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タケノコドンⅡ 〜タケノコドンVSスペースコーン〜
第12班の記録
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――モンゴル南部、ゴビ砂漠に接するとある場所。この大陸に渡り、大量に増殖して分散したタケノコドンの幼体の中にはこの地を目指したものも多く、竹に姿を変え地に根を張りながら不思議な力で荒れた大地と砂地を徐々に緑豊かな土壌へと変えていた。モンゴルと中国政府はこれを善しとし、受け入れつつも一応監視の目を側に置き見守っていた。これは、そんな監視隊のとある一班の体験である。
見渡す限りの広大な大地。背後には緑の草原、眼前には岩肌剥き出しの荒野と砂……砂……砂……。見上げれば何処までも続く空と大地が繋がる地平線。絶え間無く吹き抜ける爽やかな風に細かな砂が混じり少し息苦しい。そんな砂漠と草原の境目付近に、タケノコドンの幼体が疎らに広がって何かをしている……様な、ボーッとしている風にただそこに佇んでいるだけにも見える。周辺には竹に姿を変えた者もおり、その周りから岩肌砂地関わらず緑の草が生え広がりかけている。それを丘の上に停めたジープから眺める監視役の2人連れの男達が居た。
「だだっ広い空と砂漠、遊牧民に馬鹿みたいに群れる家畜と、何考えてるか判らないチビタケ共……いい加減見飽きたなあ~」
「その愚痴も聞き飽きた。見張りと称して特に何もせずに給料貰えてんだから贅沢言うな」
「その説教すら聞き飽きたぜ。たく……遊牧民の奴らも気楽なもんよ。大体、砂漠が広がったのはあいつらの所為も有るんだろ?」
「まあ一部はな。家畜に餌を与えるのは仕方の無い事だが、高級なカシミヤが流行り出した影響で山羊を大量に増やした事が大きいと耳にした事は有る。だがそれなら、カシミヤを買い漁った先進国の金持ち共にも責任が有るだろう」
「そりゃそうだがよ。奴ら、私服を肥やす為に緑化再生が進んだらまた調子に乗って山羊増やし出すんじゃねえか? その結果タケノコドンの怒りを買っちまったらよ……どうするよ?」
「その兆候が有れば報告して止めさせるのも我々の役目だ。なに、カシミヤのブームだって最盛期を過ぎたんだ。そうそう増えやしないさ」
「どうだかね。ま、逆にこのままチビタケが増えてったら何十年もしない内に砂漠が無くなっちまったりしてな」
「例の映像の話が真実ならば、飽く迄環境問題の改善までに止まって、自然に生まれた環境までは干渉しないんじゃないか?」
「別に砂漠なんか無くなってくれても構わんがね。代わりに竹の森林が出来たら笑うがな」
『ザザッ……監視隊第12班、聴こえるか』
「こちら12班、どうぞ」
『そこから北北西の方角に調査に向かって貰いたい』
「砂漠の真ん中に? 何を調べろと仰るんですか?」
『最近、例の怪獣の小さいのが群れを成してその方角に向かっていると各地から報告が上がっていてな。一番近いお前達に確認を任せる』
「……了解しました。準備が整い次第向かいます」
通信を終えた2人は水と食料を積み込み、砂漠へと繰り出した。波打つ様な砂地を走るジープは乗り心地悪く、ただでさえ砂防の布を口元に巻いて声が吃ってる中、ガタガタ揺れる振動と音で会話するのもままならない。
「アイツらが砂漠に入ってくのなんて珍しくないだろ! 緑化だって、わざわざ端から進めるんじゃなくて点々とするのもアリだとか言ってなかったかあ⁉︎」
「集団で固まって多方向から一点を目指して同時期に移動してるっていうんだ、何か有ると思って不思議じゃないだろ」
「ったく、それで何だって俺らが貧乏クジ引かされなきゃならんかねっ!」
「グチグチ言うな。楽してた分、給料分働けって事だ。それに、本当に何かヤバい物が有るかもしれんぞ」
「へいへい、偶には働きますよっと。そんじゃ一つ、死神さんちにお邪魔させて頂きますか」
砂漠を数時間走る内、タケノコドン幼体の集団をいくつか目にした2人は、流石に只ならぬ予感を抱き先を急いだ。次第に緊張が増し口数も減ってきた頃、遂にそれが姿を現した。砂漠のど真ん中に屹立する巨大なトウモロコシ。その異様な光景に、2人は唖然として力が抜けたという。
