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タケノコドンⅢ――邪神獄臨――
蘇る願いの化身
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――都内某所、マンションの一室。上條を伴い北野が訪ねたのは、カエル園の出身者であり今は妻子と慎ましく暮らす森乃熊三の下であった。挨拶も早々に、テーブルを挟み事のあらましを説明した後、いよいよ話題は訪問した理由へと移る。
「――大体は解りました。それで、僕にどの様な御用でしょうか」
「那由子君から小耳に挟んだ程度なのだが、園に特殊なタケノコドンの個体らしきモノが居るそうだね。それについて詳細に聞きたい」
「詳細といっても、僕もあまりよくは知らないです。普通の個体とは違って人型に近い姿をしていて、人の言葉を理解し普段は何もせずボーッとしてる事くらいしか」
「何処から連れて来たとかは?」
「富士山でタケノコドンを復活させた後、彼が立っていた場所から拾って来たと那由子ちゃんは言っていました。最初は親指くらいの大きさだったそうです」
「やはりそうか。有難う、これで最低限の確信を得たよ」
「こんな事でよかったのですか?」
「……実を言うともう一つ、お願いが有るんだ。こちらが本題だと言ってもいい」
「何です?」
「私達と一緒に井戸端町に行って貰いたい」
「井戸端にですか? カエル園の皆を説得して彼を連れて行こうとでも?」
「少し違う。彼を使う事は確かだが、君の力も必要になると思うんだ。それだけ、あのカエル園に居た者達には特別な繋がりが有る」
「…………分かりました。ただ、1つお願いを聞いて貰えますか?」
「何かね?」
「妻と子を、優先的に避難船に乗せて貰えませんか?」
「上條さん」
「いいだろう」
向こうで聞き耳を立てていた彼女は子供を抱いたままクマの元へと歩み寄った。その顔には戸惑いと不安が色濃く浮かび、クマは彼女の前に立ちいつも通り優しい声で宥める様に諭し始めた。
「あなた……」
「ごめんね。不安だろうけど、先に安全な場所に避難しておいて欲しい。じゃないと僕も安心して行く事が出来ないから。大丈夫。僕も必ず後から追い掛けるから」
「……分かった。昔から約束を破った事無いあなただもの、今度も迎えに来るの待ってるね。だから私達の事は気にせず頑張って」
「ありがと、はなちゃん。君とこの子の為にも、この国を守ってみせるよ」
――井戸端町、カエル園
電話回線が不通で在宅確認が取れぬまま訪れたが、都合良く那由子含め残りのカエル園の面々が一同に会し、今後の避難等について話し合っているところであった。急な来訪に驚きつつも3人を迎え入れた一同は、庭に面した居間で顔を合わし成り行きを伝えられると、今も庭に佇むタケを見ては表情を曇らせた。世界の命運と家族になりかけの珍生物……天秤にかけるまでもない事だが、心根の優しい彼らには即答しかねる問題であった。
「何故タケちゃんでなければいけないんでしょうか?」
「彼を富士山で見つけたと言ったね。富士は不死の山とも言い、不死とは蘇りも意味する。原初のタケノコドンが彼を遺していったのは、自身に何かあった際のスペアにする意図が有ったとも考えられる。また富士山には大地の気の集積地たる龍穴も在り、彼はその力をその身に蓄えている様だ」
「タケをどうする気だよ。研究所か何かで体弄くるつもりか?」
「何処にも行く必要は無い。最初にタケノコドンが出現したあの山にも龍穴が在ってね。さっき確認したが、6年の歳月で気の量もほぼ元通りまで溜まっている。後は簡単な手順を踏んで、龍穴の力を彼に取り込ませれば新たなタケノコドンを誕生させられるだろう」
「簡単な手順て……」
「それは私の方で片付けるから心配は要らない。最近色んな呪具や霊具を掻き集める機会が有ってね、必要な物を見繕って来た。ただ……もう一つだけ、どうしても必要な物が有ってね……」
「どうかされました?」
「…………」
「何だよ北野のおっちゃん、言い難いもんなんか?」
「僕が代わりに説明しよう。タケノコドンを生み出すには人の強い念……想いが込められた物が必要なんだ。それも、かけがえの無い程大切にされ、また持ち主を守る為に誰かの想いが込められた物。それは……ミーちゃんの持つ、ねこまじんなんだ」
