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隣のお兄さん
お兄さんの裏側
しおりを挟む抱きたい。
そう思い始めたのはいつからだっただろうか。
いつもならセーブを利かせているはずが、この日はどうしてだか駄目だった。大学の同期数人で集まって、パーッと男ばかりの飲み会をしていたのが小一時間ほど前まで。終電に乗り込んだその足でタラタラと家に戻ってきた。
寝静まった辺りに溶け込むようにして、そろっと玄関の鍵を開けた。そこもシンと静まり返ってはいたが、玄関の明かりをつけてみると両親の靴がない事に気づく。
家を空けるなんて言っていただろうか。そんな記憶には辿り着かないものの、まあいいかと思いそのまま中に入った。二階の自分の部屋へと直行し、酔いの覚めない頭でベッドに身を沈める事だけを考えて体を動かす。
ドアを開ける腕が妙に重い。そして真っ暗であるはずの室内は電気がついて明るかった。
「え……」
「お帰りシュウ君」
部屋に入った瞬間目線はベッドの上へ。淵に腰掛け、じっと俺を見上げてくるのはミナトだ。
「ミナト……お前、何して……」
こんな真夜中に。人の部屋で。お前の家はここじゃなくて隣だろう。
「シュウ君のこと待ってた」
「は……?」
「教えてほしい事があって」
こんな時間に?
何がなんだか酔いの回っている頭は回転も遅く、とりあえずベッドまで行ってミナトの隣に座り込んだ。俺の重みが加わり、沈んだベッドは音を軋ませる。
「なんだよ、どした。こんな夜中じゃおばさん達に黙って出てきたのか?」
中学生が夜間外出か。家隣だけど。
「ミナト?」
「教えてほしい」
「またそれかよ」
俺の問いかけは無視して、さっきと同じことを言われる。横から顔を覗きこんで何が知りたいんだと目を合わせると、じっと見返してきた。揺らぐことなく定まった瞳は異様なくらいに真っ黒で、いつも見ているはずなのにどういう訳だか背筋に何か変な感覚が走った。
「どうした……?」
思わず生唾を呑みそうになるのを堪え、ようやくそれだけ言えたけど俺の違和感は錯覚ではなかった。
ミナトの腕がスッと上がり、俺の服の裾を掴んでくる。反射的にミナトのめをもう一度覗きこんだとき、今度こそ俺の思考は停止することになった。
「セックスってどうやるの?」
「…………え?」
熱に浮かされたような、いくらか赤みの見える目元。
中一の男なら当然気になる事であろう、事実俺もあの頃は何よりも知りたかった内容。だけどそれは、ミナトが俺に対してしていい質問ではない。
いや、違うか。真実はこう。俺がミナトからされると非常にマズイ質問だ。
「…………」
「教えてよ。シュウ君」
「……ミナト」
「教えて?」
そんな目で見ないでくれ。
***
「やっ……ぅ…んん…ッ」
「ほら、ミナト……力抜けって…」
「ンっ…や、ぁ……」
ベッドの上でうつ伏せになって、縋るようにシーツを握りしめるミナトからは悲痛な喘ぎ声が漏れるばかりだ。突き出させた腰を逃げないようにしっかりと両手で支え、自分の欲を遠慮なくぶつける俺はきっとどうかしているに違いない。
教えてと言われ、体で教える奴がどこにいる。これじゃあ俺は変態だ。後ろからだと顔は見えないけど、泣いているのだってちゃんと分かっているのに。
どうしてもヤメられない。まだ幼さの残るカラダでも、ミナトはなんだかやたらと悦かった。この辺でそろそろやめてやらなければとは思う。しかしそうは思っても、俺の本能はまだミナトを欲しがっている。
「……ミナト」
「んぁっ……あッ……ヤ、ダ……」
甘さに混じる悲鳴があまりにも痛々しくて、酔った変態野郎でもさすがに良心は咎められる。片方の腕をミナトのソコへと伸ばし、少しでもヨくしてやろうと形に添って手を動かした。
「ヤダッ、ぁあ、っヤダ……シュウく、……ッ」
頭を振って拒絶される。よかれと思ってやった事でも、響いたのは制止の懇願。
後ろの圧迫感だけでも一杯一杯だろうに、そこへ無暗に快感を誘うようなことを始められるのは余計にツラい事だったようだ。
でもゴメン。ほんと悪いと思ってる。
自分のモノと比べるとまだまだ可愛らしいミナトのそれには、一度触ると扱き上げたい欲求が芽生えた。本格的に俺はヤバい奴になっているかもしれない。
「ミナト……すごいよお前……すげえ、イイ」
「んっ、やっ……ああッ」
片手はミナトを扱いたまま、後ろからは容赦なく腰を打ち付け続けた。卑猥な水音も肌のぶつかる音もミナトにとってはどれも耐えがたい物だったらしく、聞きたくないとでも言うようにシーツに顔を埋めている。