「あ……あれって……例の、宇宙から来た奴じゃ……?」
「あ、あぁ……間違い無い」
「どうする……とっ、取り敢えず報告だ!」
「そうだな。……本部、此方調査隊12班。応答願います」
『此方本部、何か有ったか?』
「何か有ったなんてもんじゃありませんよ。例の宇宙から来たドデカいトウモロコシが砂の上に突っ立ってます」
『なんだとっ⁉︎ よ、様子はどうなんだ? 増殖はしてるのか⁉︎』
「はい、まだ小さいですが周囲に緑の房の様な物が幾つも砂から頭を出し始めています。デカい方は皮を閉じてただ黙って立ってるだけです。でもそう言えば、核を食らって黒焦げになったと聞いてましたが、全身真緑で傷一つ見当たりません」
『奴め、そこで傷と消耗したエネルギーの回復を図っていたというのか』
「我々はどうしたら?」
『……取り敢えずその付近に待機だ。見付からない場所から監視を続行し、何かあれば即報告しろ』
「それで、今後の対応は如何なさるおつもりですか」
『政府に連絡し軍の派遣を要請する。中国にも援軍を要請せねば』
「中国にですか⁉︎」
『ゴビは中国領でもある。大体我が軍の戦力では奴に対抗するのは恐らく不可能だ』
「でもいいんですか? 連中が核を使ったりしたら」
『その可能性は低い。もし砂漠で核なんぞ使ったら、放射線を含んだ大量の砂が舞い上がり広範囲に汚染が拡がる。自国ならず世界中から非難を浴びる様な真似は流石にしない筈……と思いたい』
この報せを受けてすぐ、モンゴル中国両軍は戦力を差し向けた。だが地形的に地上部隊の進行は難航し、急を要する事態の為に航空戦力が先行して間も無く現場に到着する。それに示し合わせた様にタケノコドン幼体の群れも続々と集結し、増殖中の小型コーンに喰らい付き始めた。巨大コーンが僅かに外殻を開くと、中から黄色い蟲体が這い出てタケノコドン達に襲い掛かった。組み付かれ自爆に巻き込み粉砕されながらも、幼体達は懸命にコーンを目指し突き進む。そこに遂にモンゴル軍の航空部隊が到達。今正に激しい爆撃が始まろうとするその光景を、離れた砂丘から見守る監視12班の2人は戦慄を覚えていた。
「おいっ、逃げねえのかよ⁉︎」
「監視命令が解かれていない。本部からの返答も無いし」
「俺らなんぞに構ってらんねえって事だろうよ! 死んだら元も子もねえ」
「だが地上部隊が来れない以上、誰かが現場の様子を伝えなきゃいけないかもしれない」
「レーダードーム積んだ偵察機が飛んでるだろ」
「もし撃墜されたら? 目視による情報も重要になる筈だ」
「真面目野郎め。俺は危なくなったら逃げるからな!」
戦闘機群の爆撃に始まり飛来したミサイルの雨が辺り一帯を吹き飛ばし、爆風に乗った砂塵が暴風の様に荒れ狂い2人を襲う。その中でも平然と佇む巨大コーンと、小型コーンを齧り続けるタケノコ幼体。爆撃も相俟って小型コーンが原型を留めない程に破壊されると、幼体達は巨大コーンへと向かって行った。だがしかし、その身に群がる幼体や降り掛かる弾雨を受けながらも巨大コーンはじっと外殻を閉じ、頂上部から伸ばした髭状の無数の触手で幼体とミサイルを払い除けるばかりだった。
「アイツ……何で反撃しねえのかな?」
「やりたくても出来ないんだろう。タケノコの群れと航空部隊を迎撃するにはあの黄色い奴を飛ばさなきゃならないが、外殻を開けた途端に隙間から弾やチビが滑り込んで内部で誘爆する恐れが有る。見る限りダメージも無い様だし、あのまま耐え続けたらその内弾薬が切れてタケノコドンの数も減り、反撃のチャンスも見えて来るだろう。ああ見えてちゃんと考えてやがるし、慎重な奴だ。地上部隊が間に合わなければ……」
彼の不安の通り、戦況は膠着状態でただ味方が消耗するまま。そればかりか、機銃すら撃ち尽くした部隊が戦域を離脱していき戦力がどんどん減っていく。タケノコドンが全滅させられてしまうのも時間の問題に見えた。が、その時、新たな編隊が北の方角から飛来し戦闘に加わった。
「あの機は……何処から来た?」
「モンゴル軍でも中国の機影でもない。いやまさか……」
『ガガッ……12班聞こえるか? まだ現場に残っているか⁉︎』