皆の視線が美衣子に注がれる。突然の事に戸惑う彼女の前に、パッと飛び出したシンが立ち塞がり怒気を上げた。
「ダメだ‼︎ ねこまじんはミーちゃんのご両親が遺したたった一つの大切な形見なんだ!」
「だからこそなんだよ。御両親がミーちゃんを護りたいという想いが今も尚強く残り、ミーちゃん自身の御両親を想う気持ちが長年溜め込まれた品だからこそ効果を発揮するんだ。それ以外に替えは無い」
「だからって……酷過ぎるよ‼︎ ダイちゃん、那由子ちゃん、何か言ってよ!」
「…………」
「……悪いシンちゃん、俺は何も言えねえ。それがミーコにとってどんだけ大事か皆よぉく理解ってる。けど、他に方法が無いってんなら……」
「そんな……」
シンもそれは理解していた。だがどうしても、大切な彼女が悲しむのを受け入れられないという気持ちが勝り納得出来なかった。そうして当惑し続ける彼の肩にそっと手が乗せられ、振り向いた彼を憂いを帯びた顔をした美衣子が優しく微笑みを返した。
「ありがとう、シンちゃん」
そう言って彼女はシンの背後から前へと歩み出た。
「北野さん。ねこまじん……使って下さい」
「……いいんだね?」
「ミーちゃん‼︎」
「いいの、パパもママもきっとそうしなさいって言うわ。私は大丈夫だから……みんなを救いたい」
彼女の覚悟を前に、もう誰も何も言う事は出来なかった。彼女がぬいぐるみを取りに行く間、北野は持参した文字の様な紋様が描かれた大きな紙と墨、高級そうな箱に入った筆をテーブルに広げて那由子の前に差し出した。
「これは古代中国から伝わった力有る道士が作った霊符。それに麒麟の鬣で拵えた筆だ。君の霊力を最大限に引き上げ、念と共に余す事無く伝えてくれるだろう」
「キリン?」
「ダイ、アフリカの首の長い奴想像してないか?」
「違うん?」
「麒麟とは瑞獣という縁起の良い、位の高い神獣の一種だよ。ビールのCMでよく見るだろ?」
「あー! あの馬の形した龍みたいのか」
「何と書けば良いでしょうか」
「それは君に任せよう。その方がきっと良い。一筆一筆、想いを込める様にゆっくり書きなさい。私は先に出て儀式を進めておくから、彼女と皆の覚悟が決まったら来てくれ給え」
そう言うと北野は1人外へと出て行き、それを追いかけた上條は不意に目に止めたタケへと近付き感慨深そうに物思いに耽り始めた。
(思えば長い付き合いになったものだ。最初は敵として銃を向けた相手に国を救われ、今また世界の命運を託そうとしている。因果なものだ。そんなお前と一番近くで関わったのがこの自分というのは何とも奇妙な縁よ……お前もそう思うか? それでもまた、人類の為に戦ってくれるのか? 本当は戦いたくなどないんじゃないのか? なあ、タケノコドンよ……)
那由子は皆が見守る中考えた末、言われた通り万感の思いを込め【世界を救って】と書き上げた。
数分後、一同は裏山の崩落地の前に集合した。儀式によるものなのか、そこには有る筈の無かった奈落の底へと通じるかの様な巨大な穴がポッカリと開いていた。
美衣子はねこまじんを強く胸に抱き締め目を瞑り、亡き両親とこれまでの人生を共に過ごした彼との思い出に想いを馳せている。他の園の皆は円陣を組み、霊符に手を添え各々の想いと願いを込める様に祈り合っていた。
「そろそろいいかい?」
北野に促され手渡された霊符がタケに貼られ、美衣子はねこまじんを愛おしそうに撫でた後そっとタケに預けたのだった。
「お願いね、タケちゃん」
タケは受け取ったねこまじんを両腕で大事にそうに抱え、皆から激励の言葉を貰いながらひと撫でされると穴へ向かってトコトコと歩き出した。そして穴の淵で脚を止めると振り返り、まるで『いってきます』と言わんばかりに最後の姿を皆に見せると、後ろ向きに倒れ深い深い暗闇に吸い込まれて行った。それを目の当たりにして、園の皆は一様に胸が締め付けられる様な哀しさを覚えたと言う。そんな感傷に浸れる暇は僅かばかりであった。
長い様で短い静寂を破り、地の底から鳴動が響き始める。それはやがて強まり、まるで日本列島そのものが揺さぶられているかの様な感覚を覚えた。
「いかん! 皆、ここから離れるんだ。急げ‼︎」
