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6.スズメを食せ
しおりを挟む雀の食べ方。
主に丸焼き。
「スズメ食いに行かねえ?」
「…………どうした?」
せめて気分に浸るだけでも。
この男はそう言って、旅行ガイドの雑誌を買った。
車の助手席に深々と座り、買ったばかりの雑誌を広げていたかと思えば。ハンドルを握っている俺に投げかけてきたのは、理解し難い微妙な誘いだった。
なぜ、雀。そしてなぜ食べる。
「スズメ、食えるんだって。知ってた? 伏見稲荷の参道に店出てるってよ。ほら、串焼き」
運転中にもかかわらず、開いたページを俺に見せてくる。横目でチラッと見ただけですぐに前を向いたが、たぶん載っているのだろう。食物として雀を提供する、店の紹介記事が。
「ウズラ焼きもあるってさ。こっちのが食うトコ多そうだな」
「いや……つーか……え?」
本気か、この男は。食文化は各地域の尊い財産だけど。生まれも育ちも東京である俺達に、雀を食す文化はない。
「……伏見稲荷って京都の? わざわざ京都まで行って雀食って帰ってくんの? イミ分かんねえよ」
「泊まりゃいいじゃん。京都府内スズメ巡りツアー」
「スズメ巡り……」
「楽しそうだろ?」
どこが。
京都と言ったら神社仏閣、修学旅行の大定番。味良し、見栄え良し、清楚で上品な食事だって山とある。
それを押しのけ、敢えての雀。選択の方向性が異常だ。
だけど隣のコイツは、雑誌を眺めたまま当然のように言った。
「来週の土日空けとけよ。適当に素泊まりでいいだろ?」
「は? 行かねえよ。何勝手に予定立ててんだ」
「いいから行こうって。京都のスズメ食い尽くすぞ」
「…………」
もの凄くイヤだ。
そして翌週末。
俺は雀を、頭から食わされた。
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