220 / 308
220.探検ミッションⅢ
しおりを挟む
ここは建前のある国だ。クリーンなのが大好きな国だ。周りと同じように仕事して周りと同じように住む場所を得て周りと同じように生活している人なら、生きづらさを感じる場面がどれだけあろうともまあまあ誰でも生きていける。
外野にとやかく言われる事はあるが表立って殺される心配はほぼない。だから図太くなりさえすれば、それなりに平和には暮らせる。
そんな小さな島国の一角で、一人でじっくり黙々タイプも人生を楽しく過ごせそうなお店を発見してしまった。ケーキ屋さんが目の前に。
ガヤガヤするゲーセンからさほど離れていない場所にこんな素敵なお店があるとは。
シックな装いでシンプルながら輝いている建物の外観を三秒見ていた。ところ、瀬名さんに横からスッと腰を押された。入っただけで感動するような店の中はお菓子の匂いに包まれている。
どうやらイチゴのスイーツ専門店のようだ。ショーケースに並んでいる光り輝く宝石たち。
この時間でも大勢いる女性客を押しのけて駆け寄りたいのをどうにか堪え、別にそこまで興味ないけどみたいな顔してケースの前に行く。
美しい。売り切れのケーキもあちこちに。商品名の入ったプレートだけが誇らしげに残されている。
鮮やかなスイーツを眺めながら、完売済みも含めてプレートを一個ずつ見ていった。
なんとかっていうイチゴのミルクレープ。なんとかっていうイチゴのシュークリーム。なんとかっていうイチゴのプリン。なんとかっていうイチゴのロールケーキ。
「……ん?」
なにこれ。なんだか。聞いたことのないイチゴの名前ばっかり並んでねえか。
普通のがないな。イチゴ専門店なのに。オーソドックスなイチゴが見当たらない。そしてそのイチゴの名前をこれでもかというほど強調してくる。ケーキの名前には欠かさずイチゴの品種名が入っていた。
小学校の給食のデザートなんかでは、どれもこれも死んでもお目にかかれないはずの逸品が。
「…………」
「どうした?」
「…………いえ」
そうか。ここがどういう店なのか分かった。
ケーキの上に鎮座しているイチゴはもちろんのこと、スライスされてスポンジに挟まれてまともに姿の見えなくなったイチゴも、ダイスカットされてババロアにぶち込まれてどこにいるんだか分かんなくなってるイチゴも、クリームにたっぷり練り込まれてすっかり原型を留めていないイチゴでさえも、どれもみんな最高位の粒が厳選されているのだろう。
ここに並んでいる奴らの正体は、深窓の令嬢みてえなイチゴどもだ。デパートの地下の果物屋さんで桐箱とかに入って売られているやつらだ。
ショーケースをじっくり睨み付けた。そして三つ買ってもらった。イチゴタルトとイチゴレアチーズと。これまた知らない名前の高級そうなイチゴがお上品に澄ましていらっしゃる、ケーキの王道。ショートケーキ。
日本人にとってイチゴのショートケーキなんて定番中の定番なのに、上にはなんか知らないヤツが乗ってる。
レジ横のバスケットに入っている苺フィナンシェにも二秒ほどガン垂れていたら瀬名さんがそれも買ってくれた。計四点お買い上げしてもらって後にしたその店。
ケーキの箱が入った手提げ袋を凝視しながら、隣の瀬名さんに向けてギリギリの礼儀を通した。
「……ありがとうございます」
「いや。……さっきからなんか怒ってるか?」
「いいえ、別に」
「……なんでそんな袋睨みつけてんだ」
「いいえ。別に。帰りましょう。早く食わなきゃ」
「保冷材入ってるぞ」
「いいから。帰ろう」
「おう……」
帰宅してもケーキの箱が冷蔵庫に保管されることはなかった。なぜか。すぐに食うからだ。皿とフォークを用意している傍ら、瀬名さんがついでに紅茶も淹れてくれた。
前のよりも大きくなった長方形のダイニングテーブルは、半島スタイルのオープンキッチンのすぐ目の前にくっつけて設置してある。その上にケーキをポコポコ並べた。
揃えで買った木製革張りのチェアにトサッと腰かけた。
綺麗で、とてもキラキラしていて、人に見せびらかしたくなるようなスイーツ。私ここのケーキ好きなんです、とかなんとかホザいてみれば上流の人になった気分でさぞかしマウント取れそうな高級おやつ。見れば見るほどジリジリしてくる。これはもう、言わずにはいられない。
「まったく……これだから都会人は」
「ん?」