ゴゴゴゴゴゴ…………ドォッバアアアア‼︎‼︎
穴から爆発したかの様な強烈な光の柱が立ち、避難した皆は爆風と土砂から身を守る体勢で顔を伏せた。再び静寂が戻り目を開けた一同の前には、大地に悠然と聳え立つタケノコドンの雄姿がそこに在った。彼は首を曲げ眼下の皆を見詰め返していた。
「成功……した」
「前よりずっと大きい……」
「ああ、倍以上だ。120~30はあるか」
「何て事だ。龍穴其の物を吸収するばかりか、直接龍脈から気を吸い上げてしまった。見かけより内の力はずっと何倍も強い」
「ん? 何かアレ……頭に角みたいの生えてんぞ? 前無かったよな? 尻尾も細くて長くなってるし」
「本当だ。でも角というより獣の耳……まるで……猫の様な」
「ねこ……っ。頑張ってえーっ! タケノコドォーン‼︎」
グァアアオオオオンンッ‼︎‼︎
美衣子の声援に応える様に、タケノコドンは強く咆哮を轟かせ敵を目指し歩き出した。見送る皆も手を振り懸命な声援を送り続けていた。
「北野、後を頼む」
「上條さん、何方へ?」
「迎えのヘリを呼んだ。タケノコドンが復活した今、奴だけを戦わせる訳にいかない。自分も己の責務を全うする。彼らに感謝を伝えておいて貰いたい」
「分かりました。全て片付いたら、また飲みましょう」
「ああ。今度は割り勘でな」
――司令本部――
「司令より連絡が有りました」
「漸く捕まったか。内容は?」
「それが……井戸端町にてタケノコドン復活。残存戦力を整え最後の戦に備えよと」
「タケノコドンが再復活⁉︎ 何をしてるかと思えば……トンデモない御人だ」
「まだ続きがありまして。戦場は東京、出し惜しみはするな……以上です」
「迷わず首都決戦を選ぶか……あの方らしい。よし、艦隊を湾内に集結させろ。陸上部隊も残った弾薬を再分配しラインを形成。ありったけの無人機とナパーム、それにレールガンの用意も忘れるな。司令にどやされるぞ」
「新たに入電! 各地の観測隊から、タケノコドン小型幼体が次々変態しているそうです」
「なんだとっ⁉︎」
その異変は日本国内では止まらなかった。タケノコドン復活に際し龍脈から世界中の地脈に伝播した願いの力は全てのタケノコドンに伝わり、体高1メートルの幼体がその殻を破り5メートル程の成体の姿へと大変態を果たす。そして国内の個体は原種の力となるべく決戦の地、東京を目指すのだった。
「――大体は解りました。それで、僕にどの様な御用でしょうか」
「那由子君から小耳に挟んだ程度なのだが、園に特殊なタケノコドンの個体らしきモノが居るそうだね。それについて詳細に聞きたい」
「詳細といっても、僕もあまりよくは知らないです。普通の個体とは違って人型に近い姿をしていて、人の言葉を理解し普段は何もせずボーッとしてる事くらいしか」
「何処から連れて来たとかは?」
「富士山でタケノコドンを復活させた後、彼が立っていた場所から拾って来たと那由子ちゃんは言っていました。最初は親指くらいの大きさだったそうです」
「やはりそうか。有難う、これで最低限の確信を得たよ」
「こんな事でよかったのですか?」
「……実を言うともう一つ、お願いが有るんだ。こちらが本題だと言ってもいい」
「何です?」
「私達と一緒に井戸端町に行って貰いたい」
「井戸端にですか? カエル園の皆を説得して彼を連れて行こうとでも?」
「少し違う。彼を使う事は確かだが、君の力も必要になると思うんだ。それだけ、あのカエル園に居た者達には特別な繋がりが有る」
「…………分かりました。ただ、1つお願いを聞いて貰えますか?」
「何かね?」
「妻と子を、優先的に避難船に乗せて貰えませんか?」
「上條さん」
「いいだろう」
向こうで聞き耳を立てていた彼女は子供を抱いたままクマの元へと歩み寄った。その顔には戸惑いと不安が色濃く浮かび、クマは彼女の前に立ちいつも通り優しい声で宥める様に諭し始めた。
「あなた……」
「ごめんね。不安だろうけど、先に安全な場所に避難しておいて欲しい。じゃないと僕も安心して行く事が出来ないから。大丈夫。僕も必ず後から追い掛けるから」
「……分かった。昔から約束を破った事無いあなただもの、今度も迎えに来るの待ってるね。だから私達の事は気にせず頑張って」
「ありがと、はなちゃん。君とこの子の為にも、この国を守ってみせるよ」