「此方12班、監視継続中です!」
『よくぞ留まった! ボーナスと後で上等な酒を付けてやる。完結に状況を説明せよ』
「モンゴル中国両軍航空隊の攻撃効果無し。タケノコドン幼体も大半が死滅。目標に損傷は見られませんが、反撃に転じる隙を得られず動きを封じている状態にある模様。増殖していた小型目標は全滅。それと……未確認と思われる戦闘機が戦闘区域に侵入したのですが……」
『問題無い。それはウクライナ空軍の戦闘機中隊だ』
「ウクライナ軍⁉︎」
『ウクライナだけじゃない。ロシアを始め、周辺国に援軍を要請してある。元から中国空軍の後続も間に合わない事は想定内だったからな。しかし、まさか殆どの国が要請を快く受諾してくれるとは思わなかった。まだまだ人も捨てたもんじゃないと思ったよ』
「そうですね……」
『巡航ミサイルも飛んでくる筈だ。十分な距離を取り監視を続行。但し自己判断で撤退を許可する。生きて戻れよ』
「了解。オーバー」
「意外と……上司にゃ恵まれてたかな?」
「意外と、な」
続々と集結する北側諸国の空軍部隊。ミサイルの援護が次々と着弾し、中国空軍の後続部隊も合流。更にまた遥々砂漠を超え集まるタケノコドン達。陸上部隊もすぐそこまで迫っていた。戦いは勢いを取り戻し、苛烈さを増そうとしている。がしかし、均衡は突如破られた。
何の前触れ無く、巨大コーンの周囲の砂が巻き上がりその姿を包み隠してしまったのだ。その量はどんどん増え、厚みを増し流動して攻撃を遮断するバリアの様な働きを見せる。完全にコーンの姿が見えなくなるまでに成ると、その砂の塊はゆっくりと上昇し移動し始めるも、その場に在った筈の巨大コーンは姿を消していた。それは砂を纏ったコーンが飛翔したと容易に想像出来た。
「本部! 目標が……巨大コーンが移動を開始しました!」
『何だと⁉︎』
「大量に砂を巻き上げ自分の周りを囲い身を守っている風に見えます。その状態でゆっくり前進しながら高度を上げています」
巨大コーンはグングン上昇したまま移動し始め、遥か雲を超え目視が困難な高度に達し、黄色く染まる空に溶け遂に2人の視界に届かなくなった。軍は撤退し、その場には大量のミサイルの残骸と無数の弾丸、粉々に散ったタケノコドン達の亡骸が残るのみ。吹き荒ぶ砂塵の中、一部始終を見届けた監視隊第12班の2人の胸中は、生き残った安堵と、あれ程迄にして歯が立たない脅威に対する畏怖と不安を色濃く残すのだった。
見渡す限りの広大な大地。背後には緑の草原、眼前には岩肌剥き出しの荒野と砂……砂……砂……。見上げれば何処までも続く空と大地が繋がる地平線。絶え間無く吹き抜ける爽やかな風に細かな砂が混じり少し息苦しい。そんな砂漠と草原の境目付近に、タケノコドンの幼体が疎らに広がって何かをしている……様な、ボーッとしている風にただそこに佇んでいるだけにも見える。周辺には竹に姿を変えた者もおり、その周りから岩肌砂地関わらず緑の草が生え広がりかけている。それを丘の上に停めたジープから眺める監視役の2人連れの男達が居た。
「だだっ広い空と砂漠、遊牧民に馬鹿みたいに群れる家畜と、何考えてるか判らないチビタケ共……いい加減見飽きたなあ~」
「その愚痴も聞き飽きた。見張りと称して特に何もせずに給料貰えてんだから贅沢言うな」
「その説教すら聞き飽きたぜ。たく……遊牧民の奴らも気楽なもんよ。大体、砂漠が広がったのはあいつらの所為も有るんだろ?」
「まあ一部はな。家畜に餌を与えるのは仕方の無い事だが、高級なカシミヤが流行り出した影響で山羊を大量に増やした事が大きいと耳にした事は有る。だがそれなら、カシミヤを買い漁った先進国の金持ち共にも責任が有るだろう」
「そりゃそうだがよ。奴ら、私服を肥やす為に緑化再生が進んだらまた調子に乗って山羊増やし出すんじゃねえか? その結果タケノコドンの怒りを買っちまったらよ……どうするよ?」
「その兆候が有れば報告して止めさせるのも我々の役目だ。なに、カシミヤのブームだって最盛期を過ぎたんだ。そうそう増えやしないさ」
「どうだかね。ま、逆にこのままチビタケが増えてったら何十年もしない内に砂漠が無くなっちまったりしてな」
「例の映像の話が真実ならば、飽く迄環境問題の改善までに止まって、自然に生まれた環境までは干渉しないんじゃないか?」
