タケノコドン

黒騎士

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タケノコドンⅡ 〜タケノコドンVSスペースコーン〜

後の祭り

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――翌、7月8日午前5時。特別対策会議改め司令本部となった議場は、全ての報告を受け終え、安堵と達成感、そして疲労による脱力感で鬨の声以上に溜息が多く聴こえていた。それでも喜びが満ちていた筈のその場に、突然1つの怒号が響き渡った。

「何を浮かれとるかあっ‼︎ どれだけ損害が出たと思っとる⁉︎ 国立公園が消えたのはまだいい。青函トンネル破壊、弾薬は備蓄すら全て使い果たし、戦車、輸送車の6割を損失。空自の戦闘機に至っては全機遺棄……大損害だっ‼︎ しかもレールガンまでぶっ放して機密漏洩まで仕出かしよった。上條の奴、何してくれとんじゃあっ‼︎」

「彼はよくやってくれました。一手間違えていただけで部隊は全滅、タケノコドンの援護も叶わず全てが終わっていたでしょう」

「結果論だろ! もっと上手くやれたんじゃないのかっ‼︎」

「無理ですな。あれ以上の采配は有り得ません」

「グッ、ギギギ……」

「後は、この件の始末を付けるだけですな」

「そうだ……責任はお前が取ると言ったな? 約束は必ず守って貰うからな‼︎ それだけじゃない、拉致監禁の罪で訴えてやる! 上條もだ。奴が指揮した以上、今度こそ重い罰則を与えてやらねば気が済まん」

「はて? 何の事ですかな?」

「ハァ? 何を言っとる?」

「責任を取るだなどと、そんな大それた発言をした覚えは有りませぬな」

「寝言をほざくなっ‼︎」

「寝惚けておられるのは総理では御座いませんか? 自衛隊への命令も米国への要請も、全て総理にしか権限は無い筈。監禁も何も、全統括者であらせられる総理がこの場に留まるのは極自然な事でありましょう」

「この期に及んで世迷言を。この場の全員が証明してくれるわっ! そうだろう⁉︎」

「「…………」」

 総理の言葉に、その場の誰一人返事が無いどころか目も合わせようとしない。

「おい……何故誰も応えない? 官房長官‼︎ 何か言え‼︎」

「記憶に御座いません」

「はああっ⁉︎」

「私も、とんと記憶に御座いませんな」
「私も」「私も」

「き、キサマらぁ……全員グルになって俺をハメようってのか⁉︎」

「ククッ、大した人望ですな。流石と言えましょうか」

「だっ、誰だお前?」

 異様な空気が流れる議場の扉を開け放ち、いつの間にかそこに季節外れのロングコートと帽子、丸渕眼鏡をかけた怪しい男が立っていた。

「どうも。青森県警の北野と申します」

「警察? 青森のもんが何でこんな所におる?」

「いえね、総理に御用が有りまして」

「警察の用になる事なんぞ知らん! というか、今すぐコイツらを逮捕して――」
「河部麟太郎という名に聞き覚えは?」

「っ…………」

 その名を聞いた途端、総理は顔を強張らせ押し黙った。

「おや? 黙ったという事は覚えが有るという事で宜しいか?」

「し、知らん! そんな名前は聞いた事も無い」

「それはおかしいですねえ。貴方とは懇意にしてらっしゃるそうですよ? 特定危険指定暴力団、米俵組幹部の河部麟太郎と」

「デタラメだっ‼︎ そんなものと関わりが有るわけが無かろうが‼︎」

「いやいや、ズブズブじゃあないですか。殆ど声に出せない様な選挙協力に金や物の取引、そればかりか犯罪の加担まで」

「い、言い掛かりにも程が……」

「貴方、人を殺してますよね」

「っ⁉︎」

「元秘書の方。とても正義感の強いお人で、貴方の悪事を身咎めて自首を勧めたところ命を奪った。その遺体処理を河部が仲介した裏の仕事人に依頼しましたね」

「何故、それを……奴らがバラしたのか⁉︎」

「ご想像にお任せします。まあ、何もしなくても近い内に破滅してたでしょうけど。最近体調が悪いでしょ? 倦怠感、不眠症に毎晩の様に悪夢を見る。それに身体が重い」

「どうして分かる?」

「それだけ怨念や生霊背負ってたら嫌でも分かります。叩けば幾らでも埃が出てきそうで、今から取調べが楽しみです」

「とっ⁉︎ こ、国会議員は不逮捕特権が……」

「ところがちゃんと令状が有るんですなあ。不逮捕特権と言っても、それぞれの院の許諾が有れば逮捕出来るんですよ。貴方、相当嫌われてるんですね」

「お……俺は……そっ、総理大臣だぞ……総理大臣なんだぞっ‼︎」

「往生際が悪い! あんたも年貢の納め時だ。瀬川長二、殺人容疑で逮捕する。連行しろ」

 北野が指示を出すと彼の背後に待機していた刑事達が駆け込み、がっくりと膝をついた総理を両脇から抱え上げ、手錠を嵌め連行していった。去り際に北野は、場を仕切っていた防衛庁長官に向けこう言った。

「お騒がせしました、これにて失礼。あっ! 上條さんにまた飲もうとお伝え下さい。次は私の奢りでと」

 その後、瀬川元総理は失脚し長い長い懲役刑を受ける事となる。対宇宙コーン時のアレやコレも主張したが、世間は誰一人として耳を貸す事はしなかった。この先、長い獄中生活を終えても待っているのは生き地獄だけ。人々に忘れられる事が唯一の幸せと悟るのは、この数年後の事だった。


 富士からの帰りの車内。クマ以外のカエル園の面々はラジオで宇宙コーン、そしてタケノコドン消滅のニュースを受け取っていた。喜びの気持ちは有ったが、自分達の為に戦い死なせてしまったタケノコドンを想い、罪悪感と喪失感を覚え胸を痛めていた。

「みんな元気を出して。今夜は久しぶりにハンバーグにしましょう。特別に特大サイズでデザートも付けちゃうわ」

「マジか⁉︎」

「やったあ! どうせなら那由姉ちゃんとクマ兄も一緒なら良かったのに」

「アラ! じゃあ私もこのまま一緒に帰ろうかしら。どうせまだ戒厳令の所為で講義はお休みだし、晩御飯お手伝いしてもっと豪勢にしちゃいましょ」

「いいわねえ! じゃあ折角だからクマ君も呼んじゃいましょ。連絡入れといて」

「よっしゃっ! 今夜はタケノコドン弔い兼祝勝会だ‼︎ パァーっといこパァーっと」

「それじゃ帰りに買い物寄らなきゃね。お店開いてるかしら」

 沈んだ空気も晴れやかに、初夏の青空の様に澄み渡っていく。タケノコドンへの感謝の心を胸に刻み遺してくれた希望を連れて、我が家が待つ井戸端町へと家路を急ぐのだった。

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