それでも俺は自分の欲に付き従い、力の入らないミナトの体を無理矢理押さえ込んで中を突き上げた。
どうしてこんな事になったのか。俺は一体どこで間違えたんだか。
生意気でうるさい隣の家のガキ。最初は本当にそれだけだったけど、自然と一緒に遊ぶようになってからはすぐに違う感情が芽生えてきた。気のせいだと自分を誤魔化しながら、普通に女と付き合ってみた事もあったがやっぱりミナト以上に可愛いと思えるコは誰一人としていなかった。
それを何年も溜め込んで、結局こういう形で発散させる事になる。最低としか言いようがない。
「ッ……ミナト……ごめん、俺……」
もう限界。
最後まで言えたかどうか分からなくなるくらい俺は夢中になっていた。甘く泣きじゃくるミナトを後ろから抱き込み、一気に奥を突き上げて自らの快感を追った。
キツイ締め付けに頭がくらくらする。うっかり手なんて出さないようにと耐えてきたミナトを、今は思いっきり汚してやりたくて堪らなかった。
「ヤッ……ぁああっ……!」
一際ミナトが高く喘ぎ、それと同時に強い波が俺の体にもやって来る。
絶頂を促すかのような内壁の熱によって、俺は遠慮することなく自分の欲をミナトの中へと吐き出した。
「あ……はっ……」
抱きしめる細い体が、腕の中でびくびくと震えている。お互いの呼吸は荒い。
快感の余韻に浸りたい俺はそのまましばらく動かずにいたが、少しして聞こえてきた嗚咽によってギクリと背筋が凍った。
「……ミナ、ト?」
「っく……ぅ……ふ」
やばい。泣かした。
シーツに顔を埋めたまま、懸命に声を我慢して泣いている。俺はと言えば酔いも余韻も一瞬で吹っ飛んで、慌ててミナトの中から自身を引き抜いた。
「やっ、ン……」
「ミナト……ごめん……痛かったよな」
結構な加減で無理矢理だった。気づいたら突っ込んでいたような気さえする。宥めるために肩に触れると派手にビクつかれ、多少なりともショックを受けた。
「ごめんな……。怖かった……?」
めげずに肩に触れると今度は大した反応はなかった。ただただ必死になってシーツに縋りつき、止まらないらしい涙をどうにか抑えようとしているのが分かる。
酷な事をした。ただ単に、やり方を聞かれただけなのに。
重く圧し掛かる罪悪感は自業自得だ。しかし小刻みに震える体を見ていると、存分に甘やかしてやりたい衝動に駆られてくる。
「ミナト……ごめん……」
ミナトの体を抱き起こし、後ろから控えめに抱きしめた。ミナトも最初は体を固くしたけど、すぐに身を任せてくれた事に安堵する。
「初めてだもんな……そりゃ怖いよな……。もうしねえから。ごめんな……」
一歩間違ったらというどころではなく、さっきのはもう紛う事なき犯罪。年下の子供に本気で手を出すようじゃ俺は終わっている。
泣き止まないミナトにグサグサと良心を痛めつつ、様子を窺いながらもこっちを振り向かせた。
「…………」
ぐさぁッ、と。強い衝撃が来た。
ミナトが泣くところなんかこれまでに幾度となく目にしてきたけど、今ここで見た光景はビックリするようなものだった。
目元を赤くさせ、頬も紅潮し、喉元でしゃくりあげる幼い子供の姿。
……かわいい。
じゃねえだろ、俺。何してんだよ。つーか何考えてんだよ。ホントに犯罪だ。
「ミナト……」
体ごとこっちに向かせて正面から抱きしめた。ポンポンと背中を叩いてあやしていると、こんな事をした後だと言うのに抱きついてきてくれる。
どうやら嫌われていないことはせめてもの救いだ。こんなにも可愛く育っちゃってどうすんだよお前。
「……シュウくん」
「うん?」
「怖かった」
「……ごめん」
だよな。それは当然ってやつだ。
ごめんなって、少し腕の力を強めて抱きしめた。冷たいシーツではなく今は俺の胸板に顔を埋めながら、ミナトは左右に首を振る。
「いいよ、シュウくん」
小さくポツリと漏らされた声。抱き合ったまま目線を下げたが、ミナトは未だ俺の胸に顔をくっつけているから表情は読めない。
「痛いし怖かったけど、シュウくんならいいよ」
「なにを……」
言ってるんだこいつは。どういう意味でそんな事を。
「シュウくんが気持ちいいなら俺も気持ちいい事だよね? シュウくんがしたい事なら、きっと俺だってしたい事だよね?」
「え……?」
良く分からない。こいつはこんな事を言う奴だったか。
中学生になってもまだまだガキっぽくて、分かり易い言動しかした試がないと言うのに。
それはなんだ。誘い文句?
