貢がせて、ハニー!

わこ

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209.とある二十四時間の詮索Ⅲ

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 一通り店内を眺めてから本屋を後にして、ひとまず近くにあったカフェに入った。ホビー系で攻めていくと瀬名恭吾がゲシュタルト崩壊なのでもっと違う角度から見てみる。

 お店の人にも丁寧なのはいつも見ているからもう知っている。隣のテーブルが女性客だとチラチラと盗み見られているのもまあ目につくので知っている。彼氏と来ている女の人まで思わずといったふうにチラ見させやがる。なんなら彼氏の方までチラチラ見てくるんだから、ここまでくるともう手に負えない。
 この野郎いくらなんでも人間の目を惹きすぎだろ。ダイヤモンドか真珠かなんかなのか。あるいは世にも珍しいお宝なのか。これは地球侵略の疑いで本当に牢屋にしまった方がいい。

 このままじっとしていたら危ないのでフォークを持つ手の素早さをメモリ三つ分くらい上げた。おやつに食いつく俺の様子を、エイリアンが目の前で観察している。

「……そんな腹減ってたのか?」
「ここは危険です」
「なにが」
「危険なんです」
「どうしたお前」

 注文したカップケーキはパクパクと瞬時に平らげ、レモネードも一気に流し込む。
 エイリアン捕獲を目論む店中の刺客から隠し抜くため早々に席を立った。



 そうして普通のカフェを出てきた後は、モフモフのいるカフェをはしごする事に。
 瀬名さんのモフモフ愛は筋金入りだ。最近はアヒルにも興味津々だけれど、とにかく人間の目から見て可愛いと脳が認識する生き物への愛情が深い。つまり瀬名エイリアンは人類と似たような感覚を持っているのだろう。

 ニャアニャア言うモフモフも好きだが歯が伸び続けるモフモフも好き。いつだっけかにネズミカフェで出会ったチンチラさんには瞬時に心を奪われていた。
 そこは妖精の楽園みたいな場所。愛嬌満点のチンチラさんたちはみんな人馴れ済みのようでこっちに寄ってきてくれる。ミラクルキュートとか本気で言っちゃいそうな程に奇跡的なフォルムをしている彼ら。肩に乗られたり膝に乗られたり意外と軽いもっふりを抱っこしたりで、瞬く間に骨抜きにされた俺達。
 完全予約制なので時間が過ぎたら出ていかなきゃならない。けれどあの時の瀬名さんはしこたま打ちのめされていたようだ。最後の最後まで妖精さんのそばを離れたがらなかった。迷惑だった。

 見ているだけでも癒される生き物は沢山いる。あの様子だとウサギも好きだろう。
 身近な哺乳類で言えば、キュイとかプイとかで表現される鳴き声が特徴的なモコモコも好きっぽい。

 というわけで本日はモルモットカフェにやって来た。生き物カフェに来る人達は人間より動物を見たい人達だから、瀬名恭吾を保護しなきゃならない俺にとってはこれ以上ないほどのセーフティーゾーンだ。
 彼氏と来ている女も友達と来ている女も一人で来ている女もやっぱり瀬名さんには見向きもしない。みんなモルにまっしぐら。これ以上ないほどの安全地帯だ。

 ゾロゾロ動いてる大きいネズミは浩太のところのハムちゃんとはまた違った愛らしさがある。
 白と濃茶のバイカラーな丸っこいのが瀬名さんのお気に入り。マリモちゃんという女の子を、この日も興味深そうに抱っこしていた。

「……ぬくい。生き物乗せてる感じする」
「生き物ですからね」

 オモチャみたいな鳴き声と動作するけど俺たちと同じように血が通ってる。

 前に免許を取ってそのまま連れて行ってもらったモルカフェが楽しくて、あのあと近所でも似たような場所を探した。ここを訪れるのは今回で三度目。いつもの猫カフェに加えてここのモルモットカフェも行きつけになりつつある。
 俺のお気に入りは白と黒と薄茶の三毛模様。ネギくん。瀬名さんの隣でネギくんを膝に乗っけながら、モフモフを手の平で感じる。

「ここの子たちはみんな人懐っこい」
「鳴き声で人間を惑わせてくるのも反則だ」
「プイプイ言ってんのほんと可愛くて」
「罪が重いからニンジン食わせて反省させなきゃならねえ」
「あなたはオヤツ買いすぎですよ。スタッフのお姉さんヒいてたよ」
「いっぱい遊んであげてくださいって言われた」
「日本のお店で働く人は変なのにも優しいんです」

 変なのの傍らには大量のオヤツがある。目の前にトコトコ歩いてきた長毛のクリンクリンにはニンジンスティックを一本与えていた。右手ではクリンクリンを誘惑しつつ、左手では別の白い子に小松菜をあげている。
 するとその隣からもう一匹やって来た全身クリーム色。その場で小松菜の取り合いが始まってしまった。瀬名さんは幸せそうた。猫ホイホイである男はモルホイホイな男でもある。
 膝の上のマリモちゃんのことももちろん忘れてはいない。白とクリームが人間の手からブン取っていった小松菜を奪い合っているのを前に、おっとりしているマリモちゃんにものんびりポリポリニンジンをあげている。

 モルモットはスゲエよく食う。二十モルくらいを畑に放したら一晩で一枚か二枚かそこらを平然と食い潰すんじゃないだろうか。
 旺盛な食欲をじっと見降ろしながら、瀬名さんはマリモちゃんを丁寧に撫でた。

「これじゃ深夜十二時を過ぎてオヤツねだられても拒否できる自信はない」
「はい?」
「前からちょっと思ってたんだよ」
「何を?」
「こいつら水かけたら増えそうだ」
「それは映画のモコモコです」

 明るい部屋の中でお散歩するのも大好きだから種族が違う。

 近くにいらしたお姉さん二人組には俺達のこんなしょうもないやり取りがどうやら聞こえてしまったようだ。秘かに顔を見合わせながらクスクス笑われてかなり恥ずかしい。
 たいへんお騒がせいたしましたが、地球のげっ歯類は水がかかったくらいじゃ増えないんで大丈夫です。十二時過ぎてメシを食わせても狂暴な小悪魔には変身しません。
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