貢がせて、ハニー!

わこ

文字の大きさ
189 / 308

189.お礼のヒマワリ

しおりを挟む
 大学の新学期が始まった。

 長い休みが明けるのは悲しい。今年度からは就活という二文字も頭にチラつく。気が重い。
 しかしそんな目前に迫る危機に不安を煽られるより、俺には直ちに成し遂げなければならない一つのミッションがある。

 その標的は、浩太。ハムちゃんの飼い主。カフェテリアにいたのを見つけた。ちょうど良く一人だ。暇そうにスマホをいじっている。よし。
 今しかないと腹を決め、重めの足を動かした。浩太のすぐそばへ無言で向かって、テーブルの上にトンッと置いたパック。イチゴ・オレって書いてある牛乳もどきだ。

 何も言わずに差し出した。それを二秒くらい眺めたのちに、浩太は顔を上げて俺と目を合わせた。

「これは何。お礼にお茶でも展開?」
「コーヒー牛乳と間違えてイチゴ牛乳押しちゃったからお前にぶん投げてるだけだ」
「素直じゃねえよなあ」

 浩太を頼ったあの一件。あれは俺の誤解だったと、それだけ連絡は入れてあった。
 しかし詳細は話していない。あれから実際に会うのも今日が初めて。

 間違えて買っちゃったイチゴ牛乳を浩太は半笑いで受け取った。安っぽいストローを引っ張り出して、牛乳じゃないジュースを口にするこいつ。
 その目の前に今度はガサッと、茶色い紙袋を置いた。

「……これは?」
「ヒマワリの種。癒しをくれたハムちゃんに礼だ」
「ハムちゃんには素直だな」

 可愛い生き物には敬意を払う主義だ。
 浩太はイチゴ牛乳片手に笑いながらも、それを自分の方に引き寄せ受け取った。

「とにかくまあ、解決したんなら良かったよ」
「……おう」
「どうせ荷物運ぶの手伝ってただけだろ?」
「違う」
「子犬届けた?」
「それも違う」
「宇宙人かあ。いいなあ、俺も会いたい」
「んなわけねえだろ」
「じゃあ腕組んで歩くような友達?」
「友達じゃない。ていうかそもそもそういうんじゃなかった。いもう…」
「芋?」
「……弟さん、だった」

 シュポッと、その口が離れると同時にパックが間抜けな音を立てた。
 テーブルの上にイチゴを戻した浩太。二秒間を置き、ふはっと笑った。

「ハルくん超ダサいね」
「うるせえ」
「早とちりもいいとこじゃん。つーか弟とか。漫画かよ」

 うるさいな。まだ傷は塞がっていないんだからそこに塩塗りたくってくんじゃねえ。
 イチゴ色のパックを再び手に取った浩太は、外からは見えない薄ピンクの中身を時々箱をへこませながら着実に減らしていく。

「彼女さんの弟の顔見たことなかったの?」
「なかった……名前聞いてたくらいで。ご両親とはしょっちゅう話してるけど」
「へぇ……え親ッ? もう向こうの親とも会ってんの!? そういう感じっ?」
「いやいやいや違う、なんか、事故で会っちゃってそのまま仲良くしてもらってるっていうか……」
「うわマジか、すげえ……親公認なんだ……」
「そうじゃなくて……」

 そんなのを公認する親がどこにいるんだ。社会人の娘が学生の男を家に連れてきたら大多数は難色を示す。
 社会人の男が学生の男を連れていったケースである俺達の場合は、なんか色々とご両親の反応が特殊で斬新だったけど。

 イチゴ牛乳で全部チャラにしてさっさと逃げ去る作戦でいたが、自分の横の椅子を引いてそこをポンポンと手で叩いた浩太。
 視線と手が促してくる。渋々ながら腰を下ろした。ストローを半端に口に咥えたまま、こいつは気に障る顔でニヤニヤと。

「なんだよガチだなハルくん」
「…………」
「そろそろ教えてくれても良くない? 彼女さんどんな人なの?」
「どんなって……」
「何歳上のお姉さん?」
「何歳……」
「社会人でしょ? 二十三とか四とかそれくらいの人?」
「あぁ……うーん……」
「あ、待ってやっぱ当てる。あー……七歳差くらいだろ。そんくらいだよ絶対。二十七歳のお姉さんとかいいな。なんか絶妙にエロい」
「お前、バカが……」

 三十三歳のおじさんって言ったらどんな顔するだろうこいつ。

「ハルはやっぱ人生得してるよ。その顔だと彼女さんの親までたぶらかせちゃうんだ」
「人聞き悪いこと言うな。つーかお前だってミキちゃんの親と仲いいって言ってたろ」
「俺らはずっと友達だったし元々家も行き来してたから」
「その時点で付き合ってるだろ普通。なんなんだお前ら漫画かよ」
「おぉ、どしたよ急に強気だね。弟を浮気相手と勘違いしたヤツが偉そうな口利いちゃって」
「好きな子に何年も告れねえままジメジメしてたヤツよりマシだ」
「手出しできない聖域だったんだから仕方ねえだろ」
「その聖域に踏み込んどきながら二十七歳を絶妙にエロいっつったのはちゃんとバラしとく」
「やめて」
「今バラす」
「え、ホントやめて」

 上着のポケットから見せつけるように俺がスマホを取り出すと、浩太は焦ってガダッと立ち上がった。

 こいつも弱点は分かりやすい。浩太を撃沈させたいときにはミキちゃんの名前を出すといい。
 世の中の大半の男は、彼女に告げ口されたら困るようなあれやそれやの過去の言動を一個くらいは持っている。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?

すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。 書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。 亮輔はすっかり慣れきっていた。 しかしある日、こう書かれていた。 「男に告白されるだろう」 いや、ちょっと待て。 その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。 犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。 これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。 他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。

処理中です...