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タケノコドンⅡ 〜タケノコドンVSスペースコーン〜
天から来たりし災
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時は2026年6月、タケノコドン出現から早3年。世界は拡散した小型幼体による一時の混迷に陥りながらも柔軟に順応し、新たなライフスタイルを模索しながら日常を享受していた。
――NASA航空宇宙局 レーダー管制室
「…………ん? 室長、ここ見て下さい」
「どうした」
「このCM-TR002飛翔体なんですが、このポイントで突然コースを変えたみたいなんです」
「他の天体やデブリに当たってコースが変わるのは珍しくないだろう」
「カテゴリ3クラスの飛翔体に影響を及ぼす様な岩もデブリもこの宙域には在りませんよ。それに問題なのは変更したこれのコースなんです」
「まさか衝突コースか?」
「はい。それも衛星やステーションではなく、地球への直撃コースです」
「間違い無いんだな?」
「無きゃ言いませんよ」
「局長に繋げ。ついでにペンタゴンにも連絡しろ」
――合衆国国防総省――
「氷の塊じゃないのか?」
『それは考え難いかと』
「大きさはどの程度だ?」
『現在、ハッブル宇宙望遠鏡の画像解析中ですが……全長は大凡100メートル前後。形状はまだ不明です』
「地球に衝突した際の被害規模予測は?」
『材質、質量によって差異は有りますが、核兵器や水爆に匹敵するかそれ以上の威力である事は間違い無いでしょう』
「地球到達までどのくらいだ」
『1週間から10日というところでしょうか』
「早過ぎる! 何故もっと早く判らなかった⁉︎」
『御言葉ですが、現在の設備では捜索可能範囲が狭過ぎるのです。今回偶々発見出来たのも奇跡的なもので……例えるなら、海の水をコップ一杯虫眼鏡で覗き込んでやっとプランクトン1匹見付かった様なものです』
「例えが分かり難い!』
『兎に角、本当に偶々発見していなければ、目と鼻の先に来るまで気付かなかったかもしれないって事です』
「……取り敢えず報告は受け取った、御苦労。すぐ上に通達する。オイ! すぐ長官とホワイトハウスに緊急コールだ」
「し、しかし……深夜の2時ですよ?」
「だからどうした、緊急事態なんだぞっ⁉︎ 国防長官だろうが大統領だろうが蹴り起こせっ‼︎」
――3時間後、ホワイトハウス政務室にて。急に起こされて不機嫌だったライス大統領だったが、事情を聞いて流石に眠気が吹き飛んだ様子でモニター越しに詳細報告を受けていた。
『全長約80メートル、最大直径40メートル前後。凹凸が無く銃弾の様な細長い楕円形である事までは判りましたが、材質までは依然不明です』
「……一応聞くが、再度コースが変わる可能性は有るのか?」
『可能性というならいくらでも有りますが、限り無く低いと思って頂いた方が……』
「重ねて問うが……これが異星人の宇宙船という可能性は無いのか?」
『宇宙人は存在するという見解が有識者の中でも共通の認識ですが、実際地球に訪れるかは現実的ではないと……』
「日本では怪獣が出たではないか。常識外れのフィクションの様な事も起こり得ると既に証明されている。何も無い場所でコースが変わったというのは、アレに意思が有るからと考えられるんじゃないのかね」
『だとしても、電波や光を用いた通信にも応答は有りません。万が一現在のスピードで衝突すれば、内陸、遠洋何処に落着しても壊滅的な被害が出ますよ』
「……他国には知られているのかね?」
『時間の問題かと』
「分かった…………迎撃ミサイルを発射しろ」
『宜しいので?』
「一撃で解決出来んかもしれんのだろう。合衆国の威厳も見せねばならん」