――井戸端町、カエル園
電話回線が不通で在宅確認が取れぬまま訪れたが、都合良く那由子含め残りのカエル園の面々が一同に会し、今後の避難等について話し合っているところであった。急な来訪に驚きつつも3人を迎え入れた一同は、庭に面した居間で顔を合わし成り行きを伝えられると、今も庭に佇むタケを見ては表情を曇らせた。世界の命運と家族になりかけの珍生物……天秤にかけるまでもない事だが、心根の優しい彼らには即答しかねる問題であった。
「何故タケちゃんでなければいけないんでしょうか?」
「彼を富士山で見つけたと言ったね。富士は不死の山とも言い、不死とは蘇りも意味する。原初のタケノコドンが彼を遺していったのは、自身に何かあった際のスペアにする意図が有ったとも考えられる。また富士山には大地の気の集積地たる龍穴も在り、彼はその力をその身に蓄えている様だ」
「タケをどうする気だよ。研究所か何かで体弄くるつもりか?」
「何処にも行く必要は無い。最初にタケノコドンが出現したあの山にも龍穴が在ってね。さっき確認したが、6年の歳月で気の量もほぼ元通りまで溜まっている。後は簡単な手順を踏んで、龍穴の力を彼に取り込ませれば新たなタケノコドンを誕生させられるだろう」
「簡単な手順て……」
「それは私の方で片付けるから心配は要らない。最近色んな呪具や霊具を掻き集める機会が有ってね、必要な物を見繕って来た。ただ……もう一つだけ、どうしても必要な物が有ってね……」
「どうかされました?」
「…………」
「何だよ北野のおっちゃん、言い難いもんなんか?」
「僕が代わりに説明しよう。タケノコドンを生み出すには人の強い念……想いが込められた物が必要なんだ。それも、かけがえの無い程大切にされ、また持ち主を守る為に誰かの想いが込められた物。それは……ミーちゃんの持つ、ねこまじんなんだ」
皆の視線が美衣子に注がれる。突然の事に戸惑う彼女の前に、パッと飛び出したシンが立ち塞がり怒気を上げた。
「ダメだ‼︎ ねこまじんはミーちゃんのご両親が遺したたった一つの大切な形見なんだ!」
「だからこそなんだよ。御両親がミーちゃんを護りたいという想いが今も尚強く残り、ミーちゃん自身の御両親を想う気持ちが長年溜め込まれた品だからこそ効果を発揮するんだ。それ以外に替えは無い」
「だからって……酷過ぎるよ‼︎ ダイちゃん、那由子ちゃん、何か言ってよ!」
「…………」
「……悪いシンちゃん、俺は何も言えねえ。それがミーコにとってどんだけ大事か皆よぉく理解ってる。けど、他に方法が無いってんなら……」
「そんな……」
シンもそれは理解していた。だがどうしても、大切な彼女が悲しむのを受け入れられないという気持ちが勝り納得出来なかった。そうして当惑し続ける彼の肩にそっと手が乗せられ、振り向いた彼を憂いを帯びた顔をした美衣子が優しく微笑みを返した。
「ありがとう、シンちゃん」
そう言って彼女はシンの背後から前へと歩み出た。
「北野さん。ねこまじん……使って下さい」
「……いいんだね?」
「ミーちゃん‼︎」
「いいの、パパもママもきっとそうしなさいって言うわ。私は大丈夫だから……みんなを救いたい」
彼女の覚悟を前に、もう誰も何も言う事は出来なかった。彼女がぬいぐるみを取りに行く間、北野は持参した文字の様な紋様が描かれた大きな紙と墨、高級そうな箱に入った筆をテーブルに広げて那由子の前に差し出した。
「これは古代中国から伝わった力有る道士が作った霊符。それに麒麟の鬣で拵えた筆だ。君の霊力を最大限に引き上げ、念と共に余す事無く伝えてくれるだろう」
「キリン?」
「ダイ、アフリカの首の長い奴想像してないか?」
「違うん?」
「麒麟とは瑞獣という縁起の良い、位の高い神獣の一種だよ。ビールのCMでよく見るだろ?」
「あー! あの馬の形した龍みたいのか」
「何と書けば良いでしょうか」
「それは君に任せよう。その方がきっと良い。一筆一筆、想いを込める様にゆっくり書きなさい。私は先に出て儀式を進めておくから、彼女と皆の覚悟が決まったら来てくれ給え」
そう言うと北野は1人外へと出て行き、それを追いかけた上條は不意に目に止めたタケへと近付き感慨深そうに物思いに耽り始めた。
