは犯せない。
「退けっつってんだろ」
「一度だけ試そう」
「ああ?」
「キスがこんなに気持ちいいならセックスも気持ちいいに決まってる」
「…………」
こいついま何語喋った。
「お前もそう思わねえ?」
「お……っ思うわけねえだろふざけんじゃねえ! そんな軽いノリで男とヤれるかよ!?」
「軽くない。大丈夫、本気。俺はもうずっと前から裕也のこと抱きたか…」
「やめろッ!!」
それだけは聞きたくない。
理性が一気に欲をぶっ飛ばした。危機感とは生き物の生存戦略。あからさまにおかしな事を言われて一瞬でまともな思考が戻った。
竜崎の下から這い出るためにシーツに肘をついたがそこまで。体勢的にも力の差からも簡単に抜け出すことはできない。悪者のような笑みを浮かべる竜崎は容易に俺を押さえつけた。
「逃げねえって約束したじゃん」
「してねえッ。記憶の捏造やめろっ!」
「細かいこと気にすんなよ」
「全然細かくね……って、おいッ、やめろ……ッ」
服の下に手が入ってくる。指先で腹を辿りながら服をたくし上げてくる。
じたばたともがいた。しかし逃げられない。両膝で体を挟み込まれ、状況はさらに悪化。
「ここまでしていいなんて言ってねえッ」
「ここまでってどこまで。お前は俺に触られんの好きだろ」
「はあっ!?」
するすると指先は腹の上を撫でていた。からかうようで、なおかつ卑猥だ。
「っな、せ馬鹿がッ、朝からサカってんじゃねえよ……ッ」
「なるほど。電気消してって言いたいタイプな」
「マジ死ね!!」
叫んだ瞬間、笑みを深くされた。ゾワッと背筋が凍り付く。
抵抗のための俺の手を簡単にパシッと掴み返し、あっさりシーツに縫い付けてきた。荒っぽく口を塞いできたその動作は完全に流れ作業。抵抗する間もなくもう片方の手も同じように拘束されて、流れ作業の一部のように唇を性急に割りさいた。
「ッ……んんっ……!」
手も足もろくに動かせないから、左右に首を振ることだけが俺に許された抵抗だった。舌に噛みついてやれればいいが、そこまではできないのが悔しい。
荒々しく、強引で、それでいて優しいのは嫌でも感じる。俺を押さえつけるその手も、足も。力は馬鹿ほど強いのに、痛みだけは決して与えられない。
力加減をほんの少し変えれば俺を動けなくさせることくらい簡単なはずなのに。つくづく愚かだ。こいつじゃない。俺だ。人にこんなことをしている時点で、この男は紛れもなくクソ野郎なのに。
「は、ぁ……」
しつこいキスから解放された。拘束もいくらか緩くなる。涼しい顔をしている竜崎を猛烈に蹴り飛ばしたい。
しかしそれは叶いそうもなく、上気した顔を背けた。はだけた服の下で露になっている腹を指先がつつっとなぞった。肩が勝手にピクリと動く。
「触んなっ……」
思いのほかか細かった自分の声に気が遠くなってくる。俺は怯えた小鹿か何かか。
竜崎の腕を苦し紛れに掴み、八つ当たり気味に爪を立てた。そんなものが打撃になるはずもなく、上からバッと覆いかぶさってくる。
「てめっ……ざけんなッ」
心臓の上に頬がピタリとくっつく。ベッドと俺の背との間に手を差し入れ、きつく抱きしめてきた。まるで意味が分からない。
「んなんだよクソがっ!」
「心臓バクバク言ってる。つーかこれイイな。あったけぇ」
「……っ」
カッと瞬時に血がのぼる。思考という思考をすべて放棄し、蹴り上げた右膝は防御本能。
「ぅ゛っ……」
低い呻きを聞いた。一切の動きを止めた竜崎。男にとってこれほど辛いものはないは知っている。
珍しく顔を青くさせ、痛みに動くことすらできない竜崎の体を押しのけた。ベッドからおりて落ちているシャツを無造作に引っ掴み、うずくまっているクズ野郎めがけて怒りのまま投げつけてやる。
「半裸の変態が抜かしてんじゃねえ! 寒けりゃ服を着ろこの大馬鹿!!」
「お、ま……これは……ひでぇだろ……」