大統領命令により発射された弾道ミサイルは12時間後に目標に直撃するも健在。速度及びコースに変わりなく、依然地球に向け高速で飛来。その報せを受けた大統領は即座に緊急迎撃態勢を発令、数十発のミサイルを一斉に発射。着弾までのカウントが10を切るも……
「……8……7……っ⁉︎ ミサイル群、目標到達前にロスト!」
「何っ⁉︎ そんな馬鹿な‼︎」
「あっ……目標減速。速度が落ちていきます」
「レーダーの誤差か、ちゃんと着弾していたのだろう。よし、残りのミサイルも全弾打ち込め」
「全部ですか?」
「他国への抑止より目の前の危機の方が優先だ。何としても阻止しなければならん」
更に100発を超えるミサイルが目標に向かって飛ぶも、やはり先程と同様に着弾前に全弾がロスト。
「レーダーの故障ではありません。やはりミサイル着弾前に何らかの原因で破壊されている模様」
「そんな事が有り得るのか……?」
「詳細画像出ます」
「……これは……隕石なんかじゃない」
モニターに映されたのは、全体が緑色の楕円形をした物体。どう見ても石や岩の様な質感でも無く、凡そ宇宙空間に漂っている物として似つかわしくない印象を受けた。
「目標更に減速。っ、更にコースを曲げました!」
「制動をかけ自ら航行している? 本当にUFOだというのか……」
「目標大気圏に……えっ? 更に減速! 大きく進路を変えました」
「落下予測地点は?」
「アメリカ……ニューヨークです」
全世界が震撼する中、遂に未確認飛行物体はアメリカ上空に飛来。厚い雲を割り、その異様な姿を待ち構える衆人環視の前に晒した。全体を覆う緑色の表面は微妙に刺々しく、幾重かに重なっている様にも見えた。
「目標、上空に静止しました。未だ通信に反応有りません」
「……なあ、何か既視感ないか?」
「長官もですか?」
「ん~何かこう……身近な何かに似てる様な……」
そう感じている者は多かった。その何かに気付いた者、議論を交わす者、現場やテレビで観る世界中の多くの者らが騒つきながらその趨勢を見守っていた。と、不意に物体に動きが有った。緑の外殻がゆっくりと先端から後方に向け捲れ始め、その中身が露わになった。それは意外な程に鮮やかな濃い黄色一色で、数えきれない粒状の物体の集合体だった。その姿を見て、全人類は静かに悟った。
「ドデカい……コーン……だと?」
その姿は正に、皮を剥いたトウモロコシそのものだった。巨大で宙に浮くコーンという、あまりに信じ難く拍子抜けする光景に、殆どの者が驚きや困惑以前に思考が停止して呆然としたという。だが、呑気にしてられるのもこの時までだった。
突如、黄色い群体が弾けた様に芯部から離脱し飛び散ったのだ。広範囲に飛んだ物体は多くが街に降り注ぎ、いくつかは周囲を飛び交うヘリに襲い掛かった。コーンの粒に見えていたソレは、複眼と無数の触手を持った蟲の様な生命体であった。それらは動くもの全てに襲い掛かり、街一帯が悲鳴と爆音に包まれる阿鼻叫喚の地獄に変貌した。
「「AAAAHHHHGG‼︎‼︎」」
「MY GOD! OOOH MY GOD‼︎」
「ジーザス! 27年も遅れて恐怖の大王が降りて来やがったっ‼︎」
――司令部
「こっ、攻撃だ! 今すぐ攻撃を開始しろ‼︎」
「しかし周囲には市民が!」
「構ってる場合か⁉︎ 見ろ、芯から放った粒がまた生え変わってきている。アレが無限に襲って来るぞ。市民を助けたくば攻撃し撃退する他無い! 下に居る連中も運が良ければ逃げ果せる筈だ」
司令官の命令は実行され、即座に待機していた航空戦力が戦闘行動に入る。連なる戦闘機編隊が地上を這い回る蟲型生物群にミサイルを発射、着弾し爆散。続けて機関砲による射撃を受けた個体は自ら爆発し白い内容物を飛び散らした。
「小型生物、ミサイル、機銃共に効果アリ」
「ヨシッ、意外と脆いぞ。次を飛ばす前にあのデカブツも叩き潰せ!」
戦闘機部隊からミサイルの列が飛んだ。そのまま着弾し小型生物に誘爆し一網打尽で決着と思われた時、そのミサイル群は目標に到達する前に撃墜された。なんと巨大コーンの先端から無数の髭に似た触手が伸び、何本もの束になって鞭の様に振るいミサイルを叩き落したのだ。