「……一言だけ物申します」
「あ?」
「なんっでもかんっでも高ぇ食材使えばいいと思いやがって……ッ!」
「急にどうした」
帰り道で堪えていたものが今ここで爆発している。買ってもらったくせにこんなこと言うのもどうかと思ったから黙っていたけど、ムリだ。俺には耐えられない。とうとう口に出したこの鬱憤は、目の前に座った瀬名さんが不思議そうに受け取っていた。
何も高級なのが悪いとは言ってない。これまでに瀬名さんから貢がれてきた数々のお上品スイーツにだって満足できなかった試しはない。その中には素敵なショートケーキもあった。
だがショートケーキの上に添える苺には敬意を払え。美しい高級ショートケーキになっても変えちゃならねえところはあるだろ。調子づいてんじゃねえぞ都会人ども。鼻につく高級志向はむしろ品がないと分からせてやる。
「勝負だ」
「何とだ」
「何がもクソもねえよショートケーキに決まってんだろッ!」
「どうしたよ落ち着け」
落ち着けるか、これは戦争だ。
「さっきのあの店見たでしょう!?」
「あ……?」
「商品名に全ッ部イチゴの名前付いてたっ……」
「名前……?」
「ウチではスーパーで売ってるようなチープなイチゴはお取り扱いしてませんのよっていう上から目線のアピールですよ……ッ」
「……うん?」
「俺らがガキの頃から慣れ親しんでる普通のちょっと酸っぱいイチゴがいなかったんです全くっ、一個もッ、慣れ親しんでるってことはつまり愛されて慈しまれて浸透してる文化の一つって事なのに!」
「お、おう……」
「気取りやがってクソがッ!」
「……どんな情緒してんだお前」
「俺の情緒こそ真っ当だろうがっ、こんな事になるから日本の古き良き文化は新種のキラキラどもに淘汰されちまうんだよッ!!」
「お、おう……」
「そこにあるものを侵略して破壊して根絶やしにするのはいつの世も傲慢な連中なんですッ! 芸術と創造の分野にまで土足で踏み込んできやがったAIの運用者どもと同じだよ! テメエの技術をそんなにひけらかしたいか!? 能力の証明にどんだけの価値があるッ!!」
「……なんの話してんだ」
「道具に罪はない、使用者の問題です! イチゴに罪はないっ、使い手の問題ですッ!」
「お、おう……」
横からさりげなくススッとティーカップを寄せられて取っ手を持ち上げた。
上品さの欠片もないような態度でズズッと啜る。瀬名さんはますます不可解そうな顔を。
「……このイチゴじゃ嫌なのか?」
「好きとか嫌いとかの話じゃありません。イチゴショートケーキの苺にとちおとめを使わねえケーキ屋はモグリです」
「そんなことねえと思うが」
「あのケーキ屋はそうですよ、これ見よがしの品揃えでした。じゃなけりゃ品種名なんかわざわざ見せつけてこねえもん。あれは昔ながらのちょっと酸っぱいイチゴを明らかに見下してます」
「そんなこともねえと思うが」
「SNS映えの意識だけしてて味とかどうせ大した事ねえくせに」
「ケーキ屋に喧嘩を売るな」
「イチゴの品種名見て知ったような顔してる客どもだって味なんかどうせ分かってねえし」
「なんの罪もない客を巻き込むな」
各地で品種改良争いが熾烈を極めている現代。これがイチゴ戦国時代というものによる追い上げだ。
俺があの気取ったケーキ屋を発見するのが遅れていたら日本はどうなっていた事か。今ならまだ食い止められる。俺がこの手で止めて見せる。そのために意気込んでフォークを握った。
都会人が作った都会のケーキめ。お前なんかに負けてたまるか。ちょっと酸っぱいイチゴさん達を守るのは俺の使命だ。
ふんわりふっくらしたケーキと一緒に、お上品な高級イチゴをフォークでたっぷり山盛り掬った。豪快に、それをパクリと。
「…………」
「どうだ」
「……ッああクソ、チクショウ! うまい!!」
「お前は時々何と戦ってるんだ」
「高級ショートケーキとだよ!」
「酔ってんのか……?」
ショートケーキの苺が全然酸っぱくなくて、かと言ってしつこくもなくてクリームとも絶妙にマッチしていて、物凄く美味しかったくらいで図に乗るんじゃねえぞ高級スイーツめ。
俺はまだ戦える。こっちには洗練された大人の男だっているんだからな。
「瀬名さんもチーズケーキはやく食って。高級イチゴに負けたら許しません」
「俺は別に戦ってない」
「いいから食え!」
「恋人の沸点が分からねえ」