「うっせえアホ!! この変態! ど変態! 変質者!!」
「言い過ぎ……」
「死ねッ!!」
動けない竜崎を放って真っ直ぐに玄関を目指す。さすがのこいつもしばらくはまともに動けないだろうから背後に気を配る必要もない。
乱雑に脱ぎ散らしたままの靴にイライラと足を突っ込んだ。しかしそこで後ろからは竜崎が声をかけてくる。
「裕也……。お前だって分かんだろ……」
「…………」
真剣身を帯びた声色。
眉間を寄せつつも窺うように、ちらりと後ろを振り返る。ベッドの上で痛切な表情を浮かべている竜崎と目が合った。
「朝起きた時ココがこうなってんのは健康な男である以上仕方な…」
「っ死ね!!」
まともに聞こうとした俺がバカだった。
怒鳴り声とともにズカズカ外へ飛び出し、勢いに任せてバァンッとドアを閉めた。
ひどい頭痛に無理やり起こされた。頭を片手で押さえながら上半身をベッドの上で起こす。しばらくの間目を閉じたままじっと痛みに耐えていたのだが、肌に感じた空気の冷たさに違和感を覚え、その場で目を開けた。
部屋の中は薄暗い。カーテンから漏れてくる光もない。それによって今がまだ朝の早い時間だと分かる。そしてそんな冬の早朝に、どういう訳か俺は服を着ていない。
「…………」
寒いからではなく、二日酔いのせいでもなく、一瞬にして体が凍りつく。顔からはサッと血の気が引いた。状況を理解するために頭をバリバリ稼働させ、同時進行で昨夜の出来事が一気に蘇ってくる。
朝起きたら服を着ていない。酔っ払った翌朝には服を脱ぎ散らかす事もあるかもしれない。いつの間にかベッドに横たわっていた。これもひどく酔った次の日には体験することなのかもしれない。しかし、現状はそれに留まらなかった。
ギシギシと音を立てそうなほど固まった頭をぎこちなく動かして左隣を見降ろした。この目で確認したその事実。またもやピシリと固まった。
冬に裸で寝ているのは、恐らく俺が脱いだためではない。記憶もないのにベッドにいたのも、自力の動作ではなかったはずだ。
何よりここは俺の部屋ではない。見覚えはあるが馴染みのない殺風景なこの部屋は、俺ではなく、竜崎の部屋。隣で寝ている男の自宅だ。あろうことか同じように服を身につけていないその肩を、布団から覗かせている竜崎のベッドの上だ。
「…………」
文字通り、頭を抱えた。これはまずい。まさか。いや、まさか。
途中までは覚えている。だが肝心なところの記憶は見事にすっぽり抜けきっている。
キスをした。言わなくていいようなことを散々支離滅裂に叫び、一番やってはいけないことをしてしまった。そこまでは覚えている。
この時点で大問題ではあるものの、しかし、俺が覚えているのはそこまで。キスのあと何があった。全く思いだすことができない。
「…………」
どう見ても事後。いやでも、さすがに。まさか。そんな。
「…………」
分からない。どうしよう。まるで分らない。
酔って暴れてキスまでしてそこでパタリと記憶が途切れ、翌朝目覚めてみれば昨夜絡みに絡んだ男と裸でベッドに隣同士寝ている。肌に触れる感触からだいたい想像はつくものの、最後の悪あがきで布団の中を恐る恐る覗き見た。
「…………」
やはり真ッパ。まさか。嘘だろ。部屋は寒いのに汗が止まらない。
何から先に考えれば良いのか全くもって見当もつかない。とりあえずは一刻も早くこの場から逃げ去るべきだ。
竜崎を起こさないようこっそりと布団の中を抜け出し、床に散らばった衣服の中から自分の物を拾い上げる。できる限り迅速に、かつ慎重に着込んでいる最中も、背後への警戒心で背筋がやたらとビリビリした。
「んな慌てんなよ」
「ッッッ!?」
がっと後ろから腕を掴まれた。驚愕のあまり叫び声も出ない。竜崎を起こさないように服を身に着け、即刻この部屋から立ち去るつもり満々でいた俺の計画は一瞬で台無し。いつから起きていやがった。その気配に気づきもしなかった。