「コーンの髭って芯から直に出てたか?」
「さ、さあ? そもそもアレ、コーンじゃないでしょう」
「とっ、ともかく攻撃だ! 物量で押し切れ」
戦闘機編隊及び駆け付けたヘリ部隊による四方からの一斉攻撃。これには髭での迎撃も間に合わないと思われたが、敵は思わぬ回避策を講じてきた。生成が完了した小型蟲体の半数が飛散し、ミサイル群と接したと同時に爆発四散、追随するミサイル群は全て誘爆を起こした。
「なっ⁉︎ 子体をチャフに使うだとぉっ⁉︎ 奴にそんな知能が有るというのか⁉︎」
残った小型蟲体も飛び立ち、宙を飛び回りながら航空部隊に特攻し始めた。
「奴らも飛べるのか⁉︎ いったいどんな原理で……クッ、戦車隊はどうした⁉︎」
「間も無く現着……目標更に子体増殖させます!」
「どれだけ出せるというんだっ‼︎」
その後、無尽蔵に増産される個体蟲体により戦車隊始め街は壊滅状態に陥り、部隊は全軍撤退の憂き目を見たのだった。
NYを瓦礫の山と化した巨大不明モロコシは動く物が無くなった事を確認した様にその場を飛び去り、各都市を破壊し尽くしながらアメリカ大陸を横断。米軍の猛攻を悉く退け、遂に西海岸LAに辿り着いた。世界有数の大都市ロスの街まで灰燼に帰した巨大モロコシは、細い先端を上に向け剥き出しの地面に着地し静止した。
その後48時間の監視中に動きは無く、米軍は残る全戦力を再編成。世界各地に派遣していた部隊や艦隊も集結し、最後の決戦に挑むべくロス周辺を取り囲み待機していた。しかしここで遂に巨大モロコシの周囲で異変が起こる。地面から皮を被った小振りなトウモロコシが頭を出し、ゆっくりと伸び上がってくる。その数は徐々に増えていき……その光景は嫌でも3年前の騒動を思い起こさせた。
エアフォースワンからその模様を観たライス大統領はすぐ様総攻撃を指示。尋常ならざる砲火とミサイルの嵐に巨大モロコシは猛烈な爆煙に呑まれる。その圧倒的な物量には迎撃も不可能であるのは容易に見て取れた。10分にも渡る一斉射が止み濃い煙が晴れていくと、荒れ果てた大地に生え始めていた小型モロコシは跡形も無く粉砕されていた。しかし、その爆心地の中心に在った巨大モロコシは……なんと信じられない事に、その場に何事も無かった様に聳え立っていた。それを観た大統領以下全米軍兵は絶句したという。見れば全身を覆う表皮に似た緑の外殻は黒ずんで汚れてはいるが無傷の様子で、ダメージはほぼ無い模様。小天体が行き交う宇宙空間を航行するだけあり、その堅牢さは相当なものである様だ。
再攻撃の支持を受け、弾薬準備に入ったその隙を奴は逃さなかった。僅かに外殻上部が開き、流れる様に上空に飛散する小型蟲体の群れ。次々と降り注ぎ、まるでクラスター爆弾や絨毯爆撃の如く地上戦力を無慈悲に爆砕する。その無慈悲なまでの殺戮は絶え間無く続き、米軍戦力は瞬く間に壊滅状態へと陥っていった。
『損耗率86%……もう観ていられません』
「…………全軍に撤退命令を出せ。これより、審判の火を灯す」
『まさか……国内で核を使われる御つもりですか⁉︎』
「他に手は無い。アレが増殖すれば間違い無く世界が終わる……我々には、それを阻止する義務が有る。それに――」
大統領は暫し躊躇した後、禁断のスイッチを押した。ミサイル基地から発射された1発の戦略核弾頭は白い尾を引きながら空を駆け、見事目標に直撃した。眩い閃光が水平線の向こうまで届き、強烈な爆発と超高熱が一帯に広がり、巨大な黒いキノコ雲が天高く舞い上がり空を覆った。これで全てが終わった……そう思われた数秒後、黒煙の中から焼け焦げた楕円の飛翔体がヌゥっとその姿を覗かせた。それを観た大統領は愕然とし、その場に膝を突いたという。
「そんな……核でも、奴を斃す事が出来ないのか? こんな事が、有ってたまるか……」