(思えば長い付き合いになったものだ。最初は敵として銃を向けた相手に国を救われ、今また世界の命運を託そうとしている。因果なものだ。そんなお前と一番近くで関わったのがこの自分というのは何とも奇妙な縁よ……お前もそう思うか? それでもまた、人類の為に戦ってくれるのか? 本当は戦いたくなどないんじゃないのか? なあ、タケノコドンよ……)
那由子は皆が見守る中考えた末、言われた通り万感の思いを込め【世界を救って】と書き上げた。
数分後、一同は裏山の崩落地の前に集合した。儀式によるものなのか、そこには有る筈の無かった奈落の底へと通じるかの様な巨大な穴がポッカリと開いていた。
美衣子はねこまじんを強く胸に抱き締め目を瞑り、亡き両親とこれまでの人生を共に過ごした彼との思い出に想いを馳せている。他の園の皆は円陣を組み、霊符に手を添え各々の想いと願いを込める様に祈り合っていた。
「そろそろいいかい?」
北野に促され手渡された霊符がタケに貼られ、美衣子はねこまじんを愛おしそうに撫でた後そっとタケに預けたのだった。
「お願いね、タケちゃん」
タケは受け取ったねこまじんを両腕で大事にそうに抱え、皆から激励の言葉を貰いながらひと撫でされると穴へ向かってトコトコと歩き出した。そして穴の淵で脚を止めると振り返り、まるで『いってきます』と言わんばかりに最後の姿を皆に見せると、後ろ向きに倒れ深い深い暗闇に吸い込まれて行った。それを目の当たりにして、園の皆は一様に胸が締め付けられる様な哀しさを覚えたと言う。そんな感傷に浸れる暇は僅かばかりであった。
長い様で短い静寂を破り、地の底から鳴動が響き始める。それはやがて強まり、まるで日本列島そのものが揺さぶられているかの様な感覚を覚えた。
「いかん! 皆、ここから離れるんだ。急げ‼︎」
ゴゴゴゴゴゴ…………ドォッバアアアア‼︎‼︎
穴から爆発したかの様な強烈な光の柱が立ち、避難した皆は爆風と土砂から身を守る体勢で顔を伏せた。再び静寂が戻り目を開けた一同の前には、大地に悠然と聳え立つタケノコドンの雄姿がそこに在った。彼は首を曲げ眼下の皆を見詰め返していた。
「成功……した」
「前よりずっと大きい……」
「ああ、倍以上だ。120~30はあるか」
「何て事だ。龍穴其の物を吸収するばかりか、直接龍脈から気を吸い上げてしまった。見かけより内の力はずっと何倍も強い」
「ん? 何かアレ……頭に角みたいの生えてんぞ? 前無かったよな? 尻尾も細くて長くなってるし」
「本当だ。でも角というより獣の耳……まるで……猫の様な」
「ねこ……っ。頑張ってえーっ! タケノコドォーン‼︎」
グァアアオオオオンンッ‼︎‼︎
美衣子の声援に応える様に、タケノコドンは強く咆哮を轟かせ敵を目指し歩き出した。見送る皆も手を振り懸命な声援を送り続けていた。
「北野、後を頼む」
「上條さん、何方へ?」
「迎えのヘリを呼んだ。タケノコドンが復活した今、奴だけを戦わせる訳にいかない。自分も己の責務を全うする。彼らに感謝を伝えておいて貰いたい」
「分かりました。全て片付いたら、また飲みましょう」
「ああ。今度は割り勘でな」
――司令本部――
「司令より連絡が有りました」
「漸く捕まったか。内容は?」
「それが……井戸端町にてタケノコドン復活。残存戦力を整え最後の戦に備えよと」
「タケノコドンが再復活⁉︎ 何をしてるかと思えば……トンデモない御人だ」
「まだ続きがありまして。戦場は東京、出し惜しみはするな……以上です」
「迷わず首都決戦を選ぶか……あの方らしい。よし、艦隊を湾内に集結させろ。陸上部隊も残った弾薬を再分配しラインを形成。ありったけの無人機とナパーム、それにレールガンの用意も忘れるな。司令にどやされるぞ」
「新たに入電! 各地の観測隊から、タケノコドン小型幼体が次々変態しているそうです」
「なんだとっ⁉︎」
その異変は日本国内では止まらなかった。タケノコドン復活に際し龍脈から世界中の地脈に伝播した願いの力は全てのタケノコドンに伝わり、体高1メートルの幼体がその殻を破り5メートル程の成体の姿へと大変態を果たす。そして国内の個体は原種の力となるべく決戦の地、東京を目指すのだった。
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