顔だけ後ろに振り向かせれば、肘をついて上体を半端に起こした竜崎がにこやかに見上げてくる。
「てっめ……このタヌキがッ」
「ウソ寝じゃねえよ。温もりが消えた寂しさで覚醒したんだって」
「わいてんのか!?」
どうせ最初から起きていた。明らかに笑いを堪えている。
「びっくりした?」
「ぁあ゛ッ?」
「やべえ俺こいつと寝たっ!? みたいな」
「…………」
核心をついて心中を代弁してくる。全くもってその通りだ。言い返すに言い返せない。
目覚めてから逃げ出そうとするまでをおそらくは全て見られていたのだから言い訳もできなかった。体ごと振り返って見下ろした先には、やはり上半身裸の竜崎。腹以下は布団の中。履いているかいないかは分からない。
「……どうなんだよ」
「ん?」
「っ……だから!」
白々しい。首までかしげて見せてくる。
イラ立ちは隠しきれないが俺が欲しい説明はただ一つ。これ以上ないほど屈辱的だが、このまま悶々と一日を過ごすことになるのは遠慮したい。ひどく楽しそうな笑みを浮かべているこの男をぶん殴りたいのを堪え、唸るくらいの低さで言葉を紡いだ。
「…………シたのか」
「何を?」
「テメエ……ッ」
本当にぶん殴りたい。
「っ……マジでセックスしたのかって聞いてんだよッ! これで満足かこのど変態!!」
恥を忍び、叫び上げた。朝からなんて頭の悪い会話だ。竜崎は満足そうに口角を吊り上げている。
「へぇー。覚えてねえかぁ。そっかぁ」
「っばかにしてんのか!? どっちなんだよ……っ」
「まあ、一言で言うとあれはもう……最高だった」
「ッだからどっち…………は……?」
最初の二秒は気づかなかった。だがいくらかして思考が追い付いた、
同時にピシリと固まっている。今朝だけでもう何度目か。青褪めて凍り付き、本人からの口から直接聞かされ微かな望みも消え失せた。
手に力が入らない。全身の感覚がない。男と寝た。竜崎とヤッた。この男とセックスした。
「…………ウソ」
「うん。嘘」
「うそ……うそ、え、ウソ……え、は?」
訳が分からない。
一人でパニックに陥る俺を竜崎は満足そうに眺めていた。やったのかやっていないのか。その二択でグルグルさ迷う。そんな俺の様子がよほど面白かったようで、竜崎は突如フハッと笑った。
「お前でもそんな顔するんだな。人間ってここまでオロオロできる?」
「…………」
「とうとう既成事実できちゃったと思った?」
「…………うそって……」
「うん、嘘。なんもしてねえよ。なあどこまで覚えてる? キスの最中に寝落ちとかお前、それはさすがにヒデぇだろ」
「ねおち……?」
「服脱がせたのは俺を置いて寝やがったことへのちょっとした……うーん。復讐? 起きた時どんな顔するかなって思ってたんだけど予想以上に面白いもん見られた」
「…………」
なんて悪趣味な。
ぶん殴ってやりたいところだが脱力感の方が強すぎて言葉すら出てこない。過ちは犯していなかった。その事実にひとまずは安心するも、煮え切らないこの悪感情。殴りたいのに殴れない。至極満足そうな様子がこれまたいちいち癪に障る。
弧を描いているその口元は悪魔の微笑みにしか見えない。それがいささか、ふっと種類を変えた。
まずい。本能的に身を引いた俺が避難するよりも早く、朝から機敏なこの男は俺の腕を掴んで捕らえた。遠慮なくベッドに向かってガッと思いきり引っ張られ、力で適うことは不可能だった。
ほとんど倒れ込んだような状況。片膝だけベッドに乗り上げ、自ら抱きつきに行ったような体はすっぽりと下から抱きとめられている。慌てて離れようとするも頭にパフっと手を置かれ、竜崎の肩に顔を埋めるようにしてしっかりと抱き直された。
「放せッ」
「どこまで覚えてる」
「何がだよッ、放せ大バカっ!」
