掌編・短編集

わこ

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9.アンノウン

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俺は多分、ていうか絶対、モテるタイプの男だと思う。
女の子に告白された経験なんてザラだし、バレンタインでチョコレートを貰えなかったことはないし、部活中にちょっとしたギャラリーができている事も少なくはないし。

第一、今もこうして、
 
 
「好きです」


珍しくもなんともない告白を受けちゃってる訳で。
 
 
「あー……気持ちは嬉しいんだけどさ……」
「知ってます。アラタ先輩が誰とも付き合わないって。だから気持ちだけでも、知っててほしくて……」


ベタな話だけど学校の昼休み。裏庭に呼び出してきた相手は、俺が入っているバスケ部のマネージャーだった。一年のマネージャーの中でも特に可愛いと評判のそのコ。
実際すげえ可愛いと思うけど……。


「ごめんな……」
「……いえ。分かってましたから。私の方こそすみませんでした」


深々と頭を下げ、その子は逃げるように駆けて行った。それを複雑な気分で見送って、俺もその場を後にしようと踵を返したその時、


「アラタまた女の子泣かしたの?」
「……お前な……」


どっから見てたよ。

一階の校舎窓、俺の背後に当たるその位置から声がして振り返った。
眠たげな目を晒しながら、開けた窓のサッシに組んだ両腕を乗せてこっちを眺めているのはミズキ。小学校の時に仲良くなって以来、長い事つるんできた奴だ。

この裏庭に窓が面するその部屋は、そういえば保健室だったか。窓のすぐ側に歩いて行って、保健室のベッドの上にいるミズキを窓枠越しに見やった。
 

「四限いねえと思ったらやっぱサボってたのかよ。つーかどこから聞いてた」
「『よお。どした?』から。アラタはいつも軽いね」
「…………」


悪かったな軽くて。思いっきり最初から聞いてたんじゃねえか。イラッと来た勢いそのままでミズキの両頬をつねった。


「………いひゃい」
「痛えんなら痛えらしい顔しろよ」


窓際のベッドで立膝になっているミズキは、俺につねられた頬を無表情にさすった。ミズキと同じ方向に目線を向けて、窓枠のすぐ横の壁に背中を預ける。
するとサッシの上で腕を組んだまま、少し身を乗り出してミズキが俺に向かって言ってきた。


「何人目?」
「あー?」
「今月入ってから。告白されたの」
「……ああ……」


確か、三人目。
答えずに無言でいると、ミズキもそれ以上は聞かなかった。


「アラタさあ、なんで誰とも付き合わないの?」
「別に………」
「そう」


聞いた割に掘り下げない。チラッとその表情を窺ってから、目線を前に戻して空を見上げた。

告白されれば悪い気はしない。自分はモテるんだと自覚できるくらいキャーキャー騒がれるのにも慣れた。
だけどそれは俺が一番欲しいと思っているものからは程遠くて、今までどれだけの子達から想いを告げられようと応えてやる事はできなかった。
そしてその、俺が一番欲しいと思っている張本人は、


「ミズキ…」
「なあ、アラタ。購買行って昼飯買ってきて」
「…………」


今日も絶好調にマイペースだ。


「焼きそばパンね」
「……てめえで行け、このサボり魔」


そのうえ覗き魔。

溜息をつく俺の横で、ミズキはこっちに顔を向けていた。それをうんざり眺め返していると、緩く吹いた風でミズキの漆黒の髪がサラッと揺れるのを目にする事になる。


「…………」
「買ってきて。僕ここにいるから」
「………しゃーねえなあ」


結局俺はこいつに敵う事なんてなくて、ミズキが傍にいる限り女の子と付き合おうと思える日もやって来なくて。
何を考えているんだかサッパリ読めないダチにパシられながら、俺の青春はそんな感じに虚しく散って行くんだろう。


壁から背中を離し、ミズキに頼まれた昼飯を調達すべく足を向けるは購買への道。俺の気持ちになんて気づきもしないこいつの頼みとなると、些細な事から結構面倒な事まで聞いてやらずにはいられない。


「あ、あとプリン食べたい」
「おーおーはいはい」
「十分で行って戻ってきて。腹減った」
「はっ倒すぞてめえ」


自由っつーか、ほんとワガママ。
けどまあ、行くけど。頑張って十分目指すけど。


「そこで大人しく寝てろ」
「うん。来たら起こして」
「本気で寝るのかよ……」


さっきも一時間寝ていたはずのクセに、そう言うとミズキは早々に窓から引っ込んだ。室内ではベッドに潜って昼寝第二弾に突入している事だろう。そこまでマイペースに生きられると、もう文句を言うのさえバカバカしくなってくる。


「……報われねえよなあ」


一人ゴチて、青空の下で足を進めた。早くしないと焼きそばパンが売り切れるかもしれない。もしそうなったら近くのコンビニまで走らされる事になる。


「…………」


いつまで経っても俺の気持ちは報われない。だけどもう、こればっかりは。


惚れた弱みと言うヤツだ。


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