「……ミナト?」
「シュウくん、俺……シュウくんが……」
***
パチッと目が開いた。直後にはガバッと身を起こした。
すごい汗。ベッドの上でぜえはあと肩で息をしながら、目に飛び込んできたモノには思わず叫び出しそうになった。
「ミナ……っ」
「おはようシュウくん。だいじょぶ? 汗びっしょりだよ?」
「…………」
俺のすぐ傍。ベッドの前に立って、飛び起きた俺に驚いたのかキョトンとしているミナトの姿がある。
裸……じゃない。服は着ている。ついでに俺も着ているシャツは汗で濡れている。
ていうかさっきまで真夜中だったはずが、部屋の中は朝日を思わせる色合いだ。ミナトが開けたのだろうカーテンからは、その証拠ともいうべき日差しが射し込んでくる。
「……夢……?」
なんてリアルな。
「そっか……夢か……そりゃそうか………」
ホッとしたような、物凄く残念なような。
これはもう、自分の常日頃からの願望が見せたものとしか思えない。頭を抱えて唸っていると、ミナトが不審そうにベッドに手を付いて俺の顔を覗きこんできた。
「シュウくん変だよ? どうしたの?」
「いや……悪い、なんでもない。平気だから気にすんな」
それより頼む。退いてくれ。この距離が今の俺には刺激が強すぎる。
「……ミナトはなんでここにいるんだ?」
「うわー、最っ低。今日一緒に出掛けようって約束したじゃん」
「ああ……」
そういやそうだった。今日、土曜か。
忘れていた訳じゃないけど、強烈な夢のせいで一時的に飛んでいた。
「早く行こうよ。シュウくん夕方からバイトだろ? 時間無くなる」
「ああ、分かった。とりあえずシャワー浴びてくるからお前は一旦家戻れ」
「えーなんで、メンドクサイ。俺ぜんぶ準備できてるからココにいるよ」
それは困る。こいつがいたら布団から出られない。ミナトだってもう中一なんだから、朝の俺の身に何が起きたかくらい分かってしまうはず。
「いいから戻ってろ。すぐ迎え行く」
「あーあ、シュウくんのバカ。自分が寝坊したくせに」
「うるせえぞクソガキ」
言いながら頭をワシャワシャと撫でつけてやれば、不満そうに俺の手を振り払いながらも渋々引き下がる。
ほんっと可愛いなあ。夢なんかじゃなくてリアルでやりたい。
部屋のドアから出て行く間際、ミナトはこっちを振り返った。それが夕べの残像と重なって死にそうになる。
「昼、ハンバーグね」
「おーおー分かった分かった」
食わせてやるよそれくらい。というより、夢の中だろうと犯してしまってすみませんの意味で奢らせてほしい。
「……ミナト」
「何?」
「…………悪かった」
「んー? いいよ別に。それより早くして」
謝罪は寝坊の事だとして取られたが構わない。とにかく一言言っておきたいという気分だけしかなかった。
パタンとドアが閉められ、部屋に一人取り残されると急激に夢の中の光景が蘇ってくる。
可愛かった。とにかく可愛かった。できる事ならあと一回くらい夢の中でやっておきたかった。
「…………」
俺は病気だ。
あと五年待ったら一線越えよう。
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