「俺といるとおかしくなんの?」
はっと体が固まった。頭に置いた手だけは離され、間近からじっと見つめられる。
「なんで?」
「…………」
黙り込んだら頬を撫でられた。
「キスしてきたのは? 酔った勢い? それとも何か別の理由?」
「…………」
「ミオに行く前のことも聞かせろ。なんであの時急に拒否した」
「…………」
「だんまり好き?」
「ってめえが……ッ」
睨み落とす。その表情をモロに見た。そのせいでまた黙った。
「教えろよ。もう酒だって抜けてんだろ」
「…………」
「言え。じゃなきゃ離さない」
いくら脅迫されたとしても、俺は答えを持ち合わせていない。葛藤は現在進行形だ。中途半端よりもさらに酷い。
キスは、酔った勢いで通せるだろうか。キスする前にこいつに言ったあれこれは、ごまかし切れるものではない。
小さなプライドがガラガラと崩れる。竜崎の視線に晒されてしまうと狂った衝動に一瞬で駆られる。
ミオに行く前のあの愚行は、まさにその結果だった。かたわらにあるなけなしの理性で、何も残らないキスを止めた。
受け入れるとか、拒絶するとか。好きとか嫌いとか、そういうことじゃない。このままでは抜け出せなくなる。それが怖い。その事実を認めることも。
強い視線にとらわれたまま、またしばらく黙っていた。答えるまでは放さない。ついさっきそう言ったばかりの男は、困ったように小さく笑うと俺からすっと手を離した。
ベッドの上方には窓がある。腰高窓に片腕を伸ばし、竜崎は静かにカーテンを引いた。その隙間から見えたのは結露した表面。外の様子もまだ少し暗かった。
突如解放された体をベッドから起こしてそばに立った。しかしこの視線は不意に、竜崎の体に向いた。
掛かっていた布団はめくれている。その下に隠れていた竜崎の体を目にした。右の脇腹にくっきりと残った、深い傷跡。それが分かる。
「……裕也……?」
実際にこの目でそれを見たのは、初めてだった。じっとしていられなくなった。
ギシッと小さく軋んだ音を立て、今度は自らベッドに上がった。半端な膝立ちのままその体を見下ろす。
俺の視線が脇腹に注がれているのに気づいたのだろう。竜崎はゆっくり手を伸ばしてきた。
「裕也……」
「……わざわざ言わなきゃ分かんねえのか」
口を開いて遮った。伸ばされた手を反対に掴み、シーツの上に下ろしてぎゅっと握りしめる。
まだほんの半日前だ。帰ってきた竜崎の姿を目にして、不覚にも心底安堵した。まったくの無事とはいかなかったが、それでもこいつは戻ってきた。
ちっぽけなプライドが崩壊するより、失うことの方が怖い。それだけはもうはっきりしている。
「……分かれよ」
ここまでが俺の限界だ。これ以上は俺には言えない。責めてくることこそないものの、竜崎は静かに俺を見ていた。
「はっきり言ってくれねえと都合よく解釈するぞ」
「…………」
「いいのか」
「…………」
心臓がおかしな音を立てている。三分もあれば死ぬかもしれない。
竜崎の手が俺の髪を、丁寧に梳くのを感じた。
「……裕也」
答えない。答えなくても、竜崎が俺の口を塞ぐ。
しかしキスは軽く触れるだけ。探るように目を覗き込んでくる。
「今日は途中棄権なしだからな」
「あれは……」
「あれは?」
答えを促すかのようにぎゅっと強く抱き寄せられた。気まずい。とうとう目を逸らした。
「……もういいだろ、そんなの」
「よくねえよ。どういうつもりで急にキョヒった」
「知るかよ……」
「それは答えになってない」
「…………」
黙秘権の行使はもう許されそうにない。おちょくってくれた方が今はありがたいが、残念ながらその表情は真剣。
「俺を弄ぶのが楽しいか」
「……弄んでんのはお前だろ」
「本気で行ってるのにかわされるんだよ。お前は気づかねえフリばっかりだ」
「…………」