次なる敵は薄くスライスさせたイチゴが上に敷き詰まっている無駄に美しいレアチーズケーキ。イチゴはなんと赤じゃない。白だ。イチゴが赤くなくてどうすんだ。
イチゴの概念を打ち破りやがったこの新種野郎に闘志を燃やす。三角の先っちょを丁寧にちょこんとフォークに乗せた瀬名さんは、それを俺の口元に寄せてきた。
ふわっと鼻を掠める甘い香り。これは紛れもない挑発行為だ。そうかよ、そっちがそう来る気ならば誘いに乗ってやろうじゃねえか白イチゴめ。
憎き敵にパクッと食いつく。モグモグしてみる。飲み込んだ。
「…………」
「今度はどうだ」
ガクッと、一気に項垂れた。褐色のウォールナットの綺麗な木目と見つめ合う。
「……クソっ……負けた……」
「もう無意味な戦争はやめよう」
嫌味なくらいキラキラした高いイチゴがふんだんに乗っかった美しいイチゴタルトも、涙が出るほど美味かった。
***
翌日。
今日の敵は小さな焼き菓子。苺フィナンシェと朝から対峙する。
香ばしい茶色の生地にはなんとかっていう知らない名前のお高くとまったイチゴ野郎がふんだんに練り込まれている。
「……勝負だ」
「まだやってたのかよ」
結果はもちろん見事な惨敗。次はイチゴのミルクレープに決闘を申し込むと心に決めた。
外野にとやかく言われる事はあるが表立って殺される心配はほぼない。だから図太くなりさえすれば、それなりに平和には暮らせる。
そんな小さな島国の一角で、一人でじっくり黙々タイプも人生を楽しく過ごせそうなお店を発見してしまった。ケーキ屋さんが目の前に。
ガヤガヤするゲーセンからさほど離れていない場所にこんな素敵なお店があるとは。
シックな装いでシンプルながら輝いている建物の外観を三秒見ていた。ところ、瀬名さんに横からスッと腰を押された。入っただけで感動するような店の中はお菓子の匂いに包まれている。
どうやらイチゴのスイーツ専門店のようだ。ショーケースに並んでいる光り輝く宝石たち。
この時間でも大勢いる女性客を押しのけて駆け寄りたいのをどうにか堪え、別にそこまで興味ないけどみたいな顔してケースの前に行く。
美しい。売り切れのケーキもあちこちに。商品名の入ったプレートだけが誇らしげに残されている。
鮮やかなスイーツを眺めながら、完売済みも含めてプレートを一個ずつ見ていった。
なんとかっていうイチゴのミルクレープ。なんとかっていうイチゴのシュークリーム。なんとかっていうイチゴのプリン。なんとかっていうイチゴのロールケーキ。
「……ん?」
なにこれ。なんだか。聞いたことのないイチゴの名前ばっかり並んでねえか。
普通のがないな。イチゴ専門店なのに。オーソドックスなイチゴが見当たらない。そしてそのイチゴの名前をこれでもかというほど強調してくる。ケーキの名前には欠かさずイチゴの品種名が入っていた。
小学校の給食のデザートなんかでは、どれもこれも死んでもお目にかかれないはずの逸品が。
「…………」
「どうした?」
「…………いえ」
そうか。ここがどういう店なのか分かった。
ケーキの上に鎮座しているイチゴはもちろんのこと、スライスされてスポンジに挟まれてまともに姿の見えなくなったイチゴも、ダイスカットされてババロアにぶち込まれてどこにいるんだか分かんなくなってるイチゴも、クリームにたっぷり練り込まれてすっかり原型を留めていないイチゴでさえも、どれもみんな最高位の粒が厳選されているのだろう。
ここに並んでいる奴らの正体は、深窓の令嬢みてえなイチゴどもだ。デパートの地下の果物屋さんで桐箱とかに入って売られているやつらだ。
ショーケースをじっくり睨み付けた。そして三つ買ってもらった。イチゴタルトとイチゴレアチーズと。これまた知らない名前の高級そうなイチゴがお上品に澄ましていらっしゃる、ケーキの王道。ショートケーキ。
日本人にとってイチゴのショートケーキなんて定番中の定番なのに、上にはなんか知らないヤツが乗ってる。
レジ横のバスケットに入っている苺フィナンシェにも二秒ほどガン垂れていたら瀬名さんがそれも買ってくれた。計四点お買い上げしてもらって後にしたその店。
ケーキの箱が入った手提げ袋を凝視しながら、隣の瀬名さんに向けてギリギリの礼儀を通した。
「……ありがとうございます」
「いや。……さっきからなんか怒ってるか?」
「いいえ、別に」
「……なんでそんな袋睨みつけてんだ」