「別に砂漠なんか無くなってくれても構わんがね。代わりに竹の森林が出来たら笑うがな」
『ザザッ……監視隊第12班、聴こえるか』
「こちら12班、どうぞ」
『そこから北北西の方角に調査に向かって貰いたい』
「砂漠の真ん中に? 何を調べろと仰るんですか?」
『最近、例の怪獣の小さいのが群れを成してその方角に向かっていると各地から報告が上がっていてな。一番近いお前達に確認を任せる』
「……了解しました。準備が整い次第向かいます」
通信を終えた2人は水と食料を積み込み、砂漠へと繰り出した。波打つ様な砂地を走るジープは乗り心地悪く、ただでさえ砂防の布を口元に巻いて声が吃ってる中、ガタガタ揺れる振動と音で会話するのもままならない。
「アイツらが砂漠に入ってくのなんて珍しくないだろ! 緑化だって、わざわざ端から進めるんじゃなくて点々とするのもアリだとか言ってなかったかあ⁉︎」
「集団で固まって多方向から一点を目指して同時期に移動してるっていうんだ、何か有ると思って不思議じゃないだろ」
「ったく、それで何だって俺らが貧乏クジ引かされなきゃならんかねっ!」
「グチグチ言うな。楽してた分、給料分働けって事だ。それに、本当に何かヤバい物が有るかもしれんぞ」
「へいへい、偶には働きますよっと。そんじゃ一つ、死神さんちにお邪魔させて頂きますか」
砂漠を数時間走る内、タケノコドン幼体の集団をいくつか目にした2人は、流石に只ならぬ予感を抱き先を急いだ。次第に緊張が増し口数も減ってきた頃、遂にそれが姿を現した。砂漠のど真ん中に屹立する巨大なトウモロコシ。その異様な光景に、2人は唖然として力が抜けたという。
「あ……あれって……例の、宇宙から来た奴じゃ……?」
「あ、あぁ……間違い無い」
「どうする……とっ、取り敢えず報告だ!」
「そうだな。……本部、此方調査隊12班。応答願います」
『此方本部、何か有ったか?』
「何か有ったなんてもんじゃありませんよ。例の宇宙から来たドデカいトウモロコシが砂の上に突っ立ってます」
『なんだとっ⁉︎ よ、様子はどうなんだ? 増殖はしてるのか⁉︎』
「はい、まだ小さいですが周囲に緑の房の様な物が幾つも砂から頭を出し始めています。デカい方は皮を閉じてただ黙って立ってるだけです。でもそう言えば、核を食らって黒焦げになったと聞いてましたが、全身真緑で傷一つ見当たりません」
『奴め、そこで傷と消耗したエネルギーの回復を図っていたというのか』
「我々はどうしたら?」
『……取り敢えずその付近に待機だ。見付からない場所から監視を続行し、何かあれば即報告しろ』
「それで、今後の対応は如何なさるおつもりですか」
『政府に連絡し軍の派遣を要請する。中国にも援軍を要請せねば』
「中国にですか⁉︎」
『ゴビは中国領でもある。大体我が軍の戦力では奴に対抗するのは恐らく不可能だ』
「でもいいんですか? 連中が核を使ったりしたら」
『その可能性は低い。もし砂漠で核なんぞ使ったら、放射線を含んだ大量の砂が舞い上がり広範囲に汚染が拡がる。自国ならず世界中から非難を浴びる様な真似は流石にしない筈……と思いたい』
この報せを受けてすぐ、モンゴル中国両軍は戦力を差し向けた。だが地形的に地上部隊の進行は難航し、急を要する事態の為に航空戦力が先行して間も無く現場に到着する。それに示し合わせた様にタケノコドン幼体の群れも続々と集結し、増殖中の小型コーンに喰らい付き始めた。巨大コーンが僅かに外殻を開くと、中から黄色い蟲体が這い出てタケノコドン達に襲い掛かった。組み付かれ自爆に巻き込み粉砕されながらも、幼体達は懸命にコーンを目指し突き進む。そこに遂にモンゴル軍の航空部隊が到達。今正に激しい爆撃が始まろうとするその光景を、離れた砂丘から見守る監視12班の2人は戦慄を覚えていた。
「おいっ、逃げねえのかよ⁉︎」
「監視命令が解かれていない。本部からの返答も無いし」
「俺らなんぞに構ってらんねえって事だろうよ! 死んだら元も子もねえ」
「だが地上部隊が来れない以上、誰かが現場の様子を伝えなきゃいけないかもしれない」
「レーダードーム積んだ偵察機が飛んでるだろ」