『目標西へ……このままでは太平洋に出ます』
「我々にはもう何も出来ん。各国に通達しろ……幸運を祈ると添えてな」
その後、太平洋へと飛び去った巨大モロコシはレーダーからも消失し完全に消息を絶った。これより、世界中が戦々恐々とする短い季節が幕を開けるのだった。
――NASA航空宇宙局 レーダー管制室
「…………ん? 室長、ここ見て下さい」
「どうした」
「このCM-TR002飛翔体なんですが、このポイントで突然コースを変えたみたいなんです」
「他の天体やデブリに当たってコースが変わるのは珍しくないだろう」
「カテゴリ3クラスの飛翔体に影響を及ぼす様な岩もデブリもこの宙域には在りませんよ。それに問題なのは変更したこれのコースなんです」
「まさか衝突コースか?」
「はい。それも衛星やステーションではなく、地球への直撃コースです」
「間違い無いんだな?」
「無きゃ言いませんよ」
「局長に繋げ。ついでにペンタゴンにも連絡しろ」
――合衆国国防総省――
「氷の塊じゃないのか?」
『それは考え難いかと』
「大きさはどの程度だ?」
『現在、ハッブル宇宙望遠鏡の画像解析中ですが……全長は大凡100メートル前後。形状はまだ不明です』
「地球に衝突した際の被害規模予測は?」
『材質、質量によって差異は有りますが、核兵器や水爆に匹敵するかそれ以上の威力である事は間違い無いでしょう』
「地球到達までどのくらいだ」
『1週間から10日というところでしょうか』
「早過ぎる! 何故もっと早く判らなかった⁉︎」
『御言葉ですが、現在の設備では捜索可能範囲が狭過ぎるのです。今回偶々発見出来たのも奇跡的なもので……例えるなら、海の水をコップ一杯虫眼鏡で覗き込んでやっとプランクトン1匹見付かった様なものです』
「例えが分かり難い!』
『兎に角、本当に偶々発見していなければ、目と鼻の先に来るまで気付かなかったかもしれないって事です』
「……取り敢えず報告は受け取った、御苦労。すぐ上に通達する。オイ! すぐ長官とホワイトハウスに緊急コールだ」
「し、しかし……深夜の2時ですよ?」
「だからどうした、緊急事態なんだぞっ⁉︎ 国防長官だろうが大統領だろうが蹴り起こせっ‼︎」
――3時間後、ホワイトハウス政務室にて。急に起こされて不機嫌だったライス大統領だったが、事情を聞いて流石に眠気が吹き飛んだ様子でモニター越しに詳細報告を受けていた。
『全長約80メートル、最大直径40メートル前後。凹凸が無く銃弾の様な細長い楕円形である事までは判りましたが、材質までは依然不明です』
「……一応聞くが、再度コースが変わる可能性は有るのか?」
『可能性というならいくらでも有りますが、限り無く低いと思って頂いた方が……』
「重ねて問うが……これが異星人の宇宙船という可能性は無いのか?」
『宇宙人は存在するという見解が有識者の中でも共通の認識ですが、実際地球に訪れるかは現実的ではないと……』
「日本では怪獣が出たではないか。常識外れのフィクションの様な事も起こり得ると既に証明されている。何も無い場所でコースが変わったというのは、アレに意思が有るからと考えられるんじゃないのかね」
『だとしても、電波や光を用いた通信にも応答は有りません。万が一現在のスピードで衝突すれば、内陸、遠洋何処に落着しても壊滅的な被害が出ますよ』
「……他国には知られているのかね?」
『時間の問題かと』
「分かった…………迎撃ミサイルを発射しろ」
『宜しいので?』
「一撃で解決出来んかもしれんのだろう。合衆国の威厳も見せねばならん」
大統領命令により発射された弾道ミサイルは12時間後に目標に直撃するも健在。速度及びコースに変わりなく、依然地球に向け高速で飛来。その報せを受けた大統領は即座に緊急迎撃態勢を発令、数十発のミサイルを一斉に発射。着弾までのカウントが10を切るも……
「……8……7……っ⁉︎ ミサイル群、目標到達前にロスト!」