拒絶と許容を繰り返す。そのつもりはなくてもそうなってしまう。
ばつの悪い思いによってついつい逃げ腰になった俺を、こいつはぐっと抱きしめてくる。
「おい……」
「ずっとこうしてたい」
「…………」
「触ってたい」
俺の肩に顔をくっつけた。思わずその上腕を掴み、綺麗な形の筋肉に触れる。
男の身体だ。男の腕だ。男に触るシュミなんてないが、不快な感覚は起こらない。押し返すこともついつい忘れた。心臓が煩い。一分で死ぬかも。強く抱きしめられているから、鼓動は竜崎にも伝わっているだろう。
「今だけでもいいから」
顔を上げ、目を合わせてくる。熱っぽい眼差しも男のものだ。
今ここで何かを言われたら、俺はこいつを拒めない。
「裕也……」
頬に手が添えられた。なぞるように伝い落ちる指先の感覚。全ての神経がそこに注がれた。
「今だけでいい。逃げるな」
言葉を理解するよりも早く、唇に温かさを感じた。竜崎の腕に触れたままの指先がぴくりと動く。
閉じた口をこじ開けて、入ってくる舌にはいつも遠慮がない。顎に手を掛けられ、どの道逃げられないと知っているのだから逃げる気こそこちらにはないが、深く重ねて逃げ場を封じてくる。
そこまでされなくても拒否はできなかっただろう。薄暗い部屋の中で、ただ黙って唇を合わせた。部屋に響くのはお互いの息づかいと、舌と唇が貪欲に触れ合う濡れた音。気持ちいい。その事実は変えられない。熱に浮かされたようにこの男を求めた。
仕草は強引だが、どうしたって優しい。欲しがればそれ以上に与えられた。求めれば求め返される。いけないことだと警告してくるしつこい理性を切り離し、バカみたいに酔いしれた。
キスは続く。徐々に体は傾いた。体勢の変化に薄く目を開け、そこでグッと両肩にかった力。
目の前の光景はグラッと揺れた。安っぽい枕にぼすっと、頭が沈み込んでいる。
「え……」
組み敷かれた。いきなりだ。ほとんど薙ぎ倒されていた。
それをやった張本人は俺の上に跨っている。呆気にとられて竜崎を見上げた。
「都合よく解釈するって言ったろ」
「…………」
「ついでに沈黙は同意とみなす」
なんて低俗。濡れた唇がかすかに吊り上り、薄く微笑んで顔を近づけてくる。
「りゅ……」
再び重なる。こいつは低俗だが、俺はそれ以上に愚かだ。
「ん……」
唇を啄まれるたびにちゅっと音が立つ。霞みのかかったような意識は理性と煩悩の間で揺れている。しかしここでは理性が勝った。
唇と唇の間に微かな隙間ができたその時、ふっと顔の向きを逸らした。俺の体を跨いでいるその膝が微かに触れている。布同士が擦れる音。この男は上半身だけ裸だった。
剥き出しの腕にひたりと触れる。まだどうにか理性が勝っている。僅かな程度に押し返した。
「同意したくせに」
「してねえ。どけ」
「この状況でそれ言うか」
「いいからどけよクソが」
触れている肌は温かい。これ以上の間違いは犯せない。
「退けっつってんだろ」
「一度だけ試そう」
「ああ?」
「キスがこんなに気持ちいいならセックスも気持ちいいに決まってる」
「…………」
こいついま何語喋った。
「お前もそう思わねえ?」
「お……っ思うわけねえだろふざけんじゃねえ! そんな軽いノリで男とヤれるかよ!?」
「軽くない。大丈夫、本気。俺はもうずっと前から裕也のこと抱きたか…」
「やめろッ!!」
それだけは聞きたくない。
理性が一気に欲をぶっ飛ばした。危機感とは生き物の生存戦略。あからさまにおかしな事を言われて一瞬でまともな思考が戻った。
竜崎の下から這い出るためにシーツに肘をついたがそこまで。体勢的にも力の差からも簡単に抜け出すことはできない。悪者のような笑みを浮かべる竜崎は容易に俺を押さえつけた。
「逃げねえって約束したじゃん」
「してねえッ。記憶の捏造やめろっ!」
「細かいこと気にすんなよ」
「全然細かくね……って、おいッ、やめろ……ッ」