「もし撃墜されたら? 目視による情報も重要になる筈だ」
「真面目野郎め。俺は危なくなったら逃げるからな!」
戦闘機群の爆撃に始まり飛来したミサイルの雨が辺り一帯を吹き飛ばし、爆風に乗った砂塵が暴風の様に荒れ狂い2人を襲う。その中でも平然と佇む巨大コーンと、小型コーンを齧り続けるタケノコ幼体。爆撃も相俟って小型コーンが原型を留めない程に破壊されると、幼体達は巨大コーンへと向かって行った。だがしかし、その身に群がる幼体や降り掛かる弾雨を受けながらも巨大コーンはじっと外殻を閉じ、頂上部から伸ばした髭状の無数の触手で幼体とミサイルを払い除けるばかりだった。
「アイツ……何で反撃しねえのかな?」
「やりたくても出来ないんだろう。タケノコの群れと航空部隊を迎撃するにはあの黄色い奴を飛ばさなきゃならないが、外殻を開けた途端に隙間から弾やチビが滑り込んで内部で誘爆する恐れが有る。見る限りダメージも無い様だし、あのまま耐え続けたらその内弾薬が切れてタケノコドンの数も減り、反撃のチャンスも見えて来るだろう。ああ見えてちゃんと考えてやがるし、慎重な奴だ。地上部隊が間に合わなければ……」
彼の不安の通り、戦況は膠着状態でただ味方が消耗するまま。そればかりか、機銃すら撃ち尽くした部隊が戦域を離脱していき戦力がどんどん減っていく。タケノコドンが全滅させられてしまうのも時間の問題に見えた。が、その時、新たな編隊が北の方角から飛来し戦闘に加わった。
「あの機は……何処から来た?」
「モンゴル軍でも中国の機影でもない。いやまさか……」
『ガガッ……12班聞こえるか? まだ現場に残っているか⁉︎』
「此方12班、監視継続中です!」
『よくぞ留まった! ボーナスと後で上等な酒を付けてやる。完結に状況を説明せよ』
「モンゴル中国両軍航空隊の攻撃効果無し。タケノコドン幼体も大半が死滅。目標に損傷は見られませんが、反撃に転じる隙を得られず動きを封じている状態にある模様。増殖していた小型目標は全滅。それと……未確認と思われる戦闘機が戦闘区域に侵入したのですが……」
『問題無い。それはウクライナ空軍の戦闘機中隊だ』
「ウクライナ軍⁉︎」
『ウクライナだけじゃない。ロシアを始め、周辺国に援軍を要請してある。元から中国空軍の後続も間に合わない事は想定内だったからな。しかし、まさか殆どの国が要請を快く受諾してくれるとは思わなかった。まだまだ人も捨てたもんじゃないと思ったよ』
「そうですね……」
『巡航ミサイルも飛んでくる筈だ。十分な距離を取り監視を続行。但し自己判断で撤退を許可する。生きて戻れよ』
「了解。オーバー」
「意外と……上司にゃ恵まれてたかな?」
「意外と、な」
続々と集結する北側諸国の空軍部隊。ミサイルの援護が次々と着弾し、中国空軍の後続部隊も合流。更にまた遥々砂漠を超え集まるタケノコドン達。陸上部隊もすぐそこまで迫っていた。戦いは勢いを取り戻し、苛烈さを増そうとしている。がしかし、均衡は突如破られた。
何の前触れ無く、巨大コーンの周囲の砂が巻き上がりその姿を包み隠してしまったのだ。その量はどんどん増え、厚みを増し流動して攻撃を遮断するバリアの様な働きを見せる。完全にコーンの姿が見えなくなるまでに成ると、その砂の塊はゆっくりと上昇し移動し始めるも、その場に在った筈の巨大コーンは姿を消していた。それは砂を纏ったコーンが飛翔したと容易に想像出来た。
「本部! 目標が……巨大コーンが移動を開始しました!」
『何だと⁉︎』
「大量に砂を巻き上げ自分の周りを囲い身を守っている風に見えます。その状態でゆっくり前進しながら高度を上げています」
巨大コーンはグングン上昇したまま移動し始め、遥か雲を超え目視が困難な高度に達し、黄色く染まる空に溶け遂に2人の視界に届かなくなった。軍は撤退し、その場には大量のミサイルの残骸と無数の弾丸、粉々に散ったタケノコドン達の亡骸が残るのみ。吹き荒ぶ砂塵の中、一部始終を見届けた監視隊第12班の2人の胸中は、生き残った安堵と、あれ程迄にして歯が立たない脅威に対する畏怖と不安を色濃く残すのだった。
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