「何っ⁉︎ そんな馬鹿な‼︎」
「あっ……目標減速。速度が落ちていきます」
「レーダーの誤差か、ちゃんと着弾していたのだろう。よし、残りのミサイルも全弾打ち込め」
「全部ですか?」
「他国への抑止より目の前の危機の方が優先だ。何としても阻止しなければならん」
更に100発を超えるミサイルが目標に向かって飛ぶも、やはり先程と同様に着弾前に全弾がロスト。
「レーダーの故障ではありません。やはりミサイル着弾前に何らかの原因で破壊されている模様」
「そんな事が有り得るのか……?」
「詳細画像出ます」
「……これは……隕石なんかじゃない」
モニターに映されたのは、全体が緑色の楕円形をした物体。どう見ても石や岩の様な質感でも無く、凡そ宇宙空間に漂っている物として似つかわしくない印象を受けた。
「目標更に減速。っ、更にコースを曲げました!」
「制動をかけ自ら航行している? 本当にUFOだというのか……」
「目標大気圏に……えっ? 更に減速! 大きく進路を変えました」
「落下予測地点は?」
「アメリカ……ニューヨークです」
全世界が震撼する中、遂に未確認飛行物体はアメリカ上空に飛来。厚い雲を割り、その異様な姿を待ち構える衆人環視の前に晒した。全体を覆う緑色の表面は微妙に刺々しく、幾重かに重なっている様にも見えた。
「目標、上空に静止しました。未だ通信に反応有りません」
「……なあ、何か既視感ないか?」
「長官もですか?」
「ん~何かこう……身近な何かに似てる様な……」
そう感じている者は多かった。その何かに気付いた者、議論を交わす者、現場やテレビで観る世界中の多くの者らが騒つきながらその趨勢を見守っていた。と、不意に物体に動きが有った。緑の外殻がゆっくりと先端から後方に向け捲れ始め、その中身が露わになった。それは意外な程に鮮やかな濃い黄色一色で、数えきれない粒状の物体の集合体だった。その姿を見て、全人類は静かに悟った。
「ドデカい……コーン……だと?」
その姿は正に、皮を剥いたトウモロコシそのものだった。巨大で宙に浮くコーンという、あまりに信じ難く拍子抜けする光景に、殆どの者が驚きや困惑以前に思考が停止して呆然としたという。だが、呑気にしてられるのもこの時までだった。
突如、黄色い群体が弾けた様に芯部から離脱し飛び散ったのだ。広範囲に飛んだ物体は多くが街に降り注ぎ、いくつかは周囲を飛び交うヘリに襲い掛かった。コーンの粒に見えていたソレは、複眼と無数の触手を持った蟲の様な生命体であった。それらは動くもの全てに襲い掛かり、街一帯が悲鳴と爆音に包まれる阿鼻叫喚の地獄に変貌した。
「「AAAAHHHHGG‼︎‼︎」」
「MY GOD! OOOH MY GOD‼︎」
「ジーザス! 27年も遅れて恐怖の大王が降りて来やがったっ‼︎」
――司令部
「こっ、攻撃だ! 今すぐ攻撃を開始しろ‼︎」
「しかし周囲には市民が!」
「構ってる場合か⁉︎ 見ろ、芯から放った粒がまた生え変わってきている。アレが無限に襲って来るぞ。市民を助けたくば攻撃し撃退する他無い! 下に居る連中も運が良ければ逃げ果せる筈だ」
司令官の命令は実行され、即座に待機していた航空戦力が戦闘行動に入る。連なる戦闘機編隊が地上を這い回る蟲型生物群にミサイルを発射、着弾し爆散。続けて機関砲による射撃を受けた個体は自ら爆発し白い内容物を飛び散らした。
「小型生物、ミサイル、機銃共に効果アリ」
「ヨシッ、意外と脆いぞ。次を飛ばす前にあのデカブツも叩き潰せ!」
戦闘機部隊からミサイルの列が飛んだ。そのまま着弾し小型生物に誘爆し一網打尽で決着と思われた時、そのミサイル群は目標に到達する前に撃墜された。なんと巨大コーンの先端から無数の髭に似た触手が伸び、何本もの束になって鞭の様に振るいミサイルを叩き落したのだ。
「コーンの髭って芯から直に出てたか?」
「さ、さあ? そもそもアレ、コーンじゃないでしょう」