「いいえ。別に。帰りましょう。早く食わなきゃ」
「保冷材入ってるぞ」
「いいから。帰ろう」
「おう……」
帰宅してもケーキの箱が冷蔵庫に保管されることはなかった。なぜか。すぐに食うからだ。皿とフォークを用意している傍ら、瀬名さんがついでに紅茶も淹れてくれた。
前のよりも大きくなった長方形のダイニングテーブルは、半島スタイルのオープンキッチンのすぐ目の前にくっつけて設置してある。その上にケーキをポコポコ並べた。
揃えで買った木製革張りのチェアにトサッと腰かけた。
綺麗で、とてもキラキラしていて、人に見せびらかしたくなるようなスイーツ。私ここのケーキ好きなんです、とかなんとかホザいてみれば上流の人になった気分でさぞかしマウント取れそうな高級おやつ。見れば見るほどジリジリしてくる。これはもう、言わずにはいられない。
「まったく……これだから都会人は」
「ん?」
「……一言だけ物申します」
「あ?」
「なんっでもかんっでも高ぇ食材使えばいいと思いやがって……ッ!」
「急にどうした」
帰り道で堪えていたものが今ここで爆発している。買ってもらったくせにこんなこと言うのもどうかと思ったから黙っていたけど、ムリだ。俺には耐えられない。とうとう口に出したこの鬱憤は、目の前に座った瀬名さんが不思議そうに受け取っていた。
何も高級なのが悪いとは言ってない。これまでに瀬名さんから貢がれてきた数々のお上品スイーツにだって満足できなかった試しはない。その中には素敵なショートケーキもあった。
だがショートケーキの上に添える苺には敬意を払え。美しい高級ショートケーキになっても変えちゃならねえところはあるだろ。調子づいてんじゃねえぞ都会人ども。鼻につく高級志向はむしろ品がないと分からせてやる。
「勝負だ」
「何とだ」
「何がもクソもねえよショートケーキに決まってんだろッ!」
「どうしたよ落ち着け」
落ち着けるか、これは戦争だ。
「さっきのあの店見たでしょう!?」
「あ……?」
「商品名に全ッ部イチゴの名前付いてたっ……」
「名前……?」
「ウチではスーパーで売ってるようなチープなイチゴはお取り扱いしてませんのよっていう上から目線のアピールですよ……ッ」
「……うん?」
「俺らがガキの頃から慣れ親しんでる普通のちょっと酸っぱいイチゴがいなかったんです全くっ、一個もッ、慣れ親しんでるってことはつまり愛されて慈しまれて浸透してる文化の一つって事なのに!」
「お、おう……」
「気取りやがってクソがッ!」
「……どんな情緒してんだお前」
「俺の情緒こそ真っ当だろうがっ、こんな事になるから日本の古き良き文化は新種のキラキラどもに淘汰されちまうんだよッ!!」
「お、おう……」
「そこにあるものを侵略して破壊して根絶やしにするのはいつの世も傲慢な連中なんですッ! 芸術と創造の分野にまで土足で踏み込んできやがったAIの運用者どもと同じだよ! テメエの技術をそんなにひけらかしたいか!? 能力の証明にどんだけの価値があるッ!!」
「……なんの話してんだ」
「道具に罪はない、使用者の問題です! イチゴに罪はないっ、使い手の問題ですッ!」
「お、おう……」
横からさりげなくススッとティーカップを寄せられて取っ手を持ち上げた。
上品さの欠片もないような態度でズズッと啜る。瀬名さんはますます不可解そうな顔を。
「……このイチゴじゃ嫌なのか?」
「好きとか嫌いとかの話じゃありません。イチゴショートケーキの苺にとちおとめを使わねえケーキ屋はモグリです」
「そんなことねえと思うが」
「あのケーキ屋はそうですよ、これ見よがしの品揃えでした。じゃなけりゃ品種名なんかわざわざ見せつけてこねえもん。あれは昔ながらのちょっと酸っぱいイチゴを明らかに見下してます」
「そんなこともねえと思うが」
「SNS映えの意識だけしてて味とかどうせ大した事ねえくせに」
「ケーキ屋に喧嘩を売るな」
「イチゴの品種名見て知ったような顔してる客どもだって味なんかどうせ分かってねえし」
「なんの罪もない客を巻き込むな」
各地で品種改良争いが熾烈を極めている現代。これがイチゴ戦国時代というものによる追い上げだ。
俺があの気取ったケーキ屋を発見するのが遅れていたら日本はどうなっていた事か。今ならまだ食い止められる。俺がこの手で止めて見せる。そのために意気込んでフォークを握った。