服の下に手が入ってくる。指先で腹を辿りながら服をたくし上げてくる。
じたばたともがいた。しかし逃げられない。両膝で体を挟み込まれ、状況はさらに悪化。
「ここまでしていいなんて言ってねえッ」
「ここまでってどこまで。お前は俺に触られんの好きだろ」
「はあっ!?」
するすると指先は腹の上を撫でていた。からかうようで、なおかつ卑猥だ。
「っな、せ馬鹿がッ、朝からサカってんじゃねえよ……ッ」
「なるほど。電気消してって言いたいタイプな」
「マジ死ね!!」
叫んだ瞬間、笑みを深くされた。ゾワッと背筋が凍り付く。
抵抗のための俺の手を簡単にパシッと掴み返し、あっさりシーツに縫い付けてきた。荒っぽく口を塞いできたその動作は完全に流れ作業。抵抗する間もなくもう片方の手も同じように拘束されて、流れ作業の一部のように唇を性急に割りさいた。
「ッ……んんっ……!」
手も足もろくに動かせないから、左右に首を振ることだけが俺に許された抵抗だった。舌に噛みついてやれればいいが、そこまではできないのが悔しい。
荒々しく、強引で、それでいて優しいのは嫌でも感じる。俺を押さえつけるその手も、足も。力は馬鹿ほど強いのに、痛みだけは決して与えられない。
力加減をほんの少し変えれば俺を動けなくさせることくらい簡単なはずなのに。つくづく愚かだ。こいつじゃない。俺だ。人にこんなことをしている時点で、この男は紛れもなくクソ野郎なのに。
「は、ぁ……」
しつこいキスから解放された。拘束もいくらか緩くなる。涼しい顔をしている竜崎を猛烈に蹴り飛ばしたい。
しかしそれは叶いそうもなく、上気した顔を背けた。はだけた服の下で露になっている腹を指先がつつっとなぞった。肩が勝手にピクリと動く。
「触んなっ……」
思いのほかか細かった自分の声に気が遠くなってくる。俺は怯えた小鹿か何かか。
竜崎の腕を苦し紛れに掴み、八つ当たり気味に爪を立てた。そんなものが打撃になるはずもなく、上からバッと覆いかぶさってくる。
「てめっ……ざけんなッ」
心臓の上に頬がピタリとくっつく。ベッドと俺の背との間に手を差し入れ、きつく抱きしめてきた。まるで意味が分からない。
「んなんだよクソがっ!」
「心臓バクバク言ってる。つーかこれイイな。あったけぇ」
「……っ」
カッと瞬時に血がのぼる。思考という思考をすべて放棄し、蹴り上げた右膝は防御本能。
「ぅ゛っ……」
低い呻きを聞いた。一切の動きを止めた竜崎。男にとってこれほど辛いものはないは知っている。
珍しく顔を青くさせ、痛みに動くことすらできない竜崎の体を押しのけた。ベッドからおりて落ちているシャツを無造作に引っ掴み、うずくまっているクズ野郎めがけて怒りのまま投げつけてやる。
「半裸の変態が抜かしてんじゃねえ! 寒けりゃ服を着ろこの大馬鹿!!」
「お、ま……これは……ひでぇだろ……」
「うっせえアホ!! この変態! ど変態! 変質者!!」
「言い過ぎ……」
「死ねッ!!」
動けない竜崎を放って真っ直ぐに玄関を目指す。さすがのこいつもしばらくはまともに動けないだろうから背後に気を配る必要もない。
乱雑に脱ぎ散らしたままの靴にイライラと足を突っ込んだ。しかしそこで後ろからは竜崎が声をかけてくる。
「裕也……。お前だって分かんだろ……」
「…………」
真剣身を帯びた声色。
眉間を寄せつつも窺うように、ちらりと後ろを振り返る。ベッドの上で痛切な表情を浮かべている竜崎と目が合った。
「朝起きた時ココがこうなってんのは健康な男である以上仕方な…」
「っ死ね!!」
まともに聞こうとした俺がバカだった。
怒鳴り声とともにズカズカ外へ飛び出し、勢いに任せてバァンッとドアを閉めた。
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