「とっ、ともかく攻撃だ! 物量で押し切れ」
戦闘機編隊及び駆け付けたヘリ部隊による四方からの一斉攻撃。これには髭での迎撃も間に合わないと思われたが、敵は思わぬ回避策を講じてきた。生成が完了した小型蟲体の半数が飛散し、ミサイル群と接したと同時に爆発四散、追随するミサイル群は全て誘爆を起こした。
「なっ⁉︎ 子体をチャフに使うだとぉっ⁉︎ 奴にそんな知能が有るというのか⁉︎」
残った小型蟲体も飛び立ち、宙を飛び回りながら航空部隊に特攻し始めた。
「奴らも飛べるのか⁉︎ いったいどんな原理で……クッ、戦車隊はどうした⁉︎」
「間も無く現着……目標更に子体増殖させます!」
「どれだけ出せるというんだっ‼︎」
その後、無尽蔵に増産される個体蟲体により戦車隊始め街は壊滅状態に陥り、部隊は全軍撤退の憂き目を見たのだった。
NYを瓦礫の山と化した巨大不明モロコシは動く物が無くなった事を確認した様にその場を飛び去り、各都市を破壊し尽くしながらアメリカ大陸を横断。米軍の猛攻を悉く退け、遂に西海岸LAに辿り着いた。世界有数の大都市ロスの街まで灰燼に帰した巨大モロコシは、細い先端を上に向け剥き出しの地面に着地し静止した。
その後48時間の監視中に動きは無く、米軍は残る全戦力を再編成。世界各地に派遣していた部隊や艦隊も集結し、最後の決戦に挑むべくロス周辺を取り囲み待機していた。しかしここで遂に巨大モロコシの周囲で異変が起こる。地面から皮を被った小振りなトウモロコシが頭を出し、ゆっくりと伸び上がってくる。その数は徐々に増えていき……その光景は嫌でも3年前の騒動を思い起こさせた。
エアフォースワンからその模様を観たライス大統領はすぐ様総攻撃を指示。尋常ならざる砲火とミサイルの嵐に巨大モロコシは猛烈な爆煙に呑まれる。その圧倒的な物量には迎撃も不可能であるのは容易に見て取れた。10分にも渡る一斉射が止み濃い煙が晴れていくと、荒れ果てた大地に生え始めていた小型モロコシは跡形も無く粉砕されていた。しかし、その爆心地の中心に在った巨大モロコシは……なんと信じられない事に、その場に何事も無かった様に聳え立っていた。それを観た大統領以下全米軍兵は絶句したという。見れば全身を覆う表皮に似た緑の外殻は黒ずんで汚れてはいるが無傷の様子で、ダメージはほぼ無い模様。小天体が行き交う宇宙空間を航行するだけあり、その堅牢さは相当なものである様だ。
再攻撃の支持を受け、弾薬準備に入ったその隙を奴は逃さなかった。僅かに外殻上部が開き、流れる様に上空に飛散する小型蟲体の群れ。次々と降り注ぎ、まるでクラスター爆弾や絨毯爆撃の如く地上戦力を無慈悲に爆砕する。その無慈悲なまでの殺戮は絶え間無く続き、米軍戦力は瞬く間に壊滅状態へと陥っていった。
『損耗率86%……もう観ていられません』
「…………全軍に撤退命令を出せ。これより、審判の火を灯す」
『まさか……国内で核を使われる御つもりですか⁉︎』
「他に手は無い。アレが増殖すれば間違い無く世界が終わる……我々には、それを阻止する義務が有る。それに――」
大統領は暫し躊躇した後、禁断のスイッチを押した。ミサイル基地から発射された1発の戦略核弾頭は白い尾を引きながら空を駆け、見事目標に直撃した。眩い閃光が水平線の向こうまで届き、強烈な爆発と超高熱が一帯に広がり、巨大な黒いキノコ雲が天高く舞い上がり空を覆った。これで全てが終わった……そう思われた数秒後、黒煙の中から焼け焦げた楕円の飛翔体がヌゥっとその姿を覗かせた。それを観た大統領は愕然とし、その場に膝を突いたという。
「そんな……核でも、奴を斃す事が出来ないのか? こんな事が、有ってたまるか……」
『目標西へ……このままでは太平洋に出ます』
「我々にはもう何も出来ん。各国に通達しろ……幸運を祈ると添えてな」
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