都会人が作った都会のケーキめ。お前なんかに負けてたまるか。ちょっと酸っぱいイチゴさん達を守るのは俺の使命だ。
ふんわりふっくらしたケーキと一緒に、お上品な高級イチゴをフォークでたっぷり山盛り掬った。豪快に、それをパクリと。
「…………」
「どうだ」
「……ッああクソ、チクショウ! うまい!!」
「お前は時々何と戦ってるんだ」
「高級ショートケーキとだよ!」
「酔ってんのか……?」
ショートケーキの苺が全然酸っぱくなくて、かと言ってしつこくもなくてクリームとも絶妙にマッチしていて、物凄く美味しかったくらいで図に乗るんじゃねえぞ高級スイーツめ。
俺はまだ戦える。こっちには洗練された大人の男だっているんだからな。
「瀬名さんもチーズケーキはやく食って。高級イチゴに負けたら許しません」
「俺は別に戦ってない」
「いいから食え!」
「恋人の沸点が分からねえ」
次なる敵は薄くスライスさせたイチゴが上に敷き詰まっている無駄に美しいレアチーズケーキ。イチゴはなんと赤じゃない。白だ。イチゴが赤くなくてどうすんだ。
イチゴの概念を打ち破りやがったこの新種野郎に闘志を燃やす。三角の先っちょを丁寧にちょこんとフォークに乗せた瀬名さんは、それを俺の口元に寄せてきた。
ふわっと鼻を掠める甘い香り。これは紛れもない挑発行為だ。そうかよ、そっちがそう来る気ならば誘いに乗ってやろうじゃねえか白イチゴめ。
憎き敵にパクッと食いつく。モグモグしてみる。飲み込んだ。
「…………」
「今度はどうだ」
ガクッと、一気に項垂れた。褐色のウォールナットの綺麗な木目と見つめ合う。
「……クソっ……負けた……」
「もう無意味な戦争はやめよう」
嫌味なくらいキラキラした高いイチゴがふんだんに乗っかった美しいイチゴタルトも、涙が出るほど美味かった。
***
翌日。
今日の敵は小さな焼き菓子。苺フィナンシェと朝から対峙する。
香ばしい茶色の生地にはなんとかっていう知らない名前のお高くとまったイチゴ野郎がふんだんに練り込まれている。
「……勝負だ」
「まだやってたのかよ」
結果はもちろん見事な惨敗。次はイチゴのミルクレープに決闘を申し込むと心に決めた。
250
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?
すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。
書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。
亮輔はすっかり慣れきっていた。
しかしある日、こう書かれていた。
「男に告白されるだろう」
いや、ちょっと待て。
その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。
犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。
これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。
他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
お腹いっぱい、召し上がれ
砂ねずみ
BL
料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。
そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。
さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【BL】無償の愛と愛を知らない僕。
ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。
それが嫌で、僕は家を飛び出した。
僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。
両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。
それから十数年後、僕は彼と再会した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる